ヒロアカ 第一部


陽が傾いて、外はもう橙色だ。先に帰ったクラスメイトに教室内はとても静かで、一人で携帯を握りしめていればようやく震えた携帯をすぐに見る。

保健室とだけ送られたそれに立ち上がって鞄をひったくるようにしてクラスを飛び出した。

二人ともか、それとも出久だけか。周りに誰もいないことをいいことに空気を蹴って階段を降りる。初日のガイダンスや校内案内に書いてあったため場所を把握していたそこに飛び込む。

『出久!勝己!』

「っ、兄ちゃん!」

ベッドから降りようとしてた出久が驚いたように目を丸くして俺を見てる。

『、出久、怪我は!』

「ええと、足をちょっと怪我したけど、リカバリーガールが治癒を施してくれてほとんど問題はないから、兄ちゃん、大丈夫だよ」

『………は〜…』

しゃがみこんで息を大きく吐く。やっと呼吸できたように感じるそれに頭を掻いて、とてとてと近寄ってきた影に顔を上げた。

同じようにしゃがんで俺と目を合わせた出久の頭を撫でる。

『必ず連絡って約束したよな?』

「ごめんなさい」

『ん』

素直に反省してるらしい出久にもういいかなと心配から湧いてた怒りが引いて、手を取って立ち上がる。

見守ってくれてたようで口を挟まず待ってくれていたリカバリーガールに挨拶をして保健室を出た。

出久が離さないならとそのまま手を繋いで歩き始める。

『敵、怖くなかった?』

「怖くなかったっていったら嘘になるけど、でも、そんなことよりしたいことがあったから」

『そっか』

真っ直ぐどこかを見てる出久に何を言ってもたぶん通じないなぁと諦めて昇降口へ向かう。

「あ、」

急に止まった隣に俺も足を止めて、目を合わせれば焦った表情をしてる。

「か、鞄!僕教室に置いたまま!」

『あー、それなら』

ぶんっと音がしたから手を伸ばして、飛んできたリュックを受け取る。目を白黒させる出久に手渡してから前を見た。

盛大な舌打ちが響く。

『ごめん、お待たせ』

「おせーわ!」

「か、かっちゃん!?」

リュックを抱っこして向かいに立つ信じられないものを見たような顔で叫ぶ。名前を呼ばれた勝己はもう一度舌打ちをして、それから出久とは逆の俺の隣に並んだ。

『勝己も、怪我は?』

「は!あんなカス敵に遅れとるわけねーだろ!」

『そっか。ならよかった』

「…やっぱ校舎の方にはなんもこなかったんか」

『なーんも。ほんと急だったから驚いたよ』

「雑魚敵のくせにやけに用意周到だったからな」

むっと眉根を寄せて唇を結った表情に隣の出久を見れば頷かれる。大方セキュリティシステムがきちんと動かなかったのは先日のマスコミ襲撃に乗じて入り込んだ何かのせいだろう。

人使と話していたとおり、よくないことの前触れだったらしい。

左側の勝己は元気そうで、右側の出久は多少の草臥れはあるものの怪我はなし。

怪我といえば、出久の足と腕を見つめる。視線に気づいたのか出久が顔を上げて首を傾げた。

「兄ちゃん?どうしたの?」

『…うん、出久に怪我がなくて本当に良かったなぁって』

空いている左手で髪を撫でれば表情を緩ませて出久は嬉しそうに目をつむる。連絡が取れなかったのは心配だったけど、二人が五体満足健康体でとてもよかった。

すっかり慣れた道を歩き、電車に揺られて、駅から近い勝己とは家の前で分かれて出久と二人で歩く。

今日の騒ぎは母さんにも連絡がいってるだろうけど、出久の姿を見れば怒ることも泣くこともないだろう。

ここの角を曲がって、少しで家というところで繋いでた手に力が入った。

「兄ちゃん」

自然ととまった出久につられて足を止める。言葉の先を促すため見つめればまっすぐとした視線で見返された。

「僕、必ずオールマイトみたいなヒーローになってみせるよ」

今日の敵襲撃で何を感じたのか、迷いのない視線に強い光を見つけて頷く。

『うん。出久ならなれるよ』

「ありがとっ!兄ちゃん!!」

『出久が望むならどんなことでも手伝うからな?兄ちゃんがんばる』

「兄ちゃんだいすき!」

『俺も出久が世界一大好き!!』

「出留!出久!!外で何騒いでるの!」

『「あ」』

聞こえた声に顔を上げれば家の前にいたらしい母さんが見える。待ちきれなかったのか純粋に騒ぎが中まで聞こえてて出てきたのかはわからないけど薄っすら寄った眉間に苦笑いをして二人で歩き出す。

『ただいま』

「ただいま!」

「おかえりなさい」

眉間の皺をとってほんのり笑った母さんは肩の力を抜いた。

「ほら、早く入りなさい。ご飯できてるわよ」

「はーい!」

『手ぇ洗おうな』

「兄ちゃん!はやくはやく!」

『先洗ってきな』

手を引かれて家に二人で入り靴を脱ぐ。一度手を離して先に出久を洗面所に向かわせ、その間に靴を揃える。

入ってきた母さんが鍵を締めて、落としたままの視界につま先が映る。口を動かそうとしたのを感じたから先に息を吸って吐いた。

『大丈夫だよ。出久なんもないって』

「、出留…」

『クラス違うと勝手がきかないのはわかってたけど…こうも急になにかあると待ってる方ははらはらしちゃうね』

「…………ごめんね…ありがとう」

『なんもしてないよ。帰ってくるの遅くなってごめんね。母さん、ご飯ありがとう。片付けは任せて』

立ち上がって目を合わせる。眉間に力を入れて堪えてるらしい表情に笑ってから聞こえてきた足音にリビングへ向かう。

「お箸並べ終わったよ!」

『出久ありがとー』

洗面所に向かうのは手間かなとキッチンでそのまま手を洗って、その間に隣に立った母さんがご飯をよそっていく。

今日はとりの照り焼きらしく甘辛い香りがしてた。





ご飯を食べて片付けて、お風呂に入って出久に怪我がないか確認をしてから自分の部屋に入る。

ベッドに寝っ転がり、携帯を取り出してから充電器をさして寝っ転がった。

充電を始めたことで明るくなった画面には通知がいくつか届いていて、とりあえず心配してくれていたらしい人使に大丈夫だったと送る。

そのまま三人のグループへ明々後日の登校時間を送って、それ以外からも届いてる問いかけに返事をした。最後に、本日二度目の相手に言葉を送る。

思ったよりもすぐに既読がついて、送った言葉の下に言葉が現れる。視線を動かさずとも読みきれる量のそれに息を吐いて、いくつかの単語をつなげ、また今度と締めた。


.
13/100ページ
更新促進!