イナイレ



「来栖!おはよ!!!」

『ん』

「諧音さん!練習するんですか!」

「諧音!諧音!一緒に練習しようぜ!」

『メニューによる』

ベンチで足を組み楽しそうに眺めてきてるせいの視線を背中に受けながらグラウンドに入る。

円堂が声を上げれば虎、条助が一番に寄ってきて、立向居や飛鷹もこっちを見てきてる。風丸だけ虎たちを見て肩を揺らすのは昨日のことが半分トラウマになってるんだろう。

道也が声を出す。

前半はざっくりと三組に分かれての練習らしい。道也を確認すれば鬼道のいるところに入れと言われて虎と条助が頬を膨らませた。

「ちぇー」

『まぁまた場所移動するだろうし、そんときに練習すりゃいいんじゃね?てか早く行け、怒られんぞ』

「「…はーい」」

不服そうに歩いて離れる二人に、道也がお前も行けと目が訴えてくるから進む。

「よろしくな!来栖!」

『お前と一緒かよ…』

鬼道、不動、佐久間、それから円堂と立向居。ミッドフィルダーとゴールキーパーしかいないグループに何をさせられるのかと周りを確認した。

別の組み合わせは風丸、豪炎寺、虎、壁山、小暮。最後は基山、染岡、土方、条助、栗松、飛鷹とポジションもそこそこバラけてるらしい。

『これどうやって分けたんだァ?』

「あ、えっと監督によってわけられてます!」

『へー』

特に意味のある組分けでもなさそうだけど、向こうを見れば道也は全員がわかれたことに頷いて口を開く。

「今日はこのグループで鬼ごっこをしてもらう」

「「鬼ごっこ?」」

「この三つのグループそれぞれにビブスを渡す。黄色は赤を、赤は青を、青は黄色を捕まえるように。自分たちの標的ではないグループは捕まえても意味がなく、自チームが全員捕まえられたチームはその時点で失格。また、この色分けは暫定的なもので随時変更する」

渡された赤色に息を吐く。めんどくさそうなルールにすぐにでももらったビブスを投げたかったけれど、せいがあまりににこにこしてるから諦めて被った。

「捕獲の判定は相手の服についているものを取ったことで判別する。人数のハンデとして青チームは一人だけ一度復活できる」

ビブスの前と後ろ、貼り付けられてる短めの布に、これは鬼ごっこと尻尾取りの併用なんだろう。

「数分間の後、合図をする。合図が聞こえたならばすぐさま自陣の色を持つマネージャーのもとへ向かうように。最終的に自陣に帰れた人数で把握する」

ぱっと視線が向けられるのはそれぞれ俺達と同じ赤、青、黄色のビブスを着せられたマネージャー陣で、俺達の赤色は音無らしく、鬼道が満足そうに頷いてた。

「説明は以上だ。質問のある者はいるか」

鬼道と風丸と基山がいくつかルールを追加で確認して、一度グループごとに集まる。各チーム作戦会議の時間として五分もらったことで鬼道を中心に佐久間、円堂、立向居が真面目な顔をして近寄って、不動と俺は聞こえるくらいの位置に立った。

「おい、不動も来栖ももっとコッチに来い」

『ここでも聞こえる』

「始めてもいないゲームで作戦会議もなにもねーだろ」

「お前たち…!」

「はあ。落ち着け佐久間。…二人とも聞こえているならいい。では作戦だが…」

基本は鬼道を中心として佐久間、円堂、立向居が回遊し相手のしっぽを取る作戦でいくらしい。しっぽを狙われたときには回避のために逃げて、撒けたら帰ってくるようにと告げる。鬼道にまぁ最初はどこのチームもそうだろうなと思ったところでホイッスルの音が響いた。

「ではこれより開始する。準備はいいな」

マネージャー陣は道也の隣にいて、各チームはグラウンドに等間隔にはなるようにバラけていて、もう一度響いたホイッスルによって動き出す。

「とりあえず捕まえりゃあいいんだろ!」

「うん、様子見だからね!」

好戦的に走り出すのは黄色チームの基山と染岡、土方、条助。栗松と飛鷹は指示を受ける側なのか一歩後ろにいる。

「最終的にマネージャーの場所に戻るなら近いほうがいい!」

「ああ。それなら俺達はこっちをテリトリーに動こう」

青チームの風丸、豪炎寺は保守をメインに虎、壁山、小暮といった年下組を守るように動きつつ位置取りをしてた。

「思ったよりも作戦にばらつきがでるな」

「そっか、捕まえるのメインか全員で残るのがメインかで作戦も変わるんだな」

鬼道と円堂の会話を拾いつつ、佐久間がどうする?と鬼道に指示を仰ごうとして、うわぁ!と立向居が声を上げた。

「あっちからすごい勢いで来てますよ!!」

「そりゃあそうなるか」

不動が走り出して、鬼道も息を吸う。

「円堂は左からの染岡、立向居は綱波に気をつけろ!」

「おう!」

「は!はい!」

「鬼道!青チームのしっぽは!」

「もちろん取りに行く!」

好戦的な黄色チームに追いかけられるように走り出す俺達赤チームに、青色チームはまぁ来るよな!と目を細めて、グラウンドが騒然とし始める。

「待てこら円堂ー!!」

「待たないぞー!」

「逃さねぇぜ!!」

「ひぃ!!」

聞こえてくる声たちに息を吐く。

一番に動き出してた不動はすでに青チームにもうすぐ側まで来ていて、青チームの司令塔の風丸が指示を出して軽くばらつくように動き始めてる。

ほどよく散らばろうとしてるそれを確認して、一瞬歩みを緩めて立向居の視界に入るようにすれば、かっと目を見開いた条助の標的が俺に映った。

「諧音!!」

一目散に飛び出してくる条助にまた走り出す。青チームの裏側に入り込んで、驚いてる風丸や豪炎寺、小暮、壁山に対して虎が目を輝かせた。

「あ!諧音さん!」

『虎、もらってくぞォ』

「え?!」

手を伸ばして奪ったしっぽを持ちながらそのまま走る。青チームの隙間を縫って、更に壁山のしっぽももらって、条助を撒いたところで喧騒から離れて、ビーッと聞こえたブザーに目的地へ向かう。

「赤色チームさんはここですー!」

ぶんぶんと手を振る音無に無事たどり着いたのは立向居と鬼道と俺で、しっぽを取られたらしい円堂と佐久間、不動は不服そうだ。

「ふむ」

黄色は生きているのが基山と染岡、青色は風丸と豪炎寺と主力と足の早い人間が残ってるイメージで、一度こちらを見た道也がまた口を開く。

「五分のインターバルを設け、もう一度同じ組み合わせで再開する」

道也の言葉にさっと自チーム同士で集まって作戦会議を始めて、円堂が大きく肩を落とした。

「取られたー!くやしい!!」

「俺も佐久間が庇ってくれなければ危なかった」

「諧音さん!ありがとうございました!」

『おー、気にすんなァ』

横に寄ってきて嬉しそうに笑う立向居の頭を撫でる。

少し悩むような間を置いて鬼道が口を開いた。

「思ったよりも各チームの方向性にばらつきがある…それに、俺達は常に追いながら追いかけられている。どちらのチームの動きも把握しなければならないということだが…」

難しく考えている鬼道に佐久間と円堂はまた共闘の話をしていて、立向居もそこに入る。一人話に混ざらなかった不動は近づいてくると俺の服をつまんだ。

「お前、綱波を引きつけてどうやって撒いたんだ」

俺の動きを見ていたらしい不動に笑って、少し屈む。耳元に口を寄せた。

『ナイショ』

「っ、」

ぶわりと赤くなって耳を押さえる不動に揶揄いがあるなぁと髪を払った。

『まだ何回戦もあんだ。最初にネタバラシしちまったら楽しくねぇだろォ?』

「……むかつく」

『なんとでも言え。まぁ俺のこと見てりゃわかんじゃねぇの?』

「……………」

ぐっと眉間に皺を寄せてわかりやすく好戦的な目を向けてくる不動に、四人は作戦会議が終わったのかよし!と円堂が大きな声を出す。

同時に響いた笛の音に二回戦が始まった。

また同じ組み合わせ。少し作戦を変えてきたのは青チームで風丸が主体に、常に一定の距離を保ちつつ包囲して相手を狩る方式にしたらしい。

ばらばらに襲ってくる黄色はさっきと同じ動きのまま。基山はまだ様子を見てる最中らしい。

俺達の赤チームは変わらず鬼道メインで、初っ端に土方と栗松、飛鷹に追いかけられて立向居がやられた。

『思ったよりはぇーなァ』

不動は常に俺が視界に入る場所にいて、じっと見てくるから仕方なく走り出す。

「うあああもう!早すぎだろー!」

条助に追い掛け回される円堂に近寄って、条助がぱっと目を輝かせたところで青チームへ走る。ついでに慌てたように釣られた栗松も拾って、風丸に向かっていく。

「壁山!小暮!綱波をとめろ!」

「はいっす!」

「うん!」

「豪炎寺と虎丸は栗松だ!」

「おう!」

「はい!」

二人に向かっていくから丁度いいと横を抜けて、俺の動きを見てなかった風丸のしっぽを取って、ついでに栗松と条助を止めてはしゃいでる小暮と、気の抜けてた豪炎寺からもしっぽを拝借して、また響いた音に方向転換して音無の元にたどり着いた。

「……………」

赤チームは円堂と俺だけ。青チームは二本しっぽのある風丸と逃げ切れたらしい虎だけ。黄色は基山と染岡と飛鷹だけがしっぽを残してる。

道也が息を吐いて、俺と不動を確認したあとに声を張る。

「次は追いかける相手を変える。黄色は青を、青は赤を、青は黄色を捕まえるように」

「ううう、頭がこんがらがる…」

「さっきの敵は今度は敵じゃなくて、うーん」

「むずかしいっす…」

「切り替えが大変だな」

「間違えちゃいそうです」

至るところから零される言葉を道也は無視してまた五分後と告げる。

再びのインターバルに不動は迷わず寄ってきて目を合わせた。

「盾と死角だな」

『ちゃんとわかってんじゃねぇか。よくできましたァ』

ぽんぽんと頭を撫でれば叩き落とされそうになるから手を引く。今のところきちんと気づいているのは不動だけで、訝しんでいるのは風丸と基山、鬼道と佐久間は一番近くにいるくせに難しく考えすぎていて混乱している。

「では再開する」

ビーッと響きわたったホイッスル。

すぐに相手の位置を確認するのは不動で、鬼道は眉根を寄せてる。

「鬼道!どうしたらいいんだ?」

「………少し、考えたい。皆、悪いが、自由に動いてくれ」

「がんばる!」

「わ!わかりました!」

頷いた円堂と立向居はきょろきょろと辺りを見渡して、近寄ってきてる豪炎寺と虎に気づいて走り出す。

「待て待てー!」

「待ちたくないーっ!」

鬼ごっこを楽しんでいるらしい虎に追いかけられるのは立向居と円堂で豪炎寺はとにかく捕まえるために走ってる。二人の向かう先に壁山がいて、息を吐いた。

『どこ向かってんだか』

走り出して円堂と立向居の視界に入るよう動いて、そうすれば虎が顔を上げた。

「諧音さんっ!ぜっーったい捕まえますよ!!」

『できんもんならどーぞォ?』

「さっき尻尾取られたの忘れてないんですからね!!」

『はぁ?虎も白菜も油断してんのがわりぃ』

「俺は白菜じゃないぞ」

意識が向いて、加速する二人が釣れる。挑発されやすいのは考えものだなと黄色チームに突っ込んでいって、そうすれば土方と染岡がにんまりと笑った。

「豪炎寺と虎丸じゃねぇか!」

「来い!捕まえんぞ!」

「あ!はいでやんす!!」

「え、ああ?」

「あれ…?あ、」

「あ、」

嬉々として向かっていった土方と染岡の横を抜けて、とりあえず何かに気づきかけてた基山のしっぽを取り、驚いて固まった飛鷹の分も回収する。

さてと足を止めて、力を込める。

「とった!」

『取れねーよ』

死角を狙って手を伸ばしてきた小暮を避けて走り出す。

「え?!なんで!?見えないところにいたのに!」

「くそ、壁山!ディフェス!!」

『おせぇ』

小さく機動力の高い小暮は、この鬼ごっこの真意はわかっていなくても正しく動いてる。風丸が焦って声を出してもすでに壁山を避けてる俺には意味がなくて、二人の間を突き抜けて走って、その先にいて固まってる鬼道に鼻を鳴らした。

『ディフェンダーの小暮ができて、ミッドフィルダーのてめぇができてねぇとか、天才ゲームメイカーの肩書はその程度かよ』

「!」

ビーッと響いたホイッスルに最初と同じように音無のところにたどり着いて、音無は目を輝かせた。

「来栖さんまたしっぽ取ってましたね!すごいです!」

『おー』

次々と各マネージャーのもとへたどりつく選手たち。

道也があたりを見渡す。

赤は円堂、立向居、不動、俺。青は風丸、小暮、壁山、それからハンデ分の一役、黄色は染岡、土方。栗松は佐久間が相打ちで奪ったらしい。

「ふむ…あと一周でいいか」

ボソリとこぼした道也はまた五分後とだけ残して、鬼道がまっすぐ俺のもとにやってくる。

「来栖、お前には何が見えているんだ?」

『はぁ?』

「小暮が出来ていて俺ができないことは…なんとなくわかった。だが俺はあそこまで小柄ではないし、足の速さも違う。同じことはできない…」

随分と悩みまくってるらしい鬼道に息を吐いて、視線を向けた先はあれ以来捕まっていない不動だ。

『俺と不動はてめーより背がたけぇわけだが小暮とおんなじことができる』

「!」

『てめぇが使えるのは佐久間と円堂と立向居だけじゃねぇ。フィールドにあるもん全部だ。よく見て考えろ』

「使える…」

不動を確認したあとに視線をじっとフィールドに視線を移して、誰もいないフィールドに眉根を寄せてる鬼道に佐久間と円堂、立向居が近寄ってくるから足を引いて離れる。

巻き込まれないように移動した先の不動は不機嫌そうに顔をしかめてた。

「お前、彼奴にはヒントやんのかよ」

『他人を使うのに慣れてねぇ坊っちゃんには難しいみてーだからな』

「………」

『不動なら自分で答え見つけられんのわかってたし。お前だって自分でわかったほうが楽しいだろォ?』

「、………まぁ、そうだな」

ふいっと顔が背けられて、唇を動かした後に離れていく。不思議な動きにまた道也が声を張って、仕方なく再度中に入った。

鬼道はひと気の増えたグラウンドを見て、それからあたりを見渡すように左右を見る。自分たちの赤ではない、青、黄色をまとった敵チームと浮いている1チームの存在。

「もしかして…」

口元を動かした鬼道はやっと理解できたんだろう。

佐久間と円堂と立向居に声をかけてなにか指示を出して、不動は俺を確認した後にすぐ視線を戻した。

ビーッと音がして、まっすぐこちらに向かってくるのは青色。風丸、それから虎と豪炎寺が走ってくるからとりあえず逃げることにした。

「くっ、これでは検証ができない…!」

鬼道の声に息を吐く。青色に向かっていく黄色の横を走り抜けて、ついでに飛鷹のしっぽを奪っていけば基山がやっぱりと零した。

確認をしようとしている鬼道に、追従する佐久間、円堂、立向居はとりあえずというように走って黄色チームに向かい、青色も混戦して、伸ばされた手を避ける。

「んんんもう!またかよー!」

『残念だったなァ』

小暮が地団駄を踏むから距離を開けて、予定通り響いた音に所定位置に帰った。

どのチームもさっきより圧倒的に残っている人間が多い。ほとんど理解している基山と、なんとなく掴んでる風丸、それから鬼道の指示が効いたんだろう。

「では、追いかける相手を最初のグループに戻す」

変わった力関係に呻きつつ意識を切り替えたらしい選手にまた容赦なくブザーが鳴らされる。

「佐久間!円堂!立向居!作戦通りに!」

「ああ!」
「おう!」
「はい!」

今度は青色を追いかける必要があるから、三人は走りながら黄色を避ける。鬼道に巻かれた飛鷹に、基山は鬼道の近くにいた佐久間を狙うように声を張った。

「飛鷹くん!右だ!」

「おう!」

『は、?』

地面を踏みしめて急激に方向転換した飛鷹が俺に向かってくる。基山もえ?!と目を丸くして、伸ばされた手に地面を蹴って退く。

『ちっ』

「来栖さん!覚悟!!」

『なんでだよ、やだわ』

追いかけてくる飛鷹に寄り道せずに青色の中に飛び込んで、風丸の後ろに入り、瞬間に向きを変える。

「なっ!」

「あ、はぁ?!」

『ナイス、風丸』

ついていけずに左に抜けてたたらを踏んだ飛鷹に右へ向かって走り距離を取って、またブザーが鳴るから戻った。

「…今回危なかったな」

『取られてねぇからセーフ』

見てたのか不動が鼻を鳴らす。道也の一旦休憩!の声に顔を上げて、配られたボトルに口をつけた。

水分を補給した円堂がぱっと顔を上げて笑う。

「来栖すごいな!まだ1回も取られてない!」

『ルールがわかってれば有利だからな』

「え?そうなのか?」

きょとんとした円堂に向こうを見る。道也は選手たちをじっと見ていたと思うと頷いて許可を出すから口を開いた。

『自チームでも敵でもねー奴使えって壁作れば死角に入れんし、動き出しのタイミングを惑わせれば避けんのも楽だろ』

「「!」」

「なるほど!だから三チーム混合の鬼ごっこなんだな!」

『そーゆーことォ。普通の試合んときでも死角つくんのは使えんし、キーパーやってんときはあんま使わねぇだろうけど、意識してやってみろ』

「わかった!よーし!もう取られないぞ!」

元気に意気込む円堂に、何やら考え込むようにポーズする数人。そのうちの一人が顔を上げてなぁと近寄ってきた。

「来栖、俺のことも何回か壁にしたと思うけど、いつから俺のいる位置把握してたんだ?」

『最初から』

「え?」

『司令塔兼任してん奴らの位置はずっと把握してる。青チームは風丸、黄色チームは基山を基点に動くからどこにいるかわかってればお前らの指示に従って動く奴らの行動はわかるだろ』

「なるほど…」

『逆に言えばその指示に従わねぇで動き回る奴らは読みにくい。さっき飛鷹が飛び込んできたときとかあれ基山の指示を誤認して突っ込んできたろ。危なかった』

「なるほど。たしかに来栖くん避けるとき驚いてたね」

「虎丸と綱波は?」

『彼奴らは俺が近かったら突っ込んでくるのわかってんから困らねぇ』

「「あー…」」

風丸と基山は心当たりがあるのか微妙な表情を浮かべて言葉を濁す。

足音を隠すことなく近寄ってきてた不動に目を向ければ俺が気づくのがわかってたのか、眉根を寄せたまま口を開いた。

「敵チームに塩送ってどうすんだよ」

『お前のチームメイトだろォが』

「お前のチームメイトでもあるんだけどな??」

『は?』

「こら!だからそういうのやめろって言ったろ!」

風丸に背中を叩かれて、忘れてた痛みが襲ってきて喉の奥から声が漏れる。少し屈んで、睨む。

『いてぇ』

「あ…、そうだったな。すまん。湿布は?」

『シャワー浴びたとき剥がした』

「シャワー…?」

『………今は貼ってねぇ』

「大丈夫なのか?」

『叩かれなきゃ平気』

「悪い」

『別にィ』

目を逸らせば向こう側でせいがくすくすと笑ってるから睨んでおく。わかりやすく優雅に手を振られて顔を背ければまた笑って、それを見ていた不動はやっぱり眉根を寄せて、円堂がそういえばと目を丸くした。

「来栖、あの人は友達?」

『あー、まぁそんな感じ』

「来栖はたくさん友達いるんだな!こっちに来たばかりんときも友達が迎えに来てたし!」

『…あ?』

「え?」

『それ、せいのことだろ?あそこに居る奴だ』

「「え??」」

『はぁ?』

何故か驚いたように声を上げたのは円堂だけじゃなく近くにいた風丸と基山もで、数人もぱちぱちと目を瞬いてる。

『髪上げてねぇだけだぞ』

「いやいやいや、あのときとだいぶ雰囲気違くないか?」

『一緒』

「スーツとか!」

『私服』

「空気感とか!」

『あんなんだったろ』

「ハニーとか言うような感じじゃなくないか??」

『言うぞ』

なんで詰められてるのかわからず眉間に皺が寄る。休憩中とはいえ騒いでるからか道也もせいも不思議そうな顔をして、察してか冬花が微笑んで隣のせいになにかを伝える。

大人しく聞いていたせいはこくりと頷いて立ち上がるとすたすたとこちらに寄ってきて、前髪をさっとかきあげて後ろに流すと俺の前に立ち、片膝を追って俺の手を取って唇を落とす。

見上げて、笑った。

「Would you like to dance?」

「「えええ!!」」

『うるさ、なんなんだよ、ったく』

せいは立ち上がって前髪をささっと下ろして、俺を見てくすくすと笑うと頬に唇を寄せた。

ジャケットを羽織り直すと俺の髪を梳いた。

「それじゃあ行ってくる」

『んー』

「天使の楽しそうな姿が見れてよかった。ありがとう、がんばってくるよ」

『はいはい。ヘマして泣いてたら笑ってやるから安心して行ってこいよ、ダーリン』

「そこは優しく迎え入れるところだろ?なんにも安心できないんだが?ハニー??」

まぁいいかともう一度唇を寄せて、手を離すと道也を見た。

「邪魔したな、道也さん。ありがとう、有意義な時間だった」

「そうか」

少し前から止まってた車に向かって歩き出す。開けられた扉にニ、三、話をしたと思えば顔を上げる。

「諧音」

『あ?』

「部屋はどこだ?」

『なんで?』

「服を搬入するために決まってるだろ?」

『はあ?日本に置くんだろ?あんな大量に今いらねーんだけど』

「あれはすべて日本に送る。こっちで着る分の話だ」

『…………はあ〜。三階の右から二個目。鍵はたぶんしまってねぇ』

「わかった。置いたら帰る」

『さっさといけ…』

せいが乗り込んだ車は静かに発車して、一緒に止まっていた車から運び出されていくラックや袋のかかった布、それから箱の量に目を背ける。

誰が整理すると思ってんだろうか。

ぱちぱちとまばたきをしていた円堂はぱっと笑った。

「すごいな!昨日は買い物したのか!?」

『俺は一切選んでねぇ』

「そうなのか?でもすげー量だけど…」

「毎日違う服着てもあまりそうだな…?」

風丸も目を瞬いて、鬼道と基山が訝しげな目を向けて、条助が何かに勘付いたのか頬を膨らませ、ハイライトを消す。

道也が最後の最後にやっていったな…と大きく息を吐いて顔を上げた。

「練習を再開する!」



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