ミルコには日頃のトレーニングや身体の使い方を見てもらって、いくつか新しいことを教えてもらって、それから、最終日もパトロールだった。

このニ日間でずっといっしょに回っていたからか市民から声援を受けつつ宙を駆け、時折制圧したりしていれば時間はどんどん過ぎていった。

頼まれて買ったものはすべてスーツケースに、渡されていたヒーロースーツ代わりの服もしまって、手持ち鞄には最低限のものだけ入れておく。

三日前の夜にも立った場所で、今度はちゃんとミルコが向かいに立ってた。

「あー！ほんともーちょい時間ほしかったなぁ！」

『これ以上俺を酷使してどうする気だったんですか？？』

「ああん？そりゃもちろんがっちがちの正義の味方にしてやんだよ！」

『遠慮しておきます』

「やっぱりか！！」

わははと大きな口を開けて笑うミルコに息を吐く。なんだかんだこの三日間楽しかったし、この人は口が多少悪いけど、裏表がなくてさっぱりした性格なだけでとてもいい人だった。

『本当に、今回お世話になってよかったと思いました』

「延長するか？！」

『遠慮しておきます』

「だよな！！」

ミルコはにかっと笑うと右手を上げて、俺の頭の上に乗せるなり勢い良く左右に動かす。

『う、え、っ？！』

「本当によく頑張った！」

大きな声に目を見張って、そうすればミルコは手を止めると今度は俺の肩をバシバシと叩く。

「初日からしっかりアタシについてきた上にパトロールもきっちりしてたし、本当にお前はよくできたガキだ！」

『ぁ、ありがと、ございます…』

「飯もうめぇし部屋もきれいにしてってくれんし！マジ優秀！ありがとうな！」

『い、いえ、お邪魔してる身分なんで…』

「ほんっとうちの子にしてやりてぇくらいだ！お前ならどこ行ってもうまく行くぜ！」

『あ、はい…というか肩いたいんですけど……』

「おう！」

手が背中を思いっきり叩いて、ふらつく。

「元気でな、出留！イレイザーに愛想尽いたらいつでも来な！アタシが面倒みてやるからよぉ！」

ミルコの言葉に固まって、それから思わず笑う。出てきた涙を拭ってから頷いた。

『そのときは…今度は、もっとがっつりよろしくお願いしますね』

「任せとけ！」

明るすぎるミルコの笑顔にもう一度頭を深く下げて、新幹線に乗り込む。

手が振られるから振り返して、扉が閉まり発車したところでようやく歩き出す。車内を進み、指定された席に腰を下ろして、息を吐きながら窓枠に肘をついた。

『……ヒーローも、悪くないかも』

ガラでもない言葉が出た気がする。緩んだ口元から溢れたそれを誰が聞いてるわけでないのに咳払いして誤魔化し、鞄から持ってきていたそれを取り出す。

夏頃に大量にもらったそれは、これが最後の一枚だ。

『………うまく、いきますように』

願いを込めてから封を切る。取り出したそれを目元につけて、温みを帯びてきたそれに意識が掠れていく。

ミルコはいい人だったけど、知らない土地でずっと活動していたことで自分が思っていたよりも疲れていたのかもしれない。

息を吐いて、眠ろうと思ったところで、すんなりと記憶が途切れた。




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