弱ペダ


[休みの日と矢島さん]


今日は学校も部活も珍しく休みで、暇を持て余すのもなんだからちょっと賑やかな場所にでも行こうかなとロードレーサーじゃなく電車に乗った。

かたんかたんと揺られて気分で降りてまた違う色の電車に乗って、ついたのは池袋で、よっぽど物珍しいのか染めたばっかの俺の黄緑の頭は注目の的だ。

ゲーセンを覗いて、一目惚れしたやつにお金を入れては二、三回挑戦してゲットしてく。

フィギュア13個目あたりでお店側からの視線が厳しくなってきてたから切り上げてサンドイッチのチェーン店にはいった。

氷抜きの甘いジュースとバジルと塩のついたポテト。ごまのついたバンズの野菜がたっぷりなサンドイッチを頬張りきってフィギュアを眺める。

無駄に知らないアニメものばっかとっちゃったかなぁ

ちょっと見ながらジュースを飲んでたらずずっと音が鳴って立ち上がった。





フィギュアは実家に送ることにして、今はひやかしを中心に散策する。

服屋だとかアクセサリー、ドラックストアで気に入った色の染め粉を買ってまたゲーセンにきた。

「うあああっ」

「くっ」

声変わり前の男子の悲痛な叫びと詰まる声。

てっきりバスケゲームとかシューティングてきなもので騒いでるのかと思えばユーフォーキャッチャーのフィギュアコーナーで、気にせずお菓子の方に回った。

『むむむ、なぜにパワーバーさまのキャラメルがないのだァァァ!』

うまゆ棒的にパックセットを見つけて、バナナ、チョコ、チーズ、プレーン、イチゴまで確認してキャラメルがないことに絶望した。

とりあえずイチゴとチョコとプレーンを一回ずつでとって欲しがったら誰かにあげようと思う。

順当に眺めていって騒ぎに近づいていく頃にはそろそろ両手いっぱいの景品が邪魔くさかった。

「おのだ…」

「取れないよ今泉くんっ!!」

うわぁぁと騒いでるのは高校生くらいの子みたいで、もういくら使ったのかとても憔悴してる。

『おうう?しんきくさいねー。ことりちゃんほしぃーのん?』

「ひゃ!ふ、はいい!」

眼鏡の子がびっくりするくらい肩を跳ねあげて振り返った。

『これ今いくら使った?』

「え、えっと二人合わせて…にせんくらい、です、はい」

頭を抱えてる隣のイケメソくんに笑ってフィギュアを見る。

沼ってるなぁー

きょろきょろと見渡してこっちを窺ってた店員さんを呼びつける。

「うえっ?!!」

最初っからにしてもらって五百円入れた。

『ひーめひーめひめー』

一回目でずらして、二回目もずらして、三回目で落ちる。

「「おおお?!」」

『てーいんさんもーいっこおねします』

今度は二回でとってきっかり五百円でおさめた。

『名も無き青年、受け取るが良いぞ!』

「え、いいんですか?!」

「で、でも知らない人からもらうなんて」

目を丸くした眼鏡君と困り眉のイケメソくんにふむ、と悩んだ素振りをみせてからイケメソくんの手についた日焼けが目をつけた。

手首から第二関節だけ白いグローブの焼け跡。

『もしやきみたちちゃりのりだな!』

「え?」

「そ、そうですけど、チャリ乗り…?」

『ふむふむ!そんならもーまんたいだね!俺もちゃりのり!』

「そうなんですか!」

『そそ、だからこれあげちゃう!』

「い、意味がわからない…」

『いーからいーから、俺これもう違うとこでとってきてるしみっつもいんないもーん』

ううーんと悩むような表情。

後ひと押しだろうなんて目算したけど鳴り始めた携帯にじれったくなって二人の手に押し付けて携帯を出した。

『もっしー』

「む、なんだ、背景がうるさいがゲームセンターにいるのか?矢島さん」

『そーそー、だから五分後りていくよろしくね!』

「オイッ」

ぶちっと切ってポケットに突っ込めば二人は呆けた顔のまま俺を見てた。

『おっす!俺、矢島鈴彦!よろしくっ』

「え、え?今泉です??」

「お、おお小野田坂道と申しますっ」

『よーし、これで俺達は友達だ!おたくん、いまいずくん!』

「おたくん?」

「い、いまいずくん??」

『ふむっ!これにて失礼するのだよっ』

脱兎のごとくかけだして電車に飛び乗った。




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