念能力者の平易生活


ぷかりぷかりと揺られてる感覚に、あれ?今僕何してるんだろうと思った。

閉じてても明るいまぶたの向こう。誰かが近くに来た気配に目を開けそちらを見た。

「わっ」

そこには眠そうな顔をしたがいて、僕にのばそうとしてた手を引っ込めて目を丸くし立ち尽くしてた。

『…?』

誰だろう。僕の知ってる人のはずではないと思うんだけど

「目覚めたんだ、このままかと思ってたよ」

呆ける僕をおいて一人頷くこの人を見つめてるとぐらりと建物が揺れた。




「で?お前は誰なんだ?」

貴方こそどなたなのでしょうか

鼻につく潮の匂いは海だった。…たぶん海のはず。

揺れてたのは船に乗せられてたからで、今はよくわからない白い服を着た人たちに連れられ同じく白い服を着た(羽織った?)人たちに囲まれてた。

本当によくわからない。

なぜ僕はこんな場所にいるんだろう

「聞いているのか」

『あ、はい。聞いてます、たぶん』

「なら返事をしろ。お前は誰だ」

さて、一体何に巻き込まれてしまったのだろうか

僕は困って、手元にいるケムを抱きしめ、抱きしめ、た?




先日、いきなり俺の訪問中だった海軍基地のど真ん中に落ちてきた子供は素性が一切わからず、二日間見張りをつけるも目を覚まさなかった。

参ったことに、俺は本部の会議に呼び出されていて、そんな得体のしれない子供を置いておくと俺が怒られるから躊躇いつつ連れてきた。

計4日、船の中で目を覚ました子供は本部に着いて現在、室内には子供、俺と、たまたま居合わせた同じ大将の黄猿、そしてトップのセンゴクさんがいた。

「聞いているのか」

さっきからセンゴクさんが不機嫌と警戒を露わに子供を問い詰める。

それでも子供はどこか眺めていて、腕に力が入り体を触ったと思うとこちらを見た。

澄んだ深い海のような紺碧が、白を映す。

『…―ケム、ケムはどこ?』

「は?」

思わず口を開いて聞き返していた。

状況を見守っていた黄猿さえも眉にしわを寄せ、首を傾げる。

『レム、ネム、テム…どこ…』

きょろきょろと名前を呼びながら探すように視線を這わせる子供にセンゴクさんがとうとう息を吐いた。

「それは人の名前か?」

『違う、僕の友達の名前』

更に困った顔をし、それはセンゴクさんが子供の扱いに不慣れなことを物語っていた。

「えーと、それどんな子?」

センゴクさんを見ていられずに助け舟らしきものをだす。

こんな光景をどっかで見たことある気がした。

『みんな、?…ケムは犬で、レムは猫、ネムは兎でテムは熊で…』

「え、」

これはお手上げ

隣にいた黄猿に視線を投げた。

黄猿は頭を掻いてから口を開く。

「その子たちは、ずっと一緒にいたのぉ?」

そうか、わかった。この既視感はたまにくる迷子に困ってる大人たちか

『…僕が、覚えてる限りはいた、と思う。ケムを抱っこしてて、あとはみんな背負って…』

「背負う??」

サングラス越しでもよくわかるほどに困った表情を作った黄猿は俺を見た。

いや、まぁそうだろうな

なんでこんなことしてんだかと若干最初の目的から離れ始めてる行動に息を吐いてから子供を見る。

「その子たちはどのぐらいの大きさ?」

『みんな僕が抱っこできる大きさだと思う』

果たしてこの子供が抱っこできる犬、兎、猫はまだしも熊などいるのだろうか

『みんな僕をおいてどこいっちゃったの…』

悲哀、まるで恋人にでも先立たれたような絶望した声色にぞくりと背筋に何かが這う。

室内の温度が下がった気がした。

俺のひざ下よりも小さいだろう生き物…?

「あ、もしかして、これくらいのかわいいぬいぐるみ?」

場違いにも感じる俺の声にふと、体にのしかかってきていた見えない重圧が消えた。

『…おにいさん、知ってる?』

「うん、ちょっと待っててね」

部屋をだらだらと出ていく。

戻ってきた俺をセンゴクさんと黄猿が見てきて視線が痛かった。

右手にはリュックが握られてる。

「君が落ちてきた時に身につけてたものなんだけど、あってる?」

子供はリュックを受け取るとその場にためらいなく中身をひろげはじめた。

並べられた4つの塊は頭部についたものの長さやカラーリングが個性を主張してる。

4つのぬいぐるみ。

『よかった…みんないる…』

安堵からか緩んだ表情。

ビスクドールのように生気の感じられない美しさを持っていた子供が人間として息をしてる。

『今日は…レムが一緒ね』

しっぽが長く、耳が三角に尖ったぬいぐるみ以外をリュックにしまい背負った子供はレムと呼ばれた人形を抱きしめ、俺達を見た。

『……あれ?僕になにか聞いてなかったっけ?』

本題に戻したのはまたビスクドールになってる子供だった。

センゴクさんたちはもう子供と触れたくないのか俺に目で押し付けてきた。

「…、名前は?」

『ロナイラ・シャーネ』

「なんであんなところに落ちてきたの?」

『ん、落ちたの?僕、仕事中…あれ?たぶん仕事中だったよね?』

首を傾げ悩み始めた子供…ロナイラくんは抱えてるぬいぐるみに話しかけてる。

『レム、どうして僕ここいるんだろう?』

ぬいぐるみが答えるはずもなく、ロナイラくんはぬいぐるみを見つめ室内が静かになった。

少ししてなにかに頷き顔を上げる。

『あ、そうか。ここはどこですか?』

「ん、?…ここはマリンフォードだけど」

『マ、リンフォード?』

レム知ってる?僕聞いたことないと思うんだけど。と首を傾げたロナイラくんに俺だけでなくその場にいた全員が眉をひそめた。

そこから始まった話の齟齬にこの子は記憶喪失か何かなのか、はたまた敵から送られてきたスパイなのか見極めるような目が突き刺さる。

「マリンフォード、グランドライン、海軍、海賊、全部知らないだと?」

『知り合いに盗賊とか、ハンターはいっぱいいるけど、海軍とか海賊は聞いたこと…会ったこともないと思う』

盗賊とハンターの単語は逆にこっちが聞いたことない。

ロナイラくんは俺達一人ひとりをじっと見てから首を傾げ、ぬいぐるみを見てまた首を傾げてた。

『僕からも質問していい?』

「……なんだ」

『念って知ってる?』

「……………ん?」

反応の遅れた俺達にロナイラくんはやっぱりとでも言いたげにぬいぐるみを抱きしめ顔を押しつけた。

「念ってなぁに?」

『僕、独学だから詳しくないんだけど…念っていうのはその人が持つ生命力のことでとかたしかそんなのだったと思う』

「?」

説明されても意味がわからず黄猿は首を傾げ、センゴクさんが深いため息をついた。

『なんか働くしかないみたいだね、レム』

状況は何一つどうにもならず、結論を出したのはロナイラくん自身だった。

「どこで働く気だ」

『んー、僕は海賊って柄じゃないと思うから、また何でも屋でもしようかなって思ってる』

「お前みたいなガキがか?」

『ガキじゃないよ』

ロナイラくん はぬいぐるみを持ち直しリュックを背負うと立ち上がった。

『なんかよくわからないけどおせわになりました』

「いやいやいや、勝手に出てかれちゃっても困るからね、ちょっと待って、それにロナイラくんそんな小さいのに一人で仕事なんて無理でしょ」

『僕ちっちゃくないと思うんだけ、ど…あれ?』

止めに入った俺を気にもせず、自分の手のひらを眺め周りを見比べまた自分を見てる。その間にセンゴクさんによって処分が決まった。

「まだ敵の可能性があり、万が一にも機密事項を知られていたのなら流出の危険がある。よって、海軍として養成学校に入り監視させてもらうことにする。異論はあるか」

『…ないけど、僕海軍とかになっても役に立てると思えない』

「それは我々が決めることだ」

ふーん、そっかと頷いた彼の入学が決まった。





一年、たったそれだけの月日であの子は俺の下に割り振られ、目の前にビスクドールがぬいぐるみを抱っこしてた。

『こんにちは、青雉大将。シャーネ・ロナイラ少尉です、これからお世話になります』

「あ、うん、よろしく」

特に敬礼もされず言われ.そこに座っていいよと勧めればソファーに躊躇いなく座った。

彼は室内なのに顔を隠すようなベールのついた帽子をかぶり、正義と書かれたコートの上にリュックを背負って字が見えない。

「……シャーネくんお菓子食べる?」

『いらないです』

ぎゅっと膝の上に乗ってるぬいぐるみを抱く。

あった時よりも伸びてるブロンドの巻かれてる髪が揺れた。

回ってきた資料を覗く。

入隊一ヶ月後に三等兵から中佐までスキップ。

海賊を捕えたのと体術、技術が優れているためというらしい

捕まえた海賊には懸賞金が賭けられていて一億前後か…

目を通していき、最後に汚い手書きで書かれた文に息を吐いた。

“団体行動に難あり”

上によくも押し付けてくれたなと頭を抑えた。



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