東リベ


俺は家から参加するだけの会議を終えて暇を持て余し、黒猫ちゃんは稀咲さんとお仕事へ。白犬くんのお仕事は龍宮寺さんと入れ違いで朝から午後すぎまでと聞いていた。

「ちっ」

帰ってくるなり荒く扉をあけ放たれる。舌打ちをこぼす白犬くんは険しい顔をしていて、目を細めた。

『おやおや、ご機嫌斜めだね?白犬くん。俺にできることはある?』

「………構え」

『ふふ。可愛らしい。お近くにどうぞ』

ぽんぽんと隣を叩けば、おとなしく腰を下ろす。ぴったりと寄り添ってくる黒猫ちゃんとは違い、一つ分開けて座る白犬くんは律儀で、とんとんと腿を叩けばぱたりと倒れ込んできて頭を乗せた。

見上げてくる双眸。火傷の痕一つないお顔に一度触れて、そのまま撫でる。

『嫌なことでもあったのかな?』

「…店で言い寄られててうざい」

『おやおや、色恋沙汰だと俺からの助言は難しそうだね』

「興味ないから無視してるけど、仕事中うるさいし、仕事終わりとか休憩中に群がられるのはうざったい。あと、この間は休みの日とかに家まで来られた」

『なるほど。始末しておこうか?』

「ひめ、たまに怖いこと言うよな」

『殺すと死ねを連呼している貴方に言われるのは心外だね?』

笑い声を転がしてもそのまま頭を撫でてあげて、そっとまぶたを下ろす。

「ココが心配しないなら、処理は任せる」

『ええ。後はおまかせなさい。お疲れ様です。白犬くん』

「青宗だから青犬だ…」

小さくなった声、ぽかぽかしてる体温にそろそろかなと思っていたけれどそのまま瞼が上がることなく、静かに寝息を立て始める。

よっぽど疲れていたのであろうその様子に頭をなでてから、背もたれにかけていた上着を胸元からかけてやる。

『ゆっくりおやすみなさい』



艶のある毛並みを堪能していれば、ばんっとまた扉が勢い良く開かれる。顔を上げれば予定よりも随分と早く現れた黒猫ちゃんが眉根を寄せていて、大きな音にか白犬くんが唸ってから目を開けた。

「イヌピー、ずるい」

ぷくりと頬を膨らませてる黒猫ちゃんに白犬くんはあわあわと手を彷徨わせる。

「急に眠くなっちまって、その、悪い、ココ。姫南条借りてた」

「………ずるい」

『白犬くん、お休みの間に連絡が届いていたから一度確認したほうがいいよ』

「あ、ああ。わかった」

慌てて携帯片手に部屋を出ていった白犬くんに、残された黒猫ちゃんはじっと俺を見ていて、不安そうに揺れてる瞳に先程とは違って両腕を広げてあげる。

『おいで』

「………」

迷い無く飛び込んできた黒猫ちゃんはぴったりと俺にくっついて座る。ぐいぐいと顔を押し付けてくるから後頭部をなでて、そっと顔が上がった。

「ヒメ」

『ふふ。ご機嫌斜めだね。どうしたの?俺の黒猫ちゃん』

「……仕事して帰ってきたら、ヒメが、イヌピーだけ甘やかしてた」

『おやおや。それは俺がよくないね』

むっと寄せられたままの眉間の皺に唇を落として、目元を撫でる。

『お仕事お疲れ様でした。黒猫ちゃんも少しお休みしようか』

「………ヒメ、ちゃんと俺が起きるまで一緒にいてくれる?」

『ええ。もちろん。眠っているときは頭をなでてあげるし、時間になればおはようの挨拶をして、起きたらご飯を一緒に食べようね』

「じゃあ、許してあげる」

『ありがとう。俺の黒猫ちゃんは優しいね』

髪に触れれば一度黒猫ちゃんが離れる。不思議な言動に横に座り直したと思えば上半身を倒して、ぽすりと頭をももに乗せられた。

「おやすみ、ヒメ」

『はい。おやすみなさい。黒猫ちゃん』

艷やかな黒髪に触れればすぐにまぶたをおろして、安らかに呼吸を続ける。静かな寝息に約束通り髪に触れていれば、そろりと扉に影がかがってのぞき込まれた。

「…ココ、寝ちまったのか?」

『ええ。黒猫ちゃんもお疲れのようだったから、眠くて駄々をこねていただけでしょう。起きた頃にはいつもの黒猫ちゃんだよ』

「そうか…ありがとう」

ふわりと笑った白犬くんは赤音ちゃんによく似てる。

甘い笑顔にまた隣に座って、ぽすりと肩に凭れてきた。

『おやおや。まだ眠いの?』

「ああ」

くわりと大きな口を開けてあくびをした白犬くんはまだ構い足りなかったらしい。

しかたないと空いている方の右膝を叩けばまた腿のうえに頭を乗せた。

『時間になったら起こしてあげますから、ゆっくりお休み』

「ああ…」


.
11/11ページ