DC 原作沿い


「あ、」

聞こえた声に顔を上げる。左右色違いのきれいな瞳が怯えから揺れて、それからきゅっと眉根と唇が結ばれる。

警戒の様子にへらりと笑った。

『キューちゃんひさしぶりー』

「何よ、その名前」

『ん?かわいいでしょ?』

「…………」

強い警戒のせいで歪んだ表情は怖いお姉さんだ。

『そんな顔しないでよー。俺なんかした??』

「何もしてないと思ってるならとんでもないくそ野郎よ」

『えー?』

今にも飛びかかってきそうな一触即発雰囲気に首を傾げる。

『ひどいことはしてないと思ったんだけど…??』

つい先日、任務のためにキューちゃんを確保したのは事実だ。せっかく逃げおおせた場所に連れ戻されたキューちゃんは死にそうな顔をしてたけど、でもそのおかげでラムに拾われて、今はラムの子飼いをしていい立場に落ち着いてる。

『あのまま逃げてたら処分だったんだよ?ラムが居なくても記憶消されるだけで生きてられるようにしたんだし、俺、キューちゃんに悪いことしてないよ?』

「………ほんと、倫理観欠如したクソ野郎ね」

『ええ?どういうこと??』

呆れたみたいに首を横に振られる。全く心当たりがなくて首をひねってればもういいとキューちゃんは諦めの色を見せた。

「一つ聞かせてほしいんだけど、あなたにとって悪いことって何?」

『んー?』

キューちゃんの質問に更に首を傾げて、このままいけばフクロウを超えて一回転できるかもしれない。

ちょっと考えて、思いついたことを口に出す。

『任務の失敗かな』

「それがどんな命令でもこなせなかったら悪ってこと?」

『うん』

「………ジンが気に入ってるわけね。ほんと、頭がおかしい」

『うええ?なんで罵倒されてるの?俺??』

「ウルトラハッピー社畜クソ野郎には一生わからないわ」

『キューちゃんってば辛辣すぎない?』

何一つ理解できないまま怒られて、傾げすぎた首の筋が痛むから今度は反対側に倒す。

『キューちゃんは生きたくなかったってこと?』

「そういうことじゃない」

『うええ?むずかしい』

「はぁ。………あなた、こわいものってないの?」

『こわいもの?』

ぱちぱちとまばたきを繰り返す。横向きが気持ち悪くなってきたから縦に視界を正して、今度はこわいものを探しだす。

『別にこわいものはないけど…きらいなものはあるよ?』

「へー?なにがきらいなの?」

『嘘つき』

「、」

『俺の任務増えちゃうし、嘘つきはきらーい。だからね、キューちゃん』

にっこり笑って、色違いの瞳を覗き込む。動揺に揺れてる瞳に微笑んだ。

『嘘はつかないでね?キューちゃんとはずっと仲良しでいたいんだぁ』

ぎゅっと寄せられた眉間の皺。それから伸びてきた右手が俺の顔を遠ざけるように押した。

「私は命が大事だし、嘘はつかないわよ。それに近すぎ、あっち行って」

『はーい』

釘を刺した感じになってしまったかもしれない。

遠ざけられて仕方なく3歩下がって、不機嫌そうなキューちゃんを見据えてからいつもどおり笑う。

『キューちゃん、今度一緒にお茶しようねー』

「しない」

『遊びに行くのもいいかなぁ』

「行かない」

『んん、嫌われてるなー、俺』

「二度と顔を見せないでちょうだい」

『かなしい』

ちょっと本気で心が痛む。意外と繊細な俺の心に驚きつつ、まぁいいかと痛みを隅っこに追いやった。



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