ヒロアカ 第一部


普通科とヒーロー科の大きな違いは午後の授業にある。普通科は始業からすべてが主要教科の座学が中心なのに対し、ヒーロー科ではヒーロー基礎学なんていうもうそのために用意しましたと言わんばかりの科目が存在する。

内容は受け持つ教師により変わるようで、玉手箱のようなその授業を出久はとても楽しみにしていて、それはもう朝から浮足立っていた。

被服控除なんていう制度によりヒーロースーツ…いわゆるユニフォームが希望通りに作られる。勝己は一歩間違えれば敵側なんじゃないかというゴツメの衣装だったけど、デザインの時点で似合うのが約束されてるから何も言えない。出久は母さんの作ったスーツを持っていっていて、さて、二人の初授業はどうなっているんだか。

「なぁ」

初日にそれとなく壁を作ったおかげで静かに過ごせそうな予感があったクラス内で、声がかけられる。仕方無しに目を向ければ昨日同様目の下に隈のあるその人が俺をじっと見つめていて、クラス内は一瞬静かになり、すぐさま視線が集まる。ヒソヒソとした声は雑音だし、隣の彼は何を考えているのかもわからない。

頬杖をそのままに、黙って見つめ返せば瞬きをした後に俺の靴先から頭まで眺めて、首を傾げた。

「無個性って本当?」

『嘘ついてどうすんのさ?』

「それもそうだ」

あっさり頷いてみせる彼は何か考えているのか視線が俺から外れる。悩むような素振りに心の中で息を吐いて、前を見た。

『他に何か聞きたいことあるの?』

「………電車通学?」

『そー』

「一人で?」

『弟と来てる』

「弟?何人兄弟?」

続く問いかけに視線を戻して目を合わせる。

『…むっちゃ個人情報知りたがるじゃん』

「興味が湧いたから」

『へー、そうなんだ』

頬杖を外して息を吐く。見上げた時計は始業を告げようとしていて、仕舞っていた教材を取り出しながら口を開いた。

『ねぇ、名前は?』

「……やっぱり自己紹介聞いてなかったんだ」

『必要になったら知ればいいじゃん?』

「…………心操、人使」

『俺は緑谷出留。弟も緑谷だし出留でいいよ』

「……、」

何か言おうとした瞬間にチャイムが鳴り、ほぼ同時に扉が開け放たれて教師が入ってくる。騒ぎながら現れたのは金髪で、たしかそう、プレゼントマイクだ。

早速授業に取り掛かるのか、教材を机上に置くと騒ぎ始めて窓の外を眺める。

出久は楽しく授業を受けてるんだろうか



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