青の祓魔師
あのクソピエロ、謀ったな。
髪で塞がれ、壁になってる視線の先。
青い目をした教師と、青い目をした威勢のいい生徒。二人は同じ名字で、うっすらと青い光が揺らめいて見えた。
俺をサタンの息子たちと接触させるだなんて何を考えてんだ。
たしかにそろそろ“人”としての権利を持ちたいと言い出したのは俺だが、だからといってこれはないだろクソピエロ。
「アンとリンって似てんな!」
にかりと笑って俺の手をにぎりぶんぶんと上下に振る奥村兄に何故か昔を思い出して、無意識のうちに手を払ってた。
「……佐藤?」
はっとして見れば呆けてる周りのやつら。
奥村兄もぽかーんとしててアホ面だって言いそうになった。
『…うざい、構うな』
こいつ自身に決して罪はない。
だけど、それでまたあいつに囚われるのだけは勘弁だった。
『…_お前』
「な、なによ」
たしか、神木といったような気がする。ちょこんと筆を乗せたような太く短い眉と眉の間に皺を寄らせた神木は俺に冊子を差し出した。
「いいから早く取りなさいよ」
『……、』
ああ、無条件なる善意
「アン!ほら一緒にやろうぜ!」
「うるせぇ!あんまうっさくしてっとまた怒られんぞ!」
「ほらほら、奥村くんはほっといたって一緒に組みましょ」
駄目だ、本能には逆らえない。
昔から自分を畏怖せず扱ってくれる奴らには弱い。その度に金の指輪や時代ならばがちょうの肉を差し出した。
だが、かのもの等には
『………_紡げ』
「え?なにか言いはりましたか、佐藤くん?」
振り返った坊主の男子にゆるりと首を横に振る。
指先から伸ばした青白い糸を操り、一本一本の先を一人ひとりの首に、あるいは腕に、あるいは足に結びつける。
奥村兄だけ見えていないはずなのに振り返ったのは血のせいだろうかきゅっと最後の一本を奥村兄の尻尾に結わえて手をポケットに突っ込んだ。
林間合宿中、アマイモン襲来時。
吹き飛ばされふ奥村兄、志摩。悲鳴を上げた杜山。アマイモンは頭が燃やされ笑われたことが相当気に食わなかったのかキレてた。
メフィストがどっかで見てんなら奥村兄が死ぬことはないだろう
奥村兄は、だ。
そこに周りのやつらは含まれてない
少なからず、こいつらは俺がいかに無愛想であろうとつっぱねようと構ってくる物好きで、俺の友達というやつだ。
身を低くして地をけり上げ、志摩の前に出て、息を吸った。
『こい』
俺の右目を中心にぶわりと舞い上がった前髪。視界が青く灯る。アマイモンの攻撃すべてを呼び出した皆が止めた。
「は」
「アン?」
「おや?」
「………あれれー、アスモさん?」
各自の漏れた言葉には全部別々の意味が含まれてるんだろう。
アマイモンはへら~と笑い、奥村兄を跳ね飛ばして俺を見下ろした。
「お久しぶりじゃないですかー。ここ五十年くらい静かにしてたのに、いきなり出てきて…あ、でも元気そうで何よりです~」
「あ、アン…?」
吹っ飛んで俺の使役する子に支えられた奥村兄が意味がわからないといったように声を上げた。
見えないけどいる。それを理解できる奴は一体どれくらいいるだろう。
「アスモ」
歓喜と悲哀に満ちた声は俺の名前を呼ぶ。
「この声は…?」
ここにいる奴はみんな魔障を受けたことのある、ゆえにこの声はここにいる全員は聞こえているわけだ。
まぁ、どれだけのやつがこの声の主に気付けるかって話でもあるけど。
「さ、サタン…!?」
息子である奥村兄は聞いたことあったのかあからさまに反応する。
「…アスモ、?」
なんで返事をしてくれない?といわんばかりの今にも泣きそうな声が聞こえた。
昔から、強いのに弱いやつだった。
はりつく喉につばを通して、騒然としてる奥村兄弟と、威圧に堪え切れず膝をついた奴らに心中で謝って口をゆっくり開いた。
この名前を呼ぶのは、もう何年ぶりだ。
『――サタン』
ふわりと空気が途端に軽くなった。
ああ、なんでこんなにも俺はどうしようもないやつなんだろう
こいつから逃げ出したのに、不安げにのばされた手をはねのけられない
…―…―…―…―…―…―…
サタンから逃げ出した悪魔、
佐藤アン(偽名)アスモデウスさん
親しめの者からはアスモって呼ばれてる
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