念能力者の平易生活


彼が俺の下について二年、三年、六年。初めて会った時から数えればもう七年経つ。

背は伸びたけれど、彼は相変わらず人形のようだ。

一向に彼の単独行動は良くならなかったけどたしかに仕事はできる子で、今もたまってしまい押し付けた資料を黙々と片付けてる。

『………』

ただ、資料整理でも戦闘中でも抱えられてるあのぬいぐるみはどうにかならないかな

『青雉大将』

ふっと前に影ができ前にシャーネくんが立つ。

『異動らしいです』

「え、そうなの?」

紙を一枚差し出してまた椅子に戻ってく。

紙にはシャーネ・ロナイラの昇進に伴う異動の検討が書かれてる。

そういえばこの間この子また億超えの懸賞首捕まえたんだっけ

計六年で三等兵から少尉になった彼は六年間無視してたけどとうとう今回中尉になる。

あの時センゴクさんが彼を野放しにしていたらいい具合の懸賞金がかけられただろう。

もしかしたら七武海かなんかになって俺の目の前に現れたかもしれない。

「これ、君が隊長なって小隊率いることになるらしいけど、シャーネくんはどうしたいの?」

『好き勝手できる今のポジションが楽だと思うし動くの嫌だ。本当なら昇進も面倒だもん。ね、テム』

ああ、安定だわこの子

ぬいぐるみと話し始めた彼に息を小さく吐いてもう何度目かになる嘆願書を書くことにした。





駆りだされたのはこの世界でちょっと有名らしい海賊の討伐。

一応上司の青雉さんは本部に呼ばれてて、この小隊でナンバー2らしい僕が指揮を取れとかなんとか

めんどくさくて視線をそらすと目があった隣の子。

『君、僕の代わりね。』

「え」

『僕ちょっと出かけるから』

勝手に小舟を出して乗り込めば上から少尉?!と叫ばれた。





世の中では悪魔の実とかいうものがあるらしい。

人間らしからぬ力の代わりに海を泳げなくなるその力はカイロウセキとかいうやつで無気力化できるとのこと

念とは少し違うらしいね

『………あれ?』

すれ違った大きな船に首を傾げればその船も僕を見て首を傾げた。

「ん?」

どこかで見たことのある海賊旗な気がする。

名前は覚えてないけど。

「おじょーちゃんそんなとこでなにやってんだ?」

鼻の長い人が僕を見て声をかけてくる。

僕はどう見ても女の子じゃないんだけど長いこの髪のせいなのな

『たぶん放浪中』

「なんじゃそりゃ」

赤髪が同じように顔を覗かせて笑う。

ほの顔が見覚えあった気がするけど

「迷子か?」

『ある種迷子だけど戻れるから迷子じゃないと思う』

出てくるときちゃんとエターナルポース持ってきたし。

「そうかそうか!まぁ、気をつけてけよ!」

懸賞首が呑気なものだと思う。

酒でも入ってるのかな

『そっちこそ、気をつけてないと首取られちゃうよ』

「そりゃいい、ちょうど退屈してたところだ。」

どこまでも楽しそうなのに隙が少ないのはさすがというべきなんだろう

「じょうちゃん、普通の子じゃねぇだろ?」

船を蹴って飛び上がり赤髪の後ろに立ってネムを背中に押し付けた。

『僕、嬢ちゃんじゃないよ。』

「おー、これは失敬失敬、じゃあ坊主か!」

『うん。』

ネムを腕の中に戻してあたりを見渡す。

男だったのかよとけらけらみんな笑ってた。

「で、坊主はこんな海に小舟浮かべて何してんだ?」

『ちょっとおもちゃでも探そうかなって思って』

おもちゃっていうのは普通は玩具を指すんだろうけど、僕が指すのは遊び相手だ。僕が変なところに来たせいであの子達いないからつまらなくて仕方ない。

僕の相手をするからにはそこそこ強くて面白そうな子じゃなきゃね

「ほー、そのおもちゃとやらは見つかったのか?」

『たぶん、まだなにも。……赤髪が僕のおもちゃになってくれるなら別だけど』

空気が少しだけ冷たくなって、僕は特に何するわけでもなくネムを抱っこしてた。

この世界では覇気というらしいそれは僕達の言うところの念に似通ってると思う。

「坊主、覇気つかいか」

『僕、覇気は使えてないと思う』

赤髪が目をぱちくりとして、笑った。

「面白いやつだな、名前は?」

『ロナイラ・シャーネ…、こっちでは和の国みたいに名前が後らしいからシャーネ・ロナイラだよ』

「………ロナイラ?」

『そう、ロナイラ』

愛称は僕のおもちゃだけに教えることにしてるから名前だけ

赤髪は首を傾げ、周りの人たちもあれっ?と首を傾げた。

「ああ、お前あれか、海軍の」

参謀というより右腕ポジションっぼい人が言えばみんながああと手を叩く。

『たぶんそう』

「べックマン!こんなにちっさいやつがそうなのか!」

「大きさは関係ないだろ。まぁ、たしかに細いやつだが」

物珍しそうに見られる。

囲まれるけど誰もが敵意はなさそうで、不思議なような戸惑うような空気に耐えられずネムで顔を隠した。




『赤髪、僕のおもちゃになる?』

「ん?いや、遠慮しとくわ」

『そ、残念』

帰ろうと手摺に立った。

もとから特に期待してなかったし、おもちゃがここで見つかったら僕の旅が終わってしまう。

「おーい、お前ビブルカード持ってるか」

「おい、シャンクス」

咎めるような声に軽く笑って返す赤髪。

たしか、べックマンと呼ばれてたその人はは呆れたように首を振って船内に向かった。

『持ってるけど』

「よーし、じゃ俺のと交換だ」

勝手にあげると青雉さんが拗ねるから嫌なんだけど嬉々としてカードを渡されちゃったから仕方ない

自分のを取り出して、手摺に立ってる分高い僕は赤髪を見下ろした。

目の傷がいかついけど、大きな目と綺麗な赤髪が整った顔なのを物語ってる。

泣かせたら面白いかもね

『思いだしたら来ると思うよ。』

「おー、いつでも歓迎するぜ」

船長の懐の広さが赤髪海賊団の強さに繋がってるんだうか

蜘蛛や盗賊とは違うつながり方をする海賊っていう生き物、集団はやっぱり僕向きじゃないないと思う。

『もうちょっと攻め顔なら僕の好みだったのにね』

無防備に笑った顔がかわいい感じで残念だ。

聞き返そうとした赤髪の鼻に短く口付けてカードを握らせ後ろに落ち船に着陸した。

さて、おもちゃ探しにいこう





「ガキに遊ばれてやんのw」
「最近のガキはこえーな」

「大人で遊ぶんじゃねぇ!!」



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