Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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5月6日、AM9時10分。ゴールデンウィーク最終日に、私は原付バイクに乗って烏野総合運動公園の球技場前に来ていた。
帰宅部の私は勿論運動施設なんぞに行ったことが無いため、迷うことも考慮して少し早めに出発した訳だが、思ったよりも早く到着してしまった。
ひとまず原付バイクを駐車場に停め、ヘルメットを首の後ろに引っ掛けた状態でバイクの座席に座る。
おもむろに携帯を弄るが、本当にここへ来てしまってよかったのかという不安がひっきりなしに頭を過り、全然気が紛れない。
そもそも同じクラスの友達の部活の練習試合って見に行っていいものなのか?
親友で、とか、彼氏が、とかだったらまた別の話なのかもしれないけど、本当に普通の友達なのだ。
一緒に遊んだこともなければクラスで席が前後だから話すくらいの、そんなレベルの友達なのに。
「......やばい、帰りたくなってきた......」
考えれば考えるほど思考は暗くなり、気分はどんどん沈んでいく。
今更ながらやっぱり滝さんの誘いを断れば良かったと後悔し始めた矢先、タイミングよく当人から連絡が来る。
【おはよう 場所わかるか?】
既読を付けてから、少し悩む。
どうしよう。体調崩したことにして帰ってしまおうか。
そんな悪魔の囁きが脳裏に聞こえ、どう返信を打とうか考えあぐねていると、再び携帯が震える。
【まさかやっぱりやめようかなとか思ってねぇだろうな? 来て損は無いから絶対来い】
滝さんからの文面を見て、ヒヤリとした。
私の心理が見事に筒抜けである。
どうしよう、どうしよう。優柔不断な自分に嫌気が刺して来た矢先、トドメとばかりに追撃がきた。
【東京のイケメン、居るかもしれねぇぞ】
【おはようございます もう到着してるので着いたら連絡ください】
【お前のそういうとこ、嫌いじゃねぇw】
ものの三秒で悩みは吹っ飛び、私の変わり身の速さに滝さんは笑い転げるキャラのスタンプを送ってくる。
いや、でも、だって、東京のイケメンなんてパワーワードを持ち出されたら地方の女子高生の多くは見たいと思うに決まってるだろう。
少なくとも、私がこの場から帰らずに踏み留まる理由には十分だった。
【ちゃんとバレーも見ろよ!烏野男子が泣くぞ!って横で嶋田が言ってるぞw】
【嶋田さんと一緒なんですね バレーボールあんまりわからないんで解説宜しくお願いします】
【合点承知之助】
【あ、中国語読めないです】
【バカヤロwww日本語じゃボケwww】
【世代違うんで読めないですぅ】
【オイJK オッサンなめんなよ】
【なんでもいいんで早く来てくださいよwww】
滝さんとのやり取りにいつの間にかネガティブ思考は薄れ、気持ちが立て直されているのに気が付く。
何だかんだ滝さんにのせられているような気がしないでもないが、これはもう観念して腹を括るしかないだろう。
少しだけ心に余裕が持てたせいなのか何か甘いものを飲みたくなって、ここに着いてから初めてバイクから離れ、おそらく自販機があるだろう球技場にそそくさと足を向けた。
階段を上がりおそるおそる中に入ると、すぐにお目当ての自販機が見つかった。
バイクに乗る時愛用しているワンショルダーバッグから財布を取りだし、少し悩んでからサイダーを購入した。
炭酸飲料特有のすっきりとした甘みと口の中をパチパチと弾ける爽快感にたまらずため息をつくと、すぐ隣にある観音開きの大きな扉が少しだけ空いていることに気付く。
先程からドシンバシンという衝撃音と男子特有の野太い声がその中から聞こえるので、おそらく我らが烏野男子バレー部と東京のねこま高校男子バレー部が居るのだろう。
「.............」
昔からどちらかと言うと好奇心旺盛な性格だということは自覚している。
今回もまたそれが働いてしまい、私は少しだけ空いている扉からひっそりと中に入り、様子を窺った。
入ったところは二階のギャラリー席の一番上であり、一階部分のアリーナ、つまりコートがある所から一番遠い場所だった。
これなら下に居る人達に気付かれることなく様子を見ることができそうだ。
サイダーを片手に、ひっそりとアリーナの方を観察する。
どうやら、黒地にオレンジのラインが入ったユニフォームを着ているのが烏野みたいだ。知ってる顔がちらほら居るのがわかる。
......あれ?西谷君だけオレンジ色のユニフォームを着ているけど、それは何か意味があってのことなんだろうか?ポジションとかかな?
長髪の人とか金髪眼鏡の人とか、ここから見ても背の高さがわかるから、実際目の前にしたらすごく大きいんだろうなぁ。
あ、田中君めちゃめちゃ叫んでる。やばい、面白い。今日も元気だなぁ。
はぁ、相変わらずマネージャーさんはすっごい美人だなぁ......使ってるスキンケアとかシャンプーとか教えて欲しい......。
試合前のウォーミングアップをしている烏野を見つつあれこれ考えていると、滝さんからもうすぐ着くとの連絡が入った。
了解の返事をしてから、そういえば東京のイケメンを拝むのを忘れてたことを思い出し、烏野からねこまへ視線を移す。
ねこまは黒が基調な烏野とはうってかわり、チームカラーは赤のようだ。
赤地に黒のラインが入っている相手チームを眺め、とっさに思ったことが意図せずするりと口に出た。
「......音駒、って......そういう字だったの...」
ユニフォームに大きく書いてある「音駒」という学校名を見て、あ然とする。
てっきり猫という字がつくと思ってたばかりに、自分の中ではかなりの衝撃だった。
ついぼんやりと見続けてしまったのが災いし、コートにいる音駒のプリン頭の男子がパッとこっちに顔を向けた。
「!!」
やばい、バレた!!
とっさに顔を俯かせ、慌てて扉から外に出る。
コートからギャラリー席の最上段までは結構距離があるように思えたのだが、もしかしたら下からは結構よく見えてしまうのかもしれない。
「............」
勝手に覗いてることを音駒の人に気付かれて焦って出てきてしまったが、もしかして私......非常に気持ち悪い行動をとってしまったのではないだろうか?
東京のメンズにキモいとか言われたら、それこそ女子としての人生が終わると思う。
「......おとなしく外で待ってればよかった......」
とっさに取ってしまった自分の行動を嘆きつつ、私はそのまま球技場の外へフラフラと出て行くのだった。
▷▶︎▷
「......研磨?どうした?」
クロの声に意識をコートへ戻すと、クロは俺のすぐ後ろに居て俺が向いていた方、ギャラリー席の方を見ていた。
「何?誰かいた?」
「......うん、なんか、女子......俺が見たら、すぐ逃げたけど......」
「へぇ、女子ねぇ............え?」
俺の言葉にクロは相変わらず飄々とした態度を取り、その後なぜか驚いたような声を上げた。
「何?クロ......」
「オイオイオイ!ちょ、研磨が女子の事見てただとぉ!?嘘だろ!?」
「は?」
「女子!!え、何処っすか黒尾さん!!!」
「山本!!みっともねぇからやめろ!!」
クロの意味わかんない言葉にトラが反応し、夜久君がキレる。
一気に騒がしくなった空間に早々に嫌気がさし、この場から離れようとベンチへ足を進めた。
「.............」
ベンチにあるタオルで軽く汗を拭きつつ何気なくギャラリー席へ目をやるも、先程の女子の姿を見つけることは出来なかった。
......まぁ、どうでもいいんだけど。
好奇心は猫を殺す
(否、好奇心でネコに殺されました。)