ヒロアカ 第一部




火曜、水曜と勉強会をして、そして木曜日の今日は人使との勉強会だ。放課後、雄英の図書室で勉強することになり初めて足を踏み入れた図書室は壮観だった。

たくさんの本に純粋に読書を楽しめるスペース、勉強するためにか机も並べられていて空調も程よく管理されてる。

見渡しながら隅の方に向かう。時期的なものなのかそれなりに人のいる室内は誰もがノートか教材と向き合っているようで、一人で勉強している人間もいれば複数人で集まって小さな声でやり取りしながら勉強してる人も見受けられた。

「そこの端でどうだ?」

『いいんじゃない?』

見つけた二人がけに荷物を置く。横並びに座って教材を開いた。

授業が終わると自然とわからないことを聞いてくるようになった人使の不得意な科目はいつかにも言っていた物理で、今日も物理メインで勉強する気らしい。

開いた教材を解き直して、答え合わせてわからないところは声をかけられて、繰り返してると不意に話し声が耳に届いた。

「駄目だ、わかんねぇ…っ!」

「頑張りな、鉄哲。いくら実技で挽回したって筆記が良くなきゃ林間合宿行けないよ」

「くそっ…」

ハキハキとした話し方をする女子と、頭を抱えてる少しガタイのいい男子。どこか見覚えがあるような気がして、首を傾げてると人使が息を吐いた。

「体育祭だろ」

『あ、騎馬戦の時の…?』

「男子生徒はトーナメントにも出てたぞ。どれだけ記憶に残ってないんだ…?」

『そういうこともあるよね』

ペンを回せば人使がまたため息をついて、それから目を逸らす。

「ヒーロー科は夏休みに林間合宿があるらしい」

『へー』

「朝から晩までみっちりトレーニングするんだろうな」

『かもね。なら今年は出久と勝己は祭りもプールもいけないなぁ』

「………………」

唇を結って視線を落とした人使にペンを置く。見ればもうすぐ閉館の時間で、ちらほらと帰り始めてる人もいた。

『期末、実技テストで結果出せば人使だって来年には林間合宿行けるでしょ』

「……来年じゃ、」

『てかさ、今年の夏、相澤先生に突撃すれば?』

「は?」

『相澤先生たぶん人使のこと気に入ってるから訓練見てくれそうじゃない?職業体験のときもとりあえず二週間様子見て、その後継続するかは人使が決めてくれって言ってたし』

「それは…」

『あの人世辞とか言うようには見えないし、元から今後も面倒みたいと思って職業体験誘ってるでしょ?』

「…………」

『手始めに先生に特攻する??』

まだ教師は職員室には居るだろう。時計を見た人使が一瞬表情を歪めて、何かを堪えるように目を逸らすと笑った。

「ああ。ちょっと付き合ってくれるか?出留」

『りょーかい。そんじゃ、入れ違わないようにすぐ行こ』

教材を片して図書館を出る。足早に職員室には向かって、扉をノックした。

「あら、どうしたの?二人とも」

「あの、相澤先生はいらっしゃいますか」

「相澤くん?まだ居るわよ?呼んでくるから少し待っててね?」

出てくれたのは担任で職員室内に戻る。まだ残ってることに安心したように息を吐いて肩の力を抜いた人使は手を握ると唇を結った。

「おまたせ」

「どうした、お前たち」

担任の横、現れたのっそりとした影。ぱちりと眠たそうな目を瞬いて微かに首を傾げる。

人使が視線を左右に振るから背を叩けば固まって、それから両手を強く握った。

「あ、あの、夏休みなんですけど、訓練を見ていただけませんか」

「?」

更に目を瞬いた先生に人使が不安気に視線を揺らし、先生が口を開いた。

「最初からそのつもりだっただろう」

「え、」

「?」

「そうなんですか?」

「そうじゃないのか?」

「…………相澤くん、もしかして貴方きちんと伝えてないんじゃない?」

『なるほど。会話が噛み合わないわけですね』

周りから見ていて違和感に気づいた俺と担任が呆れ笑いを浮かべる。目を瞬く相澤先生と混乱してる人使に、とりあえず人使へ手を伸ばして目を合わせた。

『先生は最初から人使に訓練つける気だったみたいだよ』

「まじか」

『ん。林間合宿より楽しそうじゃん?良かったね、人使』

「ああ!」

きらきらした目の人使に笑っていれば担任に何か言われたらしい相澤先生が頭を掻きながら目を逸らす。

「すまん、言葉が足りなかったな。職業体験終わりから連絡をしていなかった俺の責任だ。今後も了承が得られるなら訓練を続けたい。俺に指導させてもらえるか?」

「も、もちろんです!お願いします!」

明るい表情の人使に良かったよかったと笑えば不思議そうな二人の視線が俺に向く。

「出留もだろ?」

「お前もだぞ」

『え、俺もですか?』

「また他人事だと思ってたのね…?」

担任の声にあーと言葉を溢して目を逸らした。

夏休み、詳しくは聞いてみないとわからないけどきっと出久や勝己と特訓したり遊んだりするだろうし訓練は俺の今後に需要がない。

『俺は別にクラスアップも目指してないし、ヒーローになりたい訳じゃないから…』

「それは…そうだけど、」

人使が言い淀む。微妙な空気にしてしまったことへ申し訳無さを覚えて謝ろうとしたところで相澤先生が言葉を発した。

「緑谷」

『あ、はい』

「俺はお前がヒーローになるために指導する訳じゃない」

「相澤くん?」

何を言い出すのかと固まった人使と担任に頷く。

『そうなんですか。そうしたら俺はなんのために訓練するんですか?』

「レベルアップしていく彼奴らを守るためだ。このままじゃさすがに君の能力を持ってしても力が足りなくなる。守れなくていいのか?」

『それは全然良くないですね』

「心操の訓練はクラスアップを目標にヒーローになるための身体能力や判断力の向上を目的としてる。緑谷の訓練は純粋に自身の能力値の底上げだ」

『はー、なるほど』

「言っておくが弟と幼馴染は夏休みも林間合宿や講習があるから時間はない。お前も暇な時間を持て余すよりは同級生の訓練を手伝っていたほうが有意義じゃないのか」

『まぁそれもそうですね』

「……訓練は継続でいいのか」

『はい。よろしくお願いします』

相澤先生が息を吐いて無表情になった。話は終わりかと隣を見れば固まってた人使と目があってぱちぱちと瞬きをしてから首を傾げられた。

「本当にそれでいいのか?」

『駄目な理由がないからね。夏休みもよろしく』

「あ、ああ、うん」

微妙な表情の人使はどことなく安心したような色を混ぜていて、担任が笑い声を転がす。

「緑谷くんらしいわね。そういえば、実技テストも受講でいいのかしら?」

『、あー…』

「思い切り忘れてたみたいな顔をするな」

『いやぁ』

「……受けない気なのか?出留」

『うーん』

「どこが引っかかってる」

聞かれて、目を逸らす。

『再三お伝えしてるかと思いますが、俺はヒーローになりたいわけでもクラスアップしたいわけでもないので…貴重な枠を埋めてしまうのはどうなのかと』

「なるほど、そういう考えもあるのね。でも安心してちょうだい。貴方が参加しようとしまいと、実力と可能性のある子には機会が与えられる。枠に上限はないわ」

『はあ』

「緑谷と爆豪には相談したのか」

『いいえ。二人に知らせてないです』

「なんで話さないんだ?」

『断ろうと思ってたし』

「…は?なんで」

『それは……さっきも言ったけど、受ける必要がないからかなぁ』

「……………」

風を切る音、咄嗟に腕を構えれば痛みが走って鞄が腕に叩きつけられた。それなりに教材の入ってる鞄は重く固くて凶器一歩手前で、唐突な行動に担任と先生が目を丸くする。

「心操くん!?」

「心操?」

「出留、お前…っ」

『え、なんで怒って、』

また振り回された鞄に後ろに退いて、追撃してくるから咄嗟に開いてる窓から飛び降りた。

廊下からも着地した地面の周りにいた生徒からもどよめきのような声が上がっていて、すぐさま追いかけてきた人使に逃げることにする。

後ろからは相澤先生が追ってきていて、そんな状態でも人使はまっすぐに追いかけてくるから嫌でも人目を引いてしまう。

『ちょっ、人使!落ち着いて!』

「……………」

『なんで怒ってんの!?』

「……なんで?それを聞くか??」

『そりゃわかんねぇから、っと!』

「ちっ」

『周りにあたったら危ないって!』

「あてないから大丈夫だ」

『そういう問題じゃ、』

ぶんっと音がしてまた避ける。何故怒ってるのか、知るためにも人使に話しかけているけど求めてる答えは返ってこない。

人のいるところに逃げると周りに被害が出るかもしれない。現在地を把握してすぐに一箇所に向かって方向を変える。彼処なら周りに人も少ないだろうし、壊してしまいそうなものもないはずだ。

「逃げるなよ!」

『なら追いかけないでくんね!?』

「やだ!」

『まじどうしたよ!?』

とりあえず走る。最短ルートを突っ切って、飛び込んだ部屋に室内にいた人間がちらりとこちらを見た。

「あれ?緑谷さん?」

『ちょっと借りんね!!危ないから下がってて!』

「え、はい??」

首を傾げたけれどその瞬間に人使が入ってきて、鞄が投げつけられたから受け止めて自分の分と一緒に横に落とす。その間に近づいてきた人使の振るわれた腕を避けて、足払いをかけた。

「っ」

すぐに体制を整えて退いた人使に目を合わせる。

『何そんな怒ってんの?説明してくんなきゃわかんねぇよ』

「出留がそんな態度だからだ」

踏み込み近づいた人使の足が振りぬかれて、腕で止める。筋トレは続けてるのかしっかりとした重い蹴りに眉根を寄せて、近くにある顔を見る。

怒りと、少し別の色が滲む瞳。なにを考えてるのか見極めようとしたところで距離を取られてしまって人使が唇を結う。

『人使、一回落ち着いて、』

「っ」

ぶわりと怒りを顕にしてまた接近してきた人使に、かける言葉を間違えたかと攻撃をさばく。怪我をさせないよう注意をはらい、力を逃す。

相澤先生は既に追いついているもののなにを考えてるのか俺達を見守っていて、被害がいかないようにか部屋の中の人間を隣に誘導させてた。

攻撃パターンはもう読めていて、制圧も可能だけどそうしたら人使が話をして来なくなる気がして少し考えてから口を開く。

『人使、頼むから教えて』

「……出留がそんな態度だから」

『どのへん?』

「本気出さないとこ」

『へ、』

「出留がやる気ないのは知ってたけど、それでも、出留は俺よりもすごくて、周りからも認められてんだ」

『そんなことは、』

振りぬかれた蹴りが重くて受け止めた左腕に痺れが走る。思わず眉根を寄せると人使は悔しそうに顔を顰めた。

「出留が努力してんのは知ってる。バカみたいにむずい課題だって飯の時間割いてやってんし、どう考えてもハードな筋トレだってずっとやってんし、俺がヒーローに憧れて不平を呪ってた間に出留は動いてた。その力量差はまだ全然埋まる気配がない」

『それは、』

「最初から出留がヒーローに興味ないのだって知ってる。自己紹介ん時の突き放すみたいな無個性発言だって周りと仲良くする気がないのだって、体育祭投げたのも、全部壁を作るためだろっ」

『えっと、』

「っでも!出留は!!」

予備動作なしの右フック。あたらないよう一歩下がって右腕で力を流す。その瞬間視界から外れた人使と足に来た衝撃。視界が揺れたことに足払いをかけられたと理解して、すぐさま手を出して地面につけ、足を上げて側転し体制を整えた。

「ちっ」

「ほう」

「わぁ!」

聞こえた舌打ちと遠くからの感嘆の声。見てないで止めてほしい。

足払いをかけるため屈んだ人使が立ち上がって俺を睨む。

「出留がそんな風に投げやりでも、やる気なくても、周りは認めてるし、俺は憧れてる。それなのに当人がヘラヘラして逃げんなよ。……俺は、俺はもっと、」

ぱっと近くにあったものが投げつけられる。いつの間に拾ったのかさっきまで振り回してた鞄で、飛んできた鞄を受けとめ視線を戻せばすぐ近くに伸びてきてる手があって、思わず足を振り抜いた。

「っ、」

『あっ、やばっ、ごめ、』

脇腹に入れてしまった蹴りに人使の表情が歪んだから謝ろうとして、止まりかけてた腕が伸びて胸ぐらをつかまれた。ぐっと引き寄せられて、次の瞬間目の前に星が飛ぶ。

鼻に走った痛み、どろりとした感覚。頭突きが入ったらしく流れ出した液体が垂れそうになったからすぐ鼻を押さえた。

「は、はぁ、やっと、入った」

『まじでがっつり入ってますよ、人使さん。クソいてぇわ』

「さっきの蹴りのが痛かった」

嬉しそうに笑って、肩で息をする人使が脇腹が痛いのかふらつくから鼻を押さえてないほうの左手で支えて一緒に腰を落とす。

胸ぐらを掴んだまま笑う人使は汗をかいていて、とんっと懺悔するように首元に額があたった。

「俺は、もっと出留と上を目指したい。もっと、一緒に俺といてくれ、出留。…試験、一緒に受けよう」

『………そのために俺チョーパン喰らったの??お前アグレッシブ過ぎねぇ??』

「頭突きはあまりに避けられて腹が立ったからした。正直やりすぎたと思ってる。悪い」

『まーいいけど…』

ぼたぼたと垂れる鼻血をどうにかしようと制服で押さえて、そうすれば近寄ってきた発目さんがすぐ横に屈んで布を押さえつけた。

『ふぐっ』

「血まみれですね、緑谷さん。大丈夫ですか?」

『ん、まぁ。ありがとう、発目さん。手汚れちゃうから自分で押さえるよ』

「もうオイルで汚れてますから気になさらないでください!」

『そういうことじゃないんだけど…』

押さえられてる鼻に仕方なく口で呼吸をする。発目さんは隣の人使を見やった。

「話し合いはできたんですか?心操くん」

「正直まだ話足りないし、攻撃が避けられすぎて腹立ってるけどもう足が動かせそうにないくらい疲れたから辞める。これは明日筋肉痛で死ぬかもしれない」

「ふふふ、よくわかりませんがスッキリした顔してますね!男の子って素敵です!楽しそうですから今度私も混ぜてください!」

「流石に抵抗があるけど、そうだな、考えておく」

『次もあるとか信じられないからやめて…』

にこにこ笑う発目さんに息を吐く。視線を上げれば青春ね!と親指を立ててる担任がいて、相澤先生が仕方なさそうに近づいてきて発目さんと同じように腰を落とした。

「お前の周りは物理に訴える奴が多いな、緑谷」

『ええ、俺も初めて知りました』

「鼻は大丈夫か?」

『多分折れてはないんで少ししたら血も止まると思います』

「、悪い」

『さっき蹴り入れたしチャラだよ。気にすんな』

はっとして顔を上げた人使に息を吐く。

「とりあえず見せてみろ。発目、タオルを一旦外してもらえるか」

「はーい」

外された圧迫。顎に手をかけられて顔が上げさせられる。じっと見られて伸びてきた反対の手が鼻筋を確かめるように触れると離れた。

「折れてもないし曲がってもいないだろうが…血の量がすごいな」

『ティッシュでも詰めとけばそのうち止まりますよ』

「止まりはするだろうが…リカバリーガールを呼ぶか?」

『この間お世話になったばかりなんでやめてください』

たらりと垂れてきた血にまた伸びてきた手がタオルで押さえる。楽しそうな発目さんに息を吐いて未だくっついてる人使と目を合わせた。

『よくわかんなかったんだけど…人使はなんでそんな俺と試験受けたいわけ?』

「…………そうだな、俺もよくわからないけど…出留は一緒に試験を受けるものだと思ってたから、最初から受ける気がないって知って腹が立った」

『おぉう…』

「やる気ないのは出留らしいけど、俺が必死こいて掴んだチャンスを投げようとしてんのは余裕かまされてるみたいで苛つくし、なんだか意地でも認められないように逃げてるみたいにも見えたし……色々考えてたんだけどさっきの蹴りで飛んだっぽいからまた話す」

『……あー、りょーかい。気長に待っとくわ』

思ったより鋭い人使に目を逸らす。眉根を寄せてる間に胸ぐらから手を離されて、人使が俺を見据えた。

「それで、実技テストはどうするんだ?」

『んー、まだ一日あるし、検討したいかな。せっかくだから出久と勝己にも聞いてみたいし』

「あれ?普通科のテストって任意なんですか?」

「この二人はヒーロー科と同じテストを特別枠で受けられる予定でな。その参加可否で喧嘩してた」

「なるほど!すごいですね!お話を伺う限りお二人の実力が認められて特別枠が用意されてるんですよね?どんなテストなんでしょう!ぜひ観覧したいものです!」

「テスト内容は確かに気になるな…どんな内容かは教えてもらえないんですよね?」

「受けてからのお楽しみだね」

にんまり笑う相澤先生に息を吐く。揺れた携帯が地面を這う音で視線を集める。自立してる人使の背から手を離して、携帯を取った。

『ん、もしもしー』

「兄ちゃん!なんかすごい目撃情報がいっぱい入ってきたけどどういう状況!?」

『あー。やっぱ連絡行ったかぁ』

「今どこいんだよ」

『ん?秘密』

「「は???」」

『あははっ』

想定していたとおりの連絡。声がサラウンドで聞こえたことから近くにいるだろうにお互いの携帯から連絡を入れてきていて画面上はグループ通話になっている。

二人の声は近くにいる三人にも聞こえたのかじっと携帯を見てきてるからそうだと話を変えた。

『二人に相談したいことあるんだけど今いい?』

「え、兄ちゃんが相談!?いつだって大丈夫だよ!!どうしたの!?」

「なんだ」

『期末試験なんだけどさ、普通科は筆記だけって言ったじゃん?』

「うん!ヒーロー科とは少し違うって言ってたよね!」

「なんか変更でもあったのかよ」

『んー、それさぁ、ヒーロー科って筆記プラス実技じゃん?俺も同じように実技受けられる権利もらったんだけど、今受けるか悩んでて、どう思う?』

「「、」」

二人が静まり返って電話口から音が聞こえなくなる。壊れたかと目を向けて、それから耳に当て直した。

『出久、勝己??』

「に、にいちゃん、兄ちゃんが、」

「…………」

「うぉっ?!どうした二人とも!何泣いてんだ!?」

「なんか嫌なことあったん?大丈夫??」

『え、二人とも泣いてんの?何事??』

恐らく向こう側で近くにいたのであろうクラスメイトの戸惑うような声。思わず首を傾げれば向こうで鼻をすする音がした。

「兄ちゃんが相談してきてくれて嬉しくて!!」

「…………回答期日、いつなんだよ」

『明日』

「……それ、受ける気なかったんだろ。最初からなかったことにしようとしてたのになんで急に気持ちが揺れたんだ」

『あー、やっぱ鋭いなぁ。まぁ気分転換的な??』

「はぁ?んなもんで出留の意見が変わるわけねぇだろ」

『まぁ色々変わったんだよ。それで、どう思う?』

「受けろ」

「受けたほうが絶対いいよ!!」

『即答だなぁ〜。理由は?』

「公的に体動かせるチャンス。内申も上がりゃ今後ある程度のバカやっても相殺されんだろ」

『なるほど、そういう考えもあるか』

「兄ちゃんのかっこいいとこもっとみたい!」

『ほんと?出久のためなら兄ちゃん超頑張る』

「えへへ!!兄ちゃん!後で実技の話聞かせてね!!」

『うん、もちろん』

「校門集合な」

『はいよ』

電話が切れて、顔を上げる。

ぽかんとしてる人使になんだかさっきも見た気がする表情だなと笑った。

『実技、一緒に受けよ』

「………即決…俺の努力は一体…?」

「本当に緑谷さんはお二人の言葉に弱いんですね!」

『そうかな』

目を瞬いた人使に発目さんが笑って、それから首を傾げる。

「でも意外でしたね。なんでも相談してるのかと思ってましたけど全然お話されてないなんて…泣いて喜ぶなんて相当でしょう?」

『無いことにするなら話す必要ないかなって』

「…それは多分、お二人とも寂しいんじゃないでしょうか」

『え、そうなの?』

「憶測ですからこれ以上はなんとも言えませんが…でも今回話したのは、心操くんがいたからですね」

『流石に友達に追っかけまわされてチョーパンで抗議されたら検討するよね』

「根に持ってるな?」

『どーだと思う?』

笑いあって、担任が近寄ってきたから顔を上げた。

「緑谷くん、試験参加の回答が聞きたいわ?」

『はい、ぜひお願いします』

「ありがとう!楽しみにしててね!!」

頭が撫で回されて眉根を寄せる。ため息が響いて相澤先生が腰を上げた。

「人騒がせな奴らだ」

『あー、すみませんでした』

「すみませんでした」

「いいのいいの!このぐらい可愛いものよ!実際被害は何一つ出てないし!緑谷くん逃げながら周り見て誘導してたでしょ?」

『流石に飾ってある絵とか壺壊すわけにもいかないんで』

「………随分余裕だったんだな」

『え、そこ機嫌損ねるとこ??人使がわかんねぇよ、もう』

「うふふ、喧嘩の続きはまた今度にしなさい?今日はもう痛み分けで終わりよ。緑谷くんと心操くんの実技テストに関しては受理しておくからまた改めて条件とかは詳しく伝えるわね?」

「はい」

頷いたところで担任が発目さんの肩に触れた。

「さて、そうしたら…」

「緑谷、血は止まったか」

「一度外しますね」

タオルが離れて、下を向く。特に垂れてきそうにない血に大丈夫と返せば人使が顔を顰めた。

「この顔見たら緑谷がぶっ倒れるんじゃないか?」

『あー、確かに。どっかで洗わないと』

「お手洗いで良ければ!ハンドソープもありますよ!」

『ありがと。ちょっと借りるね』

人使が離れて発目さんに誘導されるお手洗いの名のとおり、トイレに併設された手洗いにはハンドソープが用意されていて正面についた鏡を覗いて苦笑いが出た。

『これはやばいわ』

「なんで笑ってるんだ??」

『ちょっと面白くて。あはっ、久々にボロ負けしたわ』

「ボロ負け?俺のがボロボロだけど??」

『見た目の話』

ブレザーを脱げば手が差し出されたからありがたく持っていてもらう。下は半袖のワイシャツだったから捲くる必要はないからそのまま水を出して顔を洗う。

水と泡が赤くなって流れる。多少突っ張るような肌の感覚に水を止めて、渡されたタオルで顔を拭った。

「襟に血ついてるな」

『まぁ洗えば落ちるでしょ。ありがとう、発目さん』

「いえいえ!」

ブレザーを羽織り直して、担任から渡された鞄を抱えた。

「気をつけて帰るのよ?」

『はい、お騒がしました』

「すみませんでした」

「せっかくなので私も一緒に帰りますね!さようなら!先生!」

「ああ、気をつけて」

先生たちに見送られて三人でサポート科を後にする。軽く会話をしながら歩いて、校門のところに距離を取って立つ二人を見つけ、手を上げた。

『ごめん、おまたせ』

「兄ちゃ、」

「…は?」

二人は顔を上げるなり目を見開いて、無表情になったと思うとスタスタと近寄ってくる。がっと勝己に胸ぐらをつかまれてさっきもあった構図に目を瞬く。

「誰だ」

『え、』

「どこの誰にやられたの兄ちゃん。お願いだから僕に教えて」

『あー…、ほら、二人とも落ち着いて』

「無理」

「さっさと言え」

覇気迫った二人の表情に頭を撫でてみるけど誤魔化されてくれそうにない。瞳孔の開いた二人に心配そうな発目さんと申し訳無さそうな人使へ首を横に振って、息を吐いてから額に唇を寄せる。一度ずつ口付けて離れた。

『大丈夫だから気にすんな』

「、んんん〜っ、兄ちゃんってば!」

「誤魔化されると思ってんのか!?」

『俺のためにごまかされて?』

「、ちっ!!」

「もう!じゃあ兄ちゃん!もう一回!」

『はいよ』

強請った出久と、勝己にももう一度唇を落とせば胸ぐらを掴んでた手が離れる。

『ありがとう』

一応怒りを抑えてくれたらしい二人に髪を撫でて、それからげんなりしてる人使と驚いてる発目さんに笑いかけた。

『帰ろうか』

「、ああ」

「はい!」

腕を組んでぴったり左側にひっついた出久、勝己も鼻を鳴らして斜め前の右側に立つ。発目さんと人使が後ろについたから歩き始めた。

『なにげこの面子で帰るの初めてだね』

「ええ!とても楽しいですね!」

「歩いてるだけだろ」

「そういえば貴方、お名前なんでしたっけ?」

「爆豪だわ!!覚えとけ!!」

「心操くんとは体育祭以来だよね!職業体験兄ちゃんと一緒に相澤先生のところだったんでしょ?どんな感じだったの??」

「あ、えっと…」

会話を始めた四人によかったと頬を緩める。

『仲良くなれそうで良かったよ』

「はっ、別に友達作りに行ってるわけじゃねぇわ。仲良しとかどうでもいい、」

「うん!僕もかっちゃんも、発目さんと心操くんは兄ちゃんと仲良いし、体育祭からずっと気になってたからもっと話してみたかったんだよね!」

「ああ?!」

話をまとめられて勝己が目を釣り上げる。発目さんがなるほどと頷いた。

「爆豪くんは目立ってましたからね!サポートアイテムのご相談はぜひ私に!そしてスポンサーへぜひともアピールを!」

「ああん!?」

「商魂たくましいな、発目さん」

「ふふっ!もっともっと!そう!全世界にまで!私のベイビーをたーっくさんの人に見てもらいたいので!!」

大きく手を開いて笑う発目さんは人目を引いて、きらきらした目でそれなら!とアイテムの相談を始めた出久とちょっと気になってるのか聞き耳を立ててる勝己と人使にまっすぐ帰るのもなんかと寄り道をして帰ることにした。




昨日の追いかけっこはかなり目立ってたらしく次の日学校に向かえばざわつかれた。そういうこともあるだろうと視線を無視して、まだ来てない隣の席を見てから教材を取り出す。

結局昨日は話が弾んでそのまま流れるようにサポート科にまた行くことを約束してしまった。昨日あれだけ迷惑をかけたから元からチョコレートを持ってお邪魔する予定だったし、それに出久と勝己が一緒に来るならそれならそれでいいと思う。

かたんと音がして目を向けると人使もこっちを見ていたのか目があった。

『おはよー』

「おはよう。鼻、大丈夫か?」

『ん、問題ないよ。それより脇腹平気?』

「真っ青だ」

『まじか、悪い』

「別に。…今思えば俺のが悪いし…」

目を逸らして座った人使に苦笑い返す。人使の動きはどこかぎこちなくて、全身の筋肉痛と脇腹の痛みが余程堪えてるのかもしれない。

『今度お詫びすんね』

「いつも勉強見てもらってるしいいよ」

会話してるうちにチャイムが鳴り、始業の合図が響いた。





週明けから試験のため、金曜日である今日は最後の学校になる。授業は全体的に復習で、試験勉強にあてられてた。

時間がもらえてるならとさっさと課題を解いてすべて終わらせる。これで明日は弔と気兼ねなく遊べるだろう。

弔には改めて明日の集合時間を送っておいて、日曜日には再確認の意味を込めて出久と勝己と最後の試験勉強をして締める予定になってた。

『…あれ?』

「どうした?」

隣の人使がこちらを見るから首を傾げる。

『シャーペンない』

「忘れてきたのか?」

『んー、昼休み前にはあった気がしたんだけど…』

辺りを見渡しても落ちていないシャーペンにまぁいいかと違うものを取り出してノックし芯を出した。ノートに文字を書いていくうちにすっかりシャーペンがなくなったことを忘れて、そのまま授業が終わる。

「心操くん!緑谷くん!」

「先生」

終礼が終わるなり担任が俺達を呼び止めて相談室に誘導される。実技試験の概要を説明すると言われて人使の目が輝いた。

二人で入った相談室はもう何度と足を運んでいる場所で、中も大体代わり映えがないからいつも座る椅子に腰を下ろした。

「さぁ、それじゃあお待ちかねの試験概要を説明するわよ!」

るんるんと跳ねるように笑ってテキストを捲った担任に二人で手元のテキストを覗き込んだ。

「まず今回は二人一組の模擬戦です!」

『………二人一組って、これ最初から俺参加でカウントされてませんか??』

「もう!結果オーライでしょ!細かいことはいいのよ!」

『はあ』

「模擬戦ですから、個性やサポートアイテムの使用はもちろん可能。心操くんなら相澤くんからもらってる捕縛帯も申請して貰えれば使えるわ!」

「なるほど…」

「発目さんの用意してくれてるサポートアイテムもオッケーだから使いたいものは事前申請だけ忘れないようにね?」

『わかりました』

「本来ヒーロー科は自身で申請したヒーロースーツの着用が認められているわ。でもあなた達はヒーロースーツを持っていないから、原則ジャージでの参加ね」

「はい」

「そのうちヒーロースーツについては考えてもらうから楽しみにしていてね!まず当日の流れをざっと説明したおくけど…」

最終日、午前中で筆記科目はすべて終わって本来なら普通科の生徒は帰宅になる。そこで俺達二人は二時間のインターバルの後実技試験に移るらしい。

「二時間に関しては昼食時間と休憩時間両方を兼ねているから、好きに使ってちょうだい?」

『この辺は直前に考える?』

「そうだな。まずは筆記を終わらせないと」

「規定の時間になったらグラウンドθに集合よ。この時にはもうサポートアイテムとジャージ着用で来てね」

「はい」

「その後は当日のお楽しみ!今のうちにコンディションバッチリにしておいてちょうだい!」

『はーい』

「それで、今回の試験に関してなんだけど…」

ぺらりと捲られたテキストはいつの間にか最後のページで、覗いたそこには配点についてと題がついていた。

「今回の試験は確かにヒーロー科転入への大きな指針になるわ。でも、現状あなた達は普通科に在籍している状態で他人よりも多く試験を受けることになる。そこで、今回の試験結果はこっち側、行事単位に充てられて成績につくの」

「…………」

「試験点数が良くても悪くても、元あった成績にマイナスになることだけは絶対にないってことね。一以上でプラスになり、それは正式に成績としてカウントされるから安心して?」

『はあ。なるほど。じゃあ頑張らなくても受けなかったときと成績は同じってことですね』

「その仮定はやめてほしいけど、そうなるわね。…ちなみに緑谷くん、今回の実技試験は特別配点の面が大きいからもし特待生の課題でマイナスがあったとしてもかなり目を零してもらえるわ」

『まじですか。それならがんばります』

「現金ね…やる気が出てくれたならいいけど…それで、一つ、ヒーロー科の子たちはお互いの試験の様子を見れるようになっているんだけど、貴方たちは別枠だから個別に受けることになる。でもね、一人、見学希望の子がいるみたいなのよ」

「見学?」

「サポート科の発目さん。相澤くんと私に特攻してきてね。勢いがよくて可愛いからあなた達の承諾が得られたら見せてあげようかなって。どうかしら?」

予想していた名前が上がって人使と顔を合わせて頷く。

「大丈夫です」

昨日騒いでいる最中に観覧したいと言っていたし本当に先生に声をかけに行ったんだろう。行動力の塊すぎて驚きが隠せない。

あっさりと頷いた俺達に担任も予想していたのか笑って、テキストを渡されて解散になった。

「月曜からの試験、気を抜かないでね!」

「はい、もちろんです」

『ほどほどにがんばります』

「ええ!心操くん、期待してるわ!それと、緑谷くん、ヒーローを目指してなくても成績として残れば将来いろんな推薦取りやすくなるから頑張るのよ!」

『はーい』

流しながら挨拶をして相談室を出る。人使と歩きながら校舎も抜けて、いつものところで別れた。

さっさと歩いてまっすぐ家に帰る。今日は出久は飯田くんたちと勉強。勝己は切島くんと勉強らしい。ここ数日サボっていたから晩御飯は俺が作ると連絡を入れて、今日の献立を考える。

明日弔と遊びに出ることを考えると朝飯にも転用できそうなもののほうがいいかもしれない。

「あの!」

『あ、はい』

目の前に現れた人影に反射的に返事をして見つめる。小柄なその人はこの辺の高校の制服を着ていて、見覚えはまったくない。

「お、応援してます!」

『え?はあ』

「それじゃあ!!」

吐き捨てられて走り去って行くから目を瞬いて首を傾げる。周りは立ち止まった俺を気にも止めてないのかスタスタと歩いていって、よくわからないから俺も忘れて歩き始めた。

今日の晩御飯はハンバーグにしよう。




.
36/100ページ
更新促進!