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僕の学園遊戯
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生臭い血の充満した空間にはうめき声とすすり泣く声だけが響き、火に焼かれたように痛む右目に歯を食いしばりながら顔を上げた。
そういえば、明石も右目に眼帯つけてたことあったな。こんなに痛かったのか
「…っげほ」
「……あ、赤司っち、一人目起きたッスよー」
近くにいた金髪がにこにこと笑って後ろで椅子に座ってる赤髪を窺う。
体中が痛み見渡すことはできず、見える限りの場所には宍戸と向日が床に蹲ってた。
「ああ、その頃だと思っていたよ。」
声変わりの済んでいるのか怪しい高めの声に意識を戻し視界に入れれば同じ中学生なのにそれよりも随分と顔の幼く見える赤色が笑ってた。
ゆっくりと立ち上がった赤色が時間をかけてこちらに向かってきて、目の前で止まった。
「さて…忍足侑士、君は事実を知っていて傍観していたようだね。」
「……………」
「ふふ、本来ならば、僕の半身を僕の許可無く傷つけている姿を楽しんで見ていたなんて許すわけがないんだが、トウがそれを愉しんでいたからね。トウ自身が怒っていないのに僕らが怒るのは筋違いだろう。…―だから、これは制裁でも何でもない、僕達のエゴで、ただの私刑だ」
色の違うオッドアイに見下され肝が冷えた。
喉がならなかったのは散々制裁されたあとで喉が枯れてるからだからだろう。
「周りを見ればわかるだろうが、トウに直接手を出していない君は一番この中で怪我が軽い。目も半年あれば治るだろう。……真太郎」
「角膜は傷つけていないが、先ほど灰崎が蹴っ飛ばした際にゴミが入っていたから瞬きをすると悪化するのだよ」
「なるほどね。その右目をまた使いたいのなら触れないほうが良いだろう」
今更右目なんてどうでも良くて、いっそこのまま見えなくなってしまえばいいと目を擦ろうとして腕が動かなかった。
「君のことだ。その行動に出るのは見えていたからほんの少しの間腕が動かないようにさせてもらった。」
穏やかに笑ってみせたそいつの目だけは許さないと鋭い光を宿してて、後ろに見えたカラフルな髪色は好き勝手してる。
見える範囲にいる真太郎と呼ばれた緑色は椅子に座り、赤く汚れた指先を拭きながら新しいテーピングを用意してる。
さっき、俺の目を抉った左手の長い指に鳥肌が立って何かがせせりあがり吐くかと思ったが飲み込んだ。
次に起きた鳳は信じれなかったことを悔やみながらぼろぼろと泣いてた。右足を潰されていたようで、ズボンが黒く変色して覗く足首は色が変わり、腫れてる。大切にしていた十字架は今じゃ青い奴の足の下でチェーンが割れてた。
向日、宍戸は同じタイミングで起きて痛みに悶えてた。二人共片腕、片足を潰され、潰した張本人の黄色と灰色は目もくれずに二人でファッション誌をめくって笑ってる。
起きた赤色は全員に向け、俺と同じように一人ひとりに言葉を投げつけていった。
宍戸と向日に言葉を投げ終わった赤色は俺の横を過ぎて足を止める。
最後に起きたのは、
「………っ、あかし、せいじゅうろう―」
顔を上げた跡部は赤色を視界に入れた瞬間、そいつの名前を呼んだ。
すでに目の前に立ち、起き上がるのを待っていた赤司は楽しそうに笑って斜め後ろに視線を投げる。
「予定よりも三分ほど遅かったな。全く、テツヤもアツシもやりすぎじゃないのか?」
「指示通りですよ、赤司くん。ほんの少し強く殴ってしまったのは慣れない形状のものに力加減を間違えたからであって決して故意じゃないんですよ」
「そーそー、俺は悪くないよー。ただちょっと細かい作業とか苦手だから一発目のそれは薬の量間違えちゃったかもしんないけどー」
大柄で眠たそうな目をした紫色はともかく、いつからいたのか、もしかしたら俺が見えてなかっただけかもしれない。赤司の右斜め後ろに立ってこの場じゃなければ子供でもあやす時みたいにうっすらと笑ったそれの右手には先が赤黒くなってるパイプが手に持たれてた。
紫色は返事をしながら持っていた注射器を床に捨てて踏みつけてる。
「さて、君でこの言葉を言うのは六度目になるんだが、これは僕達のエゴによる私刑だ。もしかすれば君は気づいていたかもしれないけどあの戯れをトウは愉しんでいたからね。恨むのならばトウじゃなく僕達をだ。」
「藤十郎のことです。恨んだところで歓喜して身体を明け渡してしまうでしょうが」
あー、わかるわかるとため息をつきながら頷いたのはカラフルな奴ら全員で、赤司だけは視線をそらさずに跡部と向い合ってた。
「とても残念だよ、跡部景吾。秀才で性格以外は申し分ないお前がこんなにも小さなことで判断を誤るだなんて。僕も、…―俺も、残念だ」
眼の色が変わった。
オッドアイの髪と違う黄色の目が瞬きの一瞬で赤くなり、後ろの奴らの空気も変わる。
向日と宍戸、鳳まで息を呑む音が聞こえた。
「おい、セイジューロ」
「大丈夫だ。」
なにか言いたそうにした灰色は返事に頭を掻いて扉から出ていく。
たった一人減ったぐらいじゃこの空気の緊迫感も威圧感も変わらなかった。
「正直、俺の大切な弟を痛めつけたお前たちも、同じく痛めつけてたあの学校の奴らも、全員この比にならないほどの苦痛を与えようかと思っていた。生き地獄とはよく言ったものだね。何度お前らを死んだほうがマシだと思わせるくらいに、殺してくれと懇願してくるまでどう嬲って生かしてやろうかと考えてた。」
眼の奥から覗く、隠す気のない殺意に痛みとは別の意味で汗をかき視界が歪む。
「だが、それじゃあ俺やこいつらはともかく、藤十郎は納得しない。お前たちも曲がりなりにも三年一緒にいたんだ、藤十郎も無関心な奴じゃないと知ってるだろ。仮に、俺がお前たちを殺したとなれば悲しむだろう。そして自分のことを責めるかもしれない。万一にもそんなことがあって藤十郎が心を病んだのならば、俺は死んでもお前たちを殺す。それはこいつらもだ。」
喉が渇いても血の味しかしない口内じゃ飲みこめるものもなく、さっき飲み干した胃酸でもいいから逆流してくればいいのにと思った。
「俺も何も鬼じゃない。言っておくがお前たちのその怪我はどれもリハビリのほとんどいらない全治一年以内の軽いものだ。目も、腕も、足も、どれも藤十郎が潰されかけたものなのは偶然だ。別に同じ痛みを知ってくれなんてそんな馬鹿げた理由でお前たちを囲んだわけじゃないからな。」
赤司は最初座っていた椅子に腰掛けて頬杖をつくと俺達を見て笑う。
「俺達からの要求は、一つ、二度と同じ過ちを犯さないこと。二つ、社会的制裁を受けたあとに再起すること。この二点のみだ」
「すでに君たちの通っていた氷帝学園の評判は地に落ちています。理由は言わずもがな、どこでもネタは欲しいものらしいですね。ただし、教師、生徒、諸々は退職、離職していません。この意味が、わかりますよね?」
「ついでに、てめーらの学校としての処分は一ヶ月の謹慎処分。こいつは個人も、部活も全部を含めてだぜ。周りからの評判はいじめの首謀者になってる。ネットじゃ顔も晒されてんから外出歩く時は気をつけたほうがいいかもなぁ」
「その他の主犯格の連中も似た処分ではあるが、お前たちがそいつらと一つ違うところは家を潰されていないことなのだよ。だが、勘当などはこちらの知ったこっちゃない。人事を尽くせなかった貴様らの落ち度だ」
「以上のことを踏まえて、アンタらにはそのレッテルを貼られた状態で再起をしてもらうっス。家からの援助はしてもらえるなら使えばいいと思うけどまぁ、当てにしないほうがいいんじゃないッスかね」
「俺としては生かしてもらえてるだけでも有り難いと思うべきだと思うんだけどねー。バカのアンタらにもわかるように纏めてあげると、そこに戻って卒業して就職なり進学なり留学なりしろってこと。まぁ、先があるかなんて知らないけど俺の知ったことじゃないしー。あ、その傷わざと悪化させたり、自殺とか転校とかしようとしたらどうなるか俺でもわかんないからねー」
打ち合わせてたかのような言葉をなるべく出来る限り自分の中に留めて反芻する。
その言葉の意味を理解して顔を上げようとして、頬が鉄臭い冷たい床にくっついた。
上げようとしても力が入らない。
動かした視界の先にはその様子を笑って眺めてる六人がいて、椅子から立った赤司の双眼はやはり綺麗な赤色のままだった。
「俺たちは生憎、テニスに興味はないから把握しきれていないんだが、そこで転がっている君らは有名な選手なんだってね。きっと凄い試合なんだろう?時間が余ってたら見に行こうかな。もちろん、藤十郎も連れて皆でね。愉しみにしてるよ」
離れていく足音と扉の開く音。
「やっぱ爪剥がしからやるべきだったッスよ!」
「つーか、奥歯くれー抜いてやるべきじゃなかったか?」
「馬鹿め。まずは前歯から順番に抜くべきなのだよ」
「奥歯は神経が一番太く繋がっていますからね」
「もー、そんなこと言うとまた蹴りたくなるからやめてよねー」
「おい、お前たちそのくらいにしておけ。桃井と藤十郎に話したら、わかってるだろうな?」
「いや、お前も瞳孔かっぴらいてねぇでさっさとどーにかしろ、こえーんだよセイジューロ。おら、飯作んしトウの馬鹿も起きるからとっとと顔洗ってその血生グセー服着替えてこい」
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