籠球男子による排球への影響
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「アナリスト…つーやつか?」
『……………そ―んな、大したも、のじゃな、いで―す。』
コーチたちが手にしてるのはうちの部の透析(改訂版)だ。
じっくりと眺めてうーんと唸ったのは菅原さんと影山くん。セッターの二人は俺とは違う方向で選手を見てくれてるから照らしあわせて意見を取り入れられたらと思う。
その後ろでは自分の外部評価を見た日向くんがうーあー言ってて、月島くんと西谷さん、田中さんがそれを茶化してて騒がしい。
「俺ってレシーブ率は良くないんだな」
「Bパスのとき田中に返しやすいとか、無意識だったかも…」
「これ全部独学で勉強したんだよな…?でも、なんか聞いた話だとお前帝光とやらのスーパーエースだったんだって?」
説明するのもは面倒で首を横に振るだけに行動を留めれば影山くんの目が俺に向けられた。
「前もそんなこと言ってたけどお前は帝光のエースだろ」
また首を横に振れば目に見て苛立ったような雰囲気を漂わせて、静かになってしまった空気に菅原さんが間に入って仲裁を試みてる。
俺はどうしてバレー部扱いなんだろ。スケットしたのはあの一回きりだから調べれば部員じゃないことくらいわかるだろうに
「あのさ、桃井。俺どうしても田中と影山が言うスーパーエースの桃井と今の桃井が噛み合わないんだ。
確かに一年同士の対戦した時にすごいと思ったけどなんか最初桃井の動き変だったべ?慣れてないっていうか、初めてみたいな感じで。」
先輩を困らせるのはそこまで厳しくなかった上下関係のなかで過ごしてきた中学生生活の合間にしっかり築き上げられた体育会系のやつのせいで良心がよしとしない。
それでも喋るのだけは億劫で仕方なしに携帯を取り出して打ち込んで見せた。
「えーと、…『たしかに光仙との試合には出たことがあったようですけど、あれは助っ人としての参加で俺は本来バレー部員ではありません。正規の部員はあの日ちょうど熱で休んでました。それ以降もそれ以前もその部員がちゃんとエースしてましたので間違えてるんじゃないですか。』…って。」
「はぁぁ?助っ人?」
うわぁ、目つき悪い
目つきというより態度が悪いのほうがあってるのかななんてぼんやりと思う。
「あんなスパイク打つやつか助っ人なんてありえねぇだろ。タイミング一つにしたってセッターと練習してなきゃ速攻なんて使えるわけねーし、ましてや相手は光仙。生半可な力とスピードじゃブロックも崩せねぇし拾われる。部員じゃなくても経験くらいあったんだろ!?」
「あ、またこれ俺が読むのか。えー、『本当に助っ人だったし、うちの中学は兼部禁止で俺は他の部活入ってたから同級生に確認取ればすぐわかるよ。あの時の記憶がないから連携プレーできてたのかはちょっとわからないからなんとも言えない。経験は特にないかな、たぶん授業内ではやったことあると思うけど…どうだろ、あんまり記憶にないや』……これ、影山が自分で読んだほうが早くね「てめぇバレーナメてんのかよ!」
きっと睨まれても困るし、別になめてるわけではない。
『……―ナメて、るとか…そんなこと、もちろんな―よ。俺はバレーに向き合ったの―この間が初めて…で、それは紛う事ない事実―…だよ。』
「む、むっちゃ桃井が喋った!!」
「桃井ってあんなしゃべるんだな!?」
外野が少しうるさい。息を吐いて少し深呼吸して気を落ち着かせながら邪魔になってた前髪を耳の後ろにかける。
収まるどころか増したピリピリとした空気に俺は言葉を間違えたのかななんて感じながら目線を下に向けた。
「本気でやってねぇ奴が勝って余裕な顔してんののどこがナメてねぇつーんだよ!」
「お、おい影山ちょっと言い過ぎ落ち着けって」
なんて不毛なやり取りなんだろう。
寝不足でただえさえイライラしてるんだからちょっとくらい核心突っついてやっても許されるよね?
どうせ寄ってるだろう眉間の皺はもう繕う気もない。
脳裏にカラフルなみんなが世間との意見の違いで悩んでいた後ろ姿がちらついて更に苛立った。
『……君、が―俺に何を求めてたのかなん…て知らない―…。あのさ、君に限った話じゃないけど、そっちが勝手な理想像作っといて―本物見たら違うから怒るとか、失礼じゃないの?考えるだけなら好きにすればいいよ。でも、それを拒否したり、否定したり、押し付けて通そうとするのは、人のこと無機物かなんかと思ってるようにしか見えない。ちょっと自分の言動省みたら…?少し行動が子供すぎると思うよ。』
こんなこと大人数の前で言ってる俺も大概子供なんだろうけど
「っ、てめ!」
「ちょ、桃井まで煽んな!」
掴みかかってこようとした影山くんを田中さんと東峰さんが押さえつけて、さっきまでぽかんとしてたコーチが俺を怒る。
やっぱり調子をこきすぎたんだな。と周りの不安そうな目だとか重たい空気に自覚して頭を下げた。
『………事実、言っただけのつもりだったけど、…たしかに、空気を悪くしてしまったの―俺ですし、無駄な時間と労力を割かせてしまってすみません…でした。』
「あ、いや、たしかにそうだけど急に謝るな!」
部長さんの言葉に矛盾を感じつつ顔を上げて、視界の端に影山くんを映してから目の前の部長さんを見た。
困ったような、理解しきれてないのか。何を言うか迷ってる顔にまた余計なことをした気がしてちょっと昂ぶってた気持ちが沈んでく。
高校に入ってからなれない経験ばかりだ。
少なくとも、こんなちっちゃな小競り合いなんてしたことない。
みんなに会いたいな
「あー、二人の言いたいことはわかったけど、」
頭を掻いた部長さんは俺と未だ押し付けられ気味で俺を睨んでる影山くんを見て眉間に皺を寄せて息を吐いた。
「二人には根本的な考え方に差があるような気がして仕方ない。桃井も影山も仲良くしろとは言わないけどこれから三年付き合ってく仲間だ。少しゆっくり話してみるべきだろ」
『はあ。』
「……………」
気の抜けた俺の返事と納得いかないのか黙ったままの影山くんに部長はとりあえずと部室に移動して、入ったところでそこに座れと指示した。
部室の中のコンクリート製の床はひんやりとしてて眠気も冷めてく。
「まず、影山。たしかに気持ちはわかるが一旦深呼吸しろ」
「……はぁ、すんませんでした」
「謝るのはとりあえずいいいからな。あとで練習二倍で手打つ。
それで、話を戻すと桃井は中学別の部活をしてて、光仙との試合は助っ人で参加したほぼ初心者だったってことはあってるか?」
『…………―大体、は。』
「で、その試合を見た影山も田中も月島も―だったよな?まぉ置いとくけど見る限り速攻も使ってて更にはスピード威力申し分ない桃井のエース振りを目の当たりにしたと」
「……………」
「そうっす!あんときの桃井はまじウシワカにも劣らねぇ完成度で!」
「…まぁ、強いな、とは」
「バネもあってめっちゃ飛ぶしすんごく重くて速いスパイク打ってたツバッキーを無敵じゃんってツッキー褒めてました!」
山口うるさいとぼそりと言った月島くんは居心地が悪そうに見える。
当人の影山くんは眉をひそめたままほんの少しばかり頷いただけで言葉はない。
「俺も実際にはその試合見てなかったんだけど帰ってきた田中に感想を聞かされて桃井のことは知ってた。」
「俺は逆になんもしらねーっす!」
いっそ日向くんの言葉が裏表のない清々しさで感動に値しそうだ。
「なるほど。それで影山は強い桃井を意識したってところか。」
「…そんなとこです」
「でも実際の桃井の経歴に納得行かなくて、本人にその気もないからモヤモヤしてるんだ」
「…………っす。」
表面的にはそうだろうけど、影山くんの表情を見るにもっと奥深い、何かがある気がする
「桃井自身はバレーのことどう思ってるんだ?」
『…………不可はないですけど、特に大きな思い入れはまだないです。この高校に来てから、初めてバレーに携わって、バレーのこと勉強したので。でも、楽しそうだなとか、―羨ましいなとは、思ってます。』
「え、羨ましい?」
『―――すみません、その話はちょっと、言いたくないです。それに、このことには関係ないと思うので聞き流してください』
遠くの方にいた東峰さんが少しばかり寂しそうな表情を見せたから目線をそらす。外れた視線が時計を眺めてたことに気づいたのか影山くんの目つきが更に鋭くなった。
ぎりっと歯を軋ませたあとに唸るように口を開く。
「やっぱ、ナメてんだろ」
「影山!」
『……別に、そんなことないよ。ただ、なんか違うんだよな、って。』
「ああ?」
「桃井も少し落ち着けって」
『俺は本気でバレーしたことはないし、バレーが一番だったことは今のところない。そのことで君のプライドとか何か傷つけたのかもしれない。それについては謝るけど、俺には君にとってのバレーみたいなものが別にあって、中心にしてるものが違うし、それが一番なことはこの先きっと変わらない。バレーのマネージャーになってバレーはたしかに優先してるけど、今だって、触れて楽しむことはできても気分が昂揚するのは、申し訳ないけどバレーじゃない―…』
ぐっと胸ぐらをつかまれて反射的に手が出そうになったのを眉をひそめるだけにおさめて目の前の黒色を見た。
「バレーの何が悪いってんだよ!」
気持ちはちゃんと口に出して説明しないとわかってもらえないと教えてくれたのはミドリンだっけ。
頭の中で話しの流れを作って口を開いた。
『そういうことじゃないよ。バレーだって楽しいと思う。…あのさ、君、幾つからバレーしてる?』
「、小学生だから十歳とかそんぐれーからだけどそれがなんだよ!」
『そう。じゃあ君が今からなんでもいい。…たとえばサッカーとかを始めたとして、君はバレーを忘れられるの?』
「まずそんなことありえねぇよ!」
『いいから、考えて。』
「っ、……無理だ。辞めた理由はなんだろうと、他に熱意向けるようになろうと…バレーは忘れられるわけねぇよ。」
『だよね。それと一緒。俺は別の競技を五歳…うんん、物心つく頃にはやってた。君にとってのバレーみたいにそれが今の俺を作ってるし、俺の人生なんてそれを取ったらなんにも残らない。友達だって同じ部活の子くらいしかいないし、今だって連絡とってくれるのはその中学で知り合った部活の仲間で生活リズムだって食生活だって思考回路だって、全部中心になってる。だからどんなにバレーが楽しくても、今すぐに一番にはなれない。』
「……………」
『バレーが悪いとか、バカにしてるとか、そういう根本的な問題じゃない。君にとってバレーが大切なように、俺にとっての大切が別なだけの話だよ。』
「…………………」
急に黙りこくった影山くんに周りは小難しい顔をしたり、様子をうかがったり、ただ日向くんだけは不安そうな顔でオロオロしてて目が合うと俺の前まで来て屈んだ。
「あ、あのさ、俺すっげー影山の気持ちも、桃井の言ってることもわかるよ」
『……………』
「俺は小学生の最後にテレビでバレー見て中学から始めたからまだまだ弱いけど、三年間やってきたバレーからなにかあって別のことやったとしても、バレーを好きなことは変わんないし、バレーは大好きだ。だから桃井の中心じゃないって、今すぐ一番にはなれないって、たぶんわかる。」
でも、と表情を更に暗くしてユニフォームを握った日向くんは今にも泣きそうに見える。
「わかるけど、影山の気持ちは痛いくらいにわかる。だって、影山のバレー大好きってのは俺も一緒だし、俺より強い桃井がバレー好きじゃないとか、本気でやったとこないとか、それなのに俺より強い影山より強いとか、すごい納得行かねーし、腹立つけど羨ましい。なんで本気じゃないのにそんな強いんだって、俺なんかよりセンスあるし、体格も恵まれてるし、本気でやってる俺の実力の、なさ、が、」
『え、』
ぼろりと堪え切れず零れ出た大粒の涙に思わず目を見開いて戸惑い声が漏れる。
周りもぎょっとしてた。
「だから、その、なんだろ、ごめん、悔しくて」
『、うん、そう―だよね、俺もその気持ちは、抱いたことあるから気にしないで。』
“劣等感”
きっと今日向くんたちの中で暴れてるものの正体。
よしよしと日向くんの頭を撫でればガキ扱いすんなと言葉は返ってきたけど手が払いのけれることはない。
「だ、大丈夫か?」
心配そうな顔の東峰さんの声に日向くんも影山くんも答えそうになくて、顔を上げれば部長さんと目があった。
『もう、喧嘩はしないんで、我がままは承知で、ほんの少しの間だけ、三人にしてもらってもいいですか?』
心配そうな顔をしてた先輩方に前科持ちの俺が何言っても信用はないだろう。それを東峰さんが背中を押して全員を出したあとに終わったら体育館で練習だからなと声をかけて行った。
がちゃんと閉まった扉と少しして離れていく大勢の足音に少し目を閉じてから二人を見た。
『俺が、何言っても嫌味になるだろうけど、俺は、二人のバレー、すごいと思うし好きだよ』
「……―ほんと、嫌味クセェ」
『ごめん。けど、影山くんの全体を見渡す力もその処理力も、導いた最適のコースに打ち分けられる技術も、君の紛れもない才能だし、セッターとしては天才の部類だと思う。日向くんの身長差をものともしない超人的なバネも、コンマレベルの瞬発力も同じで、添付の才能だと思うよ。でも、二人のバレーはね、勝ちに貪欲なところが、一番凄い。』
「「?」」
『どんな天才が六人いとしても、一人でも諦めたり、輪を乱した瞬間に崩壊するのがバレーだと俺は思ってる。たしかに影山くんは昔いろいろあったらしいし、日向くんだって他は平均以下かもしれない。それでも、自分の能力を磨き続けてきて、今烏野の大切な武器の一つになってる。』
『もし諦めてたら、二人は今ここにいないかもしれない、烏野じゃない、別のところに進学したかも、―最悪、バレーを辞めてたかもね。そうしたら、今烏野の戦力はまた別で、日向くんの活路を見いだす人も、影山くんを救い上げてくれる人もいなかったかもしれない。』
全部仮説だけどねと付け足した桃井は少し悲しい顔になって視線を逸らした。
『俺は天才じゃないから、部活じゃ補欠だったりベンチスタートどころか試合に出ないこともあったけど、それでいっかって思ってた節はないかって言われたらちょっと否定しきれないくらいに諦めてたのかもしれない。だから、君たちの努力とか、意欲とかには勝てる気がしない。一番のもので勝てないのは、辛いし、モチベーションも下がるし、気持ちを膨らませ続けるのだって大変。』
あのバレーのうまい桃井が試合にも出れないような状況をちょっと想像できなくて、それでも顔を見たら嘘じゃないんだろうなと思えば桃井も負けたことがあることに不謹慎だけど安心した。
『半年前の俺は、人から見たら凄くて皆の考えを変えたのかもしれないけど、俺は直接影山くんと戦ったわけでもないし、日向くんと戦ったわけでもないから本当に強いとは限らない。あの時の俺は、味方のセッターに、スパイカーに、レシーバーに、リベロに、みんなに助けられてたんだよ。ちょっと思い出したけど、あの試合1セット目俺のせいで落としてるし。』
「そうなのか?」
『うん。ボールの大きさも、コートの広さも、ルールも、人数も慣れなくて、ミスばっかりして気づいたら1セット目落としちゃってた。』
「………そういや、そうだったな。動きのおかしいやつ狙って打たれてたし…」
『帝光の名に恥じないように汚名は返上させてもらったけど。でも、ウチもそのあとどこかに負けちゃったらしいし、上には上がいるよ。』
無表情気味な桃井の口角が少し上がって目尻が下がる。
『俺は、日向くんや影山くんを羨ましがってるし、尊敬してるし、劣等感を抱いてる。日向くんも影山くんも、昔の俺を凄いって思ってくれてたけど今は俺に失望してる。二人に仲良くしてほしくないわけじゃいけど、気持ちに整理がつかないなら、無理に俺と合わせる必要はないと思うし、気持ちに嘘つくことはない。俺もこういう感情を持たれること慣れてるから気にしないよ。』
どうしてこんなに寂しそうなんだろう。
初めて見る桃井の笑顔に気づけば涙は引っ込んでてそんなことを思った。
「俺、は桃井と仲よくしたいし、桃井がバレーが一番じゃないって知っても嫌いじゃないなら一緒にバレーしてみたいよ!」
「…………心底むかつくけど、桃井のことは尊敬してんし、同い年の中じゃ特に手本にしてる。興味がないって言われたわけじゃねーし、なら、バレー好きにさせたいって思う」
桃井は少し目を見開いたあとにそっかと笑った。
今度は安心したみたいな、なんだか微笑んでる感じでぐっと胸が苦しくなったけれど、それよりも今は一つだけ聞きたいことがある。
「も、「桃井は、バレー嫌いか?!」」
言い終わったあとに同じことを聞いた影山と顔をあわせればまた驚いたような顔をしたあとに桃井は笑う。
『………―嫌い…じゃない、よ。』
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