イナイレ


日本を離れたらどれだけ負けようとリーグ戦が終わるまで帰国はできない。

国内でやりきらないといけないことを一つずつ片付けていって、そういえばと二つやりかけのことを思い出した。

片方は日付が決まっていたからそれで済ませることにして、もう一つは仕方なくこちらから連絡を入れる。思ったよりも早く来た返事に荷物を持って外に出た。

向かうのは全く降りたことのない住所で、指定された駅で降りてから目立つそれに近づく。二人が顔を上げた。

「来栖!ひさしぶりー」

「久しぶりだな、来栖」

『おー』

迎え入れられて生返事をする。源田と成神も俺と同じように小さめの鞄を持っていて、何かいうよりも早くこっち!と先導された。

『どこいくんだァ?』

「あっちのデパート」

「複合施設だからカフェやカラオケもあるし、騒いでも怒られないで済むんだ」

『へー』

わざわざ大きめの駅を指定したのはそういうことかとついていく。徒歩五分とせずたどり着いて入った建物は広い。人もそれなりにちるけどまだピークタイムじゃないのかまばらで、二人は慣れたようにまずはとカラオケに向かった。

受付を済ませて中に入る。大きな画面のテレビとデンモク。添えられてるマイクに目もくれずに座ると二人はさっと荷物を取り出した。

「対戦しよ!」

『おー』

「なにからやる?」

ゲーム機に電源を入れて持っているデータを見せてくる成神と、そわそわとして待っている源田。タイトルを一つ選んだところでノック音がして最初に選んでおいたドリンクが運ばれてきた。

「ごゆっくりどうぞー」

部屋を後にしたスタッフに二人はじゃあ!と早速データを起動させた。





成神と源田と連絡を取ったのはネオジャパン戦の開始前に声をかけられてたのを思い出したからだった。

別に約束していたわけじゃないから無視をしても良かっただろうけど、思い出したのに連絡しないのも微妙かと言葉を入れたらすぐ返事がきた。

練習がない日を指定して、時間を決める。

昼少し過ぎた時間から集まってカラオケでゲームして、二時間もゲームをしたところで退出予定時刻になったから店を出た。

辺りは変わらず人はまばらで、ねぇ!と成神が俺を見上げる。

「来栖はゲーセンも好きって聞いたけどまじ?!」

『音ゲーやるくれぇだけどォ?』

「じゃあ行こ!俺最近ウニはまってるんだ!!」

「時間は大丈夫か?」

『平気』

テンションの高い成神にフォローするように気にかけてくる源田。バランスの取れてる二人の性格にうまくできてるなと思いながら階数を変えてゲーセンに向かう。

初めてくるゲーセンではあったけれど、大抵どこも同じような音量設定と配置をしていて、音ゲーは同じ場所にひとくくりに置かれていてそのうちの一つに近寄った。

「来栖は音ゲーなら何でもやるのか?」

『手足を動かす系のやつなら』

「ウニは?」

『何回かやったけどあんま得意じゃねぇ』

「へぇ!来栖にも苦手なものがあるのか!」

『ダンスゲーのが得意』

「あ!それ鬼道さんから聞いた!ここダンエボ置いてあるし後でやりいこ!」

『時間があればなァ』

一人盛り上がる成神ににこにこと笑ってる源田は頷くだけだから息を吐いて硬貨を一つを入れる。携帯を翳してデータを読み取って、ログインボーナスを回収しながら隣の個体も作業が終わったらしいから口を開いた。

『曲は任せる』

「オッケー!」

画面に触れて、ジャンル分けされてる数十曲の中から一つを選んで決定を押した。マルチらしくかけられた募集枠に入って、難易度を選びきったところで画面が変わる。読み込まれて、それから音楽とともにマーカーが現れるからそれに合わせて手を動かしていく。

タップ、スライド、エアー、マーカーによって動きの違うそれに隣も同じ動きをしている気配がする。

大体二分ほどの曲を完走したところでリザルトが表示されて、右側から、すげぇ!と大きな声が響かせながら顔を出した。

「オールパーフェクトじゃん!!やば!!」

『知ってる曲ならそんなもんだろ』

「俺何回もやってるんだけど?!ねぇ!これ終わったら来栖ソロプレイして!手元見せて!!」

『はぁ?なんでんな面倒なことしなきゃなんねぇんだァ?』

「それなら手元録画させてもらえばいいんじゃないか?」

「録画もさせて!!」

『図々しさの塊かよ。つーかいいから早く次選べ』

「だってだってー!」

『おい、源田、さっさと選べ』

「俺が?わかった」

ごねてる成神に任せていたら終わらないのは源田もわかってるんだろう。選曲のため自分の画面に視線を戻した源田に成神は変わらず録画!ソロプレイ!と大騒ぎで、源田の手が止まってマルチのお知らせがきたから成神の額をはたいた。

『どっちにしろこれ終わらせねぇとなんもできねーだろ。さっさとやれ』

「う、わかったよー…」

額を抑えながら体の向きを直した成神に息を吐いてさっさと難易度を指定して送信する。先ほどと同じように曲が始まってマーカーを目で追って、これを二回繰り返したところでプレイ終了の画面が表示された。

「くーるーすー!!一生のお願い!!」

『んなくだらねぇことに一生を使うなっつーのォ』

息を吐いて周りを見る。順番待ちをしている人間はいなそうで、さっきまで源田がいた一番端の機体に場所を移して情報を読み取った。

『一回だけだからな』

「ありがと!来栖!!」

『曲はテメェが選べ』

「うん!!」

一歩右にずれて選曲する成神と上に携帯を設置する源田を見ながら待つ。これ!と成神が選んだのと源田が携帯の設置を終えるのは同じタイミングでそのままゲームをスタートする。

視線は無視して流れ始めた音楽にあわせて動くマーカーに触れる。二分ほど流れた曲が止まって画面上にはスコアが表示されたから顔を上げた。

「え、またオールパーフェクトじゃん。人間やめてるの??」

『ぶちのめされてぇのか』

「じょーだんだよ!すごいな来栖!!そしたら次こっちの曲おねしゃす!!」

『ちっ』

是非を問わず開始されたゲームに仕方なく向き合って、さらにもう一曲分消化したところでようやくゲームが終わった。

携帯を取り外した源田とキラキラした目で俺を見上げる成神。二つほど離れた機体でゲームを始めてる人間やちらほら増えてきている人気に足を動かす。

『飽きたから移ろうぜ』

「じゃああっちで舞やろ!」

『ん』

引っ張られるままに違うゲーム機に向かう。さっきのがピアノのようなセンサーに触れゲーム。今度は壁面に円状等間隔につけられたセンサーを触れるタイプで、さっきよりは体が動かせるゲームだった。

「源田はこっちのが好きなんだ!」

「鍵盤タイプの細かい作業は苦手でな」

二人の会話を他所にログインして、こっちでもボーナスを受け取りながら進んでく。一個前のゲームのときと同じく曲は二人に選ばせて、マルチプレイだから1クレジットで四曲。終わったところでばっと二人の視線がこちらを向いた。

「来栖音ゲーうますぎない?!」

「苦手な音ゲーあるのか??」

『音ゲーならわりとなんでもいける』

「「え、やばいな」」

二人して似たようなことしか言わない。次はこっちだと引っ張られて次々とゲームを変えて、ドラムを叩き、ギターを引き、シンセをいじって、カラフルなボタンを叩き、12マス分の正方形パネルが並ぶゲームをしたところで成神が頭を抱えた。

「なんで失敗しないの!!?」

『慣れ』

「ほんとにすごいなぁ。絶対音感ってやつか?」

『さぁなァ。調べたこともねぇわ』

ものによってはオールパーフェクトではないけど、それでもコンボを途切れさせないのが成神には信じられなかったらしい。

二人の反応に視線を逸らして、あれと指した。

『俺休憩するからお前ら二人でやれば?』

「あ!そうだな!踊ろうぜ!源田!」

「え、俺あれは苦手、」

最後まで言えずに腕を引っ張られていく源田を見送る。床のパネルを踏むタイプの大きめの機体に100円を入れたのを見届けてから足を動かす。施設内にある自販機に向かったところで携帯が揺れてるのに気づいて視線を落とした。

室内だと通話は難しいから、一歩外に出て耳に当てる。

『もしもし』

「あ!諧音さん!いまお忙しいですか?!」

『別に。なんだァ?』

「諧音さんの好きな色教えてください!」

『はぁ?色ォ??』

何言ってんだと眉根を寄せながら息を吐く。

『特にねぇ』

「え!困ります!!なんか一つ二つ言ってください!!」

『なにに困んだよ』

「諧音さん~っ!!」

『あー…黄色と青?』

「黄色と青ですね!!わかりました!!!」

『おー、つか、なんの質問だよ』

「それは秘密です!!」

『そーかよォ』

「お時間ありがとうございました!お出かけ中ですよね!楽しんできてくださいね!!」

『ん』

切れた通話に首を傾げる。結局のところ虎がなにをするために色を確認してきたのかはわからなかったけど、そのうちわかるだろう。

二分ほどの通話時間を確認して当初の目的通りに自販機で飲み物を選んで戻る。ちょうど踊り終わったらしい二人の、特に源田がもうやらないと肩で息をしていて、持っていたものを差し出せば成神がぱっと顔を上げた。

「いいの?!」

『好きなやつ選べ』

「コーラ!」

『源田は』

「お、おちゃ…」

二つ消えて、残ったペットボトルを開けて口をつける。二人も同じようにキャップを開けて勢い良く飲むと口を離した。

「あー!おいしい!!」

「いきかえる…助かった、ありがとう、来栖」

『ついでだ、気にすんな』

キャップを閉めた俺と疲れきってる源田が場所を交代して、成神は連続でそのまま同じゲームを始める。

曲にあわせて流れるマーカーの指示に従い足元のパネルを踏んでいく。

源田が目を瞬いて、それから携帯を構えた。

『何勝手に撮ってんだよ』

「うまいなぁと思って。本当に来栖はゲームが得意なんだな」

『別に』

「来栖なんで源田が動画撮ってるの気づいたんだ??」

『見えたから』

たんっと最後のマーカーを踏んで、足をそこで止める。最後のホールドも完了したところで画面上にリザルトが表示された。

「ここまで完璧だとできない音ゲー見つけたくなるな!」

『初めてやるもんなら最初の二、三回は俺もできねぇよ』

「新しいゲームあったっけ?」

『最近はねぇな』

「じゃあ敵無しかぁー!」

成神が悔しそうに頭を掻く。二回ほど髪をかき混ぜると、ま、いっかと笑った。

「もっと遊ぼー!」

『さっきまで俺を負かそうとしてたんじゃねぇのかよ』

「負かすんじゃなくて新しいゲーム攻略する来栖が見たかっただけ!ないならなんでもゲームできるってことだろ?もっといろいろやろーぜ!」

「今度新しいゲームが出たら一番にやるしかないな。FFIが終わる頃なら比較的時間を……あ、そういえばだいぶ今日時間を貰ってるが大丈夫か?」

けろっと笑ってる成神となごやかに頷く源田。どちらもあまりに嫌味のない表情で笑いかけてくるから、いつの間にか跳ねてた前髪を抑えながら目を逸らした。

『帰らねぇよ、ダンエボしてねぇし』

「そうだった!しにいこ!」

「え、またダンスゲームか」

「源田のロボットダンス見たーい!」

「俺のあれはわざとロボットダンスしてる訳じゃないぞ!!」

賑やかな二人に息を吐いて手を下ろす。

『それ終わったら源田の好きなゲームなァ。つか、ここ今日まだやってねぇゲームって置いてあんの?』

「リフレクとかがあっちにあるぞ」

『へー』

「源田ー!来栖ー!空いてるからはやくはやく!!」

「ああ!」

『おー』

一足先に駆けていた成神が跳ねながら手を振る。二人で追いついて、とりあえずと成神が観戦、俺と源田でプレイしていればその後ろ姿を成神が動画撮影していた。

『お前らすぐ撮るけどそれどうすんの?』

「参考にするに決まってるじゃん!」

「来栖はあまりプレイ動画をみたりしないのか?」

『見ねぇなァ』

「これが強者の余裕…!」

次は俺!と源田と成神が交代しゲームが始まる。案の定源田が録画してるのを視界に入れつつゲームを終わらせて、そのまま次はとあっちこっち移動しながら店内のゲームを制覇した。

「来栖まじやばい!ほんとどれもハイレじゃん!」

「お宝みたいなデータだな!」

『暇人だからやりこんでんだよ』

「「日本代表が暇人??」」

こてんと首を傾げる二人に目を逸らす。仮にもネオジャパとして日本代表を狙ってたこいつらの前で言うことじゃなかったなと言葉を選ぶ。

『飯と睡眠よりゲーム派なんだよ』

「え、それは健康によくないぞ?」

「あ!それ聞いたことある!鬼道さんが常に来栖はゲームしてるしイヤホンつけてるって言ってた!」

『そーいうことォ』

鬼道が俺のことをなんて言ってるのかは知らないけどちょうどいいからのっかって頷いとく。

ゲームも一通り終わらせて区切りがついたから、休憩がてら水分補給に近くの和風カフェに入る。成神はわらびもちと温かい茶、源田は抹茶ベースのシェイクとケーキを頼んで、三人分揃ったところで口に運んだ。

「うんまぁ!」

わらびもちを一口頬張って目を輝かせる成神と、ケーキに頬を緩ませる源田。俺も炭酸を飲み込んで、そうすれば成神が今度はいつ遊ぶなんてこちらを見た。

『日本にいるときならいつでもいい』

「ん、それならFFI終わるまでお預けだな」

『ライオコット島来んなら夜とか行けんじゃね』

「学校あるから無理だよ~」

んんっとむずかる成神にもう一回ストローに口をつけて、不意に視界に入ったそれに眉根を寄せた。

どうにかして気づかれないようにできないかと考えたところで向こうが不意に顔を上げて、目を輝かせる。

「来栖さんだ!」

「なに?来栖?」

明るい声にそのまま鋭い視線もついてきて息を吐く。当然その声に一緒に座ってる二人も顔を上げて目を瞬いて、成神が勢い良く立ち上がった。

「鬼道さん!」
「鬼道!」

「え、源田と成神?なんで来栖と一緒にいるんだ?」

「ゲームしてたんです!」

「ゲーム…?」

「来栖さん!来栖さん!お隣いいですか!」

『座ってから聞くなよ。断らせる気皆無じゃねぇか』

「来栖!春奈に近づくな!」

『近づかれてんの俺なんだけどォ』

呆れてグラスをとり、刺さってるストローに口をつける。さっぱりとした柑橘の炭酸が抜けてく感覚で頭の痛みが少し薄れて、店員が気を利かせてくっつけてくれた机に鬼道と音無の同席が確定した。

「来栖さんが飲んでるの期間限定のやつですよね!おいしいですか??」

『ああ』

「甘めですか?それともさっぱり??」

『わりかしさっぱり。下にジャムっぽいシロップが入っててそれが少し甘い』

「そうなんですね!ありがとうございます!お兄ちゃん!私これにする!」

「いいのか?春奈、甘いのが飲みたいって言ってただろう?」

「うん!来栖さんの見てたら美味しそうだなって!これも甘いみたいだし!」 

「そうか」

こくりと頷いた鬼道は店員に合図をしてほうじ茶のラテと音無の分をまとめて注文する。それを見守ってた源田と成神は店員が離れていったのを確認すると口を開いた。

「鬼道さんは何してたんですかー?」

「春奈と買い出しだな」

「あ、ライオコット島の準備か?」

「ああ、そのとおり。不足しているものを少しだけ買い足しに来た」

「そーだったんですね!」

「来栖さんは支度終わりましたか?」

『大体』

「え?!もう三日後には出発ですよ?!」

飛んできた質問に大雑把に返したのがよくなかったのか、音無は目を丸くして俺に詰め寄り、鬼道の眉尻が上がった。

「私、お手伝いしにいきます!!」

『流石に人に手伝われるほど終わってないわけじゃねぇから気にすんな』

「そんなこと言って!もし忘れものでもあったら大変ですよ!遠慮しないでください!!」

『ほんと今はいい。今後人手が必要になったらそんとき一番に頼むわァ』

「え!?本当ですか!?嬉しいです!はい!お待ちしてますね!!」

一体どのタイミングで音無にこんなに懐かれるような場面があったんだろうか。

断りつつ波風立てないよう気にかけて返した言葉に音無はにっこりと笑って喜び、鬼道は殺気を放って、それに源田は苦笑いを零すと成神は笑った。

「春奈!来栖に近づくなって言ってるだろう!!」

「来栖大変だなぁ!」

『お前らの司令塔だろォ。笑ってねぇでどうにかしろや』

「店内で騒ぐのは人の迷惑にもなるしな…鬼道、声のボリューム」

「ぐぅっ」

歯を噛み締めて言葉を押さえ込む鬼道のぷるぷるとふるえてる力のこもってるこぶしに飛んでこなくて良かったなぁと目を逸らす。

ちょうどよく運ばれてきた二つのグラスに音無の意識はそちらに移って、鬼道も仕方なさそうにグラスに触れるとストローを喰んだ。

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