H.O.T.D 学園黙示録

壊れていく世界の中、俺は、俺達は生きるために壊しすことを選んだ。

もう戻れない







なんて茶番を見せられたんだろうな

目の前の二人は俺に気付き赤面しながら離れた。

いつかの井豪 永の表情が浮かぶがそれはきっとこの赤い夕日のせいだ。

? 「っ、と…」

? 「螢蘭、こ、これはね」

螢蘭『気にしてないから』

井豪 永が死んだ今、俺はもうこいつらと一緒にいる必要はない。

女子と男子の横を抜け下を覗くと2mもなく、先程騒いだからか奴等はバリケード側、階段に集まっていて出口までの距離に2つ姿が見えるか見えないかだった。

螢蘭『……俺は、生きたい。』

? 「螢、蘭…?」

螢蘭『井豪 永の願いは聞き届けた。井豪 永は死んだ。井豪 永との約束は守った。俺に一緒に行動する意味は…ない。』

一つ一つを指折り確認でもするように口に出していく。

螢蘭『こんなところで死んでなんかいられない』

最後に辿り着いたこの結論に疑問も揺るぎもない。

? 「おい…?」

螢蘭『今まで世話になった覚えはないが一応。礼は言っておく。ありがとう。お前達が生きていてまた会ったら、その時はよろしく』

バットを持ち直し柵を乗り越えた。

飛び降りてみればやはりそんな高さはなく軽々と着地できる。

後ろから二人分の声が聞こえたが俺は振り返らずに走り出した。




校舎の中は赤く染まり血の臭いで溢れ返っていた。

なんとも嫌な臭いだ

目の前にいる奴等でこちらに向かってきたものだけをバットで殴り退かす。

思ったんだが、こいつらなにを基準に獲物を決めているんだ

こんな死臭と血の匂いが立ち込める中で鼻など利かないだろうし、動いているものの中には目がないものや潰されてるものもいるから目は見えていないだろう

と、なれば、残るは聴覚。耳だけだ。

音にさえ気を付ければなんてことはない

変わらず歩き、毎日通い勉強を受けていた教室に入った。

中は意外にも血一つ落ちていないが流石に椅子も机もひっくり返っていた。

自分の鞄を取り中を確認してから肩にかける。

やることがなくなってしまったな。外にでも出るか?

窓の外を見ると止まっている車があった。

たしか教師の車の鍵はすべて職員室にまとめてあったはずだ。

ならば向かうは職員室か

? 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

絹を割くような女子の悲鳴が校舎中に響き渡る。

反響していてわかりにくいが、多分同じ階で誰かが叫んだんだろうな

鞄とバットを持ち直し教室を出て職員室に向かい歩くと何故か進行方向。目的地の方からドリルが回るような音が聞こえていた。

職員室前、開けたロビーへ足を踏み込むとそこには見たことのない女子が奴等にドリルを突き付け泣き叫んでいるところだ。

後ろと前から足音がして後ろからこれまた見たことのない女子生徒とおそらく先生の女性が。前からは先程別れたばかりの女子と男子が現れた。

目に光が戻ったな

奴等の血を浴びながら女子は泣き叫ぶ。

? 「もうやだぁ…ままぁぁっ!」

泣くのは勝手だが叫ぶのはやめてもらいたい。

声が聞こえた奴等がどんどん集まってくる。

? 「右は任せろ!」

隣の木刀を持った女子生徒は言うと同時に走り出し、左を男子と女子が手分けして倒す。

俺はと言えば開いていた扉を閉めていた。

? 「鞠川校医は知っているな?私は毒島冴子。3年A組だ」

? 「小室孝、2年B組」

錯乱している女子に皆が駆け寄る中話す二人に混ざる声。

? 「去年、全国大会で優勝された毒島先輩ですよね、私、槍術部の宮本麗です」

? 「あ、あの、ぇ、えっと、B組の平野、コータ、です…」

毒島 「よろしくな、平野くん」

さてはて、俺は職員室に用があるだけでとっとと鍵をもらって出ていきたいのだが。

? 「っ、なによみんなしてデレデレしちゃって」

今まで腰を抜かしていた女子が立ち上がり不機嫌だというのを全面に押し出してしゃべる。

? 「なにが先輩よ!宮本なんか留年してるから同じ年のくせに!」

それは知らなかった。先輩だったのかあの女子。

年上でも関係ないが

孝 「なに言ってんだよ、高城…」

? 「馬鹿にしないでよ!私は天才なんだから!!」

完全に思考がぶっとんでいる女子の様子に俺はそろそろ職員室に行ってもいいだろうかくらいしか感じなかった。

? 「私は…私は…」

錯乱するのも程ほどにしてもらいたいがまぁ、常人で尚且つプライドが人よりも2、3倍は高そうな女子からしてみれば当たり前のことかもしれない

毒島 「わかった。充分だ」

近づき肩に手を置くと涙を流していた女子は鏡に目を向ける。

? 「ぁ…こんなに…汚れちゃった…ママに言ってクリーニングに出さないと…」

茫然と立ち尽くす女子の後ろ、鏡越しに見える位置に男子が立てば女子は目を逸らして泣き始める。

唖然、驚き、同情、悲しみ。
様々な色の混ざった瞳で全員が女子を見つめていた。




漸く目的の職員室に入ったはいいが少し前まで一緒にいた男子に手をとられ一緒に行動することになってしまった。

扉の前に可動式の折り畳み机や椅子、コピー用紙を積み重ねる。

毒島 「みんな息が上がっている。ここで少し休もう」

今後生きる以外に目的がない俺は否定も賛成もせずに手持ちぶさたとなったバットをもてあそぶ。

隣でコピー機へ寄りかかるように凭れ座った男子は静かなものだ。

麗 「孝、螢蘭」

孝 「サンキュ」

差し出された二本の未開封のミネラルウォーターを取ると一本、男子は渡してきた。

螢蘭『……ありがとう』

今受け取っても飲みはしないが持っていて損はないだろうとバッグへしまう。

孝 「鞠川先生、鍵は」

先程軽く聞いた話では女性は車の鍵を取りに来たらしい。

ならば目的はさしてかわらず達成できたのだから一緒に行動する価値はあるだろう

毒島 「全員を乗せられる車なのか」

黙った女性は違うと肯定しているようなものだ

螢蘭『部活遠征用のマイクロバス。』

一斉にこちらを見てくる男女にあっちと外を指差してやれば数台止まっている車と同じようにバスが止まっていた。

毒島 「鍵はここにあるな」

壁にかけられた鍵を女性に渡した女子はふむと悩んでいる。

鞠川 「バスはいいけどどこへ?」

孝 「家族の無事を確かめます」

はっきりと答えた男子はその後もいろいろ言っていたが家族の安否な

特についていく理由が見当たらないがいいか

麗 「なんなのよこれ…」

今まで黙っていた女子がなぜか絶句していて目先には惨事の映るテレビ。

誰かがテレビの音量を上げた。

「「各地で頻発するこの暴動に対し、政府は緊急対策の検討にはいりました」」

また、誰かがチャンネルを回す。

「「すでに地域住民の被害は1000名を越えたとの見方もあります。非常事態宣言と災害出動要請は…」」

乾いた音が聞こた。
少し懐かしい音。

「「発砲です!ついに警察が発砲を開始しました!」」

パニック寸前のアナウンサーを撮していたカメラは発砲対象、死体袋の中に入れられタンカーに乗せられていた死体が動き出したところを撮した。

「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」」

そこからは叫び声と助けを求める声だけが響く。

再びチャンネルが変えられていくが内容は国内だとこれ以上のパニックを恐れ回避するためか暴動や避難についてのみしか放送されておらず、また回された先の国外については北京、アメリカ、ロシア、モスクワ、ロンドン、パリも同じようなことが起きているらしい

麗 「たった数時間で世界中がこんなになるなんて…ね、絶対に大丈夫な場所あるわよね?きっといつも通りに…」

この女子うるさいな。

少し目に光が戻ってきたかとも思ったがまだ現実を受け入れられていないらしい。

? 「なるわけないし」

バッサリ切ったのは先程まで泣いていた気の強い女子で博識なのか次々と話始めている。

これはパンデミック(感染爆発)の一種ではないか
インフルエンザ、スペイン風邪、黒死病

病気の流行が終わるのは大体が人間が死にすぎたら。
感染する人がいなくなるから

毒島 「拡大が止まる理由はないということか」

言葉どうりならば確かにそうだが全く困ったものだ。

死体が腐り骨だけになれば動かなくなるかもしれないと仮説を立てるが実際それまでにかかる時間は最低でも一ヶ月はかかる。

それ以前に動く死体なんて医学の対象ではないから腐るかどうかわからない

毒島 「家族の無事を確認した後どこに逃げ込むかが重要だな。好き勝手動いては生き残れまい。チームを組のだ。生き残りも拾っていこう」

必然的にこれは俺もチームに組み込まれているようだ。

麗 「どこから外へ?」

螢蘭『…駐車場は正面玄関からが一番近いな』

ぼそりと言えば静かな職員室内では全員に届いていたようで頷かれた。

孝 「行くぞ!」

出てすぐの場所にいた奴等を眼鏡をかけた男子が創作銃で撃った。




金属バットを所持しているためか男子と一緒に先頭を任せられた。

行動派ではない俺にバットを振り回せさせるとはどういった了見かと思うが生きていくためにはしかたないな。

体液がかかるのは大変不愉快でなるべく避けながらしかたないときは足払いか一撃で仕留めていく。

無駄な殺生はしたくないものだ

「キャアアア」

階段の方から無駄に大きな女子の叫び声が聞こえ目をやれば数人の村人が奴等に囲まれていた。

男子が一番近くにいた奴等を撃ち、木刀で薙いでまた男子がバットで殴った。

見事な連携ですね

そして何故か増えた人数。

全く。人が多いとその分危険なのに

昇降口についたはいいが奴等がうようよしていた。

一応目は見えないんじゃないかと話は出ているようだがそれを証明できてはいない。

別に俺が出ていってもいいけど黙っている内に一人の男子が外に出ていった。

静かに歩き真ん中辺りで止まった彼に奴等はよってこない。

近くにあった靴を遠くに投げ音を鳴らせば奴等はそちらの方向へと歩き出す。

その間に外にと誘導させてた。

女子数人が外に出て俺が抜け、最後にさっき拾った男子二人が扉をくぐる。

その際、最後尾を走っている男子の手持っていた金属製の押さえ込み棒が鉄の手すりにぶつかって大きな金属音が響いた。

一斉に奴等がこちらに顔を向ける。

? 「っ走れぇっ!!」

男子の声に俺達はバスへと走り出す。

? 「ちょっと、なんで大きな声出したの!」

? 「あんだけ音が響いてたらもう無理だ!」

騒ぐ二人いわくやり過ごせるやり過ごせないの話をしていたようだ。

? 「うわ、ぁぁあ゛!」

後ろのほうを走っていた男子が奴等に噛みつかれた。

先を走っていた女子が制止を聞かずに道を戻っていく。

? 「螢蘭!早く!」

先にバスにつき中に入っていた触角の生えた女子が叫ぶ。

早くもなにも、もう目の前なんだがな

バスに乗り込み窓から外を見つめれば村人たちが走ってきていた。

眼鏡をかけた男性教諭と男女の生徒数名。

触角の女子が乗せる必要などないと騒ぐが男子は扉を閉めずに待っていた。

いざとなったら、ここから一人で出ていこう

遅れてきた村人たちもバスに乗り込んだところで漸く走り出す。

男性教諭が俺を見て表情を一瞬固めたのには気づいたが俺は窓の外へと向けた視線を逸らすことはなかった。

学校から出たこのバスは街へと走る。

相変わらず転々と血が落ち割れた窓ガラスが散乱していた。

「なんで小室なんかについてかないといけねーんだよ!」

バス内の喧騒など俺には関係ないことで、外を見ていた。

? 「見事な連携ですね」

外は構内のように密室になっていない分逃げ道はあるようだが惨状はかわらない。

たまに奴等や奴等に襲われている村人がいる。

? 「そう思わないか?椚くん。」

とんと肩に手を置かれ目を向ければ卑しく笑っている男性教諭がいて、正直いって話など聞いていなかったから否定も肯定もしがたい。

? 「リーダー、指導者を決めよう」

本当にどうでもよくてもう一度窓ガラスの外へ目を向けた。

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