ヒロアカ 第一部


朝一番は爆豪と緑谷。二人が朝食を取る間は心操。続けて一人で緑谷が少しの時間様子を見る。午後からはどうしても訓練があるため爆豪と緑谷、それから心操もクラスメイトとの訓練で離れてしまうから俺が割り当てられた。

昨日に心操から聞いていたとおり、ノートが置かれていてそれを一気に読み込む。いくつもの試行錯誤の痕跡は心操が言っていたように確認が取れたが肝心の部分はいくつか抜かれてる。

後で二人に聞くべきだろうなと読み終わったノートを置いた。

眠る緑谷は熱があるはずなのに静かに眠っていて起きる気配はない。

手を伸ばして確認した体温は素人でもわかるほどに平熱とは言えないほどに熱く、すぐに離す。

本当に何をしても名前を呼ばない限りは起きないというから、ノートにあったことを試すために口を開く。

「緑谷」

すっと目が開かれる。熱のせいか揺れてる緑色の目がゆっくりこちらを見て、髪に触れれば目をつむり口元を緩め、また目を開いた。

俺を窺うような視線に頭をしっかり撫でる。

「いい子だ。おやすみ、緑谷」

そっとまた瞼が降りて眠りにつく。聞いていた通りの寝付きの良さ。小三から続いているというこの不調は、あのノートと照らし合わせる限りいくつかの法則を持って熱を出し、落ち着かせてるようだ。

原因は自身の容量を超えた、所謂オーバーワーク。幼児などの身体と実力が釣り合っていない時期や、過度な期待に答えようとすることで起きることが多い知恵熱に近いと爆豪は言う。

まだ未熟な年齢が二桁いくかいかないかの時期にはあるそれが、未だに続いているとなるとどれだけ普段から負荷がかかっているのか、緑谷の上限は早急に確認しないとまた同じことが起こり得る可能性が高い。

もう一度置いたノートを取って、ページを捲る。目的のページは試行錯誤の始まった後、何回目かの履歴の一つに目を留める。

“起こした兄ちゃんに声をかけないのは厳禁”

そうあった言葉に眉根を寄せて、今度は少し前のページに戻る。発熱症状が起きてまだ数回目の内容。

“返事なし”
“ただ笑ってる”

それからずっと側にいる二人の態度、更に、つい昨日見た映像で心操が気づいた緑谷が気を失う直前の行動。

眉根を寄せた瞬間にコンコンと音が響いて、扉が開いた。さっさと中に入り後ろ手に扉を閉める。

金色の髪が揺れて隠すことない眉間の皺が更に深くなる。後ろの緑谷を見たあとに俺を見た。

「相澤先生」

「爆豪、もう終わったのか。緑谷は?」

「オールマイトに捕まった。まだ帰ってこねぇ」

足を進め、ベッドの横に椅子を持ってきてじっと緑谷を見る。

額と首筋に触れて、ちらりとこちらを見た。

「出留、なんもなかったか?」

「ああ。しっかり眠っていた。決まった時間になっていないから水分補給はさせていないぞ」

「…そうか、ありがとうございます」

そっと手を伸ばすと緑谷の髪に触れる。ふわふわと引っ張らないよう気にかけながら撫でる爆豪の視線は落ちたままで、横顔に言葉を投げた。

「爆豪。君は緑谷のこの症状、根本的な原因を理解してるだろう」

髪を撫でていた爆豪の手が止まる。すっと視線が上がって、仄めく赤色が俺を見据えると口を開く。

「なんのことだ」

「緑谷が発熱するのはキャパオーバーした場合で間違いない。ただし、それは一因に過ぎないはずだ。原因は発熱中の緑谷の行動の裏返せば明白……自己承認欲求だろう」

「…………」

本来、幼児退行は小さな子どもに起こり得ることで、それは教師になるための勉強の際にも小耳に挟んだことがあるし、リカバリーガールもそう言っていた。幼児退行は環境が変わることが大きな要因と考えられていて、引っ越し、進学、兄弟が増えるなどいくつもきっかけとなる。

「こいつの場合は日頃の自身の活躍が一定量になるよう活動しており、突飛しないよう調整している。それがなんらかの要因…今回であればお前たちに会えない、訓練が立て続けにありオーバーワークをしたなどによって一定量に活動が保てなくなって、その際にきちんとした対応がなされなかったために発熱する。………というのが、君たち作り上げた他所向けの原因だ」

警戒した視線はとても静かだが強く、逸らされることはない。爆豪は唇を固く結んで口を閉ざしてしまって話す様子がないから、仕方なく俺が言葉を続けた。

「その原因を取り除くために一緒にいることで休息を取るのが治療になる。……要因と原因、そして治療。素直に受け取ればその通りだが、本来は原因と結果、そして治療の目的も違う」

「………」

「緑谷は正当な評価を特定の人間から受けられないことで、評価を得るために尽力し始める。だが、その際に使う力の限度と加減がわかっていないためにオーバーワークをしたことで結果として発熱する。治療は身体を休ませるためではなく、共にいなかった時間を補い、緑谷の望みを叶えることで承認欲求を満たすのが目的だ」

爆豪はすっと表情を消して、視線を逸らす。緑谷の髪を撫でながら顔を眺めて、どれぐらい待ったか、ゆっくりと唇を動かした。

「別に俺らが言ったのは嘘じゃねぇし、先生が言ってるのが真実とも今は肯定しねぇ」

さらりと髪を掬って、目を瞑る。

「出留は俺達に何も教えてくれねぇから、真実なんて俺達にはわからない。俺達のほうが原因を知りたいくらいだ」

「爆豪…」

「少しでも早く目を覚ましてもらうために手探りしてきた中で、見つけたカケラの中に原因っぽいもんがあったから、俺達はそれを元に仮説を立てて予防や対策を何回もしてるけど大体失敗してこうなってる」

「……この事態を引き起こす確実な原因はわかってないのか」

「ああ。絶対っつーそうだっていうのはわかってねぇ。でも、確かに先生の言うとおり、基本的な…根っこのとこ…出留をきちんと見てるかどうかはたぶん鍵だ」

「見ているかどうか…?」

「出留のやったことを褒める、叱る、なんでもいい。出留のとった行動の過程や結果を誰かが適度に受け止めてやんねぇと不安がってあちこちに手を伸ばしてなんでもやり始める」

「たとえば?」

「昔は頼まれた役員の仕事に他の役員分も掛け持ってプラスで課題したりとか、純粋に体力面のオーバーワークかましたこともあるし、とにかく手当り次第結果を出そうとする」

「今回は訓練と学校の課題ぐらいしかしているように見えなかったが…」

「……今回だと、個性訓練のときは個性使用の許容量超えて訓練してるし、課題もずっと先の分まで進めてある。あと、振り回されたのも一因だと思う」

「振り回された?」

「追加のサポートアイテムの用意とか、尻尾取りの訓練とか。他人に決められたりすんの出留は苦手だから…普段は流せただろうけど、……本当に、今回は何もかも重なってタイミング悪かったんだろうな」

息を吐いた爆豪が髪に触れていた手を止めて離す。ポケットから携帯を取り出すと指先が画面に触れて文字を打ち込み、一分もかからずまた携帯をしまった。

空にした右手を緑谷に戻すことなく自分の左手と結ぶと目を瞑る。

「…出留は兄だ」

「……ああ」

「出留はいつでも兄であるために正しい選択をして、正しい兄になろうとしてる」

「…?」

“正しい兄” 。妙な言葉はどこかで聞いたことのあるもので、記憶を探る。いつだったか、割と最近だった気はするがいかせん毎日が慌ただしく記憶が埋もれすぐには出てこない。

「正しい兄になるために必要なものは明確に決まってねぇから、相手の反応、周りの様子を見てこまめな修正をしてる。だからその指針がねぇと出留は不安がるし、自分が何をしていいのかわからなくなる」

「………好きなことをすればいいだろう」

「…出留は、」

コンコンとノックが聞こえて返事をするよりも早く扉が開く。振り返って見たそこには訓練終わりのためか私服の緑谷が立っていて、ファイルを抱えていた。

靴を脱いで迷いなく入ってきた緑谷は俺の向かいに立って、抱えていたものを差し出す。

「…………先生、試すような真似をしてすみませんでした」

「………俺達が気づくかどうか、計ってたんだな」

「本当にすみません」

二人が頭を下げるから息を吐いて、ファイルを受け取る。

「………これは、抜かれてたページか?」

「はい」

「…誰なら見ていい」

「先生と同じ考えに至ってる人までなら誰でも」

「……わかった」

受け取ったファイルは重さからいって三十ページほどで、それだけ抜かれていたのであれば俺達が気づいたあからさまな部分以外にも抜けているところがあったことになる。

ヒントは寄こしてきていたのだろうが、あまりに大胆に隠されたそれにまたため息が溢れた。

「今後はもっと人を頼って行動するように。以前と違いここはお前たちしかいないんだ。二人では限界があるだろう」

「…デク」

「…かっちゃん」

視線を合わせた二人はすぐさま眉根を寄せた。

「僕は反対」

「俺は賛成だ」

「なら勝負だね」

「ああ」

「………は?」

すっと右手を出して、向かい合う。

「「じゃんけんぽい!」」

「あ、負けちゃった」

「……んじゃ、賛成でいいな」

「うん。決まったことはしょうがないもん。そうしよう」

パーを出した爆豪とグーを出した緑谷はすぐに手をおろして俺を見た。

「ノートを見てもらって、不明な点がありゃあ可能な限り俺達でフォローする。なるべく出留のことに関しては相談するし、手伝ってもらいたい」

「……………もしかして今のじゃんけんはそれか?」

「はい!」

「お前ら…なんてことをあっさり決めているんだ…?」

「昔から意見が真反対になった時はじゃんけんって決まってるんです!」

「平和的だろ」

「それはそうだが…悔いはないのか?」

「「ない」」

言葉を揃えた二人に目を瞬く。高校入学時から調べた中学時代の二人のやりとりは平和とは言い難く、そもそもいじめの被害者と加害者で二人の仲は最悪だったはずだ。

「…………普段からそうしてくれ」

「兄ちゃんがいる時はとことん話し合うのでそれは無理ですね!」

「出留がいねぇ時だけの意見の決め方だ」

「なんだそれは…」

「僕達が喧嘩したときに止めてくれる人がいる時じゃないと話し合いは駄目って言われてるもので…」

照れたように笑って頬を掻く緑谷に息を吐いて、ここまで兄の存在が関係するものなのかと首を傾げた。

「変わってるな」

「約束は守るものですから!」

「約束破ったときの出留のがこえーしな」

「怖いのか?」

「「怖い」」

神妙な顔で頷いた二人は顔を見合わせて、緑谷がベッドサイドに腰掛けて眠る兄に触れた。

「かっちゃん、兄ちゃんに水分補給とかしてあげるからその間に先生と話してきてよ」

「わかった」

顔を上げない緑谷に爆豪は頷いて、俺を一度見ると扉に足を進めた。

「先生、買い物ついでに話の続きさせてくれ」

「……ああ」

有無を言わさない爆豪の様子に、後ろについて外へ出る。扉を閉め、エレベーターホールに向かう爆豪を追い掛ければ開いたエレベーターから紫色が現れた。

「爆豪?」

眠たそうな目を瞬いて、爆豪、それから俺を見た心操は首を傾げる。

「緑谷が見てるんですか?」

「ああ」

「そうなんですね」

ひとまず納得したような心操がエレベーターから降りて、爆豪はエレベーターに乗らず扉が閉まるのを見送った。

「爆豪?」

「………さっきの話」

舌打ちの後、視線を上げた爆豪が俺を見てファイルを見据える。

「心操にも見せるんか」

「もちろんだ」

「え、なんの話…?」

「………そうかよ」

もう一度ボタンを押してエレベーターの扉を開く。爆豪は乗り込むと大きく息を吐いてうつむいた。

「買い物行ってくる。10分くらいで帰ってくる。……それ読んだらまた、俺に声かけてくれ」

「それ…?」

心操は俺の持つファイルに気づいて目を瞬く。中身が何か察したらしいその様子に、爆豪はさっさとエレベーターを閉めて寮を出ていった。

「………それ、抜けたページですよね」

「ああ。二人から借りた。………先に確認するか?」

「……いえ、先生が見終わってから見たいです」

「わかった」

「…えっと、俺は部屋戻るので何かあったら教えてください。失礼します」

「ああ」

心操が自室に入り、扉が閉まるまで見送る。エレベーターを呼び出してそのまま出入り口のところにある管理室へ入った。

ここならば爆豪が戻ってきたらすぐわかるし、邪魔が入ることもない。

息を一度吐いて、呼吸を整えてからファイルを開く。

“兄ちゃんの側にいて問題のない人間の条件”

最初っから重い内容が来る気配しかしない。眉根を抑えてから視線をもう一度落とす。

“兄ちゃんと一定以上の交流があることが必須”
“僕とかっちゃん、それからさらに兄ちゃんの内側の人間”
“僕とかっちゃんが好んでおり、なおかつ兄ちゃんがきちんと話して時間を過ごしたことがある人”

ここでもこれかともう何度目かのため息を吐く。

どこまでも弟と幼馴染が指針な緑谷らしい条件。続けたところにはおそらく今まで内側として認定されて見舞いの許されていたのであろう人名らしきものが並んでいてそこは飛ばす。

“兄ちゃんが素を少しでも見せたことのある人間ならなお望ましい”

そう締められた一枚目。緑谷の素というのがどのようなものか全く心当たりがないが俺はその条件をクリアしているのだろう。

二枚目も同じようなルーズリーフで、今度は原因の推測が書かれていた。

“兄ちゃんと三日以上触れ合っていない”
“近況報告を顔を合わせて五日以上行ってない”

日付や内容を少しずつ変えた跡があるそれは、爆豪の言っていた失敗の痕跡だろう。

“連日五時間以上の運動”
“俺との朝練メニュー一時間以上”
“睡眠時間四時間以下”

可能性のあるものをまとめているのであろうそれらのうちの一つ、朝練メニューの項目は詳細がなかったため、後で爆豪に聞かないとならない。

“言葉に迷い始める”
“判断が鈍くなる”
“人と離れなくなる”
“言葉数が少なくなる”
“体温が六度超えたら二時間以内に発熱”

この辺りは発熱の前兆のことらしい。思い返せば尻尾取りを始めてから確かにこれに似た言動は見受けられ、爆豪がフォローに回っていた。

前兆の可能性として考えられているものが十を越えたところで少しの空白を開けて文字が並ぶ。

“可能性が出始めたら、行動を褒めるか叱るかで回復する傾向にあり”

ページを捲る。恐らく緑谷と爆豪、それぞれが前兆の可能性に気づいた日付とそれに紐づき行った対応を細かく書いていて斜め読みしていく。前兆として考えられていたことが本当に前兆であり、回避できた時とできなかった時、毎度同じ条件でないためか同じ対処をしても必ず結果が良いとは限らなかったらしい。

失敗した場合は日付が引いてあり、恐らく発熱した日付のことでここにはない、最初から見せてもらっていたものにあたる。

記録に目を通して、また捲ったページはまた別のタイトルが振られていた。

“発熱中の兄ちゃんの行動”
“勉強”
“着替え”
“トレーニング”
“普段やっていることをそのまま行おうとしてることが多い”
“無理やり止めると目が覚めるまで長引く”

“否定が原因?”

“兄ちゃんの発熱時の突発的な行動は相手へのアクションを求めるため”

“自分に意識を向けさせるのを目的としている可能性が高い”

“発熱の原因は兄ちゃんを見ているかどうか?”

伊達に何度も発熱の対処をして考察を繰り返しているわけではないらしい。俺と同じような結論に至っている緑谷と爆豪に、寄ってしまっていた眉間の皺を押して解す。

続けて更にノートを捲っているうちにノックが響いて、顔を上げれば仏頂面に右腕に袋をかけた爆豪が立っていて、扉をあければ中に入ってきた。

「買い物は済んだのか」

「ああ。……読み終わったんか」

「大体は。…かなりの量、試行錯誤しているらしいな」

「………別に。……出来ることしか、俺らはしてない」

視線を落とした爆豪にノートを横に置いて、そういえばと先程抱いた疑問を口に出す。

「朝練は何をしてるんだ」

「……筋トレは各自。家から目的地までジョギング、そっから組手」

「………その内容なら普段の訓練とあまり違わないどころか、よっぽど軽いように思えるが…」

「……組手は個性ありだ。それに出留は個性使いすぎんと体調悪くなんし、本当なら長時間使うもんじゃねぇよ」

「体調が?」

「……………出留から何も聞いてねぇか?」

「ああ」

「…そうか」

一瞬目を見開いてすぐに戻した爆豪はどこか悩んでいるようにしか見えず、初めて聞いた話に頭が痛くなる。

「どんなふうに不調が出る」

「………出留が言ってないんなら、俺から言うことじゃねぇ。目ぇ覚したら本人に聞いてくれ」

「…合理的じゃないな」

「弱みをわざわざ吹聴しねぇだけだ。デクは知らねぇから聞いても無駄だぞ」

「……なぜ弟は知らない?」

「兄が弱いとこ弟に見せるか?」

「…そういうものか」

爆豪の言う事は正しいのかわからないが、一般的に年長者が弱みを見せることは少ないかもしれない。

頷いた俺に爆豪はノートに視線を落として、目を瞑る。

「他になにか気になったことは?」

「まだ読み込めていないからその都度確認を取らせてくれ」

「わかった。心操にも質問が出たら俺に声かけるよう言っといてくれ」

「………緑谷に声はかけないほうがいいか?」

「デクもきっちり答えるけど、彼奴に話しかけんと無駄に長話になんし、いちいちマウントとってきてイライラすんからよっぽどじゃなきゃ辞めたほうがいい」

「…伝えておく」

「ん」

爆豪はそのまま緑谷のもとに向かうためか背を向けると扉に手をかけて、止まった。

「………出留のあれは、治ると思うか?」

少し掠れた、小さな声。問いかけられた内容に手元のノートが重みを増した気がして、慎重に言葉を選ぶ。

「…専門医でもなく、緑谷との交流が浅い俺が断言することは難しい。……だが、原因さえ見つかれば治ると仮定するなら…君たちがこれだけの履歴を貸してくれたんだ。今は君たち二人だけじゃない。俺達全員で、検証して見つけよう」

「……ん」

俯くようにして頷いた爆豪は息を吐いて、もう一度頷く。足を引いて方向を変えると俺に向き合った。

「出留にこれ以上、負担は掛けたくねぇ。…なんでも手伝うから気づいたことを教えてください」

「ああ、もちろんだ」

爆豪の眉間の皺が微かに薄くなる。

「君たちにしかわからないことも多い。そもそも緑谷の自己承認欲は強いのか弱いのか、それは俺に判断がつかん」

「‥…比べる基準もねぇし、んなもん俺だってわからんわ」

「そうでもないだろう。緑谷の喜怒哀楽の沸点に関して俺達には見極めが難しい。共にいたのは幼馴染であり弟の君たちにしか判別できない。これからも頼んだぞ」

「…………ん」

口元を緩めた爆豪は目尻を下げていて普段とまとう空気が違う。

柔らかなそれに俺が驚いている間に爆豪は手をかけていた取っ手を押して、部屋を出ていった。

追及 出久視点
追及 勝己視点
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