ヒロアカ 第一部


全員の目が覚めたところで体調と怪我を確認する。幸い黒霧さんとマグネがあの妙な黒いもので胸を刺された以外は軽い打撲程度で弔とヒミコちゃんに至ってはほとんど傷がなかった。

「んで、結局そいつはついてきたのかよ」

「出留はもう少しだけ一緒にいてくれる」

『よろしくお願いします』

「結局こいつなんなんだ?」

「俺の友達」

「まぁ素敵ねっ!出留くん!私はマグネ、改めてよろしく!」

「俺はトゥワイス!よろしくな!さっさと帰れ!」

『うん、よろしく』

交友的なのはマグネとヒミコちゃんとトゥワイス。コンプレス、スピナーはまだ半信半疑の様子見。荼毘からは妙に訝しんで警戒してるような目を向けられてるから触れることはやめておく。

「これから私達は改めて活動を行っていきます、皆様には是非とも協力をいただきたく、」

「黒霧」

話を流そうとした黒霧さんに弔が不機嫌そうに口を挟んで、みんなの視線が移動する。弔は見据えられて同じように全員を見つめた。

「…もし、今回のことで難しいと思ったんなら抜けてくれ」

「死柄木弔、」

狼狽えるように言葉を止めようとした黒霧さんにまぁまぁと俺が間に入る。弔の言葉に一番に笑ったのは荼毘だった。

「乗りかかった船だ。連合の一味としてカウントされたからには今更投げ出したりしねぇよ」

荼毘はどんな目的を持ってここに入ったのかそもそもわからないけど、最初に意見を発するなんて意外にここに拘ってるのかもしれない。

「弔くんと私はお友達!どうせ壊すならお友達と一緒にこんな生きづらい場所壊して楽しく過ごしましょう!」

「俺もエンターテイナーとして途中で舞台を降りるのはプライドが許さない。今回は出鼻くじかれちまったけど次はもっと派手なステージで魅せようぜ!」

ヒミコちゃんは予想通り、コンプレスが次に答えたのは意外。

「俺はなんもできねぇからここで何かしてぇ!だから一緒にいさせてくれ!俺は帰るぜ!ずっとついていくぞ!」

「あらあら、結局どっちなんだかわかりにくいわね。アタシも、アタシたちが否定されない世界に生きたいの。そのためにアタシはここに入ったんだから、今更逃げ出したりしないわ」

トゥワイスはさっき弔に教えてもらった通りなら人格が複数あって相反した言葉を言うらしいけど、これは肯定。マグネも周りを見てホッとしたように息を吐いて笑うから間違いない。

一人、残ってたスピナーは呆れたように大きく息を吐いた。

「青年の主張かよ。恥ずかし」

「おうおう!そういうスピナーはもう嫌か?!一緒に来ないか!?じゃあスタバ行こうぜ!」

「行かねぇよ。……俺も、俺が見た自由な世界を目指してぇんだ。必ずこんな世界はぶっ壊す」

「…………そうか」

弔は全員が離れなかったことに口元を緩めて、こちらを見てくるから頷いて背を叩く。

改めて前を見た弔はすぐにこっちに顔を戻した。

「出留」

『ん?』

「これから何したらいいんだ?」

『え、俺に聞く?』

「…こういうの初めてでわかんねぇ」

『あー、黒霧さん』

「ふふ。私は死柄木弔の補佐であって先導者ではございません。よろしくお願いします、出留さん」

『俺も友達であって敵じゃないし、悪いこと考えんの得意じゃないんで頼まれても困るんですけど?』

「え、敵じゃないの!?」

『どこに驚いてるの??』

マグネとヒミコちゃんが目を丸くしてトゥワイスも固まる。コンプレスは首を傾げて荼毘が白けた顔を浮かべるとスピナーがまじかよと息を吐いた。

「お前じゃあなんでここいんだ?」

『成り行きかなぁ』

「ついてきたんじゃないのかよ」

『んや、強制的に磁力で引っ張られてぽんっと』

「たしかに、出留くん飛び込んできたっていうより弔くんと同じで投げ込まれた感じでしたもんね」

『そうそう。……ま、俺のことなんて放っといて…そうだなぁ、このあとは…』

隣の弔、それからにこにこと見守ってる黒霧さん、後は困惑とか色々思ってることがあるだろう周りを見渡して最後に弔に戻した。

『腹減ったし飯食わね?』

「お!そうだな!俺も腹減った!」

「出留最高だな!!肉!魚!」

「アタシ甘いものも食べたいわ!!」

「スタバ!スタバ飲みたいです!」

「焼肉!焼肉!!」

『黒霧さん、予算はどうですか?』

「ふふ。折角の初晩餐です。豪勢にいきましょう」

「なら俺は中華がいい」

「マーボードーフ!」

ごきげんな様子は本当に敵かと思わず笑ってしまって、とんっと体にぶつかって持たれてきた弔に目を瞬いた。

『どうした?』

「………なんか、こんな風にうるさいのにイライラしないの初めてだなって」

『ああ。…楽しい?』

「これ……たのしい…のか…?」

『さぁ?弔が楽しいならこれは楽しいって言うと思うよ』

「……………わからない」

『そっか。そのうちこのイライラしなかったのがなんでなのかわかるといいね』

「ん」

顔を上げて、いつのまにか焼肉か中華の二大派閥になっている晩餐メニューにマグネとヒミコちゃんがこちらを見た。

「出留くんはどっち!?」

「どっちがいいと思います?」

『んー』

荼毘、トゥワイスは中華、コンプレス、スピナーは焼肉。残りの二人と黒霧さんは中立。ちらりと隣を見れば弔も中立のようで、食べたいものを口にする。

『野菜と魚が食べれるさっぱりした方かなぁ』

「男だろ!肉食え!」

「どっちでもねぇ選択肢だすな!!」

トゥワイスとスピナーが批判するから笑って黒霧さんを見上げる。

『ちなみにどうやって調達します?』

「まぁ宅配が無難でしょうね」

『それなら中華宅配して、俺、肉とバーベキューコンロ買ってくるんで外で食べません?』

「折衷案か。まぁなんでもいいけどよ」

「バーベキューとか夏っぽい!」

「ご飯の後に花火したいです!」

「まぁ!素敵ね!」

「ふふ、楽しそうですね」

穏やかに揺らめいた黒霧さんに弔がぐいぐいと服を引っ張った。

「出留、出留」

『なぁに?』

「早く飯食おう。すごく、たのしそうだ」

『…ん、そうだな』

目を輝かせてる弔に頭をなでて、まずはどうやって誰が買いに行くかと顔バレのしてない人間を選別することにした。

仮面を外せば顔面が割れてないコンプレスと眼鏡に前髪を上げ適当に変装した俺の二人で近くのジャンクショップまで黒霧さんに移送してもらい、肉や野菜、バーベキューコンロなど必要なものを買って一度置いてくる。

その後に適当な名前で注文をかけた中華も隠れ家の一個に宅配した商品も取って元の場所に帰ってきた。

『お待たせー』

「早かったな!おせー!待ったぞ出留!!」

「腹減ったー!」

「さ!始めるわよ!」

先に渡しておいたコンロはすっかり組み立てられて炭が組まれて火が点ってる。置かれた網の上に待ちきれなかったのか食べやすい大きさに切った野菜や肉を乗っけようとしてるスピナーがいる。

弔はどうしたらいいのかわからなそうにきょろきょろしてるうちに近くの椅子に座らせられたらしくおとなしくしている。隣で黒霧さんとヒミコちゃんがカップ片手に笑ってた。

「肉!」

「麻婆豆腐!」

それぞれが食べたいものを取って食べ始める。どこの隠れ家からもほどよく離れている森の中。酒もないのに賑やかな空間。肉が焼かれて油の跳ねると音と上がる煙を眺める。

「………これがバーベキュー」

『バーベキューは初めて?』

「初めてだ」

勢いについていけず、放っておいていたらなにも食べられない弔を見かねてか、面倒みが良いんだろうスピナーは焼いた肉を、トゥワイスは中華を皿によそって分けてくれてる。

ちまちまと食べながらも弔は口元を緩めているから楽しんでるんだろう。

「これの次は花火するのか」

『そうだね。花火もいっぱい買ったし、あと、デザートにアイスあるよ』

「!」

この間の時から甘いものが好きなのを把握しているから買っておいたそれに弔は表情を明るくして、たぶんアイスはマグネとヒミコちゃんにも好評だろう。

もらった回鍋肉を食べた弔が口元を汚したからティッシュで拭ってあげて、弔はぎゅっと目をつむった後に開く。

「出留、明日もバーベキューしたい」

『んー、栄養が偏るから駄目かなぁ?黒霧さんと相談しとく』

「ちっ」

『あははっ』

視界の端で黒霧さんが拝んでくるから不貞腐れるように眉根を寄せた弔に笑って誤魔化す。

「…うまいもんじゃなきゃヤダ」

『マズイものをわざわざ食わせないから安心してよ』

「明日は何食べるんですか!」

『なにがいいかな?』

「トガはおいしいものがいいです!」

「それもそうね」

いつのまにか隣にいたヒミコちゃんとマグネはもう満足したのか皿を置いていて、それならと椅子代わりにしていたクーラーボックスを開けた。

『何味がいい?』

「アイス!」

「まぁ!素敵!」

「アイス」

『ヒミコちゃんとマグネどれにする?』

「いちご!」

「抹茶もらいたいわ」

『弔は?』

「……………」

二人の選んだものを渡して、それから弔を窺う。視線が行ったり来たりして、二つで迷うように止まったから二つ取り出してカップを開けた。

『一緒に食べよ』

「はんぶんこか?」

『そ、はんぶんこ』

「………友達らしいな」

『そうだな』

嬉しそうな弔にチョコレートとバニラのそれぞれスプーンを差して、手袋をつけてる手が片方を受け取った。

「うまい」

『それならよかった』

「あ!お前らいいもん食ってんなぁ?」

「俺の分は!?」

「ねぇ」

「ずるっ!」

『大丈夫大丈夫。ちゃんとあるよ。クーラーボックスから好きなの一個取ってね』

「出留準備いいねぇ!」

「いちごもらい」

「あ!それ最後のいちごじゃねぇか!」

「早いもん勝ちだろ」

荼毘がさっさといちご味を取っていってトゥワイス、コンプレス、スピナーも同じようにアイスを取る。最後に黒霧さんも取って、アイスを食べきった。

「花火!」

「花火しようぜ!!」

「荼毘!火ぃつけてくれ!」

「俺はマッチじゃねぇぞ」

「えー!困ります!」

「ライター持ってるか?」

「おじさんタバコは吸わないんだよなぁ」

「だーびー!」

バタバタするトゥワイスに弔がこちらを見る。

「…花火…できないのか?」

『あ、』

「、」

哀しそうに揺れた瞳に荼毘が固まって、ヒミコちゃんが同じように寂しいですと追撃する。二人の瞳に顔を逸らして、その先にいたらしい俺と目があった。

「おい」

『あの、火種になりそうな元素供給しますのでよかったらご協力くださいませんか、荼毘さん』

「…………一回しか灯さねぇから消火すんじゃねぇぞ」

『はい』

揺らめいた蒼色の炎に個性を集めて、そこに火種を用意する。使いすぎないよう適切に元素をいくつか浮かべて灯し続ける。

「花火ー!」

「ひゃー!」

「わ!こっちむけんな!」

「すごい…きれいだ…!」

手持ち花火の光に目を輝かせる弔、振り回して遊ぶトゥワイスに追い掛け回されて怒るスピナー。ヒミコちゃんは色の変わる花火を手に持って、マグネが写真を取ってあげてる。荼毘さんは頬杖をついて、黒霧さんはゆらゆらと様子を眺めてた。

「思った以上に子供が多いねぇ」

コンプレスが小さく笑ったけれどその実楽しそうで、伸びてきた手が弔の頭をなでた。

「なんだ?」

「楽しいか?」

「ああ。…ほら、コンプレスもやれ、楽しいぞ」

「たまにはそうだな。ありがとさん」

渡された花火に導線を操って火をつける。蒼色の火が一瞬強く灯ると次に赤く光って音を立てた。

「…きれいだ」

「だろう。まだあるぞ」

「それは死柄木がやりな。おじさんはこれで満足だ」

「そうなのか?」

「弔くーん!写真とりましょう!」

「ん」

近寄ってきたヒミコちゃんと携帯を向けるマグネ。弔がきょとんとしながらも顔を上げてに写真に映るからコンプレスが俺の肩に手を置いた。

「不思議だねぇ。敵ってのは裏側なのに、こんなに眩しくて楽しい」

『…コンプレスは今まで楽しくない生活してたんだ?』

「そりゃあ敵になるくらいだからねぇ」

『そう。まぁ、みんな楽しそうなら良かった』

「…変わってんなぁ」

コンプレスが仮面をかぶり直して顔を隠す。照れてるようにもあきれてるようにもきこえる不思議な声色。コンプレスがここにいるのは然るべき流れだったのかもしれない。

「あ」

『ん?どうした?』

「花火なくなった」

いつのまにか全部使い切ってしまったらしい花火に弔は肩を落として、隠しておいたそれを取り出す。

「出留、お前それ…」

『一回やってみたかったんだよね』

「おいおい、まじかよ」

「そんな目立つもの…」

「こんだけ騒いでおいて今更だけどな」

周りを石で固めて、しっかり立てる。

『あ、火』

すっかり目を離していた火種はもう燻りもしてない。どうしようと考えるより早く横に人が立って蒼色が揺れた。

「貸し一な」

『はい、ありがとうございます』

導線に火種が落ちて、俺と荼毘さんは離れる。じりじりと火が近づいていき、筒に届いたところで一瞬静かになったと思うとばんっと音がして筒から飛び出した光が大きく空で開いた。

「っ!」

『ん?びっくりした?』

「先に言っといてくれ」

ばんっとまた続けて光ったそれに弔は音の度に目を丸くして俺の服を掴んだ。それでも顔は上を向いていてきらびやかな花火に表情をゆるめる。

「いやぁ、最後に打ち上げって考えが派手だねぇ」

「楽しいです!」

「またやりたいわね」

楽しそうに笑うみんなに向こう側からか通報でもされたかサイレンの音がして、慌ててみんなで必要な物だけ持って黒霧さんに飛び込み逃げる。

帰ってきた隠れ家にみんなで笑った。

「やばっ!今時学生でもこんなアホやんないだろ!」

「すごい楽しいわね!」

「つかなんでバーベキューコンロ持ってきたんだ?」

「だってまたやりてぇじゃん!」

「クーラーボックスも持ってきましたよ!」

けらけら笑う五人に荼毘さんがうるさと息を吐きながら口元を緩めて、黒霧さんがさてと靄をゆらした。

「それではこれから自由時間といたしましょうか」

「あー、なんか楽しいしもう今日は満足だわ」

『風呂入りたいかなぁ』

「あ!私も入りたいです!」

「焼き臭いもんね」

「眠い…」

「俺ももう寝てぇ」

「寝室代わりの部屋はこちらです」

ここはアパートみたいな造りなのか、いくつもある扉に分かれて寝る人と風呂に入る組に分かれた。

俺も風呂に行こうとしたところで服が引かれる。

「いずる、おやすみ」

『…ああ、おやすみ』

「きょうはたのしかった、ありがと」

寝ぼけてるのかたどたどしく、緩く笑った弔はふらふらと扉の向こうに消えていった。

「出留さんも早めにおやすみくださいね」

黒霧さんに手を振って風呂に向かう。

今日は本当に楽しかった。これならまたやってもいいなと思いながら浴室の扉を開けた。



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