DC 原作沿い

店から少し離れた公園を抜けて、さらに流れる川の近くにあるマンションに裏口から入り込む。

ちょうどよく人の気配が少ないそこに日中のマンションってこういうものかもと階段を上がって、最上階であろうそこから屋上へと続く扉の前のスペースに腰を下ろして腕にかけていた袋をあける。

走ったからか少しだけ中身がよってはいたけど、袋に包まれたバーガーと箱に入ってるナゲットは無事そうで包みを剥した。

『いただきます』

かぶりつけばパンとドレッシングのかかった葉野菜、それから塩コショウのきいたお肉の味がして口元を緩めながら咀嚼する。ベルねぇの連れて行ってくれるお店は高級な味がするけど、こういうジャンキーなのもたまに食べるとおいしい。

箱も取り出してナゲットも食べきって、満足したから息を吐く。食べたばかりだし、このまま休憩しようかとも思ったけど塩気の強いものを食べたから少し喉が渇いて、飲み物を買いにいくため立ち上がった。

ゆっくり階段を降りる。不意に人の気配がして顔を上げれば人が四人いて、誰も彼もがごつくてしっかりとした服を纏い、頭を覆うようにヘルメットをかぶってた。

いわゆる防護服というやつを纏っている人たちに目を丸くして、足音にか近くにいた人がこちらを振り返るなり息を大きく吸った。

『??』

「なんで民間人が!」

「避難してなかったのか?!」

『ひなん??』

まったくもって意味のわからないそれにさらに目を瞬けば防護服を着た二人がこちらに近づいてくる。

「日本語はわかりますか?!」

『あ、うん、』

「ここは今危険ですので避難を!」

『きけん、ひなん???』

ぱちぱちと瞬きをして、二人が俺の腕を取ろうとするから咄嗟に避けて距離を取る。

『どういうこと??』

「爆弾が仕掛けられていて!危険なんです!!すぐに避難を!!」

『ばくだん???』

ばくだんとは俺の知ってる爆弾と一緒だろうか。スイッチが入っただけでそのへんのものを勢い良く吹き飛ばすやつのことなら、この焦りようも納得だ。

『爆弾は危ないね!』

「ええ!危ないので避難しましょう!」

『なんで??』

「なん、は?」

『なんで避難するの?』

「ですから爆弾があって、」

『爆発しなきゃ大丈夫でしょ?』

「爆発したら危ないので避難してほしいんです!!」

『そこの人が爆弾止めてるんだから、大丈夫じゃない?』

指した先には恐らく爆弾と、それを解除せんと向かいに屈み、細々と手元を動かしている人がいる。防護服のせいで女性か男性かはわからないけど、たぶん肩幅とか腰の太さ的に男性だろう。

『爆発しないなら、危なくないでしょ?』

「爆発しない確証はないんです!!」

『んん??止めたのに爆発するの?変なの』

「危機感の欠如!!」

「日本語通じてるのに伝わってないんですけど!!」

『????』

爆発したら危ない。それはもちろん辺り一帯吹き飛んだら生身の俺は無事でいられるわけがないんだから焦るべきだろう。

でもここに爆弾処理班が居て、解体作業中で、いつから解除に努めてるのかは知らないけど俺が避難しろと言われ始めてからそれなりに押し問答してることを考えれば解除されてもいい頃合いのはずだ。

首を傾げれば説得役の二人は頭を抱えてしまって、爆弾処理をしている一人を残してもう一人もこっちに来る。

「爆弾が爆発しなかったとしてもこれから撤去作業などがある。君を危険に巻き込まないためにも避難をしてくれ」

『お願い?命令?』

「避難勧告だ」

『お願いなら俺はきかなーい』

命令なら動くけど、お願いなら聞く義理はない。首を横に振ればなんで??とさっきまで説得に努めていたうちの一人が不思議そうに溢して、もう一人が子供かよと息を吐いた。

「はいはい。もーいいよ、そこまで」

聞こえたの声は少し離れたところから。今まで屈んでいた体制を伸ばすように腕を大きく上げて、その後に立ち上がる。

「解除できたし急いで避難しなくて平気だよ」

「できたのか!」

「もちろん」

少し軽い声は今まで緊張感に包まれていた空気を和らげる。爆弾の存在に少なからず緊張していたんだろう三人はホッとしたように息を吐いた。

緩んだ空気を作り出したその人を見据える。

「おまわりさんが子供囲んで詰め寄ったって仕方ないでしょー?だから警察は怖いとかゴリラとか言われんだよー」

「それはお前が勝手に言ってるだけだろ!」

「あはは」

気楽なやりとりは身内ネタだろうか。そのうち話してたその人はかかってきたらしい電話に携帯を取り出して、他の三人が勤務中だぞ!と言葉を揃える。

置いてきぼりで手持ち無沙汰になってしまったから腕時計を確認すればそろそろみんなの仕事が終わる頃で、そういえば打ち上げ用のお菓子の買い出しを命じられていたんだったと思い出す。

『用事あるから帰るー!ばいばい!』

「は!?」

「自由人かよ!てか危ないから一緒に降りるよ!!」

『やだー!』

廊下を蹴って走り出す。2歩、3歩。離れたところで、は、と息を呑む声が聞こえた。

「っ、待って!!」

「え?」

「どうした?」

聞こえてくる制止を呼びかける声と戸惑いの声。足音が追いかけてくるから階段を一番上から下まで飛び降りる。

「待って!行かないで!」

追いかけてくる足音は慌ただしい。声からしてたぶんさっきまで爆弾を解体してた人の声で、その後ろからは他の三人の声と追いかける足音。

「置いていかないで!」

あまりに必死で泣きそうな声。なんだかちょっと可哀想になって、振り返れば重い防護服のせいで動きずらそうなのに一生懸命俺を追いかけてくる姿が見えて、カチリと音がした。

「はな、」

どんっと大きな音。地揺れに風圧。階段の折り返しにいたため、咄嗟に開いてた窓から飛び出せば熱風に背が押されるように外に放り出された。

入ってきたときと同様に裏庭に出たらしい。勢いを殺すために転がり落ちたそこは芝生ほどではないけど草木が生えていて思ったよりもクッションになってくれた。

転がって起き上がる。見上げたマンションは黒煙が上がっていて、生身の俺でも無事だったくらいだし、防護服を着ていたあの人たちも無事だろう。

ざわめく野次馬に咄嗟にフードをかぶって、停止線を越える。

「大丈夫??」

「中から転がり出てきたよね!?」

野次馬の声に反応しないよう人混みをかき分けていき、道が開けた瞬間に駆け出した。



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