暗殺教室



ことの始まりは午前と午後の間にある昼食の時間に清水くんがコーヒー牛乳を飲みながらクッキーを摘んでいるところを見た千葉くんの一言だった。

「清水っていつも昼そんなんだけど、それで足りてるの?」

ちゅーとストローでコーヒー牛乳をすすりあげて、飲み込んだあとに簡易ラッピングからクッキーを取り出して噛んで飲み込んで、その繰り返し。

思ったよりも千葉くんの声が通りクラスの大半がこっちを向き、机をつけて一緒に食べてた奥田さんが視線に驚いて身を縮めた。

同じくくっつけてる速水さんもじっと清水くんを眺め、言い出した千葉くんも答えを待つ。

向かいの席のカルマくんは楽しそうにそれを見てた。

口の中のクッキーを飲み込んで一息ついた清水くんはにこりと笑む。

『そうだね、正直返答に悩むところなんだけど足りるかと問われればそれは足りないと答えるのが妥当なのかな。実のところこのクッキーが今日飲み物を除いて初めて口にしたものだからお腹は空いているにあたるわけだ。ならば朝からしっかり食べるべきだと思うだるけど、朝にお弁当を作るために睡眠時間を削って起きるのが僕は得意としないんだよね。その分寝ていたいし。行き道で何か買ってきてもいいんだけど僕は人と比べると食べるのが遅いようだから時間をとってしまう。あと、この年で言うのもどうかと思うが好き嫌いがあってね、あまり好みのものがないんだ。
それとこれは僕の持論なんだけど、コーヒー牛乳と紫の野菜ジュースがあれば世界は回ると思うんだよね。』

何やら始まってしまった野菜ジュースとコーヒー牛乳の素晴らしさを語る会に僕達は総じて苦笑いしたあとに一斉に頭を抱えた。

「私のデータによれば高校三年生男子児童の一日に取るべき栄養素とカロリーの計算が合わないですね」

今その事実は聞きたくなかったかな。律さん。

がたんっと音を立てて立ち上がったのは原さんと松村くん。

清水くんに歩み寄ると松村くんは肩を掴んで、原さんは机を叩いた。

「食事は!生命維持の!基本中の基本!」

「お前だからそんなに痩せてんだよ!!」





『ああ、参ったね』

黒板の前に用意されたパイプ椅子に腰掛けて清水くんは首を左右に振ってた。

「これを期に食事の大切さを学びましょう」

うちのクラスで料理上手一位二位が取り乱してるのを見兼ねた殺せんせーは午後からの二コマ分の授業を家庭科に変更して、調理実習になった。

四人から五人のグループ、席を縦一列にして分かれて用意された食材を前に眉根を寄せる。

今回は清水くんが審査員の料理対決だから半の中の一人二人は色々な意味で真剣な顔をしてた。

「清水くんって苦手なものあるの?」

「アレルギーは?」

詰め寄るように清水くんを囲んだ矢田さんと倉橋さん。

「にゅるふふふ、こんなこともあろうかと先に清水くんにはアンケートに回答してもらいました!」

風が通りすぎて手の中に紙が残る。

視線を落とした先には殺せんせーお手製のアンケート用紙に見慣れたような気もする大きさの揃った丁寧な字が並んでた。

「清水、これほとんど当てになんないじゃん」

一番に目を通し終わったのか磯貝くんの声が響く。

たしかにこれは、あまり役に立たないかもしれない

・好きなもの コーヒー牛乳、野菜ジュース
・嫌いなもの 特にはない
・アレルギー なし

良く言えば何でも食べれる。
悪く言えば無個性。

なんか違う気もしなくないけど清水くんが書いてくれたアンケートは残念ながら使われる場面はなさそう。

がらっと少し建付けの悪い扉が開けられて顔を覗かせたのはどこか不機嫌な烏間先生だった。

「おい、用意出来たぞ」

十枚もないB5サイズの紙を殺せんせーに押し付けた烏間先生は反対の手に持ってた黒いエプロンを首からかけて後ろで結んだ。

「では、アンケート第二弾です。清水くんは原案をどうぞ」

『はい、ありがとうございます………、…ぇ?』

二枚の紙に目を落として珍しく笑みを固めて目を丸くした清水くんを横目に殺せんせーからプリントが配られた。

今度は各グループに一枚で同じ班の杉野くん、菅谷くん、前原くんと覗きこんだ。

・苦手なもの
ピーマン、セロリ、かぼちゃ、しそ、みょうが、三つ葉、白菜、きゅうり、トマト、グリーンピース、もやし、はちみつ、生魚、たこ、いか、柑橘系、納豆、鷹の爪、唐辛子etc....
・苦手な味付け
辛いもの、酸っぱいもの、渋いもの、猫舌なので熱すぎるもの
・好物
食事ならばハンバーグやハヤシライスなど
デザート類ならば甘味の強いものなど

まだまだずらっと書き出されてる内容を読み込んでゆっくりと清水くんを見る。

『………、……っ…ぅ』

紙を眺めてぷるぷると持つ手を震わしたまま清水くんは顔を赤くしてた。

新鮮すぎる表情に一瞬別人かと二度見しそうになる。

どこかでカシャッとシャッター音が鳴ったことにすら気づいてない清水くんは紙の一番下まで目線を落として到頭手で顔を隠してしまった。

下げた拍子に髪が流れていつもは隠れてる耳が覗く。

例にももれず真っ赤だった。

「清水って好き嫌いが多いのね」

エプロンを付け終わって手も洗った烏間先生にならいピンク基調にフリルのついたエプロンを付けたビッチ先生がプリントを見て子供と笑う。

「清水くん可愛すぎかっ」

だんっと机を叩いて崩れ落ちながらも携帯で写真を取ることはやめない不破さん。たぶんこれはなにかの話のネタにされるんだろうな

「グリーンピースとかガキじゃあるめーし…」

寺坂くんと吉田くんの茶化すようで呆れたような声。

どれにも反応しないで清水くんは顔を押さえたたまま項垂れてた。

ちらっとプリントに目を戻せば一番最後にそれまでと同じ筆跡で好き嫌いは直しましょうねの一言と浅野という認印が押してある。

果たしてこれはどっちの浅野さんに聞いたんだろう

「さて、清水くんの趣向も把握したところで早速始めましょうか。」

時間は30分。コンロは三つまで使用可。

審査員は清水くんがメインで殺せんせーを含めた二人。

材料は用意されたものを使うこと。

他の班への妨害行為、明らかに食べれるものではない味付けと言ったものを出したらペナルティとして宿題三倍。

注意事項を終え異論がないか聞いた殺せんせーは一拍おいて開始と合図した。




盗み見た清水は未だに顔を隠したまま復活しそうにない。少し酷なことをしてしまったような気がしてならない。

大体が昼休みに職員室の扉を開け放ち意気揚々とこのアンケートを本校舎にまで届けてくださいと短い理由と相手の名前を聞いただけで暗殺対象のあれに抱えられ本校舎近くに降ろされ言うとおりにしたのが間違いだった。

仕方なしに職員室へ顔を出して連絡を入れてもらい、理事長室に向かって扉を叩く。

あまり好ましくないこの場所には仕事以外で来たくはないものだが、案の定にこにこと笑みを貼っつけた理事長に向きあうように理事長は腰掛け、少し離れた位置には利発そうな顔立ちの少年が立ってた。

清水の周辺で見たことがある彼は、 たしか理事長の息子のはずだ。

目が合い会釈すれば理事長の息子らしくおしとやかに笑って頭を下げられた。

もう用件は済んでるんだろう、そのまま失礼しますと扉の方に歩き始めてる。

「烏間先生、本校舎に足を運ぶのは珍しいですね。いかがなさいましたか?」

「…急なお願いで申し訳ないのですが、アンケートに答えていただけないでしょうか」

一歩二歩と歩み寄り紙を差し出す。

視線を落とした理事長はふっと楽しそうに笑みをこぼして口を開いた。

「清水くんの偏食リサーチですか」

ぴたっと扉に向かって歩いてた音が止まる。

じとりとした視線が後ろから向けられてるのは気づいてたが振り返らずにええとだけ返事をした。

「調理実習を行う際にアレルギー以外のリサーチが必要ではないかと話にのぼりまして」

「なるほど、たしかにあの子じゃ自発はしないだろうから。烏間先生、このもう一枚も使って構いませんか?」

「ええ」

手近にあったボールペンを二本取った理事長は顔を上げて俺の後ろのほう、扉を見た。

「浅野くんも一緒にどうだい?」

「………ふっ、貴方より僕のほうが昴のことはよくわかってますから賢明な判断ですね。」

音を鳴らして近寄り紙とボールペンを受け取った息子の笑顔にこの親子のやりとりはあまり見たくないと目を覆いそうになるのを我慢して迷いなく書き始めた二人を眺める。

躊躇いなく上げられていく清水の苦手なものに思わず目を見開いた。

「そういえば、清水くんは昼休憩にしっかりと何か食べていますか?」

「…何かを食べているところよりも、飲み物を飲んでいるところをよく見ます。」

お菓子はまだしも、主食を食べている姿は見たことがないかもしれない。

記憶を探って伝えれば後ろからはため息、前からは失笑が返ってきた。

居辛い空気は二人が同時にボールペンをノックした音で終わる。

理事長の方はぐっとはんこを押して、息子のほうはサインを最後に書き連ねて俺に紙を渡した。

「それでは、僕はこれで失礼します」

「ありがとうね、浅野くん」

やりきったのか先程よりも幾分と機嫌が良さそうな様子で部屋を出て行った彼を見送り、理事長に伺いたてる。

「ご協力ありがとうございました。失礼します」

「いえいえ、清水くんのことならいつでもどうぞ。あの子をよろしくお願いします」

部屋を出て急ぎ足に旧校舎に向かいながら二枚の紙を見比べる。

順番、書いてある内容、ほぼ変わらないそれらと付け足すように書かれた異なった言葉。

これを清水が見たらどう思うのだろうかと少し笑みが溢れる。

ただ、最後の内容からして印刷するのは理事長の方にするべきかと頭で整理して慣れはじめた校舎の扉をくぐった。




(このあとの料理対決はセンスがないので続かなかったです。すみません。
浅野くんの付け足した言葉と優勝したグループはご想像にお任せします。
下記はグループ分一覧です。
1班 不破、片岡、茅野、原、律
2班 杉野、菅谷、前原、潮田
3班 中村、速水、奥田、岡野
4班 赤羽、岡島、千葉、磯貝、三村
5班 神崎、狭間、矢田、倉橋
6班 木村、竹林、松村、吉田、寺坂
そのた 烏間先生、ビッチ先生
料理できそうな子が正直少なすぎて辛い。何人も空気でごめんなさい。)

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