DC 紺青の拳
それはまさに晴天の霹靂。今日は何をしようかと昼間から彷徨いて、たまたま入った店で、がしゃんと大きな音がした。
目を向けたそこには目を見開いて俺を見てる男がいて、勢い良く立ち上がったせいかテーブルの上の物を倒し、遅れて椅子が音を立てて寝そべる。
これでもかと開かれた瞼の向こう側には小さな黒目。三白眼と言うには遠慮がすぎる目つきの悪いそいつははくはくと口を動かして駆け寄ってきた。
「今までどこに!」
『は?』
「ずっと探してた!連絡もつかなくて心配したんだぞ!」
『…誰だよ』
俺の手を取り大きな声を出すそいつは固まって、すぐに信じられないと言いたげな瞳で俺を見つめる。
「俺だよ!リシだ!」
『、リ…シ?』
ぶわりと蓋をしていた記憶が蘇る。
記憶の中のリシは目尻を下げ大きな口を開けて笑っていて、よく手を繋いであちらへこちらへと出かけた。
『リシ、』
強く握りこまれた手に、はっとして手を振り払う。
『っ』
「え?」
リシがいる。俺の目の前に、リシが。
背が高くなっても、あの頃と変わらない。記憶の中と同じ、綺麗なリシ。
俺とは、違う。
奥歯を噛み、いきおいよく躊躇わずに走り出す。
後ろからは喧騒。その中からもう随分と聴いてない単語が鼓膜をゆらしたけど足を止めることなく進んだ。
走って、走って、また逃げた。