イナイレ


午前の練習はみっちりと行われ、昼を取るのにも円堂と豪炎寺が近づいてこようとしたから離れていつもどおり不動と食事を済ませる。

食後につけられたモニターには、いつかに俺達も足を踏み入れた大きなスタジアムが映っていて青い服を着た茶髪と白色の服を着た青髪が対峙してた。

見当たらない金糸はベンチで、何故か影山と隣同士に座っていて、彼奴大丈夫かよと携帯を触る。せいも同じものを観てるようでフォローの準備をしてるらしい。

一つメッセージを送ったところで前半が終了して、1-0でイギリスが優勢だった。

「うう、がんばれ、フィディオ、栄垣…!」

すっかりイタリアに情が移ってるらしい円堂はじっと試合を見つめていて、後半、増やされたディフェンダーと投入されたようたに頬杖をつく。

アブソリュートナイツの欠点である打ち込みのタイミングにディフェンダーが集結してシュートを止めて、ブラージが思い切りボールを前線に送る。

前線にはフィディオとようたがいて、どっちに回してもシュートを決められるから、二人が一点ずつ獲得したところでイタリアの勝利で試合は幕を下ろした。

揺れた携帯を確認する。

「あれは影山の力…っ」

鬼道や佐久間は身を持って影山のサッカーに対する理解度を知っているし、彼奴の勝利への解像度は高いままで、円堂も難しい顔をしてる。

影山と関わりがあるほど険しい顔をする奴らに届いてたメールを返して、練習再開の合図が響いたから全員が食堂を離れた。







「中止!!フィールドでサッカー以外のことを考えるな!!!」

道也の怒号が飛んで、まぁそうなるだろうなと息を吐く。

抜けてしまった栗松の分まで頑張ろうと意気込むのはともかく、円堂、鬼道、佐久間、不動を筆頭に、血の気が多かったり仲間意識の強いやつほど妙な力が入っていて接触事故が多発してる。このままだと怪我に繋がるだろう。

影山のことをよく知らない飛鷹や吹雪、基山、虎は戸惑っていて巻き込まれ事故だなと頭を掻く。道也から指示が飛んでくるからその辺りと、後は知っていてもよくわかってなさそうな立向居、条助、小暮、土方。豪炎寺は鬼道と出かけるらしいからそいつらだけを拾ってボールを持った。

『つーわけで、許可は降りてるから午後は俺が練習見る』

「「え?」」

「アンタが俺達を??」

「「いいんですか!?」」

「いいの??」

「やったー!!」

「楽しみだぜ!!」

ぴょこぴょこと跳ねるのは立向居、虎、条助。飛鷹と吹雪も目を輝かせて、え?え?と基山と土方と小暮は困惑を顕にしてるから口角を上げた。

『先に言っとくが、俺の練習は道也よりきついぞ。最後まで立ってられるといいなァ?』

「「「え」」」

跳ねた体制のまま固まった三人にボールを落として、蹴り始めた。







『んだよ、もうへばったのか』

「「………………」」

ずっとボールを追いかけ回して俺を止めようとしてた小暮と土方と条助と飛鷹は地面に突っ伏しているし、同じくシュートを止められ続けた虎と基山と吹雪は地面に座り込んでいて、シュートを決められ続けた立向居もゴールポストにもたれ掛かるように目をつむってる。

「どういう…体力してんだ…お前…」

『普通』

「同じ量…いや、多対一のこの状況で僕達以上に動いてるのに…なんで…」

「…あり…えない…人間辞めてる…」

「もしかして、アンタが本物の宇宙人…?」

『お前ら全員無駄な動きが多いだけ』

「むだ…」

べしょりと倒れて、もう無理…と零すのは吹雪で、虎も同じように地面に転がる。

これ以上の練習は無理だろうと息を吐いて、足の下にしていたボールを掬い上げた。ぽんぽんとリフティングする。

『まずディフェンダー。全員が自分のテリトリーをきっちりと把握しろ。その上で自分が動いたときに空いた場所を埋められる人間が居るのかどうかまで考えて動け。てめぇが動いて穴空けたら意味がねぇ』

「「おう…」」
「「はい…」」

『フォワード。今回はミッドフィルダーが居ねぇからボール回しがしづらかったかもしれねぇけど、んなもん本番だって同じだしなんなら敵もいんだから余計動きづれぇ。虎はボールのキープ力、基山は自主性が足りねぇ。吹雪は全体的によく見てディフェンスも助けてやれてるけど、それで自分が下がりすぎてたら攻めらんねぇだろ。ボール持ったらさっさと上がるか送るかして攻撃に移れ』

「はぁい…」
「「うん…」」

『キーパー。目と頭は追いつけてんなら体力つけろ。後半力尽きて動けてねぇ』

「は、はい…!」

『以上。不明点がある奴は』

「「「「「ありません…」」」」」

『ん』

ボールを蹴るのをやめて、その場に置いたままにし、ベンチから木野が用意してくれてた飲み物を持ってきて配る。

「あ゙ー」

「いきかえる…」

「おみずおいしい…」

『お前ら大丈夫かよ』

「………」

「大丈夫に見える…?」

転がったままのそいつらに息を吐く。

視界の端でタオルを抱えた木野がやってきて笑った。

「あはは、来栖くん、スパルタだね〜」

『人聞きがわりぃ。軽くしかやってねぇよ』

「まじかよ…」

全員にタオルを配って最後の一枚が渡される。受け取って流れてる汗を拭う。少しだけスッキリしたからまたボールを拾って、ぽんぽんと遊んでいれば出かけ先から戻ってきたらしい人影が、え、と固まった。

「な、なぜ転がってるんだ…?」

『体力尽きたらしい』

「え、もしかして!一緒に練習してたのか?!」

『おー、こいつら暇そうだったから拾った』

「なんだって…俺は?!誘われてない!!」

『あ?お前、鬼道と佐久間とさっさと出かけただろうが』

「んんんんっ」

訝しげな鬼道から始まり、驚いた佐久間、それから悔しそうに地団駄を踏み始めた豪炎寺に土方が元気だなぁ…と遠い目をして、小暮が変わってほしかったと零す。

豪炎寺の様子にこのあとのセリフは察してたからボールの動きを止めた。

「来栖!今から俺と練習してくれ!!」

『いいけど』

「本当か!それならすぐに、」

「諧音!!」

響いた声に顔を上げる。肩で息をしてる道也はそのまま声を張った。

「冬花が病院に運ばれた!」

『は、?』

「向かうからついてこい!」

ボールを落として、豪炎寺を見る。

「ああ、大丈夫だ、すぐに行ってくれ」

『わりぃ。また今度』

走り出して荷物を拾って先に向かってしまった道也を追いかける。車に乗り込んで、焦りながらエンジンをかけたところで車はすぐに走り出した。

『理由は?』

「交通事故の現場を見て倒れたらしい。一緒にいた円堂が付き添っている」

『…そーか』

「やはり、連れてくるべきではなかったか…」

苦しそうに眉を寄せてハンドルを握る手に力を込める。白んでる指先に息を吐いて、病院につくまで会話のなくなってしまった車内は静かなままだった。

すっと車を止めて道也が飛び出していく。忘れられてる荷物を持って続けば受付している背中が見えて、ポケットに手を入れようとしたから代わりに差し出した。

『落ち着けよ』

「、すまん」

平たいポーチから取り出された免許証と、それから冬花の保険証に息を吐く。

説明は的確、簡潔に行われる。冬花には怪我はない。運ばれてから一度も目が覚めていない。付き添いは一緒に来ていた円堂が行っていて今も病室にいる。

聞かされたそれに二人で教えられた病室に向かう。ノックの後に戸をゆっくり開けば中にいた円堂がぱっと顔を上げた。

「監督!来栖!」

不安だったのか揺れてた視線が定まって表情を緩める。向こう側で白色のベッドの上、眠り続けてる冬花を目視して、道也が眉根を寄せて円堂を見たあとに部屋を出る。

「え、監督…?」

『………聞きてぇことがあるなら道也から聞け。冬花は俺が見ておく』

「…わかった。ありがと、来栖。ふゆっぺを頼むな!」

立ち上がって病室を出ていく円堂に、扉がしまったから椅子に座る。

さっきまで円堂がいたそこからは眠る冬花がよく見えて、魘されているらしいその様子に髪を撫でた。

道也が言っていた。この国に来てから冬花は度々うなされるようになって、夜中に起きるとまでは行かずとも朝に体調が悪そうにしていることがあるらしい。

道也は円堂と長くいることで閉ざした記憶が現れようとしてるせいじゃないかと不安がっていて、冬花にもう一度治療を施すかと悩んでいた。

しばらく触れていれば音がして顔を上げる。

迷子みたいな顔をしてる円堂に道也は目を伏せたまま代わるとだけ告げて、仕方なく立ち上がった。

『欲しいもんは』

「…コーヒー」

『んー』

病室を出る。ふらふらとついてきた円堂に声をかけず階数を変えて、購買で頼まれたものと炭酸、それからお茶を一つ買って近くのベンチに座って、持ってたものを差し出した。

『ほら、お前もおちつけ』

「………ありがとう、来栖」

隣に座った円堂はペットボトルを見つめてぼーっとしてる。揺れてる視線に息を吐いて、キャップをひねった。

『冬花に付き添ってくれてありがとな』

「……うんん、俺はそれくらいしかできないし…」

ぎゅっと手に力を入れた円堂にペットボトルが悲鳴を上げる。ばきばきと音が鳴って、円堂は俺を見つめた。

「来栖も、知ってるのか?」

『なにを』

「ふゆっぺの、その、昔の…」

『ああ、ざっくりとは聞いてる』

「、そうなんだ。…そうしたら、ふゆっぺのと父さんとお母さんとは…」

『俺は道也の親戚だから、冬花が引き取られてからしか知らねぇ』

「あ、そ、そっか…」

ペットボトルを握る手を強めたり、緩めたり、忙しそうな様子に息を吐いて炭酸を飲み込む。

強い泡と、さっぱりとした味に頭の中が一緒にすっきりして息を吐く。

『お前昔の冬花と仲がよかったんだって?』

「うん。…稲妻町に居たから、よく遊んでたんだけど…急に居なくなっちゃって」

『そのあたりでご両親が亡くなったんだろうな』

「…………俺、ふゆっぺが苦しそうなのは嫌だけど、でも、忘れたままなのが幸せなのか、どっちがいいのか全然わかんない」

悔しそうに眉根を寄せてる円堂に目を細める。他人の痛みまで感じ取ってしまうらしい円堂に持っていた冷たい缶をくっつければうわっ!!と大きな声が響いた。

『んなもんお前が悩むことじゃねぇ』

「でも、」

『覚えてるから幸せなわけでも、忘れたから不幸な訳でもねぇよ。これは冬花の問題だ。昔は小せぇから消化しきれなかっただろうけど、今なら呑み込めるかもしれねぇし、駄目だったらもう一回封する、それだけだ』

「そんな!ふゆっぺだってお父さんとお母さんのこと覚えてたいかもしれないじゃんか!」

『それこそ冬花に聞かなきゃわかんねぇよ』

落ち着けと額を叩けばぐっと顔に力を込めて言葉を留める。

確認した携帯にそろそろ戻るかなと立ち上がった。

『忘れなきゃやってけねぇくらいに弱っちまうなら消してやるも優しさだろ。道也だって冬花の幸せを願ってんだよ』

「それ、は、そうかも、しれないけど…」

俯いて涙を溜める円堂は感受性が豊かで、息を吐いてハンカチを投げつける。

『冬花を守ってくれありがと。気をつけて帰れよ』

ここからならバスでも歩きでも帰れるだろうから放って病室に戻る。

ノックをしてから戸を開ければ出ていったときとそう変わらない状態で道也が頭を抱えるように座っていたから缶を差し出した。

『これでいーんだろ』

「…ああ」

『冬花起きたのか』

「いいや、まだだ」

『ふーん。このまま泊まんの?』

「……明日の朝のメニューは任せていいか」

『響木のおっさんがわかってんならいーんじゃね』

「…すまない」

『別に。忘れもんと夜ふかしに気をつけろよ』

「…ああ。何かあったら連絡する」

『なんもなくても寂しくて気ぃ狂いそうになったら連絡しろォ。付き合ってやんよ』

「…そうする」

こくりと頷いた頭に病室を出る。携帯を確認しながら歩いて、まだそこにあるオレンジ色に足を止めた。

『円堂』

「、あ、来栖」

『てめぇ野宿すん気かよ。帰んぞ』

「え、あ、来栖帰るのか?」

『付き添いは道也がいるし、響木のおっさん一人に彼奴ら任せてたら心労祟ってぶっ倒れんだろ。いつまでもぼーっとしてんじゃねぇぞ、へぼキャプテン』

「へぼ…」

肩を落とす円堂を連れて病院を出る。陽はまだ落ちている最中で、歩いて帰っても問題はないだろう。

バス停を過ぎようとしたところで、あ!と服を掴まれた。

「だめだぞ、来栖!」

『はぁ?何が』

「いつ足と目が痛くなるかわからないし、バス乗って帰ろう!」

『んな頻繁に起きねぇよ。要らねぇ気ぃ遣うな』

「要らなくなんかない!心配だ!」

『………はあ〜』

手が離されないから仕方なくバス停に戻る。並んでいる間に髪に触れていれば円堂はやっぱり険しい顔をしていて、走ってきて停まったバスに乗り込んだ。

日本エリアに向かうバスは程よく空いている。神妙な顔をしていてぼーっとしてる円堂を引っ張って椅子に座らせ、隣に立った。

「え、なんで…」

『止まった瞬間に転がってく未来が見えたからだ、くそバンダナ』

「そ…そこまでぼーっとしてないぞ!」

『傍目から見りゃしてんだよ。嫌ならさっさとしっかりしろ』

「……………」

走り出したバスに立ちながら携帯を触る。イタリアのチーム内情にようたがめんどくさーいと怒っていて、食事の約束をつける。それから風丸と虎から冬花の調子と帰宅時間を確認する連絡が来てたから返事をして、合わせて道也に円堂も回収してもう寮につくと報告を入れた。

バスは寮の最寄りについて降りる。

ここから大体十分程度らしいから歩いて、ついてきていた円堂が頭を抱えて、あーと叫びだした。

『は、?』

「だめだ!全然わかんない!!」

『は…?』

「来栖!ちょっと時間くれ!」

『はぁ?』

「こっち!」

腕を掴んで走り出した円堂に連れられて、たどり着いたのは海辺だった。寮から少しだけ離れたそこはあるのを知ってはいたけど一回も来たことがなくて、砂浜をざくざくと踏みしめて大きな木の下にたどり着いた。

『タイヤ…?』

「あとボール!」

『は…?』

固まる俺に円堂は荷物を置いて代わりにボールを持つと走って距離を開けて、行くぞ!とボールを蹴ってきた。

不安定で高さも速さもなにもかも不格好なセンタリングを見上げる。

「来い!」

『……はあ、サッカー馬鹿はこれだから』

足に力を込めて、砂面を飛び上がり蹴る。振りぬいた足はボールの芯を捉えてまっすぐと飛んでいく。円堂は腰を落としてボールを掴んで、勢いが殺しきれなかったのか跳ねたボールが顔面に当たって後ろに倒れた。

『おい、大丈夫か』

「もう一回!」

『まじネジどっかに落としてんじゃねぇの…?』

上げられたボールをまた蹴ってやって、今度は跳ね上がりはしないけれど尻餅をついて、んんっと悔しそうにした円堂はすぐに立ち上がりまたボールを上げる。

何度目かのやりとりでようやく勢いを殺しきれて抱え込めた円堂は、腕の中のボールを見つめて、俺を見上げた。

「やっぱ来栖のシュートはすごいな!」

『そんなんシュートでもなんでもねぇだろ』

「来栖とやってるサッカーはこう、ガガッザッ!って感じ!」

『なに?日本語で話せよ』

「ははは!」

笑い飛ばした円堂はさっきまでの曇った表情は消えていて、よしっと頷くなり俺の側に帰ってきた。

「ありがとな!」

『なんもしてねぇ』

円堂がボールをなでる。

「なんかさ、俺、ふゆっぺが苦しんでるのはやだなって思って、だから勝手に記憶が消されちゃうのって可哀想とかそう思っちゃって」

『………』

「でも監督も来栖もふゆっぺのこと大好きで守りたいって思って内緒にしてるから、どっちも、誰も悪くないから、俺どうしたらいいかわからなくて」

『…それで?』

「俺が今できるのは楽しそうにしてるふゆっぺと来栖を見て一緒に笑ったりサッカーしたりすることだって思ってさ!」

ボールを置いた円堂は荷物を持ち上げて、あ、でも!と俺を見た。

「もちろんふゆっぺが困ってたり来栖が悩んでたら俺も手伝うから!何でも言ってくれよ!」

『……俺の方はねぇだろうけど、冬花のことは頼んだぞ』

「おう!来栖も遠慮するなよ!いつでも俺が練習相手になる!」

『……………お前と違って迷ったからってサッカーしねぇわ』

「え?でもこの間も夜サッカーしてたじゃん」

『、』

「不動とボール取りあってたし、いいなって思ったんだよな!次は俺も入れてくれ!」

『…………やだ』

「え?!なんで!!?」

円堂に見られたくないことが見られてる確率が高いことに、今後は外に出るにも気をつけようと心に決める。

早足で寮に向かえば扉を開けるなり、黄みががった照明と木、それからふわりと届いた香りに迎え入れられた。

「円堂!来栖!」

待っていたのか風丸が俺達を見るなり駆け寄って来て、俺達の姿に眉根を寄せた。

「お前らなんで砂まみれなんだ…?」

『こいつの馬鹿に巻き込まれた』

「了承して付き合ったお前も同罪だろ。服と靴をはたいてから入れよ」

『だる』

「わ、わるい、来栖」

言われるままに上着を脱いではたいて、靴や足元の砂も落として、砂面に転がったりしてた円堂に関してはバンダナにまで砂が入っていたから外してはたいてた。

「もうすぐって連絡から全然帰ってこないから心配したんだぞ」

「ご、ごめん…俺が来栖にシュートお願いしてて…」

「は?来栖に?」

ぎょっとしたように俺を見る風丸に眉根を寄せる。

『なんだよ』

「いや、お前…あれだけみんなを疲れ果てさせておいて本当に体力おばけだな…?」

「みんな?」

「ああ、円堂は知らなかったのか。食堂行ったらわかるぞ」

「食堂…?」

三人で食堂に向かう。風丸が開いた扉から円堂、俺の順で中に入れば机に突っ伏している数人とそれを補佐するように起きてる影がいて、響木のおっさんは俺を見据えた。

「来栖、お前さん急にギアを上げすぎだ」

『あー、まだ回復してねぇのかよ。見誤ったかァ?』

「え、え??ヒロト、吹雪…それに飛鷹、小暮、土方、綱波に虎丸、立向居までどうしたんだ??具合悪いのか??」

「体力が尽きててほとんど動けない状態なんだよ」

「え、?」

「おかえり、円堂」

「た、ただいま?…えっと、鬼道、みんなの体力はどこいったんだ?」

「午後練を来栖が見ていたらしい。そこでスパルタ指導されてこうなっている」

『スパルタじゃねぇ。普通にやった』

「あれが普通…?」

「やっぱり宇宙人だ…」

小さな声でふるえてる土方と小暮に頭を掻く。豪炎寺が俺も一緒に練習したかったと零して、それを染岡と壁山が正気かと目を見開いた。

一体何をしたんだと風丸や佐久間が訝しげな目を向けてきて、鬼道と不動がじっと俺を見るから機嫌が降下して顔を背ける。

『ちっ。もうやらねぇ』

「待ってくれ!今度と言ってただろ!」

『ならてめぇ見て終わりにする』

「待って待って!俺も参加したい!!」

『ざけんな』

「俺も来栖の指導者としての腕前を拝見したいものだな」

『ああ?』

勢いのいい円堂と口角を上げてる鬼道。それから依然じっとこちらを見てきてる不動に、おっさんが笑った。

「どうせ明日は久遠監督から一任されてる。来栖、好きにやれ」

『はあ〜?どこの世界に控え選手にスタメンの練習見させる監督がいんだァ??』

「ここだな」

『ふざけんな』

言葉を撤回する気のないおっさんを睨んでいても仕方ないから料理を受け取る。音無と木野はにっこりと笑った。

「来栖さん!私達もお手伝いします!」

「バックアップは任せておいて」

『………………はぁ〜…』

渡されたトレーは重たくて、ため息をついても刺さってる視線は減らないから無視して歩く。

いくつかのテーブルを越えて、いつもの席に腰を下ろして、そうすれば向かいの不動は変わらず俺を見ていて口元を緩める。

「期待してんぜ、来栖監督」

『欠片ほども面白くねぇ』

顔を逸らせば不動はさらに目を細めて笑って、息を吐いた。


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