イナイレ


朝から不動と練習して、それが終われば立向居の練習に付きあって、風丸に叱られて食事を詰め込まれたくないから飯を食べる。

とてつもなく規則正しく安定した生活を送る俺に、寝るっていう俺の大切な用事はぽしゃってしまって、たまに夜は虎や飛鷹の練習に付き合ってを繰り返していれば飯食って風呂入って寝たのはてっぺんをゆうに超えるようになった。

だからこそ、アルゼンチン戦直前の全休の今日は用事まで不動との朝練が終わったらゆっくりするつもりだったのに。

「かいとーん!」

右手を大きく振り行動と同じくらい大きな声を上げて人の名を呼び駆けてきたそれは本来ならば目立つだろうが、まだ八時にもならないこの時間じゃ通行人もいなくて気にする奴はいなかった。

一歩離れたところに立ってにかりと笑う。

「おはよ!」

『こんな朝早くになんの用だァ?』

「かいとんとお出かけしようかなって!」

『はぁ?』

「かいとんこっちきてから遊びいってないでしょ?ってわけで俺っちの独断と偏見によるイタリアエリアツアーにご招待!!」

『ふざけ倒せよてめぇ…』

俺の睡眠時間返せとなんて言葉は聞こえないものにされたらしく腕が取られて歩き始める。

日本エリアから見知らぬ街並みに変わり言っていたことが本当ならイタリアエリアに連れて行かれてるらしい。

「お昼から俺っちは練習あるから、それまで遊び倒してー、終わったら一緒に寝よ〜!」

運河の脇を歩いて行くとようたが鼻歌交じりに話す。

「まずは俺っちおすすめデザートを食べまふ!」

『へーへー』

「て、ことで!おっちゃん!こんちゃっ!ジェラート2つ!ぱちぱちのやつ!!」

「お!ヨータ!いらっしゃい!」

顔見知りらしく手を上げて挨拶を交わす。

店主らしいその人はコーンに慣れた手つきでジェラートを盛ると俺とようたに持たせる。

精算してまたようたに手を取られながら歩いていけばどんどんと人気が減り静かな公園に出た。

「かいとん、ここにえんと!」

『ガキかてめぇは』

促されてベンチに腰掛けると隣に並んで座る。

「ぱちぱちするぅ〜」

『ん』

ぱたぱたと足を動かしながらアイスを頬張るようたは俺とほぼ同時に手を空にして、息を吐くとそのままずり落ちて太ももの上に乗った。

『何してんだァ?』

「眠くなっちゃったからお昼寝!」

『なに幼児返りしてんだよ』

喧騒は遠く、背の高い木により陽射しの遮られたここは穏やかな空気が流れてる。

ようたの頭に手をおいてあくびを零せば小さく笑った。

「えへへ〜。おやすみ、かいとん」

『ん、おやすみ』

目を閉じて息を一定に落ち着かせれば疲れていたらしい体はあっという間に眠りについたらしく意識が飛んだ。







なにか、うるさい

メロディラインは忙しない、ゲームのようで、仕方無しにまぶたを上げてみる。

耳で音を辿り、どうにも眠りこけてるようたの上着のポケットに入れられた携帯が鳴り響いてるらしい。

携帯を抜き取り、未だ穏やかに眠るようたの額を小突けば眉間に皺が寄って瞼が上がった。

「ん〜?」

『うるせぇ』

「んー」

ねぼけてるこいつが携帯を持てるとも思えず通話を開始させて耳に押し付ける。

「はぁい……ふぃでぃお?んー?……あ~、寝過ごしちゃったぁ、ごっめーんみ」

時間を確認すれば頂点から少し進んでいる長針が見えて、電話の向こう側からは怒声が漏れてきてる。

あくびをしているうちに話がまとまったのかようたが口を閉じて、腹に顔を押し当ててくるから息が詰まった。

「ん〜、かいとーん」

『おら、さっさと行って練習してこいや』

「かいとんは?」

『視察でもしてやるよ』

「おお!やる気だね!やる気満々グローブじゃん!じゃあ俺っち頑張っちゃうよ!!」

飛び起きて笑ったようたにもう一度あくびを零して立ち上がれば行き道と同じく隣にようたが手を取って並んで歩き始めた。

向かうはイタリア代表が練習につかっている広場らしく、徒歩十五分ちょいらしい。

遅刻してることをわかってるのか、ゆっくりといつものペースで歩くそいつはどうにも上機嫌で鼻歌まじりに進んでいく。

不意に、鼻歌を遮るように音が鳴った。

鳴り出したのはようたの携帯で、不思議そうに目を丸くしながら耳に当てる。

「はーい、今向かってまぁ……え?公園?広場じゃないの??練習は??」

雲行きの怪しい会話は一方的に切られたようで驚きから携帯を見つめて固まった。

首を傾げて唸ったあとに俺の手を取り直して見上げてくる。

「なんかいつものとこ使えなくなっちゃったから別のとこ行くんだって、変なの」

『なんだそりゃ』

「しかも場所まだ決まってないらしくてとりま公園しゅーごーとかほーんとイミフ」

困っちゃうよね!と笑いながら繋ぐのを俺の手から腕を組むのに変えてひっついた。

「ではではぁ、公園にれっつごー!」

『歩きにきぃ』

「気にしない気にしない!」

文句を言っても聞き入れてこないのはよくあることだが、ここまでわかりやすくべたべたとくっついてくるのは珍しい。こいつも疲れか鬱憤が溜まってるんだろうか。

途中猛スピードの救急車とスレ違い、ようたが引かれそうだったから引っ張って端によった。

気にせずそのまま歩いて開けた場所に出る。賑やかなここは恐らく集合場所に指定されたであろう公園で、ようたがきょろきょろとしてフィディオを探す。

「フィディオ〜?」

探すまでもなく目立つ集団はいない。

不自然に人の喧騒と視線の集まる場所は大木が倒れていて、聞き耳を立てる限りでは一人下敷きになって救急車で搬送されていったらしい。

「うぇ、やばくない?」

『普通にやべぇだろ』

「それフィディオだったりしたらヤバたんだよね」

『やばいで済まねぇだろうなァ』

「もし俺っちだったら御見舞きてね!」

『気が向いたらなァ』

「とかいいながらフルーツ盛り持ってきてくれるって知ってるよ!!」

どうしてか上機嫌なようたが愛してると騒ぐから人の目が集まる。

一度落ち着かせるために頭をはたいて息を吐いた。

『いーから連絡取れよ』

「おけりんでーす」

リダイヤルですぐに耳に当てたようたは十秒、二十秒、一分過ぎた頃には電話を切って頬を膨らませた。

「フィディオ出ない!おこだよ!!」

『遅刻しすぎで愛想つかされたんじゃねぇのォ?』

「えー?困る〜。そしたら養って、かいとん!」

『養わせろって言われるような言動取れ』

「えー?」

フィディオだけじゃなく他のチームメイトにも連絡を入れさせるけど返事はない。

やってらんない!と笑顔で怒ってたと思うと鼻に届いた匂いに顔を上げる。

「お腹空いた!アレ食べよ!」

『あ?』

「イタリアのライスコロッケ!おいしそー!」

『お前食ってすぐ動けんの?』

「大丈夫!」

引く気がないらしいようたに息を吐いて車に近寄る。

近づけば確かにライスコロッケ的なものが見本として飾られていて、手のひらに収まる程度の大きさのそれは程よく腹に溜まって運動しても気持ち悪くはならなそうだった。

チーズバジルとカレーの二種類を買って適当なベンチに座る。

どれだけ腹が減ってたのか、ろくに息も吹きかけずに齧り付いたようたはチーズに火傷して涙目になってた。

ライスコロッケを食べきって二人でゲームする。公園についてから30分も経とうとしたとき、やっとようたの携帯が鳴った。

「あ!フィディオ!?もうどこにいるの?!俺っちおこだよ!!」

思い出したように頬を膨らませて話すようたを横目にゲームを終わらせて足を組み直す。

少し黙ったと思えば目を丸くして首を傾げた。

「病院??なして???ブラージが木の下敷きなった??……やべぇやつじゃん」

神妙な顔つきの後になったようたは中指の指先で手のひらを擦る。

「……え?うん、まだ公園!来るの??じゃあ待ってるね!」

電話を終えるなり肩に重みがかかる。

朝から騒いでたからか眠たそうに目を擦っていて、青色の瞳が俺を見据えた。

「かいとん、なんか面倒くさくなってるみたい」

『みてぇだな。心当たりはあんのか?』

「うんん、俺っちはぜーんぜん」

『あっそ』

「…ねぇ、かいとん、ちゃんとお片付けできたら俺っちのこと褒めてくれる?」

『…気が向いたらな』

「じゃあフィディオより頑張らないとだね」

手を繋いできたから握り返せば嬉しそうに肩を小さく揺らしてまた目を瞑る。

中指はもう手のひらを擦っていなくて代わりに俺の洋服を握った。





ばたばたとした足音が近づいてきて目を開く。

目を閉じているうちに眠っていたらしいようたの涎を袖口で拭ってから額を叩いた。

「ん、っ」

『来たみてぇだぞ』

「んー?」

「ヨータ!」

「あんじぇろぉ?おはよ~」

「おはようじゃないよ!もう!また寝坊して!」

「あはは、ごっめーんみ!」

一番に駆け寄ってきたのは少し背の低い金髪のやつで、ようたはへらりと笑いまた俺に凭れる。

『てめぇ…』

「あ、カイトン、久しぶりだね」

『…なんでその呼び方なんだよ』

「?」

俺に気づいたフィディオに息を吐いて、首を横に振る。今はそんなことよりも現状把握が先で、フィディオもそう思ったのがようたに目を向けるから、ようたが寝ないように立ち上がって話を聞くことにした。

イタリアのゴールキーパー、ブラージとやらが戦線離脱し、その上多発する事故によって更に数人追加で怪我をしたらしい。フィディオも危うく材木の下敷きになりかけたらしく、時空列を遡って話していたフィディオは不意に顔を上げて俺を見た。

「カイトンは日本代表なら円堂と一緒だよね?」

『あ?てめぇ円堂の知り合いかよ』

「あはは!かいとんってばそんなぴりぴりしないでいいじゃん!」

『別にしてねぇよ』

「俺っちには本音が丸見えだぞぅ!」

このこのぉと何度も頬を突かれ、その指を右手で握りこめば顔色を青くしたようたが涙目で謝るから手を放した。

『で?なんであの馬鹿の名前がこんな所で出てくんだァ?』

「ああ、ちょうど、」

「あれ?来栖だ!!」

言葉を続けようとしたフィディオをさえぎって聞こえてきた声に額に手をやる。

『噂したら本当に出てきやがった…』

「かいとんの吸引力でしょ!」

「来栖ー!」

『ちっ』

突進してきた円堂を避けて息を吐いた。円堂の後ろには鬼道と佐久間、そのまた後ろには不動も立ってる。

「来栖、何故ここに?」

『知り合いと飯食ってた。…つーか、いいから続き話せ』

「あ、うん」

俺の態度を心配そうな目で見ていたイタリア陣営に話を振って先を促す。

怪我をした面子。そもそもなんで練習場所が変わったのかといえば追い出されたから。新監督が現れ、そして、イタリア代表を全て交代させるなんて宣言を叩きつけていった新監督の率いるチームとイタリア代表の座をかけて明日に試合するらしい。

「えー??俺っち大ピーンチ!てきな?」

『らしいなァ』

「ね!やっぱり養ってよかいとん!」

『そんなに囲われてぇのかよ』

「そりゃもちろん!」

「ヨータってばっ!」

頬を膨らませて怒るアンジェロとやらにようたは依然としてへらりと笑ったまま、俺の腕を取って寄り添った。

「あは、冗談冗談!ごめんね〜!ちゃんと明日は試合行く!ね!かいとん!」

『動く手足があんなら働け』

「はーい!かいとんもお手伝いよろしくねん!」

『はぁ?』

「じゃー作戦たてないと~!ねぇねぇかいとん!俺っち甘いもの食べたい!」

『はぁ…んじゃさっさと行くぞ』

「デザートはなんかさっぱりしたのがいいよね~」

視線がうざったらしいから踵を返せば、更に視線が集まりフィディオが声を上ずらせながらようたの服を掴んだ。

「ま、ヨータ!どこに行くんだ!」

「え?パンナコッタ食べる」

「パンナコッタ…ヨータ!状況わかってる!?」

アンジェロや他のイタリア代表たちまで肩を怒らせるから、ようたは首を傾げる。服を掴んでいる手をそっと解くと、また俺に抱きついて目を細めた。

「わかってるから…パンナコッタ食べるの。かいとんとね。……作戦会議、ちゃんとしないと勝てるものも勝てないと思うよ?」

「「え??」」

フィディオとアンジェロだけじゃない、円堂や鬼道も目を見開いて、ようたは目を閉じるとにぱっと笑った。

「ピリピリしてると視野が狭くなっちゃうって!じゃ!パンナコッタが待ってるから行かないと!明日はちゃんと行くから!ばいばいきーん!」

ぐっと腕を引かれて歩き出す。

「あと一緒にかいとんのお悩み相談もしちゃおうかぁ!」

『俺の話はついでかよ』

「んへへ。だってかいとんが俺に聞きたいことあるなんて珍しいから、できるなら先延ばしにしたいでしょ〜?」

『はー…』

「あ!てかこれ今日せいたんと会うの無理じゃない?!」

『明日にずらせるか聞いとくか』

「おねしゃーす!!」

今度は止めてこない二人と、様子を見て呆けている周りの視線を背に受けながら足を動かした。


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