DC 原作沿い


明美ちゃんを病院に送っただけのはずなのに、気づいたら俺が病床にいて、理由のわからない痛みと苦しみに苛まれてた。

アイくんかベルねぇさんが毎日一緒にいてくれて、食事も共にしてくれたけど、それでもなんだか寂しくて、独りと自覚する時間が嫌だからすぐに眠った。

そんな俺にキャンねぇとコルにぃ、カルにぃくんもお見舞いに来てくれて、たくさんの食べ物や綺麗なものを置いていってくれた。

用意してくれたものは二口ずつ食して、後は残してしまわないようにアイくんが一緒に食べてくれた。

毎日のように入れ替わりで来てくれるみんなは俺がアイくんとベルねぇさんを捕まえてしまってる分仕事が割り振られて大変なはずなのに俺を怒らずに心配してくれた。

ジンくんとウォくんはもっと、こちらに来る暇もないくらいあちこちを飛び回っているそうで、ベルねぇさんが元気になったら会いにいけばいいわと俺を撫でてくれた。

早くよくならないといけない。そう思うのに体調はなんでか全然回復しなくて、焦りばかりが勝ってしまう。

たまに風邪を引くことはあったけど、すぐ治ったのに。眠っても回復しないなんて何が悪いのかもわからず気持ちばかりが落ちていく。

ベッドの上から降りれないくらい気分が塞ぎ込んだ頃、ベルねぇさんがスーくんとバボくんを連れてきてくれたことで何故か頭の痛みも胸の苦しさもなくなった。

きっと桜を見に行く約束と、バボくんと仲良くなれたことが思った以上に自分にとって嬉しかったんだろう。

元気になった俺にアイくんはとても不思議そうにしていたけど、ベルねぇさんが嬉しそうに笑ってくれたから深く考えることはやめた。

「パリジャーン!!回復して本当によかった!!!」

『カルにぃくん!お見舞い来てくれてありがと!もう元気だよ!』

いつもの場所に向かえば一番最初にカルにぃくんが俺に気づいて髪の毛をこれでもかと乱すように頭が撫でられる。

「ちょっと、カルバドス邪魔だよ!」

「邪魔ってなんだよ!」

「パリジャン、元気?」

『うん!』

「俺、安心した」

『コルにぃも心配してくれてありがとう!キャンねぇも仕事いっぱいだったのにお見舞いありがとう!嬉しかったよ!』

「ほんとパリジャンはいい子だねぇ!!よーしよしよし!!」

カルにぃくんと取っ組み合いを始めそうだったキャンねぇが俺の頭を撫でる。

三人とも緩んだ表情に俺も笑って、そうすれば微かな気配が後ろに増えたから振り返る。

ばちりと目があったのはキューちゃんで、確認するように目を細めたと思うと眉根を寄せて部屋を出ていってしまった。

『もしかして、キューちゃん怒ってた?』

「あー?あー、そういうんじゃねぇと思うぞ」

目を逸らしたアイくんに少し不思議には思うけどアイくんがそう言うならきっと怒ってないから安心する。

カルにぃくん、キャンねぇと頭を撫でてくれてぐちゃぐちゃになった髪の毛をコルにぃが直してくれて、三人は仕事だからと仕方なそうに部屋を出ていった。

残ったのは俺とアイくんで、アイくんもこれから溜まってた仕事に向かうというからいってらっしゃいと出口まで見送った。

帰りの道すがら顔見知りの研究員や構成員と挨拶を交わしつつ歩いて、そうだとここ数日触ってもいなかった携帯を取り出す。

電源を入れればいくつか連絡が届いていて、やっぱりあの日迷惑をかけてしまっていた明美ちゃんと、事情を聞いてか志保ちゃんからもメッセージが入ってた。

二人に治ったことと、謝罪とお礼を入れて、今度遊びに行こうねと締めておく。きっとそのうち連絡が返ってくるはずだ。

それからもう一つ開けてないメッセージを確認する。ウォくんのメッセージは体調を案じる内容から始まり、ジンくんのことは見ておくから任せてほしいけど、よくなったらすぐ連絡をくれるとありがたいなんてもので、元気!とだけ送り返した。

用が済んだ携帯をしまおうとすればなにかを受信したらしく短く揺れた。

取り出して見るとウォくんからおめでとうございますの文字と、ジンくんのこの後のスケジュール、差し支えがなければご予定をと続いてる。少し考えてジンくんは今電話を持ってるかと送った。

予想通りすぐに是が返ってきたから画面を切り替えて耳にあてる。5コール目でぷつりと呼び出し音が途切れた。向こうからは若干雑音が聞こえるけど声はしないから代わりに声を出した。

『ジンくん、元気だった??』

「………ちっ」

『ええ…?』

何故か舌打ちが返ってくる。思わず困った声が出てしまえば深めに息が吐き出され、同時に通話が切られる。

ツーツーと電子音しか聞こえないから耳を外して目を瞬けば携帯が揺れて、届いたメールに時間と場所が書いてあった。

今の時間を確認すれば大体五時間後で、ジンくんたちのいる場所を考えるとこれから飛行機に乗る気らしい。

だいぶ突貫なスケジューリングに心配を覚えつつ、必要なものを揃えるために一度部屋に戻ってそのまま車を出した。




どんどんと入ってくる飛行機に、どれに乗ってるのかなぁとぼーっとする。時間が余りすぎてかれこれすでに二時間ほど車の中にいれば飽きてきてしまって、ハンドルにもたれ掛かってればがちゃりと音がした。

『おかえりなさい』

「ああ、ご苦労」

『お疲れ様ー』

顔を上げれば助手席にジンくんが乗り込んで、トランクにウォくんが荷物を詰め込んでた。

久々に見るジンくんは車に乗り込むなり煙草に火をつけて、運転席の窓を開けるとウォくんが顔を覗かせた。

「お疲れ様です、パリジャンさん」

『ウォくんこそ、いろいろありがとうね、お疲れ様ー』

「いえいえ。兄貴をお願いします」

『あれ?乗らないの?』

「ぇ…勘弁してください…」

『??』

ウォくんが肩をはねさせる。サングラスの向こう側で視線が泳いだから口を開こうとして、肩が引かれた。

ぐっと手前に引くようにされたことで体の向きを変えて、向かい合った瞬間に空気を感じる。顔に煙がかかって吸い込めば盛大に噎せた。

『うぇっ、もー!ジンくんっ!!』

「そいつはここで用事があるから置いていけ。さっさと出せ」

『んん、そうなの?』

「は、はい!なんでお気になさらずいってらっしゃいませ!」

『そう…?じゃあ気をつけてね、ウォくん。ほんとにありがとー』

慌てた様子のウォくんが気にならないわけではなかったけど、ジンくんにまた煙を吹きかけられるとこの後の運転に支障がでそうだから手を振ってからアクセルを踏んだ。

走り出したことで窓から空気が流れ込んできて循環する。ジンくんは煙を堪能してるのかあまり話さないから安全運転を心がけながら目的地に向かった。

来慣れた建物にたどり着く。

決まってる場所に駐車して、車を降りる。トランクから荷物を取り出したところで首を傾げた。

『ジンくん?』

いつもなら俺よりも先に降りてるジンくんがまだ席にいるから目を瞬いて助手席側に回る。

扉を開ければジンくんは車を降りた。そのままスタスタと歩き出すジンくんに、扉を開たい気分じゃなかったのかなと荷物を持って追いかける。

ロビーを抜けて、エレベーターに乗り込んで、ゆっくりと音もなく止まったエレベーターから降りる。カーペットの敷かれた廊下を進んで扉の前で立ってるジンくんにカードキーをかざして鍵を開ける。

かちりと音がしたところで扉を開けて押さえればジンくんは中に入って、俺も後に続いた。

見慣れた部屋の中。少し先の開けたスペースに荷物を置いたところで室内にいないジンくんを探す。隣のベッドルームにいたジンくんはベッドに転がってる。

まとってたはずのコートと帽子は横に添えてある椅子に投げ捨てられていて、皺にならないよう取ろうとしたところで腕を引かれた。

視界が回転して、背中が柔らかい布団に沈む。

『ジンくん??』

「…………ちっ」

響いた舌打ちに瞬きをする。今日のジンくんは不思議な行動が多い。

見上げたジンくんはいつも通り眉間に皺が寄ってる。そんな不機嫌な表情も見るのが久しぶりだからかなんだか嬉しくて、両手を伸ばして顔に触れた。

『俺、またジンくんと話せるようになってよかった』

「…本当に、馬鹿な奴だ」

呆れたみたいな声色。少し薄くなった眉間の皺と上がった口角に理由はわからないけどジンくんが楽しそうならなんでもいいかと頬を撫でる。

『ジンくん、お疲れ様』

「ああ、まったくだぜ、白雪姫さんよ」

『…俺、姫ってガラじゃなくない??』

「テメェは真実の愛も王子のキスもなしで起きちまうからなぁ」

『手間がかからなくていいでしょ?』

「あ?かかってねぇと思ってんのか?」

『んん、ごめんってー』

怖い顔をするジンくんに笑って、体を少し起こす。せっかく薄まったのにまた深くなってしまった眉間の皺に唇を寄せた。

『ありがとう、ジンくん』

「…言葉じゃあなんとでも言えんからなぁ」

『うええ、そんなに疑り深いと生きてて疲れない…??』

「誠意は行動で示せって教えただろ」

『んー、それはそうなんだけど…』

「………なんか問題でもあんのか」

カッと目が開かれて、ジンくんの放つ空気がピリッとする。よくわからないけど今日一番怖い顔をしてるジンくんに目の下をなぞった。

『ジンくん、体温高いよ。眠いでしょ』

「あ?」

『クマもあるしさ、だから、一緒に昼寝しよ』

「は、」

俺を覗き込むため顔の横についていてあった手を引っ張って倒す。腕の中に抱え込めばふわりと苦い煙草の臭いがした。

『おやすみー、ジンくん』

「テメェ…ふざけんなよ」

『俺はいつでも真面目だよ。たくさん寝て、起きたらあったかいご飯食べて、気が向いたらお風呂入ってゆっくりして、ダラダラ過ごすの。最高でしょ?』

「……ニートが」

『んー、ニートっていうかジンくんとずっと居られるし、そのほうが俺はいいなって思ったんだけどだめ?』

「………ちっ」

伸びてきた手が仕方なさそうに俺の服を掴んだ。

「酒も用意しとけ」

『いつものでいいの?』

「…ああ」

さらさらの髪の毛を撫でていればジンくんはすぐに眠りについたのか、それ以上の言葉は返ってこなくなった。

腕の中で静かに眠るジンくんに俺もあくびを溢して、携帯で必要な連絡だけ入れて目をつむった。



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