金田一少年


いつものようにワックスで跳ねさしたり編みこんだりしてない髪は、今は毛先だけ緩く巻いているから歩くのに合わせて柔く跳ねていた。

同じように桜色の膝丈ワンピースは申し訳ない程度裾についたレースが揺れて、上に羽織った白のカーディガンは風に吹かれれば靡く。ほんのちょっとヒールのあるムートンブーツで舗装された道を踏みしめた。




五連休、通称ゴールデンウィークの中日。今日は確かみどりの日で、昼過ぎの暖かい今日はとても人が多い。

赤縁の度の入ってない眼鏡越しに見る大通りには、親子に友達、カップルなど数人で歩く人たちが多くいて、すれ違う人に気取られない程度観察しながらさっき買ったバニラ味のフラペチーノを啜る。

これだけ人が多いと印象には残りづらいから、厄介事に巻き込まれることも少なく自由に動けるこういう日は重宝してる。久々に新作の洋服とコスメを見に行こう。

考えをまとめて目的地に向かおうと足を踏み出したところで、きな臭い臭がして、眉根を寄せようとした瞬間にふわっとどこか嗅いだことのある匂いがした。

その先を探すため視線を離した一瞬に、ぐっと肩が掴まれて振り返る。

「…………先輩、…?」

制服姿じゃないのを見たの初めてかもしれない。

半信半疑というよりは確信を持ったような表情で俺の肩を掴んでる後輩に会うのは、休みに入る前だから大体一週間ぶりだろう。それにしても、よく俺がわかったなぁなんて感心する。

いつも通り髪型をセンターで分けてる頭の上には白のぴったり目な薄地のニット帽が被られてて、顔も小さく、全体的に線が細いたかとおくんの履いたスキニージーンズや黒のシャツにとても似合ってた。

『おはよ、たかとおくん』

「……はい、おはようございます」

ぱちくりと目を瞬きされたのは俺の声がこの子の知ってるものと違かったからだろう。

『お買い物?』

「ええ、文房具を少し……先輩は一人ですか?」

『そうそ、散歩中』

にこりと笑う俺にたかとおくんはほんのちょっと苦い顔をして、目を合わせてきた。

「もしよければ一緒に買い物しませんか?」

『いいの?』

「はい、先輩がよろしければ」




たかとおくんは言葉遣い通り丁寧な性格をしてる気はしてたけど、思ったよりも更に紳士的だ。

出入口の扉が手動式ならば先に空けといて入らせてくれるし、俺の視線に止まった店に自分が入りたいからとやんわり笑って立ち寄った。

さすがに先輩の威厳とかもあってはしゃぐことはしなかったけど、いつもとあまり変わらないからどっこいどっこいである。

「今日の先輩の服装、とても可愛らしいですね」

『ほんと?』

ええ。と柔らかく笑みを向けられて悪い気はしない。

『ふふ、ほめてくれるなんて嬉しいなぁ』

今日のブーツのヒールがあまり高くないのと、俺の身長が低く、たかとおくんが平均だからかち合う目線に俺も笑う。

たかとおくんは笑んでたけどどこか釈然としなそうな匂いをさせながら、俺の足を気遣ってか近くのファミレスに入った。

『はじめて来たや』

「………」

ぱちくりと瞬きしたのは俺とたかとおくん両方で、てっきり普通の店だと思って入ったそこはなんていうんだっけ、女の子とかの多いずいぶんと可愛らしい雰囲気の店だった。

ベビーピンクと白の淡いストライプの壁紙に、たんぽぽみたいな暖かい黄色のテーブルとアイボリーのソファー。

なんか知らないけど隣通しに座るしかないらしく、たかとおくん肩を並べてメニューを眺めてた。

インテリアに合わせてかサーモンピンクと白が基調のことりがデザインされた時計は三時を少し過ぎたところを指してる。

『たかとおくんなにか食べる?』

「あ、はい」

慌てたように視線を落としたたかとおくんはメニューを見入って眉をひそめてる。

なんかよくわからないけど、可愛らしいネーミングの並ぶメニューに圧倒されてるんだろう。

『うーん、たかとおくん決まった?』

「はい、これとこれを…」

指さしたメニューにおお、女子力と思いながら遮るように来ちゃった店員さんから可愛い形のグラスに入ったお冷をもらう。匂いからしてレモン水みたいだ。

ご注文はお決まりですか?と小首かしげながら聞かれてたかとおくんの分と目についてたものを頼む。

にこりと笑ってお辞儀していった店員さんを見送って、こっちを見てきてた視線に顔をあげた。

『たかとおくんどうした?』

「いえ、なんでも…僕の分まで注文してくださってありがとうございます」

『気にしないでへーきだよ』

メニューを最初に挟んであったスタンドに立てて室内を眺めた。

これが終わったら次は化粧品を見に行こう。


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