あんスタ



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普段あまり参加しないドリフェスだけど、在学してそれなりに暮らしていくには定期的に参加しなければならない。参加履歴だけでも残しておかなければ学園在籍に問題が生じるからだ。

とりあえず行事予定を見るだけでも秋のハロウィン。冬のクリスマス、バレンタイン、返礼祭は外すといたいだろう。

細かいものや突発のものもあげたらきりがないが、その中でももっともうちのユニットと縁遠いのがつい先日開催が発表された七夕祭だ。

『はぁ、やる気が起きないね…』

七夕祭の企画書を一ページ目をめくってみるけど結局目を通さずにそのまま指を離す。今日何度目かになる行動にクッキーを頬張った黄蘗は笑った。

「はーちゃんはお願いごととかしないもんね~」

新しいクッキーに手を伸ばしたシアンが首を傾げる。

「…七夕は習い事の成就を祈るから願い事とは別ものなんだろ?」

「しーちゃんってばつまんなぁい」

やだやだぁと頬を膨らませた黄蘗はこの話題に飽きてしまったのか携帯をポケットから取り出した。少し触っていたと思うと上半身を倒してテーブルに預ける。

「そんなに嫌なら参加蹴っちゃえばー?」

『そうしたいのは山々なんだけど…ちょっと色々あって、…二人まで巻き込んでごめんね』

「はくあが参加しろというならついていくだけだから、はくあの好きにしろ」

「こーちゃんとくーちゃんも出るなら遊びたいなぁ~」

七夕飾り作ろ!と笑った黄蘗の頭をなでて企画書を鞄に入れる。

『それなら笹の葉も用意しないとね』

「折り紙も買ってくるか」

案外乗り気らしいシアンも本を閉じて鞄に閉まったから全員で買い物に向かう流れになったようだ。

黄蘗も食べかけのクッキーを片手にリュックを背負ったから鍵を片手に立ち上がる。時期も時期だから商店街ならばどこでも笹の葉は売ってるだろう。後は飾りの折り紙をどこで買うかだが、シェイク飲みたいと跳ねる黄蘗により喫茶店近くの文具屋になりそうだ。

部室を出て施錠し用済みになった鍵と入れ替えにスマホを取り出す。柑子と木賊はしばらく忙しいようだし、一応七夕祭に出席するかと七夕飾りのことだけ聞いておこうと指を動かし文を作った。

「あれ?」

「あれは」

不意に聞こえた両サイド二人の訝しげな声。顔を上げるとほぼ同時に腹に何か突っ込んできて圧迫された胃が痛くなった。

痛みを逃すように息を吸って吐けば余裕ができてきて、視線を下ろすと眉間に皺を寄せた影片が視界いっぱいに広がる。

「っアカンねん!」

飛び込んできた影片は距離感はそのまま、俺の服を掴んで唇を噛んだ。

「俺じゃ駄目なんや、お師さんを助けて!」

唐突過ぎて理解が追いつかないのは俺だけではないらしく、視線を向けた先のシアンと黄蘗も首を傾げてた。仕方なしに笑顔を繕って影片の頭をなで目線を合わせる。

『斎宮さんが、どうしたの?』

躊躇ったように視線を泳がせたあとに唇を一度噛んで息を吐く。

とりあえず折り紙と笹の葉は二人で買いに行って貰わないといけないらしい。



体裁的にノックをして、やはり返事がないからドアノブに手をかければ鍵がかかっており阻まれた。わかりきっていたことだからキーケースから鍵を取り出して錠を解く。開けた扉から入り、元通り鍵をかけて足を進めた。

探せば部屋の片隅、布を被って小さくなってる塊があって、隣にしゃがみこんで少し顔を近づける。

『こんにちは』

「………影片か」

顔を上げ俺を視界にとらえた瞬間にむっとした彼はタオルをまた元のように被ってしまった。

影片の言うとおりちらりと見えた顔は目元にくまを、顔色も悪く、どう見ても平常ではなかったから眉間に皺を寄せる。

『はい。影片が貴方のことを心配して僕に声をかけてきたんです』

「…………―帰ってくれ」

『…ご飯も食べないし、睡眠も取らないと』

「………―勝手だろっ」

毛布を握る手の力が強くなって、皺が寄った。

「僕のことは放っておいてくれないかね!」

空気を劈く少し高めの声。校舎の立地上人気も少ない静かな部屋の中に響いたそれに思わず目を丸くしてしまって、止まってた息を吐いた。

『……可愛くないですね』

「っ」

自分から突き放したくせに、タオルケットから勢い良く顔を出したと思えば縋るようにこちらを見た。

ゆらゆらと揺れはじめた瞳は今にも涙をこぼしそうだ。食いしばられた唇が噛み切れる前に手を伸ばして触れた。

傷がないことを指で確かめるように唇を押し、顔を近づけてその目の奥を覗き込む。ラピスラズリの中に俺が映り込んで、その中の俺は微笑んでた。

『貴方が望むのなら、僕は本当に貴方を突き放します』

「っ」

ゆらゆらと瞳が揺れて涙が浮かんでは溜まり、溢れるまであと少し。目の縁の涙に触れないよう頬をなぞって、顔を近づける。

『貴方の望みは、なんですか?』

瞬きと同時にぼろりと涙の粒が落ちて睫毛を濡らした。

「突き放さな、いで…これは、僕の戦争だから、見守っていてくれ」

溢れて止まらない涙をすくって拭い、髪を撫でれば表情が緩む。ゆっくりと降りた瞼が瞳を隠して、小さく規則的な呼吸を繰り返し俺に寄り掛かった。


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