Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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ゴールデンウィーク中のバイトは特に大きな問題も発生せず、あっという間に終盤に差し掛かった。
大型連休ということもあり、近所の方々は外出しているのか普段よりもずっと客足は少なく、おかげで烏養さんからもらったやることリストの他に店内の大規模な清掃や壊れた所や物のメンテナンス等普段出来ないようなことができたので、私としても充実した日々を送ることができたと思う。網戸の張替えまでやってしまった。
丁度今もお客さんは店内に居ない上、商品整理も品出しも前出しも全て終わってしまった私はレジ台にゴールデンウィーク中の宿題を広げていた。
勿論マダムには許可を取っているので何の問題も無い。お金を稼ぎつつ宿題も片付けられるなんて素晴らしい程一石二鳥だ。
苦手な数学と世界史を含み多くはすでに片付けてある為、あとは今手を付けている英語だけやれば任務完了である。
このペースならゴールデンウィーク最終日は宿題無しで過ごせそうだ。
完璧な宿題スケジュールに一人鼻高々になっていると、お店の扉が開く。
「いらっしゃいませ~、こんにちは......って、なんだ、滝さんか」
教科書とプリントをさっと端に片付けてお出迎えの姿勢を取ったものの、見知った顔がそこにあったので思わずそんな言葉が零れた。私の態度に相手は露骨に顔を顰める。
「おいキト、なんだとはなんだ」
「あはは、ごめんなさい。つい」
「ったく......ゴールデンウィークバイト漬けのキトチャンに差入れ持ってきてやったっつーのによぉ」
「え!本当ですか!やった!ありがとうございます!」
わざとらしく大きなため息を吐きながらも、背の高い金髪のお兄さん......滝ノ上電器店の滝さんは今しがた片付けたレジ台の上に缶飲料のココアを置いた。
その際、レジ台の端に寄せた教科書とプリントが目に入ったようで、「宿題か?」と目敏く聞かれる。
「そうです。あ、ここでやる許可は取ってますよ」
「学生は大変だねぇ......残り二日でちゃんと終わりそうか?」
「よくぞ聞いてくれました、実はもうこの英語だけなのです」
「おー、えらいじゃん。感心感心」
ふふんと鼻を鳴らす私に滝さんは緩く返答しつつ、飲食スペースから椅子を一脚レジ前に持ってきて腰を下ろした。
ちなみに滝さんは嶋田さんや烏養さんのバレー仲間であり、ご実家兼お店の滝ノ上電器店にも嶋田さんの紹介で時々ヘルプで私がバイトに入ることもある為、滝さんとは知り合いなのだ。
「アイツらはちゃんとやってんのかね~......やってねーだろうなぁ」
「アイツら?」
「現在合宿真っ只中の烏野男子バレー部」
「......あー......ココア、いただきまーす」
滝さんの言葉にどう返していいのか分からず、苦笑いを浮かべながら誤魔化し混じりにココアに口をつけた。
ココア特有のまろやかな甘みに小さく息を吐きつつ、そういえば私の知ってる男バレ二年の二人はどちらも物凄く勉強嫌いだったということを思い出す。
そんな二人が大好きなバレーボールの合宿中に大嫌いな勉強をやるとは到底思えない。
ゴールデンウィークが明けたら実力テスト、それからまた少しして中間テストがあるのだけれど、西谷君も田中君も大丈夫なのだろうか。
「ま、キトがちゃんとやってんだったらよかったわ。お前それ、今日中には終わるか?明日ないときつい?」
「え?......えーと、終わると思います、けど......え、なんでですか?」
やたらと私の宿題の進み具合を聞いてくる滝さんに手元のココアの缶を弄りながら戸惑いの視線を向けると、滝さんは持参した缶コーヒーを一口飲んでニヤリと笑った。
「明日のゴミ捨て場の決戦、一緒に見に行こうぜ」
「......はい?」
言われた言葉に思わず間抜けな声が出る。
ご、ゴミ捨て場?え、何?どういうこと?
あまりにも訳の分からない単語に悶々と考え込んでしまうと、私の様子が可笑しかったのか滝さんは隠そうともせずふきだした。
「ハハハッ、なんだキト、烏養のヤツから何も聞いてねぇのか」
「え、烏養さん?......あ、もしかして、明日の男バレの試合のこと言ってます?」
烏養さんというキーワードが出て来たところでやっと思い当たる事柄を発見し、聞いてみると滝さんは「正解」と指を差して楽しそうに笑う。
そんな滝さんとは対照的に、私の顔は曇っていくばかりだ。
「だったら最初からそう言ってくださいよ。何ですか、ゴミ捨て場って。分かる訳ないじゃないですか」
「まぁまぁwそう怒るなってw昔は結構有名だったんだよ、カラス対ネコのゴミ捨て場の決戦。明日来る東京の音駒と俺ら烏野はさ、烏養監督が居た時には監督同士親交が深くてよく戦ってたんだ」
「それは聞きました。ねこまめちゃめちゃ強くて勝てなかったって」
「オイ、なんで不名誉なとこだけ聞いてんだよ......」
渋い顔をする滝さんに、今度は私が笑う。
スポーツの試合にゴミ捨て場の決戦というネーミングセンスはどうなんだろうとは思うが、どうして東京のチームがわざわざこちらに来るのかということが滝さんのおかげで分かり、少しスッキリした。
監督同士の親交が深いということは、もしかしたら烏養監督が療養中ということでこちらを配慮したのかもしれない。
「ねこまの監督さん、烏養監督のお見舞いとかも行くのかな?」
「......んー、どうだろうなぁ?お互い自分の弱みは握らせないタイプだし、結構頑固なとこもあっからそれはねぇかもな」
「へぇ、そうなんですか」
「どっちかって言うと、新生烏野を見に来た可能性のが高いな。あと、顧問の先生の熱意に負けたのは確実。これは烏養から聞いた」
「へぇ、武田先生すごい......」
思いがけない人物の名前が出て、素直に感嘆の声が出る。
烏養さんのコーチの件といい、今回のねこま高校のことといい、現国の武田先生はおっとりほのぼの系に見えて実はかなりのやり手のようだ。
「......で、暫く交流を絶っていた烏野と音駒がひっさびさにする試合だ。これはもう見に行くしかないべや」
「え、あの、でも、申し訳ないのですが、私明日もここでバイトがあるので......」
「なんだよ、キトは興味無いのか?全然?これっぽっちも?」
「いや、それは......今の話聞いたら俄然興味は出てきましたけど......」
「よし、だったら行こう!ここはお兄さんにまっかせなさい!」
「はい?」
カラス対ネコ、久方振りの因縁の対決。
興味が無いと言えば嘘になるが、だけど私は烏養さんを男バレの練習やら試合やらにコーチとして行かせる為に坂ノ下商店へ配置されたのであって、私がそこへ行ってしまえば本末転倒、私の存在が意味をなさなくなってしまうだろう。
どうしたもんかと頭を悩ませる私を他所に、滝さんはさっさと自分の携帯を取り出し誰かに電話を掛けた。
「......あ、もしもし烏養?合宿お疲れさん。調子どうよ?......ハハッ、前途多難じゃねぇか。で、明日なんだけど、商店街の人達何人かに声掛けてっから見物人来るんで宜しく......ハハハッ、堅いこと言うなよ」
電話の相手はどうやら烏養さんらしい。
楽しそうに笑いながら話す滝さんを見ながら、一体烏養さんに何を言うのかドキドキしていると、その一言は唐突に訪れた。
「で、悪ぃけどキトも連れてくから明日店閉めるな。くれぐれも格好悪い烏野見せないでくれよ?」
「え、えー!?」
思わぬ滝さんの無茶振りに通話中ということも忘れて思わず大きな声を上げる。
驚く私と、おそらく同じように驚いている烏養さんを両方華麗にスルーして、滝さんはニヤニヤと笑いながら通話を切った。
「ちょ、ちょっと滝さん!?今の何!?ていうか普通にダメでしょ!?」
「大丈夫大丈夫。実は先に烏養のお袋さんに許可は取ってあるんだよ。明日ここ、店休にするって」
「えー!?何それ聞いてない!」
「お袋さん、キトのこと気にしてたぞ?まだ若いのに連休全部働きに来させるのはしのびないってよ」
「いやいや、私は全然構わないってマダムには言ってるんですが!」
「そんなキトチャンに最後くらいバイト以外のことを、てさ。ってことでキト、明日の朝9時半に烏野総合運動公園の球技場前に集合な~。あそこ確かバイク無料で停められっから」
「え、えー!?」
「嶋田も呼ぶつもりだから、解説はお兄さん達に任せな~」
怒涛の急展開に慌てふためく私を全く気にせず、滝さんはトントン拍子で話を進めていく。
「じゃ、また明日な。寝坊すんなよ~」
「ちょ、ちょっと!滝さん!」
呼び止めるも、全く聞く耳を持たないでさっさとお店から出ていってしまった。
後に残されたのはいまいち状況が把握出来ていない私と、温くなったココア、そしてやりかけの英語のプリントだけである。
「......ど、どうしよう......」
もはや途方に暮れるしかない私の耳に、店の外からカラスとネコの鳴き声が聞こえた気がした。
バレー観戦は突然に
(初めて見る試合は、ゴミ捨て場の決戦?)