DC 紺青の拳
リシという、友達がいた。
彼は母の知り合いの息子だそうで、俺の母と彼の父の祖国が同じであったことにより知り合った二人は、子供が生まれて更に仲が良くなった。
親同士が姉妹のように仲が良く、その子供の俺とリシも兄弟のように仲が良い。俺とリシの父親はあまりの仲の良さにもう一緒に住んだらいいんじゃないかと呆れ笑うくらいには本当に親交が深かった。
俺とリシは学校は違うけれど、家に帰れば直接顔を合わせたり、難しければビデオ通話で毎日話した。
どれだけ話しても時間が足りない。毎日違う話をお互いにして、休みには家族で出かけることもあるし、母親同士や子供同士での遠出、宿泊だって、たくさんありすぎて何回出かけたかなんて数え切れない。
一つ一つ写真を撮って、アルバムがもう何十冊目なるかわからないタイミングでそれが途切れることになった。
母の親族が体調を崩して日本へ向かうことになったからだ。
母と俺は日本に向かう。仕事は異動に時間がかるから父は後から来ることになっていて、日本についてからも俺も母もリシたちとは頻繁な連絡を取ってた。
さて、日本語が話せるとはいえ異国から戻ってきた俺はとても残念なことに新しい学校にうまく馴染むことができなかった。
中学三年生の後期。もうすぐ三年間共に過ごしてきた仲間たちと卒業しようなんて時に割り込んできた異物の俺はイジメられこそしなかったけど隔離と拒絶はされた。
今までリシという兄弟のような人間と常に一緒にいて、もちろん他にも友達と呼べる人間だってそれなりにいて、唐突な孤独に心が折れるのはあっという間だった。
母は常に俺を気にかけてくれたし、遅れてきた父だって俺を見てくれる。でも母は病院との行き来、父は仕事があるからと心配をかけぬよう両親にも画面越しに対話するリシにも何も言えなかった。
孤独だと認めるのはなんとなく恥ずかしくて、でも誰にもそれを伝えることはできず、寒くて仕方ない心を埋めるためにわかりやすく欲を発散することにした。
人間の三大欲求のうちの、性欲に走ったのはたまたまだった。周りよりも少し高い背と、父に似た通った鼻筋に母似の黒目がちの大きめの瞳。それなりの見てくれ。
名も知らない人に声をかけられ連れられた場所で初めて酒を飲んで、何を飲んだのかはわからないけど体が暖かくどこか思考が鈍い、音も何も一つ膜を張っているような感覚の中気づいたら促されるままに服を脱いで唇を重ねて下の方で乱れてる人間がいた。
そこからはもう早かった。転がり落ちるようにダメ人間の道を進んだ。
酒を覚え、女を覚え、煙草を覚え、男を覚え。あれだけなにがあろうと真面目に通ってた中学を卒業して高校に進んだものの、次第に足が遠のき、心配した両親は何度も俺と話そうとした。
その度に今は他にやりたいことがあると目を逸らして、家を逃げ出しいろんな人間の元で過ごした。
堕落して、いつの間にかリシとは連絡を取ることはなくなった。様子を見ることもない。そもそも家に帰っていないのだから連絡の取りようもないし、連絡をする気にもなれなかった。
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