ヒロアカ 第一部



着いたそこはすでに大型のバスが乗り入れていたり個別送迎の車や、見送り最中の親子、友人と人がごった返してて騒がしかった。

大抵は学校単位での移動なのか集団が多く、一人でいる俺に視線を送って、それから目を丸くしてヒソヒソとするからあからさまなその態度に息を吐いて持ってきていたイヤホンをつける。

目についた階段に座り込んで携帯をいじる。日課の母への連絡、出久にはおはようの連絡、勝己へは朝練に付き合ってくれたお礼。まだ眠ってるだろう弔にもいってきますと連絡して、黒霧さんにも同じく挨拶とお礼。そういえばとヒミコちゃんにもデート楽しんでねとメッセージを送信した。

ぶぶっと揺れた携帯に当たり前だけれどすでに起きてる出久と勝己、黒霧さんからの返事で、三人とも最後の一文は応援してるで締められてた。

三人分確認しているところで携帯がまた揺れて、ヒミコちゃんから楽しみです!出留くんとも会えたらいいですね!と謎の連絡が来てて首を傾げた。デート中の二人に会ったところで俺は何をしたらいいんだろうか。

連絡も終わってしまって頬杖をついていればイヤホンが曲を止め、着信音が流れる。

相手を確認して、忘れてた不満が湧き上がってきたから首に指をかけながらイヤホンのスイッチをいれた。

『はい』

「…ついたが、渡すものがある。どこにいる」

『団体受付の近くの階段です。右側に大きな誘導看板があります』

「わかった。今向かう」

『お待ちしてます』

通話を切って仕方なくイヤホンも外し立ち上がる。

いつの間にか人が更に増えていてちょっとした祭りのような状態のここに息を吐いて、首をひっかく。

ぼーっとしていればゆらりと黒色の影が見えて、目が合うなり先生は一瞬視線を迷わせてから上げた。

「……緑谷、」

『朝は外出許可をだしてくださりありがとうございました。本日もよろしくお願いします』

「…それはいいんだが……体調は問題ないのか」

『…―まだ、その話をする気ですか』

がりっと爪が首を強くひっかけて、向かいを見据える。

「…当たり前だろう。その不調は、」

『俺の体調は俺が一番よくわかってますし、俺がやるって言ってんですからそれでいいでしょう』

「……緑谷。お前は自分が思っている以上に、」

『――なにがしたいんですか』

思ったよりも低い声が出た。

先生は驚いたように目を丸くして言葉を止める。

『やれるなら最初からやれとか、出し惜しみすんなとか、限界見つけろとか、頑張れって言うから頑張ってんのに急に頑張んなとか、先生は俺をどうしたいんです』

「………」

『俺は、今、頑張れるって、言ってんだわ。水指すような言葉は要らねぇんだよ』

「…そうか。…すまなかった」

『……ちっ』

目を逸らして首をかく。妙な空気になってしまって、逸した視線の先、周りの学生たちは俺達の異様な空気にか距離を取っていて自然と舌打ちが溢れた。

手を下ろして視線を戻す。

『それで、荷物ってなんですか』

「アイテムやコスチュームだ」

『ああ、なるほど。たしかに必要ですね』

持っているのはグローブとブーツだけだし、服も私服しかない。

言われるまで気づかないなんて本当に最近の自分は大概余裕がない。

向かいの先生から受け取ろうとして眉根を寄せる。何も持ってないのを不審に思ったのを感じてか先生が方向を変えた。

「あちらにある」

『はぁ、そうですか』

人に流されないように進む。先生の後頭部を眺めながら歩いていれば進むスピードが緩んで、ついたのかと先を見れば弾かれたように上がった紫色と桃色と目があって、飛び出してきた。

「出留っ!!」

『は、人使??』

「緑谷さんっ!」

『発目さん???』

飛びついてきた発目さんを支え、人使が肩に手を置いて目を輝かせる。

「仮免受けるなんて聞いてない!!」

『…あれ?言ってなかったっけ?』

「ない!すごいすごい!!」

『受けるだけだからな??』

「受験資格を手に入れているだけで素晴らしいですよ!」

『金払えば誰でも受講できんからね??』

「相変わらず冷静ねぇ」

興奮してるらしい二人を落ち着かせるように返事をして、そこにいてにこにこと見守ってた担任に目を向ける。

『なんでここに?』

「あら、自分のクラスの生徒が受講するなら応援しに来るに決まってるでしょう?」

「ミッドナイト先生のお車で送迎していただいたんです!」

「出留の活躍が楽しみだ!」

『うんん、とりあえず落ち着いて…』

二人はすごいを連呼しながらとりあえず自力で立った。

「緑谷さんなら絶対合格です!」

「主席合格だ!」

『それはないよ』

テンションの高い二人に周りなら視線が集まる。笑っていれば人使にばしりと背を叩かれた。

「出留、がんばれ」

『………―ん』

人使の目を見なければよかった。

感情が混ざった色に人使のほうがここに立ちたかったに決まってると思いだす。それなのに俺の返事はいかがなものなのか。

ぐっとかかった初めて感じる重みに急に怖くなって、視線を上げる。

先生はじっと俺を見ていて何も言わない。担任も目を細めて、目の前に袋が差し出された。

「緑谷さんっ」

袋の中身はおそらくサポートアイテム一式だ。苦笑いで受け取って、そうすればもう一回ばしりと背中が叩かれた。

「応援してる、出留」

『…うん、ありがとう』

複雑な表情で背を押されて、なんと言ったら良いかわからないから無難な言葉を返して、更に差し出された袋に眉根を寄せる。

「正式なヒーロースーツがないからな。ジャージだと目立ちすぎる。俺と同じようなつなぎだがサイズは調整してある」

『……ありがとうございます』

「しっかりとやってこい」

『…はい』

さっきまであった不満は不安に変わって、代わりに苛立ちが生まれる。

両手が塞がってるせいで自由にストレスの発散もできないことに思わず唇を噛んで、遠くからあれ?と声が聞こえた。

「出留か?」

俺を名前で呼ぶ人間は限られてる。つい半年くらい前まではよく聞いていた声に顔を上げて、声の主を捉えたところでまた息を吐いた。

「人の顔見てため息とかひどくね?」

『お前かよって思っただけ』

「俺でしたー。えーっと半年ぶり?いやぁ、元気?」

『見てのとおり』

「ははっ!なになにくっそ不機嫌じゃん。おもしれ。どったん?勝己と緑谷は?」

『ちっ』

「ええ?それで不機嫌とかクッソ笑える〜!」

『うるせぇわ』

「ほらほら、拗ねんなって〜。俺が勝己と緑谷の代わりに甘えたろか??」

『あ?』

「こっわ」

けらけら笑って背が叩かれる。さっき人使に叩かれたところと同じだったから痛みを感じて、もう一回舌打ちをかませば額を弾かれた。

「だから顔こえぇって。つか出留仮免試験受けんの?やっば!」

『そっちもだろ?』

「俺は後学のために来てんだけ。一年で仮免なんて進学校くらいっしょ。…見学とかクソだるいと思ってたけど出留いんならむっちゃ応援すんわ」

『要らん』

「照れんなって」

『照れとらんわ』

「勝己化してんぞ〜」

えいえいと頬を突き始めたから足を上げて、思いっきり振り下ろす。狙ったとおり踏みつけられた右足に悶絶して屈むから鼻を鳴らした。

『モブが』

「勝己と同じこと言うのやめ〜?ほんと似た者同士だなぁ」

けらけら笑って痛みで滲んだ涙を拭ったからため息をこぼしながら顔を逸らす。

視線の先には驚いてる人使と発目さん、担任、真顔の先生がいて予想通り先生が一番に口を開いた。

「緑谷、その子は?」

『…中学の同級生です』

「あ!勝己の誘拐ん時に会見出てた先生でしょ!ミッドナイトもいる!すげぇ!出留の付き添い??」

『先生は出久と勝己の先生だからそっちの引率。ここにいんのは必要なもん渡すため。ミッドナイトは送迎だって』

「あら、私は付き添いよ?」

「…、そうしたら、こっちの子たちは出留の応援団か!えーと二人とも体育祭出てたよな!」

「はい!発目です!ベイビーの活躍を確認しがてら緑谷さんの応援しにきました!」

「そそ!発目さん!よろしく!あと、」

『心操人使な』

「あ、そうそう!心操くん!出留と同じクラスっしょ?一緒に応援しようぜ!」

「あ、ああ、よろしく…」

勢いに負かされてか表情が引き攣ってる人使に息を吐いて、へらへら笑う顔に声をかける。

『見学なら引率そっちもいるんだろ。あんまり自由行動してんと単位に響くぞ』

「えー?なに心配してくれてんの?ありがと!でも大丈夫!行き来がまとまってなだけで後は自由行動だから!」

にっと笑いながら親指を立てた。

「ばっちり応援すんぜ!出留!……あ、でも無理しねぇ程度な?ヤバそうだったらドクターストップかけんぞ?」

『……はあ。この間なったばっかだから平気』

「え、まじかよ。大丈夫か?」

『なんもない。…つかさっさと行け。無駄な時間過ごすな』

「無駄じゃないよ〜」

へらへら笑ってた口元を横に結んで、伸びてきた手が俺の両頬に置かれる。何か言うよりも早く左右に引っ張った。

『あ゛?』

「出留、顔こえーよ。……ほれ、リラックスリラックス。怖くても面白くなくても笑っときゃ楽しくなって来んし、お前に白羽の矢が立つのなんて今更っしょ」

『……………』

「選ばれちまったもんはいくら不機嫌になっても覆せねぇし、ここで落ちたほうがお前の負担になんよ。勝己とデクも同じ試験受けてんだろ?なら揃って資格取ってこいや。俺は、お前ならできると思ってんし、応援してる」

ぱっと手が離れて一旦視線を落とす。腕の中のヒーロースーツとサポートアイテム。いつの間にか用意されていたそれらは整備したくれた人間がいて、更には出たくても出られない人間がいる中で俺はここにいる。

息を大きく吐いて口元を緩めた。

『…ありがと』

「ん、その調子その調子!イケメンだぜ!今度遊び行ったときにアイス奢ってくれたらちゃらな!俺ぜってぇトリプル!…あ、あと勉強教えて!」

『…はあ。教え殺したるわ』

「よっしゃ!!楽しみにしてる!勝己にも声かけといてくれ!!」

『ん』

「それじゃ出留!いってらっ!」

『はいはい、いってきます』

べしりとまた背を叩かれて痛みに眉根を寄せたものの、首を横に振る。

それから放置してしまってた四人を見据えた。

『いってきます』

「ああ、行ってこい」

「がんばって!いってらっしゃい!」

「はい!いってらっしゃい!」

「気をつけてな。いってらっしゃい」

三人と一人に見送られて背を向けて歩き出した。





「はあ」

大きなため息が響く。音のもとは先程までずっと笑顔で緑谷と話していた青年で、今は心操も驚くほどの無表情になっていた。

青年はがりがりとセットしてあるはずの頭を乱すように掻くと視線を逸らして、もう一度息を吐き笑顔を繕うなりこちらを見る。

「じゃ!俺あっちいくんで!いやぁ急に話しかけてすんませんっした!」

「話しかけることに関して制限はないが…」

「貴方!緑谷くんと距離が近いのね!」

「俺が?そんなまさか。出留の世界は勝己と緑谷でできてますよ!」

「そんなことはないだろう。君のおかげで緑谷がモチベーションを戻した」

「あんなんただの気休めじゃないっすか。ちっと整えただけですぐ崩れちゃうと思うし……。……あの、」

眉根を寄せた青年は一瞬左右の発目と心操を見てから唇を結び、また笑う。

「なんもないっす。あ、てか雄英って全寮制なりましたよね?出留と勝己って外出許可取れるんすか?」

「門限はあるけど許可は降りるわよ!」

「まじっすか!楽しみにしてますっ!」

へらっと笑って、おーいの声に返事をするとそんじゃと背を向けて走っていってしまう。

きょとんとしてる発目と表情をゆがめてる心操に息を吐いて、時間を確認すればそろそろ入場の時間だった。

「二人とも、俺はA組を見に行く。…頼んだぞ」

「はい!機材の持ち込みはオッケーでしたのでベイビーでばっちり撮影いたしますね!」

「…………」

発目がすぐに頷いたのに対して心操は表情を崩さず唇を結っている。そういう柄ではないけれど、右手を上げて肩に置いた。

「昔の知り合いのことは俺たちになにもわからん。気になるなら緑谷のことは緑谷に聞かないと始まらない」

「…はい」

「心操さんは緑谷さんの相棒ですから大丈夫ですよ!帰りに質問攻めにしましょう!」

「……そうだな」

「聞きたいことがいっぱいね!」

笑った香山さんは二人の背を押して、一瞬俺を確認すると手を振り観覧席へと向かった。

あちらはあの人に任せておけば大丈夫のはずだ。



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