DC 原作沿い


『明美ちゃんに彼氏??』

びっくりするあまりストローからすすってたアイスコーヒーが口の横から垂れる。

向かい側の志保ちゃんはそれはもう不服そうに、それから汚いわよと紙ナプキンを差し出してくれたから礼を言って受けとり口元を拭った。

「お姉ちゃんと付き合った男…嫌なの」

『それはなんで?』

「なにもかもよ」

『明美ちゃんとの時間が取られちゃうから?』

「はあ。そうじゃないわ」

首を横に振った志保ちゃんはゆっくり、俺とは違いきちんとアイスコーヒーを飲み込んでからまた話し出す。

「出会い方もアプローチの性急さも、それから組織に入ったって話も。なにもかも怪しくて信じられない」

『んー。怪しすぎるやつは逆に怪しくないって小説の常套句じゃないの?』

「あら。予想をまったくもって裏切らない、何かも筋書き通りの面白くない推理物も存在するでしょ?」

『たしかにー』

頬杖をついて志保ちゃんの話を聞く。

なんでも、明美ちゃんの運転する車の前に飛び出してきたのが出会いの始まりで、人のいい明美ちゃんがお見舞いだのなんだのをしているうちにぐぐっと人から見ればありえないくらいガッツリ距離を縮めて付き合ったその人は、今は俺の同僚らしい。

「組織目当てに近づいてきたとしか思えない」

『んー…志保ちゃんの感はよく当たるもんね。俺も嘘つきだったら困るから、ちょっと注意してみておくよー』

「ありがとう。お礼はいずれ貴方が望むことをできる範囲何でも叶えるわ」

最後に残ったコーヒーを志保ちゃんはすべて飲み込む。

志保ちゃんのお姉さん愛は強い。あのリアリスト志保ちゃんが俺を信頼してお礼まで弾むと言ってくれるんだから。

『それじゃあなにか考えておくねー』

「くれぐれも私の叶えられる範囲でお願いね」

『ういーす』

俺も返事をしてコーヒーを飲みきって、そうすれば携帯が揺れる。響いてたアラームを止めて立ち上がった。

「仕事?」

『うん。志保ちゃんもでしょ?』

「ええ」

俺はこれから久々の現場仕事。志保ちゃんはいつもどおり研究室に戻るはずだ。

「身体に気をつけて」

『ありがとー。志保ちゃんこそ、何かあったらすぐ連絡ちょうだいねー』

「頼りにしてるわ」

ふんわりと笑ってくれた志保ちゃんに気分を良くして、手を振って部屋を出る。

近頃の志保ちゃんはとってもむずかしい研究をしているらしく、一日中研究に没頭していてたまにこうやって休憩がてら会いに行って食事をしたりする。そうしないと寝食を忘れてしまうくらい志保ちゃんは一度集中すると時間を忘れてしまう。

明美ちゃんに言われてから知ったことだったし、それまでは明美ちゃんが居ないとあまり会ってくれなかったけど、さすがに何年も顔を合わせたれば少しは慣れてくれたのかやっと二人でこんなふうに雑談できるくらいまでになれてとても嬉しい。

それもこれも、間を取り持ってくれて仲良くしてくれた明美ちゃんが居たからなのだけど、そのとてもいい人な明美ちゃんが悪い男に引っかかっているのなら、それは心配だ。

時間を見つけて、ベルねぇさんにおねだりして今度顔を合わせる機会でも作ってもらおう。

そう思った数日後から約一年もの間、ベルねぇさんは新人の面倒を見ることになり、俺はベルねぇさんの代わりに海外に飛ばされることになるなんて思ってもなかった。



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