イナイレ


取引から2日後。来栖はグラウンドにちゃんと現れた。

「「…………」」

現れるなり来栖は俺達のベンチに座って足を組み、携帯ゲーム機で遊ぶ。目線が上がることは一切なく、俺と風丸の額に青筋が浮いた。

「「来栖…」」

『なに』

俺達のことを見もせずに顔は下に向けたまま口を開く。手元も止めることがなくゲームは動かしたままだ。

「お前、ガム一箱で手をうっただろ」

一昨日、こいつはガムを1カートン分を要求してきた。それを差し出した俺達に来栖は仕方なさそうに頷いた。

俺と風丸の怪訝な目、それから尖すぎる目つきの隣の佐久間に来栖は事無しげに言葉を続ける。

『ああ。確かに俺はガム一箱でここに来ることについては了承した。だがなァ、試合に出るなんて一度も言ってねぇよ』

「「…」」

来栖はここまで質が悪い人間だったのか。

「またそう言うことを、!」

「ほう。よくわかった」

叱ろうとした風丸の肩を掴んで止める。そっと近寄った佐久間が不快そうに顔をしかめた。

「練習しようぜ、鬼道」

「ああ、これ以上は時間の無駄だ」

「、」

なにか言おうとしてる風丸を引き連れて来栖を放置する。

足を引っ張られている場合じゃない。俺達は選ばれるためにここにいるのだからアップを始めた。





DSから目線だけを上げて片耳だけイヤホンを外す。

リズ●天国に熱中している間にどうやら試合が始まってしまったらしい。

フィールドには駆け回り思い思いに自分をアピールしている選手達。アシストに集中するものもいれば、ガンガンシュートを打ちいく奴もいて、息を吐く。

『………………』

ガム一箱なんて軽いもので手をうってやったというにもかかわらず、結果がこれだ。

『――いな』

これ以上見ていても収穫はなさそうだからイヤホンを耳に戻してゲームを始めた。





動く気のない後ろ姿に___から肩を落とす。

まだ、彼奴はさぼってるのか





それはとてもいかれた話。

彼奴はいとも簡単に俺達の【嫌い】になって、それで尚且つ【一番】になったんだ





結局来栖は終始ゲームをしていて試合には出てこなかった。

彼奴が選抜入りしたら間違いなく全員納得がいかない。暴動が起きるだろう。

一日置いて、選抜メンバー発表日。

来栖はこの間のように一人離れた場所でPSPかDSをやっているのかと思いきや結局時間内に現れなかった。

円 「来栖どうしたんだろーなー」
鬼 「どうせ選ばれないから来ないんじゃないか」
豪 「試合にも出てなかったから難しいだろうな…」
松 「だったら最初から来なければよかったのに」
染 「ガム一箱とか変な奴だよな」
風「……ああ、そうだな」

さらりと来栖の話題は流れて、それから各々が期待と不安で胸をいっぱいにして監督を待つ。

佐 (鬼道と選抜メンバーに…!)
吹 「世界か…」
基 「頑張ろうね?」
緑 「勿論だ!」
立 (入れますように入れますように)
綱 「楽しみだぜ!!」
虎 (緊張する…)
小 (っ…)
不 「ふっ」
飛 「……」

各自期待に胸を膨らませていれば、太陽を背に2つの影が現れた。

それは響木監督と見知らぬ男性で、監督はその男性の紹介から入る。

一同 「「新監督…?」」

久 「久遠道也だ」

新監督。

俺たちが戸惑っている間に久遠新監督が女の子を隣へ呼んだ。

久 「娘の冬花だ」

冬 「よろしくお願いします」

新しい監督とマネージャーの紹介が終わったところでいよいよ選抜メンバーの発表だ。

“豪炎寺修也”、“鬼道有人”
“吹雪士郎”、“基山ヒロト”
“立向居勇気”、“緑川リュウジ”
“風丸一朗太”、“綱波条助”
“小暮夕弥”、“栗松鉄平”、“壁山塀吾郎”
“飛鷹征矢”、“不動明王”
“土方雷電”、“宇都宮虎丸”

次々と候補メンバーの中から名前が呼ばれていく。

呼ばれた人は思い思いに返事をしていって、

“円堂守”

円 「はい!」

そして、久遠監督は息を吸い、名前を呼ぶ。

“来栖諧音”

一同 「「!?」」

久 「以上をメンバーとする」







ゲーセンでやるゲームも大分慣れてきた。

最後に左足を2回踏み画面が切り替わる。あと2クレ分くらいはゲームをして帰ろうと思ってたのに、後ろからの足音に終了を告げられた。

『どういうことだよ』

「お前こそ、何時までもさぼっているな。もう代表なんだ」

横に置いておいたスケートボードを抱えて顔を上げる。

『はっ。代表ォ?ふざけんなよ』

正面から睨みあう。

冗談じゃない。誰がサッカーなんて

「明日から練習合宿だ。忘れ物をするなよ」

『ちっ』

道也の横を通り抜けゲーセンから出ていった。


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