Red Raven



『執行書に基づき、ⅩⅢ番目が執行いたします』

ひらめく赤いコートを背にしてる悪魔は正義の使者。




時空列不明。
よくわからないけれどスキャッグスVSレッドレイブン的な全面戦争場面。



刃と刃がぶつかり合う大きな音に目を見開く。

バジルとアンディの間にあった剣は俺の真後ろから伸びていた。視線を上げた先、鐔元に近いところにEpee de Justiceと刻まれた切っ先のない刀身を目視すれば無意識に止めていた息が零れ出ていた。

助かった。俺はそう思った。

「な、んで」

「あ―…」

バジルとアンディは即座に距離をとってさっきまで二人がいた場所にいる人物を見た。

カルロが目を見開いてから笑む。
きっとあいつも同じ気持ちなんだろう

彼は剣をおさめて一歩ずつと中心部にへと進んでく。

「う、うそ…あれは―…」

俺の隣に立ったアンディは絶句が正しいくらいに言葉を失ってた。

そりゃ、見たことないRRを見たらこうなるのは正しい。

「アンディは見たことなかったよな。彼奴は―…」

「彼奴は、ヤバイ」

俺の言葉を遮ったアンディは尋常じゃないくらいに冷や汗をかき彼奴を見つめてた。

「は…?」

どうしてアンディがそんなことを言う。

俺は中心部に立った彼奴に目を戻した。

彼奴はそっとまとっていた赤いコートを脱いで左に抱えると、右手をすっと地と平行に上げる。さっと布のこすれる音と、視界から消えた数人に目を疑った。それはよく見れば消えたんじゃなくてしゃがんでいたらしい。

右足を立て、左の膝を地につけ、右手を胸の前に添えて頭を垂れている。その姿はまるでスキャッグスの奴らが赦しを乞うているようにも見えた。

周囲を見渡せば立っているのは俺やカルロ、シルヴィオ、コニーを始めとしたRRだけで、そこにスキャッグスファミリーもアンディの姿もなかった。

隣に立ってたはずのアンディも、いつの間にか同じようにしゃがんでおり、目を疑う。

「おい、アンディ……?」

頭を垂らしたアンディは目をこれでもかと見開き、歯を鳴らして冷や汗を顎に伝わせていた。抗えない力の前に恐怖してるようにしか見えない。

『いい子だね…』

凛として澄んだ声に俺ははっとして顔を上げる。

彼奴、シェイズは唯一見えてる口元だけ優雅に笑ませていた。



フードの下から覗くブリズムイエローの前髪。黒い布で覆われたその下には、多分…絶対、僕と同じオレンジの瞳がある。

高鳴り逃げろと叫ぶ

心臓、

脳、

本能。

僕はただじっと、あの時と同じようにゆるさせれるのを待つしかなかった。




『我に忠誠を誓うものに加護を、我の守護を。―我らに仇なす者に絶望を』

シェイズがなにかの呪文のように唱えたそれは、冗談にしか思えなかった。



『君は…ああ、この綺麗な髪と瞳は、アンディだね?ふふ、まだ僕に忠誠を誓ってくれているだなんてとても嬉しいよ』

シェイズの細く長い指がアンディのかなり揃えられた前髪を撫でる。

アンディは未だに汗をかいてた。

「シェ、シェイズ…、なんでここに…」

ようやく口をひらいたアンディの目には動揺しかなった。

『面白いことを言うね?僕がここにこなきゃ、始まらないだろう?』

シェイズは楽しそうに口元を歪める。

「アンディ…?シェイズも何言って…」

無意識にシェイズに伸びた手。

「シェイズ様にその汚い手で触る気か?」

右からバジルの左手に掴まれた手首がじくじくと熱を持ち痛み始め手を払った。

前には未だ項垂れるアンディ。左にバジルを携えたシェイズは赤いコートをバジルに渡した。

腐敗して散っていく赤いコート。だらしないのか抜けているのかいつもどおり片方だけはみ出したシャツの裾の上にダリオから差し出された黒いコートを纏う。

カルロが開いた目を細め、眉間に皺を寄せた。

「……シェイズ、お前は」

敵なのか

悲痛そうに、違うと否定してほしいとそんな願いのこもった問いかけにシェイズは薄く笑んだ。

『カルロ…ウォルターも、この下が見たいと言っていたね』

否定でも肯定でもなく、シェイズは自身の目の上を覆う黒い布に指を這わせた。

『この下はとても汚くて醜いんだ』

前に言われたことと同じように返され、訳が分からなくなる。

カルロや俺、現状の飲み込めてないRRの面々にシェイズは普段通り、優雅に笑った。

『もういい機会だ。これも何かの気まぐれだと思ってくれても構わない』

シェイズの指が触れていた部分から徐々に黒い布が燃えているかのように朽ちていく。

「!」

落ちた布。ずっと隠されていた瞳。_アンディと同じ色をした、オレンジとブルーの上下二色の目。

違和感のあるそれは、息をするのを忘れるほどに美しく、見るものすべての心を奪うのに、どこかいけないものを見てしまったような背徳感に駆られた。

『ほら、僕の瞳は、穢いだろう?』

初めて見たシェイズの笑顔に、背筋からなにか冷たいものが這った。



“シェイズ・ダンプティ”

その名を聞いたときにどうして僕は気づかなかったんだろう。

ハンプティーダンプティーは昔よく、彼が読んでくれたお話に出てくるキャラクターだったのに。




シェイズは、僕らの_…スキャッグス家に実験された第一号だよ。

アンディの言葉にシェイズは妖艶に笑って、バジルたちが目つきを鋭くした。

「シェイズは、シェイズ・ダンプティなんて名前じゃない。シェイズ・スキャッグス…、スキャッグス家の、嫡子だよ」

言いきって、足に力を込める。バジルの目が逸れている今しかなかった。僕はギロチンを構えて一歩飛び出す。

シェイズの加護、守護の発動条件は、身体に傷がつくこと。

僕はシェイズの肌に触れないぎりぎり、白いワイシャツだけを切り取るように刃を削ぎ当てた。白いワイシャツだけが落ちて、その下が露わになる。

ウォルターやカルロが目を見張っていた。

シェイズは驚きもせずに僕に目を向けているようで、あわない目線でなにかを見つめる。

『__今の僕は、何番目だろうね』

美しく儚げに笑んだシェイズの鎖骨には、何度も何度も入れては消されを繰り返したリバースナンバーの残骸があった。



…―…―…―…―…―…―…

ⅩⅢ番目の処刑人

スキャッグス寄りなシェイズ・ダンプティ
改めシェイズ・スキャッグス
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