イナイレ


赤と白、温と寒、火と水。

どちらかといえばこいつらは炎と氷のようなやつらだった。

「諧音?!」

「元気だったのか?!」

相容れないような性格同士、それなのに空気の読めないところがそっくりだ。




ピッチの上、気合十分に円陣を組んでるそれを観客席から見下ろして、息を吐いてから降りる。

敵陣のキャプテンマークをつけた糸目と長髪とすれ違い、ベンチに行けばグランと呼ばれてた基山とレーゼと呼ばれてた緑川がなんか喋ってた。お日さま園連中の邂逅を円堂たちは微笑ましそうに見てる。

それを横目で見て通り過ぎると、ぐっと腕を掴まれた。

偶然にも、掴まれたのは出発前に基山に掴まれたところと同じだった。

「かい…とか?」

少し迷ったのは後ろ姿だからか

風介は信じられないと言わんばかりに目を丸くしてて、後ろから視線と晴矢の声が投げかけられる。

「諧音って、諧音か!元気だったか?!」

「いきなりいなくなるから心配したんだぞ!」

「え、え?」

「は、南雲、涼野…?」

手を取られて、くるくる回る晴矢に押されて回る。視界には安堵した笑みの風介。基山と緑川、ひいてはイナジャパ全員ついてけずおいてけぼりになってた。

元気か、今何してる、今度あそびいこう、口早に言いたいことだけ言ってきて口を挟む暇もない。

「ちゃんとサッカーやってるんだな!うれしいっ」

「諧音と公式で戦えるなんて夢みたいだ!」

放っておいてもよかった。けど一応、俺の譲れないもんとかこいつらの叶わない夢を諦めさせるために、手を払って二人にでこぴんをかました。

『誰がこんなクソ試合出るっつったァ。サッカーなんてもうやってねぇよ』

二人は意味が理解できてないのか、言葉に表すならきょとんとしてから顔色を変えて今まで放置してた基山と緑川に飛びついた。

「どどどういうことだヒロト!諧音試合出ないのか?!」

「諧音サッカーしてないってなに?!どういうこと!?」

「お、落ち着いてふたりとも、く、くびしま…」

「み、緑川が死んじゃうから力ゆるめて二人共!」

朝から茶番を見せつけられてばかりでため息すら吐くのも億劫になってきた。無駄に絡まれてばかりでほんとイライラする。

「来栖、南雲と涼野と知りあいなのか?」

円堂が不思議そうにこっちを見てきて更にいらいらした。

『お前に関係ねぇだろ』

「ある!」

『うぜぇ』

「教えてって来栖!」

『やだ』

睨めば円堂は静かになって、代わりに風介と晴矢が顔を上げた。

「諧音のばーか!せっかく楽しみにしてたのにっ、負けるのがこわいんだろ!」

「ずっとベンチに座って無様に負けるところを見てればいい!諧音のばか!」

いーっだと二人して啖呵を切って自軍に走っていく。

最初っから最後まで呆けてたイナジャパと俺を見てくる緑川と基山。

「か、勝つのは俺達だからな!」

円堂は空気が読めず、イライラした。







ちらちらこっちを心配そうに見てくるのはこの大会が始まって以来、俺と同じように一戦も起用されてない不動だ。

「く、来栖、」

『うぜぇ』

掛けられた声を切れば不動は目線を迷わせて下を向いた。

八つ当たりしてるのはわかってても謝る気にはなれなくて、ガムを噛む気にもなれず、イヤホンで音楽を聞く気にもなれず、いつもより目を離してぼんやり始まった試合を見てた。

「……」

一瞬こっちを向いて眉を寄せたあれは誰だったか、敵チームのデータは晴矢と風介に気を取られててなにも覚えてない。

白金…クリアイエロー?綺麗な長い髪に動きづらそうだなんて感想が浮かんで、現実逃避を始めた自分に苛立った。

ベンチに座る円堂、キャプテンマークをつけた鬼道、キーパーの立向居に声をかけるやつ。静かな観客席。

この空気は息がしづらい。







基山のシュートが止められ、攻守は変わりアフロディとやらがシュートを打って立向居が止める。立ったり座ったり、道也を眺めたり、忙しそうな円堂を眺めてれば豪炎寺がファールする。飛鷹は指示を聞かずにボールを持ち風介と晴矢に取られてた。

センターからゴール前まで戻ってきてた吹雪に助けられ、難を逃れる。

こいつら、なにやってんだ?







吹雪と土方とやらの合わせ技で一点とったこっちに息を吐く。

ばらばらなピッチの上。

動き始めるなら次試合が再開してからだろうな







パーフェクトゾーンプレスにはまんまとまって試合の流れが大きく変わった。クラッシュした二人がベンチに帰ってくる。虚勢をはっていたが、手当が終わる頃にはすっかり肩を落としたピンクのそいつは俺の隣に座った。

「諧音…」

気のせいか髪の毛まで下がってる。

『焦ったお前の自業自得だろ。ちっと頭冷やせ』

ポケットからガムを出して口の中に押しこめば黙った。

見越してか何かは知らないけど、道也は俺の方にきたこいつを戻さなかったのはこれを期待してだろう。

沸いた歓声に顔を上げれば晴矢が点をとってた。

「っ…諧音、」

晴矢と目があって、何も答えずに目を閉じる。







名前は忘れたが俺と道也の考えた泥の練習は活路になって新しい戦略とやらになったけど点には繋がらず、2-1で前半が終わる。

円堂がいなくて、吹雪がベンチに下がって、基山はシュートを止められて、豪炎寺が観客席ばっか見てるからぐだってるらしい。

その上、土方とぶつかってからの鬼道の動きはどんどん悪くなっていくし、緑川は流石にこれ以上は動かせない。

『緑川と鬼道、もぉダメだ』

「え、」

「え?」

隣の不動と円堂が同時に声を上げた。

道也も頷いて息を吐き、戻ってきたメンバーに目を向ける。ゆっくりと、それでいて重く道也が言葉を発した。

後半に向けてメンバーが入れ替わり、めちゃくちゃだ。

「………不動、お前が出ろ」

「、!、へぇ、やっとかよ」

予想外だったのか、不動は焦りながらも返す。ジョーカーと称された不動は俺を見た。

「……はやく、こいよ」

返事はしないで反対隣のヤンデレにもたれかかり目を閉じる。

「…どうした、諧音?」

珍しいのか横からトーンの静かな声が聞こえた。

『頭いてーんだよ』

「薬、もらってくるか?」

『……そのうち収まんだろ、いらねぇよ』

息を吐けば、後半開始のホイッスル耳を劈き目を開く。目の前に氷嚢を持った冬花がいた。

「諧音くん、大丈夫?」

『…問題ねぇ』

「これ、よかったら使ってね」

渡された氷嚢は使いやすくハンカチで巻いてあり、首筋にのせれば頭が冷えてきた。遠くからは不動の家庭環境やら生い立ちが話されてて聞いててもあまりいい気分にはならない。

それでもちっといらいらが収まってきて違う意味でも頭が冷えてくる。

ふわふわ俺の頭を撫でる手にいつもなら払うところだけど放置して、試合に目を向けた。

『…あれ、なにやってんだァ?』

「んー?不動の一人相撲中?」

パスを回さない、パスが届かない。不動の一挙一動に反感を抱くイナジャパと、狙い通りにいかないことに苛立つ不動。

不動の行動が戦略なのも、自分たちが普段よりもプレーに精彩を欠いてるのも気づかないようで、風丸が不動に怒りをぶつけてる。

俺の面倒を見るのに慣れてるくせに、俺とよく似てる不動の行動の真意が見えてないとは風丸もだいぶ焦りで視野が狭くなってるらしい。

「なぁなぁ来栖」

聞こえてきた熱血がつくサッカーバカの声にせっかく元通りになりかけてた気分が一気に降下した。

「何故、不動のパスは通らないんだと思う」

その隣には鬼道もいて、道也はちらっとこっちに視線だけ向けて放置する。横のヤンデレがとりあえずヤンデレ化してないことに驚きながらも試合に視線を戻した。

ギスギスしてる空気。ピッチの上で仲間割れとか前代未聞だ、みっともなくて見てられない。

『不動のパスが通らねぇのは彼奴らのせいだろ。見りゃわかることまでわざわざ俺に聞くな』

「どういうことだ?」

頭の悪い円堂はともかく、賢い鬼道まで首を傾げてきてため息しかこぼせない。

『お前らなんのためにベンチいんだよ。黙って見てりゃわかんだろォが』

「むむむっ、ううん」

「来栖はわかってるのか」

勝手に空いてる隣に座ってきた円堂に、問いかけてきた鬼道。フィールドを見れば不動のパスを受け取れなかった壁山がイライラしてた。

堪えるように唇を噛んでる不動に息を吐く。

『あーァ。一人だけずっと頑張っててかわいそーだなァ、不動ォ』

俺の言葉に鬼道と円堂は顔を合わせて試合を食い入るように見始める。

ヒントは出した。これでいいんだろ、道也。

俺達のやり取りを見守ってたらしい道也を見据えれば頷いて試合に目を戻す。

どれくらい経ったか。

豪炎寺の全く集中してないプレイ。風介と晴矢のシュートをぎりぎり止めてる立向居。不動のパスミスはそろそろ見過ごせないレベル。

「もしかして、」

やっと声を上げた円堂に俺は隠さず息を吐いた。

「よし!」

ぱんっと顔をはたいた円堂は道也の前に立ちなんたらキャプテンがどうのこうの言ってる。そろそろうざったくなってきた頭を撫でる手を払い、起き上がった。

「来栖!ありがとな!早くお前も来てくれよ!」

なんか言いながら円堂はフェードアウト。返事も待たない円堂の代わりに鬼道が話しかけてきた。

「…来栖は、最初から気づいていたのか?」

『何を』

「不動が俺達をよく見てたことを」

『ァ?あいつが何見てたかなんて知らねぇよ。ただ、ベンチ座ってんだけってのは退屈だから彼奴だって試合出るためになんかしらやってんだろって思っただけだァ』

鬼道はゴーグルをつけててもわかるくらいに呆けた顔をして、あっさりと口角を上げた。

「ははっ、なるほどな」

道也に呼ばれた鬼道は立ち上がり、一歩進んで振り返る。

「円堂と豪炎寺の言ってたことがわかった気がする」

『はぁ?』

「俺も、お前とサッカーがしてみたくなったというだけの話だ」

訳のわからない決め台詞と顔に、ゴーグルをかち割ってやりたくなったがさっさと鬼道はコートに足を踏み入れ円堂の隣に行った。

「そうか、ベンチは退屈なのか諧音。ならお前もそろそろなんじゃないのか?」

にたりと笑ってる道也のあごひげを引っこ抜いてやりたくなる。

全部無視するように目を閉じて瞼の上にぬるくなってきた氷嚢を乗っけた。


×


ジョーカーとして機能し始めた不動。華麗に相手を抜いた不動と鬼道の連携技。風丸と壁山のシュートで同点に追いついたイナジャパ。

それでも飛鷹と豪炎寺はダメで、いや、もーちょっと、なにかきっかけがあれば。

このままか進めるかは五分五分の様子に、少し、賭けてみたいと思ったのはさっきからちらちら見てくる円堂や鬼道、不動、風介、晴矢の視線のせいか、隣の歯がゆそうにしてるヤンデレのお礼参りのためか、最近鬱憤をはらせてないからか、

それとも、今見た携帯に届いてたメールのせいか。

自然と、声が溢れる。

『道也ァ』

「、なんだ」

一瞬、とても短く肩をはねさせたものの道也は振り返ることなく返事をした。

妙に渇いてる口の中は、いつもどおりなんだか異常なんだかわからない。

『もしもこの先、飛鷹が成長して、豪炎寺が吹っ切れて、ちっとでもマシなチームになって、…それでも、差がついてて、けど彼奴らが折れてなかったら…今回に限り、言うとおりにしてやるよ』

ばっと振り向いた道也。

冬花と条助、ベンチに戻ってきていた立向居も吹雪も、緑川、木野までも同じような顔をしていて面白い。

『まぁ、そのとおりになったらだけどなァ』

ピッチの上では飛鷹が殻を破ってゴッドブレイクを止めたところだった。

沸いた歓声が、遠く聞こえる。







ざわめいていて、静まってる会場。

ああ、この感じがたまらない。

待ちくたびれた

やっと、来てくれた。




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