イナイレ


何があれ、合宿は始まって着々と時間は過ぎていく。

「あ、あの、来栖さん、ご飯食べないんですか?」

『悪いけど要らねーわ』

「来栖くん、練習混ざってこなくていいの?」

『必要ねぇ』

そんな中でも来栖は、声をかけるマネージャーたちの心配そうな目をも無視して、俺達と仲良くしよう、近づこうとなどという動きは皆無だった。

「どうしようかなぁ…」

一年の頃一緒に面倒を見てきていた木野ですら困ったように眉根を寄せてる。

それくらいとりつく島のない様子に、普段からそこまで絡みのない鬼道や土方、緑川、壁山や栗松、小暮も懐疑的な目を向けていて、豪炎寺と基山と吹雪は気になって入るようだけど声をかけずにいて、このままじゃいけないと足を踏み出した。

「来栖!」

廊下を歩いている来栖を呼び止める。

『あ?なに』

久々に対面した来栖は珍しくゲームをしてなくて、イヤホンを今からつけようとしているところだった。

「お前練習に出たらどうなんだ!」

『はぁ?なんで?』

不思議そうを通り越して理解不能みたいな表情をみせてくる。

心の底から理解ができないと言いたげなその表情は、勉強会で円堂が基礎問題を解けなかった時と同じ顔をしてる。

つまり、今の俺の問はわかってもらえてない。

歯を食いしばって、拳を握る。

「お前そんなんで世界に勝てると思ってるのかよ!」

俺の一言に来栖は無表情になって、次には卑下た笑みを浮かべた。

肌が、粟立つ。

『別にいいだろ負けても。つか、今の現状じゃ世界の足元にも及ばねぇよ、お前らァ』

にぃっと笑うと俺の鼻先へ人差し指をギリギリのところで指してきた。

『それともなに?練習を積み重ねてきたお前らは練習もしてない俺がいなかったらあっさりと負けちゃうわけだァ?』

鼻先からそれた来栖の指先がするりと俺の頬をなぞる。

「っ、」

『仲間内の輪を乱す俺でも勝つためなら使っちゃうのォ?』

「ち、違う!」

おもいっきり手を払ったらその手首が掴まれて、目の前には来栖の冷たい目があった。鋭い視線に見据えられて、息を飲む。

『違う?なにが違うんだァ?お前が言ってんのはそういうことだろ?それとも俺とお仲間サッカーしたいって?』

一年のときとも、二年になってからも、見たことのない怖い表情。人間の本性をさらけ出したような黒い表情をする今の来栖には、あの下を向いてゲームに没頭していた静かな姿も、昼飯を詰め込まれて口元をおさえてるときの姿もない。

「っ……」

頭が、ついていかない。

何か言い返そうと口を開いたけど何も音は出ていかなかった。そんな俺を見て、来栖はつまらなそうに息を吐き、興味をなくしたのか俺に背中を向けて歩いていってしまった。





豪「……来栖を連れてくると言ってなかったか?風丸?」

風「悪い…失敗した…」

鬼「気にするな、最初から期待はしていなかった」

風「う、」

基「然り気無く抉ってるよ鬼道くん。来栖くんも皆でサッカーした方が楽しいのにね」

緑「サッカーは皆でやる競技だもんね。一人でなんてできないよ」

吹「ふふ。そうだね。独りでやるサッカーは寂しいもん」

円「俺!明日からの練習に来栖誘ってくるな!!」


×


諧『何か用か』

?「―――――――」

諧『はぁ?なんで俺が』

?「―――――――」

諧『ふーん。…まぁ付き合ってやってもいいぜ?俺が暇な時だったらなァ』

?「あ、ありがとうございます」


×


円「来栖~!」

諧『なに』

円「一緒に練習しようぜ!!」

だいぶ恒例になったその光景に来栖は大きく息を吐いた。

諧『こりねーなお前。またゴールに突っ込みてぇのかよ』

円「次は止めてみせる!!」

諧『救いようのねぇ馬鹿だな、お前』

憐れむような、残念そうな目で円堂を見て来栖は歩いていく。

円「あ、待ってって来栖~!」

その後ろをサッカーボールを小脇に走る円堂に、みんなが首を横に振った。

小「頑張るよねー。キャプテ~ン」
立「そうですね。円堂さん前向きです!」
綱「そのわりに無反応だけどな」

円「来栖~!」

諧『しつけぇ』

緑「見方によっては相手にされていないような…」

諧『失せろサッカー馬鹿』

基「口悪い…」
豪「あれが来栖の本来の姿なんだろうな」
吹「はっきりしてるっていうかなんというか…」

鬼「性格悪いな」

うん、うん。と頷き同意の意を表す。

鬼「そもそも来栖が何故日本代表になったんだ?」

俺は途中から雷門にはいり、その上別クラスで、来栖とは然程関わりはなかったけれど、サッカーなんて一ミリも興味がなさそうだった。

俺達帝国が来たときも、フットボールフロンティアのときも、エイリア学園が侵略してきた時ですら無視を決め込んで来栖はいつも通りゲームをしていただけだ。

どこか、引っ掛かる。

不「お前ら他人のことばっかだとスタメン奪われちまうぜ?」

水をさすような声に息を吐いて、練習に向かった。


×


円「来栖ー!」

諧『あ?またお前か』

チラっと見てオレンジのバンダナを目に捉えた瞬間溜め息をつく。一日に何十回もこいつと顔を合わせてたら馬鹿が伝染りそうだ。

諧『なに』

円「サッカーしよーぜ!」

諧『お前さァ。それしか言うことねぇの?』

円 「来栖と一緒にサッカーしたい!!」

白と黒のボールを大事そうに抱えて、まっすぐ俺を見る円堂に眉根を寄せた。

諧『いいかァ。よく聞け』

円堂の胸ぐらを掴み持ち上げ、茶色の瞳を睨み付ける。

諧『俺はサッカーなんてやる気はねぇ。俺を巻き込むな』

突き放すように手を離し、歩き出した。





久 「一回戦目の相手はビッグウェイブスだ」

俺達を会議室へ集めた監督。対戦相手の戦法や方針を喋ったあと久遠監督はありえない言葉を発した。

久 「今日から試合当日まで、一切の練習と外出を禁止する」

「「「「「はぁ?!!」」」」」


×


円 「来栖ー!」

諧『なに』

円「練習したい!」

諧『すればいいだろ』

風「できないから言ってるんだろ!」

諧『しらねーよ』

強制的に参加させられたミーティング。道也の発した言葉によって無慈悲に缶詰め生活を宣言された面々は不平不満を零していて、円堂はサッカーしたい!と喚き、なんとなく隣に座ってた風丸が眉根を寄せる。

喧しすぎるそれに動かしてた指を止めて、PSPから視線を上げた。

諧『どーでもいーけど、少しはそのちっとしかねー頭使って考えてみればァ?』

俺は読心術が使えるわけでもないのにむかつくなこいつ!という心の声が聞こえてきて、ディスプレイに視線を戻す。

鬼「とにかく行くぞ」

ゴーグルマント、鬼道を先頭に、円堂、き…基山?も俺から離れていく。

全員の姿が見えなくなったところで口を開いた。

諧『これでいいんだろォ?』

振り向かずに問えば溜め息をつかれ、お前も練習しろと言い残し足音が遠ざかっていく。

面倒くさいそれに、何時までも人目につくところにいるとまた円堂等に邪魔されそうだから、ゲームを中断して割り振られている部屋へ向かった。





「久遠監督は呪われた監督だったんです!」

名前は定かじゃねーが、音無?という鬼道の妹は俺も含めた選手達を食堂に呼び出すと道也について話し出した。

俺を呼んだ意味はないだろうに、わざわざ律儀でしかたない。

なんでもメガネとやらと本部へ忍び込み過去のデータを漁ってきたところ、道也が前にいた中学のサッカー部をどうたらこうたらと言葉を連ねていて、特に興味もないから、もってきてたDSから顔を上げずゲームを続けることにした。


×


円「どーしたら出れっかなー?」

出口に続く道の前に椅子を置き座り、本を読んでいる久遠監督を様子を窺いながら次の手段を考える。

鬼「先程の飛鷹といい、なにが基準なのかわからない」

難攻不落の監督をどうにかして外に出なければ、練習をすることができない。策を練っていればまた一つ、影が久遠監督の前に現れた。

諧『ゲーセン行ってくるなァ』

それは何時の間にか消えていた来栖で、左のイヤホンだけ外して小脇にスケートボードを抱えている。いつもどおりの私服とけだるそうな雰囲気に監督は頭を押さえる。

久「終わってるのか?」

諧『今の今までやってたわ』

久「…はぁ。ならいい。5時までには帰ってくるように」

なにかの確認を済ませるとそのまま呆れ気味に息を吐いた久遠監督が許可を出す。

諧『朝かァ?』

驚愕している俺達を尻目に茶化すように来栖が口角を上げた。

久「17時の方に決まっているだろ」

諧『知ってるっつーのォ』

ひらひらと手を2回ほど振りながら来栖は正面玄関から堂々と出ていった。



楽しくゲーセンで遊んできて、部屋に籠りゲームをしているとイヤホン越しでもやけに響く音に眉をひそめた。

諧『……………』

これが本物の壁ドンってやつか。

諧『…………』

叩きつける音はどんどん大きさを増していき、頭痛を誘発する。

諧『…はぁ』

隣は誰だったか、煩くてかなわない。

ボリュームを上げて意識を目の前のゲームだけに向けた。




連打のマーカーは片指派の俺にとって敵も同然の代物だったけど、それもEXTREMEをコンプリートする過程で攻略済みである。

ひらりと長い裾を翻して一回転。それからアップになるなりウインクするカ●トがディスプレイに映る。

口元を緩めるよりも早く前頭部に痛みを感じて、その拍子にWORSTを増産してしまった。

諧『ああ゛?…誰だハゲ』

顔を上げれば、見覚えのあるようなないような、見知らぬ茶髪モヒカンがいた。

不「ハゲじゃねぇ、不動だ!隣の部屋だから呼んでこいって言われたんだよ、こっちだっていい迷惑だ」

元から猫目であろうそれをさらにつりあげ苛立ち気に言うこいつに息を吐く。

諧『ああ、ドタドタうるさかったのてめぇかよ』

不「!」

つり気味のオリーブ色の目を更に丸くする姿に眉根を寄せる。

諧『なんだ』

不「……」

ふいっと顔を背けると扉の前へ不動は歩いていきとってに手を掛けた。理解できないその様子にイヤホンをつけようとして、手の中からなくなった。

不「だから呼ばれてるっつってんだろ!」

目の前には俺のイヤホンをひったくって睨み付けている不動の目。わざわざ扉の方から戻ってきたらしい。

諧『あ?誰がどこにだよ。主語をいれろ』

不「監督が夕飯なのに食堂来ねぇから呼んでこいってよ」

諧『だる…』

溜め息をついてから視線を向ければ訝しげに不機嫌そうな目の前にある不動の顔。

猫目、短眉。気の強そうな雰囲気。あっさりと手折ることも可能そうな細い首と痕が映えそうな白い肌。

不「……………は?」

目を丸くしてぽかんと開けてる不動を放置して立ち上がり見下ろす。

諧『あ?なにぼさっとしてんだよ。食堂行くんだろォ?』

不「あ、えっ、ああっ?」

なにをされたのかよくわかってないのか、不動は首を傾げ、説明を求めているのを勿論無視して部屋を出た。


×


円「来栖!」

諧『なに』

食堂に入るなり円堂に名前を呼ばれて、来栖は態度も目付きも悪く返す。

円「食堂くるの初めてだな!一緒に食おうぜ!」

諧『誰がてめぇと食うかよ』

訂正。口も悪い。

それでも円堂はからからと笑っていて来栖を誘う。

円「いいじゃん!食べようぜ!」

諧『は?飯くれぇ一人で食わせろ』

俺も人のこと言えないが、協調性皆無すぎる姿勢で円堂をあしらうと、マネージャーの前へと向かった。

諧『俺の分あるか?』

春「あ、」

秋「えっ、えっと」

我にかえりあたふたしはじめるマネージャーを見て来栖は息を軽く吐いた。やっぱりいらない。多分そう言おうとした来栖の前に女子が立つ。

冬「はい、これ」

その中で一人、久遠がトレーに一人分の料理をのせてさしだした。

軽く久遠を一瞥すると、来栖は短く礼だけ告げてトレーを受け取り席へと歩いていく。

不「………?」

何か違和感を感じたが、言葉にはできない。俺も飯を食わないといけないならやっと機能したマネージャーの一人にトレーを貰い、目をテーブルに向けて、固まる。

空きテーブルがない。来栖が何時もいる俺の席に座ったことで空いている席がなくなったらしい。迷って仕方なく譲歩し、来栖の前へ移動した。

諧『…………』

俺が来たのに気も止めず皿に乗った物を食べていく。一人で食わせろなんて円堂に断っていたわりに向かいに座る相手を拘ってないみたいだった。

不 (あ?こいつ…)

滅茶苦茶食い方綺麗だな。坊っちゃんの鬼道にも負けじ劣らずの所作で食べた後の皿も綺麗で、なんとなく普段の言動と噛み合わないなと思った。



×



諧音くん…

目もあわせてくれない…

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