イナイレ



照りつけるような太陽が、肌にまとわりつくような熱風が、響く歓声が、俺は、嫌いだ。





無駄に暑い陽射しは容赦なくフィールドにいる選手達の肌を焼き体力を奪う。ただえさえ相手はスタミナが売りの奴ららしいのに、不利なのは目に見てわかってた。

今回も道也の隣でイヤホンをつけガムを噛む。

「どこまでいけると思う」

『頑張れよォこぉーはん』

横目で確認する試合。歓声とホイッスルが響き、イナジャパが二点目を入れた。

ゴールで守護神やってる円堂はそれほどでもないがフィールドを走り回ってる奴らはすでに息が上がってる。口の中のブドウ味がなくなって新しくもう一枚入れた。

「諧音、お前_…」

『何言ってんかわかんねぇなァ』

言葉を遮ってやれば道也が分かりやすくため息をついた。

「最近宇都宮や飛鷹と練習してるんだろ?」

『………』

膨らませた風船に空気を更に送っていく。

「出たくなったら…わかっているな」

『………』

もう一度風船を作り、割った。





前半を2ー0リードで終わらせたのはいいが目に見てわかる疲労感に欠伸が出た。

向こうの監督とキャプテンがにたりと笑いながらこっちを見てて、嵌められてるのはわかりきってるし、あのラフプレー紛いも伏線だろう。 

風船を膨らませ再び割れば、隣の不動が煩そうにこちらを見てきた。





あの緑色ポニテ、緑川は一発目にぶっ倒れてベンチ面子と交代した。

隣に座った緑川はひどく悔しそうに歯をくいしばっていて、あの頃の姿とは似ても似つかない。

「来栖の言う通りになってしまった…」

『あ?』

溢れ出たような小さな声に聞き返せば、緑川は向けてた視線を下げてうつむく。

「……後で、話をしたい。時間をもらえないか」

聞こえてきた声に生返事をして組む足を替えた。

進む試合。暑さに堪えきれず吹雪や基山やらが交代していく。ベンチには軽い熱中症患者ばかりだ。マネージャーがあたふたと対応におわれてる。傍観を決め込む俺に手が伸びてきて、イヤホンを外された。

「手伝うか出るか、選べ」

『…はあ。わかった』

立ち上がり、道也の手中に収められたイヤホンを一瞥してからあわてふためいてるマネージャーの隣に立ち、氷嚢を作る。

『そいつの溶けてんからこれと交換しろ、あと緑川、そいつの足首と膝もっと冷やせ』

「は、はい!」

予定外の熱中症患者に機能しきれていなかったマネージャーが動き始めた。
 
日陰にいても暑さを感じる。首筋に垂れてきた汗を拭って、息を吐く。こんな暑いのに運動なんてよくやってられる。

ようやく落ち着いたベンチに木野が微笑む。

「来栖くん、ありがとう」

『別に』

もう一つ、袋に氷と水を入れて自席に戻る。座って首筋にあてて、顔を上げればフィールドが目に入った。虎が豪炎寺にシュートを入れられていて目を瞬く。

道也に視線を向ければ頷かれ、息をはいた。

口よりも先に手が動くのは俺もそうだからなんとも言えないけど、あれは下手しなくても審判に止められるし試合中止だ。

首を横に振る俺を尻目に、色々と吹っ切れたようで虎が一点追加した。それは決勝点になり今回もイナジャパの勝利で幕を下ろす。

「二回戦突破だな」

『順調じゃねーのォ』

携帯を取りだし速報を見れば日本が決勝進出と文字が踊ってる。携帯をしまえば、道也が笑いかけてきた。

「次は“誰”だろうな」

わざとらしく聞かれた道也の質問に、イナジャパメンバーを見たあとベンチを見た。

『……飛鷹』

「そうか」

あっさりと頷いた道也は深追いをしてくるわけでもなく、なんとなく居た堪れない空気が流れるから腰を上げた。

「「「小学生!?」」」

「負けませんよ!」

用済みとなった氷嚢の中身を捨てて袋を丸める。戻ってこずにピッチで騒いでるイナジャパは楽しそうで、道也が息を吐いた。

「やっとFWは安定しそうだ」

『虎はすぐ馴染みそうだしなァ』

返されたイヤホンをポケットに突っ込んで、勢い良く顔を上げた小さなそれが俺を見据えた。

「諧音さん!」

『あ?』

「やりました!」

イナジャパどもに囲まれ笑顔でVサインを送ってきた虎に溜め息を吐いてから片手だけあげ、グラウンドを出ていく。周りでやつらが不思議そうに首をかしげてた。






「時間をくれと言ったのにどうして先に帰るんだ!」

夜飯を食って部屋に戻るなり、ぷりぷりと音でも出そうなくらいに怒ってる緑川がついてきた。

普段なら赤色のやつ、たしか基山だかと談笑していることの多いだけに対一での会話はオーバーワークのあのとき以来かもしれない。

『了承した覚えねぇんだけどォ?』

「なら改めて言う。話がしたい…少しでいいから、時間をくれないか」

まっすぐと黒目がちな瞳が真摯に俺を見つめて、下手に出てくるから仕方なく扉を開けた。

『眠みぃし、ほんとに少しだけだからな』

「っ、ありがとう!」

言葉の意味を理解してるのかわからないが顔色を明るくして続いて中に入る。扉が閉まって、ベッドにかけた俺に緑川は少し悩んで地べたに正座した。

『話ってなに』

「……来栖に、助言を願いたい」

『助言?』

ストレートなそれは現状ほとんど絡みのないこいつからは予想できなかった内容で、眉根を寄せて話の先を促せば緑川は佇まいを正す。

「今の俺は折角日本代表になれたにも拘わらず、全く活躍できてない。でも、俺はこんな状態で日本代表の名を背負っていたくないし、数合わせもベンチも御免だ。だから、俺に足りないものは何か、来栖に助言を願いたい」

『それ、俺じゃなきゃいけねぇの?』

「来栖じゃなきゃ、駄目だ。来栖じゃないと、意味がない。なんでか、わからないけど…そう思うんだ」

膝の上に握られた両の手に力が入ったのが見える。深層心理の話はあいにく勉強したことがねぇからわからないが、昔の記憶とか、刷り込みとか、そういうものが混ざってる可能性が高くて、息を吐いた。

『今から出す条件が守れんなら、まぁ、ほんのちょこっとお前に時間割いてやんよ』

「本当か?」

『一つ目、俺が口出すのは必要最低限。手取り足取りなんてガラでもねぇし、助言、あくまでヒントやるだけだァ』

「ああ」

『二つ目、俺が助言してることは誰にも言うな。これだけ』

「………来栖の存在を口にしない、その理由は?」

『めんどくせぇから』

「…わかった」

呆れたような視線。文句がついてこなかったから何も言わないで目を逸らして、寝転がる。布団をかぶり、目を擦って瞑れば落ち着いた。

「え、話終わりなの?!」

『終わりィ』

「えー…」

あからさまに肩を落とした気配がしたから仕方無しに仰向けから横向きになり、右目を開ける。

『一応、明日からメンドーはちょこちょこ見てやるから安心しろ。で?帰んねぇの?それとも一緒に寝るかァ?』

「………はぁ、遠慮しておく。えーと、ありがとう、明日からよろしく」

『んー』

すでに眠くて、瞼をおろしてうつ伏せになればあっという間に意識が飛んだ。



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