Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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《季都ちゃんごめん、無茶振りなんだけどお願いがありまして......!》
時はお昼休み。緑豊かな東北地方、こじんまりとした商店街の一角を担う自営スーパー「嶋田マート」の嶋田さんからの着信を取れば、開口一番にそんなことを言われた。
《今日ってバイト入ることできる?》
「え、そんなことですか?それは全然構いませんけど......」
電話の勢いからてっきりもっと無茶なお願いをされるのかと思いきや、言われたことは案外普通のことだったので若干拍子抜けしてしまう。
別に今日は予定もないし、宿題もそんなに出てないので問題ないはずだ。
「じゃあ、学校終わったらそのまま向かいますね」
《申し訳ない!ありがとう!》
「終わりは閉店までですか?夜ご飯休憩だけ貰えれば、私そのまま居ますけど」
《季都ちゃん天使かよ......》
「人間でーす」
大袈裟な嶋田さんに曖昧に笑いながら、取り敢えずシフトの変更を忘れないように頭の中のメモ帳に書き込んだ。
家にも連絡しておかないとな。
《いやね、今回は完全に俺の都合だから季都ちゃんにシフト変えてもらうの本当に忍びないんだ......》
電話の向こうの嶋田さんは、非常に言いづらそうな声音で言葉を続ける。
おや、これはもしかして?
「わかった、彼女さんとデートですね」
《......季都ちゃん、俺に彼女居ないの知ってるべ......》
嶋田さんの様子からひょっとしてと推測してみたものの、ものの見事に外してしまったらしい。
挙句の果てに少々機嫌を損ねてしまったようなので、何かフォローしようとして「大丈夫です、私も居ません」と返答してみるも大きなため息が返ってきた。
《あのねぇ、高校生の言う恋人居ませんと社会人のそれは雲泥の差があるんだよ......》
呆れた声でそんな言葉を食らってしまう。
これはもう、速やかに謝って話題を逸らすに限るだろう。引き摺られるとちょっと厄介だ。
「すみませんでした。じゃあ何かあったんですか?」
《......実はさ、急遽烏野高校の男バレの練習相手をすることになりまして》
話題転換は何とか成功したようで、嶋田さんの声音は少しだけ明るくなった。
それにほっとしたのも束の間、嶋田さんの言葉を少し遅れて理解し思わず目を丸くしてしまう。
烏野高校は私が通っている高校だ。そして嶋田さんはそこのOBで、今は地元の社会人バレーの町内会チームに参加している。
チームと言っても大学のサークルのようなものだと以前話していたが、私はまだ高校生なのでいまいちよくわからなかった。
「男バレの同窓会ですか?」
《いや、そういうんじゃないんだけど......》
今の話ですぐに思い当たったのがその単語だったのだが、またもや私の推測は外れだったらしい。
《烏養の奴がさ、烏野の男バレコーチやることになったんだ》
続けられた言葉に、また驚く。
烏野バレー部、烏養さんと言えばかつて男バレを全国区に連れていった名匠だ。
同じクラスで前の席の男バレ部員、西谷君から何回か話を聞いたことがある。
確か物凄く厳しい人で、一旦引退したんだけど去年また復帰して、だけど体調不良を起こしてまだ療養中だと言っていたような。
「烏養さんて体調もう大丈夫なんですか?」
《え?ああ、違う違う。烏養監督じゃなくて、孫の方。繋心の方だよ》
てっきり噂の烏養監督がまた戻ってくるのかと思いきや、コーチになるのはそのお孫さんの烏養さんなのか。
その烏養さんなら、よく知ってる。時々烏養さんが働いてる坂ノ下商店の手伝い兼バイトにも行っているからだ。
でも、お世辞にも運動部の指導者というイメージはない。金髪だし、いかついし、悪い人では無いけどこう、迫力があるというか、正直言って人相が悪い。
嶋田さんが所属してる社会人バレーチームを作った人であるとは聞いていたが、まさかうちの高校の男バレコーチに就任するなんて、私の中でちょっとしたニュースである。
「世襲、でしょうか?」
《いやぁ、どうなんだろうなぁ?なんか、コーチの件はバレー部顧問の先生が頼みに頼み込んでの粘り勝ちだったらしい》
「へぇ......男バレの顧問は......武田先生だったかな?なんか、意外......」
現国担当の一見地味で人の良さそうな武田先生は、確か今年から新任で男バレの顧問になっていた。
あの大人しそうな武田先生が、あの強面な烏養さんを口説き落とすなんて......想像がつかないというか、何と言うか。
だけど、一年生が入ってくる新年度になった今、男バレが何やら再始動しているようだ。
《それで、烏養が取り敢えず今のチームの実力見たいからって、俺ら商店街チームを相手にゲームしたいってさっき連絡が来てさ》
「え、さっき?ということは、嶋田さん今日烏野に来るの?」
《左様でございます》
「えー、なんか、うけますね」
《おいJK、オッサンをバカにすんなよ》
嶋田さんの切り返しにたまらず笑いがもれる。
「別にバカにしてないですよ」と伝えるも、効果はいまいちだったようだ。
《バカにされたついでに聞いときたいんだけど》
「だからバカにしてませんて」
《季都ちゃん、男バレに友達とか知り合い居る?俺今の烏野全然知らないんだよなぁ》
「えー?私二年生としか話さないですよ?その中でも同じクラスの西谷君と、1組の田中君くらいです。あと何人か居るっぽいけど、話したことないです」
《そっかー、まぁ、そうだよなぁ......ちなみにポジションとかわかる?》
「えーと、確かリベロ?とスパイカー?だったと思います」
《守備と攻撃か。どんな奴?》
「え、二人ともめちゃめちゃ面白いです。テンション高めです」
《おお、好評価》
「三年生は......あんまりよく知らなくて......マネージャーの先輩がめちゃめちゃ美人ってことくらいしかわかりません」
《なにそれすごい気になる》
「一年生もよく知りませんが、なんか、外でよくバレーしてたって陸部の友達が話してました」
《外?なんで?》
「さぁ......?でも、背の大きい子と小さい子の2人が、遅くまでよくやってたって......今はあまり見かけないみたいですけど」
そもそも帰宅部の私に男バレの話を聞くのはどうかと、思う。
改めて話してみると男バレのこと全然知らないなとぼんやり考えていると、電話の向こうで嶋田さんは何度か相槌を打った。
《なんか謎な部分が多いけど、でも、後輩が一生懸命バレーやってるのは嬉しいな》
「.............」
嶋田さんの一言を聞いて、心がコトリと小さく動いた。
部活特有の、先輩方から無条件で愛されるこの感じ。
帰宅部の私には縁のない話だけど、少しだけ羨ましく思う。
小さく息を吐いたところで、予鈴が鳴り響いた。
「あ、ごめんなさい、そろそろ......」
《あ、ごめんごめん。じゃあ、申し訳ないけど今日宜しく御願いします》
「はーい。嶋田さんもバレー頑張ってくださーい」
《おーす》
緩い会話を最後に電話を切って、スマホを制服のポケットにしまう。
さて、次の授業は何だったかな。
情けは人の為ならず
(色んなことの始まりは、多分この日からだった。)