東リベ
マイキーさんにお呼ばれして出向いたお家で、初めてお会いしたイザナさんはあの頃の梵天メンバーのほとんどを引き連れて法人団体を作りあげて活動していた。
どことなく覚えしかない名前に、代表としてついている彼に記憶はないのか。はたまた触れるほどではないのか、当たり障りなく顔合わせをして、イザナさんは改めて俺を見据えるとへぇと口角を上げた。
「お前があの姫川か」
『おや、何かご期待を損なってしまいましたか?』
「んや?どっちかっていうとやっと本物に会えてスッキリしたって感じ」
『本物ですか?』
「そ。マイキーと花垣、あの犬猫がちょいちょい名前出してたから」
『おやおや。私の存在は、一体どのように吹聴されていたんでしょうね?』
振り向くと同時に、やべっとマイキーさんが駆け出して姿をくらます。その唐突な行動に一緒に顔合わせをしていた長男の真一郎さんや鶴蝶さんが驚きで肩をはねさせた。
「あはっ、その圧。お前ほんとに族上がりじゃねぇの?」
『ええ。産まれてこの方、素手でどなたかをいたずらにいたぶったことはございませんよ』
「素手以外ではいたぶってんだ?」
『制圧程度できなくては守りたいものも守れませんからね』
「なるほどねぇ」
けらけらと笑うたびに揺れる大ぶりのピアスは変わったデザインをしているけれど、どこか見覚えのあるマークで、黒猫ちゃんの真っ白な毛の中や、あのご兄弟の首筋で見たものと似てるなぁと目を逸らす。
『あまり長居してしまうのもご迷惑でしょう。招待者も雲隠れしてしまいましたし、お暇させていただこうかと思います』
「あれ、飯食ってかねぇのか?」
『はい。あの子達といただきます』
「ああ、乾と九井くんか」
『ええ。いつもうちの子たちがお世話になっています』
「ぜんっぜん!二人とも礼儀正しくていい子だから困ってねぇよ!」
『それはよかったです』
ピンポーンと響いた音に、あれ?と真一郎さんは不思議そうに首を傾げて立ち上がる。
「今日他に客いたかな…?」
家主を急かすようにもう一度響いたチャイムの音にはいはーいと真一郎さんは足音を立てながらそちらな向かって、俺も立ち上がり荷物を抱えた。
「本当に帰んのか?」
『お迎えがきたようですから』
「え、」
鶴蝶さんが目を丸くしたところで玄関から賑やかな声が聞こえてきて、足をすすめる。
『黒猫ちゃん、白犬くん』
「ヒメ!」
「姫南条」
予想通りそこにいた二人に相対していた真一郎さんは苦笑いで、後ろからついてきていた鶴蝶さんが本当に来たと目を瞬く。
✕
『今後もうちの子たちをよろしくお願いします』
「ヒメ…!」
「ココが感動で泣いてるぞ」
『ふふ。黒猫ちゃんは感情表現が豊かだね』
×
「お、姫」
『こんにちは、三途さん。このような場所で奇遇ですね』
「たまたま撮影の下見ですぐそこまで来てたんだ」
『そうだったんですね。お疲れ様です』
出会ったのは遠目からもよく目立つピンク色で、今日は下見の言葉通り、お仕事中ではないのか機材も相方である妹の千咒さんの姿もなかった。
手荷物として大きな鞄も見当たらない三途さんは俺を見てから首を傾げる。
「姫、昼前っつっても軽装だな。平気なのかよ?」
『はい。流石に日差しが一番強い時間は困りますが、服用している薬もございますし、こうしてサングラスと日傘である程度は抑えられます。ご心配くださりありがとうございます』
「へー、そういうもんなのか」
『以前の記憶もございますし、今世はかなり早い段階で体質を抑えられておりますからね』
「あー、なるほどな」
以前の俺が軽装で日中に出歩けるようになったのは三十を迎える直前で、それまでは様々な薬をためして体質に合うものを探していた。
合わないものを飲めば眠気や吐き気に襲われることもあったし、塗り薬に関しては逆に荒れてしまうことや赤みが強くなることもあった。
それが一回で両薬品共に自身にあったものを用意できたことで、だいぶ早い段階で、今世では日差しが強すぎる時間じゃなければ出歩けるようになっていた。
身軽に移動できる快適さは一度味わえば不便な生活に戻ることは難しい。
✕
今世では程よくマイキーさんを慕っているものの、梵天にいらした頃ほど盲信している様子はない三途さんは、頼めば案外何でもしてくれる。
兄がいて、妹がいて、程よくめんどうみの良い彼に持っていたそれを差し出す。
『お願いできますでしょうか?』
「、は?!!俺が!???」
『ええ。お色味もちょうどあいますから』
「………、ピンク色だからだろ!!!」
頭を抱える三途さんの賑やかな姿に肩を揺らす。
笑っている間に契約書面を読み終えたようで、顔を上げた。
「報酬良すぎねぇ?」
『もとより本職の方にお願いする予定でしたものをそのままお渡しさせていただきます』
「俺、素人だぞ」
『構いませんよ』
✕
「………………」
「………………」
「…おい、なんであいつら呼んだ?」
『なんでと言われましても…黒猫ちゃんと白犬くんはいつでもうちに出入りできるので呼ぶも何もありませんが…?』
「まじかよ…」
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