DC 原作沿い



車で待っていればベルモットは数分とせずに姿を表した。

「車の中で話します」

助手席を開ければベルモットはすぐに乗り込んで、僕も運転席へ回る。

エンジンをかけて発車させたところで口を開いた。

「僕が歩き回ったところ、入院患者の子供と付添の看護師と話せてパリジャンの動向がつかめました」

「あの子、なにをしてたの?」

「入院棟のレクリエーションに参加していたようです。その場にいた子供と折り紙をして、いくつか高難易度の完成品をプレゼントしていたようで、一緒にいた看護師もよく覚えていました」

「折り紙…?」

「はい。どうやら外見の珍しさから子供に声をかけられたようですね。ただ、折り紙を終えて子供を見送り、そこからアイリッシュに連絡が行くまでの足取りはつかむことができませんでした」

「……病院の中では何もなかったということかしらね」

「可能性は高いかと。パリジャンの見目は目立ちますから、僕が少し歩いただけですぐに思い出してもらえましたし、なにか大きなことがあったのならあれだけ人がいる病院ですので誰かしらが覚えているはずです」

「車の中か、駐車場か…」

「駐車場に監視カメラは見当たりませんでしたし、車もエンジンがかかっていなかったのならドライブレコーダーで撮影されている可能性は低いです」

「……そうね」

「そう考えると外に要因を探しに行くのは僕に任せていただき、貴方はパリジャンの側にいて回復の手助けをするのが効率が良いんじゃないですか?」

「…………ええ、そうするわ」

深くため息をついたベルモットは手を動かすと鏡を取り出して、ちょうど良く信号で止まった車にさっさとカラーコンタクトを外す。

僕も後で外さないとと思いつつ、信号が変わったことでアクセルを踏んだ。

「どちらへお送りすれば?」

「パリジャンの家の場所は覚えてる?」

「大まかにでしたら…」

「ならわかるところまでで十分よ」

「かしこまりました」

携帯を取り出して文字を打ち始めたベルモットはアイリッシュに連絡でも入れているのか、もう病院を意識から外しているように見える。

しばらく連絡を取り合っていたかと思うと携帯をしまって、深く息を吐いた。

「二つ先の信号を右に曲がって、200mくらいのところで止まってちょうだい」

「はい」

指定された場所は以前ジンに呼び出されて向かった場所にほど近い。記憶を呼び起こせばたしかにこの先にある建物の中に入って、いくつもの生体認証を越えてあの部屋にたどり着いてた。

「今日はありがとう、バーボン」

「お役に立てず申し訳ございません。またなにかありましたら遠慮なくご連絡を」

「ええ、そうさせてもらうわ」

シートベルトを外して鞄を掴み、扉を開ける。

「もしよろしければですが、今度パリジャンの御見舞に伺ってもいいですか?」

「…そうね。あの子の起きているときなら構わないわ。好きにしなさい」

「ありがとうございます」

扉が閉まる。ベルモットが目的の建物に入ったのを見届けて走りだす。道をどんどん進み先程いた場所から2キロは離れて、一度路肩に止まる。

取り出した携帯を確認すればスコッチから連絡が入っていて、記載された住所に目的地を変えてハンドルをきった。




「バーボン」

にっこりと笑ったスコッチの右肩にはギターケースが背負われていて、仕事終わりなのを一瞬で理解した。

「スコッチ、僕を足代わりに使うなんて偉くなりましたね」

「用があるって適当なところで降ろされちゃったんだ。許してくれよ」

後部座席にケースを寝かせると助手席に座る。ちらりと目を向けるから頷いて、発車した。

特に意味もなく道を走る。

「それで?お前カルバドスといたんだろ?」

「うん。カルバドスが監視役だったよ。そこで幹部の動きをぼやいてるのを聞いてた」

「やはりパリジャンが原因で上もばたついてるんだな」

「主戦力のアイリッシュとベルモット、更に始末人のパリジャンの三人も動けないってなると流石に幹部の仕事が偏って疲れがやばいってさ」

「最近はジンとウォッカも見ないしな」

「そう、あの二人がメインで任務を回してる。それでキャンティコルンが補佐で飛び回ってて、カルバドスやピスコ、あとたしかウイスキー?とかそのへんの古参や新参も動き回ってる」

「今、僕達が動くのは危険だと思うか?」

「………どうだろう、NOCをすべて始末してる人間がいないならその心配は減るけど…逆に、これを機に炙り出そうとしてる動きも見られてる」

「さっきの連絡のアレか」

「ああ、俺の今日の仕事がそれだった。隙を見て逃げ出そうとした失敗者の始末」

「………………」

「はあ。ままならないな」

ため息を溢して視線を下に落とす。今日の同乗者は気落ちしている人間ばかりらしい。

ヒロはもう一度息を吐くとそっちは?と顔をあげた。

「パリジャンの足取りを追うためにベルモットと最後にいたっていう病院に潜入してきた」

「ああ、それでその目か…カラコン?似合ってるね」

「…あとで取る」

「目元だけなら彼奴にそっくりだ」

「そのために入れさせられたからな。ベルモットも化粧で目元の雰囲気を寄せてたし、それに、思ったよりこれのお陰で収穫はあった」

「どんな?」

「まず、病院は彼奴らのいるところだった」

「!」

「だからふた手に別れることにして、ベルモットが外来、僕は入院棟に潜入した」

「…………」

「そこで、入院患者の子供と看護師が僕をパリジャンと間違えて声をかけてきたよ。パリジャンはその日、行われていたレクリエーションに参加して子どもたちに折り紙で作ったものをあげてたらしい」

「………うん」

「レクリエーションを終え子供を病室まで送り届けて、二人とはわかれたそうだ」

「………そうなんだ…それからの足取りは?」

「…それ以上のことは知らなそうだったから僕も別れて戻ろうとした。そうしたら、向かいから彼奴らの見舞いに来た班長に現れたんだ」

「え、」

「ベルモットがいつ来るかもわからないその状況で話すわけにもいかないから会釈で通り過ぎようとしたんだけど…すれ違うときに彼奴を見つけたって言われた」

「もしかして、」

「ああ、たぶん。…パリジャンの不調は彼奴らを見たからだ」

「……………」

「僕を兄弟だって思ったとわざとらしく言って、パリジャンの落とし物を拾ってたから持ってくるって…これと、メモをくれたよ」

「これは…折り紙のクローバー?」

「先に会った入院患者の子供がいたって言っただろ?その子供がパリジャンにお礼で渡したものらしい。僕ももらった」

「………………」

「班長からのメモには、あの日、見舞いに来たら部屋の前に様子のおかしい彼奴がいたこと、呼吸音もいびつで声を掛けてもほとんど反応せず逃げ出すようにして走っていったしまったこと、部屋の中にその折り紙が落ちてたことが書いてあったよ」

「……なら、決まりかな」

「彼奴はパリジャンだけど、パリジャンじゃない」

「混濁した記憶によって不安定になってるってことだね。それなら、俺達は…」

「ベルモットには面会の許可はもらってる。なるべく早めに接触しよう」

「ああ、そうだね」

何があったかは知らないけれど、パリジャンが居なくなるならこれ以上嬉しいことはない。

行く宛もなく流していただけの道に、近くの案内表示を確認して地名から帰り道を逆算する。知らない間に県を跨ぐ寸前だったらしく、Uターンした。

「三日以内に行こうと思うけど、仕事は?」

「突発的になければ大丈夫だ」

「なら明後日辺りにでも行こう」

「連絡は頼んだよ」

「任せておけ」

ようやく掴んだ糸口を逃す訳にはいかない。



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