籠球男子による排球への影響
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こんにちは、桃井です。
今日は一年生の実力試験。影山くんと日向くんの入部資格の有無をかけた練習試合のよう。
携帯をいじりながら登校してれば後ろから走っていく日向くんと影山くんに抜かされた。
まぁ、気にしないから追っかけるなんてことはしないで下を向いて再びLINE。
偶然か必然か、別々の学校に進んだ数人いる友達のうち、二人が通う学校同士が練習試合をするらしいそれは日曜日で、学校はないが…ここは宮城だ。行きたいけど、ここから東京はちょいと遠い。
「おはよう」
『…………』
「あの」
『………おはよ、う…ございます』
「うん、おはよう」
携帯をポケットにしまい頷くと清水さんがさらりと黒い髪を風に靡かせながら笑う。
なんだろう、楽しかったのか?
「今日の試合、どうなるのかしらね」
『……わからな、い…です。けど、』
中途半端に突然切った言葉に清水さんは首を傾げて、俺は心の中だけで続けた。
……面白く、は…なりそう
まだ最中ではあるけど、今までの結果から言うと、孤高の王様は爛漫で無鉄砲な平民に魅せられ堕ちて、一緒に昇華した。
え?それじゃ気体じゃないか?
気にしないでくれ。ただの比喩だから
ともかく、なんともいえない友情に似た絆の姿を、俺は無言で見てた。
「桃井、」
『………』
「ねぇ、桃井」
『…………』
「ちょっと、」
『…月島く、ん…なに…?』
途中から本気になって熱くなってた月島くんは汗を拭いながら話しかけてきてた。
気づかなかった。
「別になにか用があったわけじゃないんだけど、」
『…………』
「ツッキーは桃井が見てたのか気になるんだってさ!」
……山口くんって将来通訳士とかになりたいのかな
「うるさい、山口」
図星だったのか月島くんは眉間に皺を寄せてる。
何を見てるのかってなんか変な質問を投げかけられた。
実際、何を見ていたわけでもないし
何も答えず月島くんを見る。
「てか、桃井はどうして選手にならないわけ?」
ふいっと顔を逸らしてた月島くんはまだ本調子じゃなさそうで眉をひそめてる。
些細なことで表情を崩すなんてポーカーフェイスの達人には程遠いよ?
『…………なん、ていうか…ルール知らないし…やった、のもあれ一回きり、だから、やろ…うにも』
「なんだ、なら桃井バレーが嫌いな訳じゃないんだな」
ぬっと現れた部長さんに月島くんはうわぁと声を漏らしかけてた。
「じゃあ桃井、」
にこにこ笑った部長さんは俺の経験上きっと、ほぼ100%の確率でこう言う
「アップして入ろうか」
ちょっと背筋が冷えた。
どうしてこうなる、おこだぞ。
マネージャー業のためにジャージを着てきていたから服がないという逃げはできなくて、最近体を動かしてないから丁度いいかと思ったのもあり
『………』
軽く走って柔軟して、汗なんてかけなかったけどどうせ大して動きはしない、普段の基礎練の四分の一にもみたない程度の運動をして体育館に戻った。
「じゃ、桃井は俺の代わりにこっち入ってね」
『……、はい…』
さて、参ったぞ
コートに足を踏み入れれば今までとは違う広さのコートに戸惑った。
とても狭い
「桃井」
『…、なに…?』
ぽんと肩を叩いてきたのは少しだけ下にいる月島くんで、比較的高い背の人が隣にいるのは久し振りな気がした。
「桃井はレシーバーやってね」
#レシーバー とは
つい癖で、頭の中で勝手に検索をかけようとしてた。
『部長、さんと…同じことすれ、ば……いい、んだよね』
「大体はそうだけど…まさかポジション、ホントに知らないの」
問われたけど答えす、大分長く伸びた“お揃いの色”をした髪を纏める。
中学時代のときみたいにしっかり後ろの高い位置で纏めれば“姉”とお揃いだけど、それは試合のときだけだから今日は下のほうで束ねた。
『ちょっ…と、最初の二球…だけ、準備させて……』
さっきの部長さんの動きを思い返し分析。そして目を開け前を見た。
「うぉー!桃井!負けねーぞ!」
ぴょんぴょんと跳ねてるようにしか見えない日向くんは“今は見る必要はない”。見るべきはレシーブの比較的うまい二人。幸いなことにこちらからのサーブ。月島くんが後ろからボールを打ち向こうのコートへ
田中さんが正面に入り手首と肘の間の場所でボールをとらえ上げた。
影山くんには返ってない。ボールの角度が緩く大まかに見て67°だったのにあてかたが鈍角だった。真上に近い感じで上がったボールを影山くんが上げる。
オーバーハンドパス?というやつか
『…………』
日向くんは二回でこちらに戻ってきたボールにちぇっと残念そうにした。
戻ってきたボールは俺の近くで、月島くんと山口くんは動いてないから取れってことみたいだ
見よう見まねで手のひらを組んで肘を伸ばし、ボールを腕に当てた。
『…………』
左腕に寄りあたったボールは真っ直ぐ上がらずに左側へ飛び、コート外へ出ていった。
「………」
「…………」
「うぇぇ!?ちょ、桃井ぃぃっ?!」
先輩たちの無言、一年生たちの目、日向くんの叫び声。ボールの当たった腕を見つめてからもう一度頭のなかを整理する。実験はする前の考察、したあとの結果、それらを比べ出てきた誤差。
関係、導き出された定理、そこから考えられる進化
俺と姉の作り出した方程式。
方程式のそれを姉は“女の勘”と纏め名付けてる。俺は方程式って呼んでるけど。
「ちょ、ちょ、」
『………』
日向くんは騒がしい
ちらりと目だけ見てから考え事を始める。
大丈夫、あとは方程式にあてはめるだけ
「さ、サーブ打つぞ?」
サーブ権が向こうに移り変わり、田中さんが確認をとってくる。
月島くんがこちらを見てからどうぞと頷いた。
あと一つ、それで情報は足りる。
田中さんが打ち込んできたボールは試合中に見た影山くんのジャンプサーブ?よりは劣るが威力はあった。
もう一度腕をボールにあてる。
先程よりも腕を高く地面に平行気味にしてあてればボールはあがったが後ろに飛びコート外へ。
「………………」
到頭言葉を失う日向くん。
丁度いい、静かになって
これで情報は十分だから
もう料理できる
まさか嘘だろと流石に目を疑った。
これが田中と月島の言ってたスーパーエースの桃井?
どう考えても、誰が見ても、日向よりも下手。
いや、素人。
初めてボールを触ったかのような動きだった。
これは悪いことをしたかもしれない。
経験者たちの中へ未経験者を混ぜていきなり試合させるなんて流石に無理だ。
棒立ちをしてる桃井の背中にに一度視線を惑わしてから近づき声をかける。
「桃井、悪いけど―…」
『田中さんは打点1m65cm。ボール傾斜角度37、速さは95km。腕の角度51°で戻した場合、汳球は―……右49°、高さ1m82cm』
ぶつぶつと早口で呟く桃井は正直、不気味だった。
『レシーブ角度は―…』
俺がいることに気づいてもないのか未だになにか言ってる。
『――――…、ん…、大丈夫…か』
顔を上げた桃井はうっすらと笑んでいた。
「も、桃井?」
『…ん…はい、なん…でしょうか』
「あ、いや…続けて平気か?」
止めるつもりがこっちが窺うことになった。
『………あ、すみ…ません、お願いしま…す』
桃井は一瞬首をかしげ不思議そうにしたが察したのか頷く。
その拍子に長い桃色の髪が靡き、桃色の瞳を縁取る同じく長い桃色の睫毛が震えた。桃井が男で俺よりも背が高いにも関わらず、思わず見惚れた。もし、これで桃井が女だったら、絶世の美女以外に形容できない。
「―ん、あ、おお、じゃあ、頑張ってくれな」
まくし立てコートから足早に出ていった。
「もういい?」
『……う、ん。大丈…夫。』
月島の問いに頷いた桃井を見て、田中はいくぞと声を出す。
田中は今さっき打ったものよりも少し強いサーブを打った。
「あ」
「え」
「おお?!」
早く飛んできたボールの前に素早く入った桃井はボールをセッター役の月島へと綺麗に上げてみせた。
上がってきた当人の月島は目を丸くし驚きながらボールをスパイカーの山口にへとトスを上げる。山口はボールを日向たちのコートへと叩き込んだ。
「……う、うぉぉぉ!?」
「桃井すっご!」
「なんか…ぇ…」
あんな綺麗に返るレシーブ、うちでは西谷くらいしかできない
『……しっぱい…あと3cm左、だった―や…』
溢した言葉は“失敗”。
確かに少しだけ右寄りだったがそんなの誤差の範囲だったろ
「桃井すごっ!」
「やっぱできるんじゃん。流石だね」
山口と月島が笑う。
田中と日向は目を輝かせ、影山は警戒の色を露にした。
「ツバッキー!」
「なんか被るんだけどそれ」
『……な、…に?』
山口くんからはツバッキーという愛称をつけられた。
しかしながら月島くんはあまりお気には召していない様子。
「ツバッキーちょーかっこよかった!さっすが帝光のスーパーエース!今日も勝っちゃったし!」
エクスクラメーション多めに山口くんが喋り、いい加減スーパーエースじゃないと否定するのも疲れてきた。
首を横にも縦にも振らず前を見る。
「月島!山口!桃井!」
なんてことだ、山口くんと同じくらい騒がしい子が来た。
白目になるなんてことはないけど、文字で著すならそんな感じ。
もう放っておいてくれ。ほんと。
たしかに中学時代なついた相手にはぶんぶん尻尾を振る馬鹿愛らしい黄色いわんこがいたけど、それとこれは違う
正直この手の子とは関わりがないし扱いに困るんだよな。
「握手!」
ちょっと呆けてる間に和解したのかなんなのか、月島くんと山口くんに握手を求める日向くん。
「桃井」
『………な…に?』
一人輪から外れた影山くんはきっつく鋭く俺を見てる。
ほんと、目付き悪い
「お前なんでこんなとこいんだ?」
質問の意味がわからないです。
口には出さずに答え影山くんを見下ろす。
たしか影山くんは語学力と語彙力が乏しい
なるほど、だからか
自己完結してふらりと踵を返した。
「おい!」
後ろで影山くんが声を上げた。
束ねてた髪からゴムを外して、いつものように扉の前に座り込もうとして、がらりと音を立てて扉が開いた。
低身長短髪黒髪童顔眼鏡。
外見を纏めたらまるで漢文みたいになってしまった。
「あ、ごめんね…おっきぃ!?」
ぶつかりそうになったその人は謝ってから俺を見上げ、そしてさらに見上げた。
どこか聞き覚えのある声が鼓膜を揺らし、反射的に名前を呼ぶ。
『……、――くん?』
「え?」
呆けたその人にああ、しまったと首を横に振った。
『………な…んでもな、いです』
すみませんと小さく頭を下げてから隣にいた部長さんに断りを入れて体育館を出る。
とてとて…あ、違うや、てけてけ…やしやし?歩き大きな木の下に立った。
忍ばせておいた携帯を取り出していつも使ってる黄緑色のアプリケーションを開く。
一言発せば既読がつくのと同時に言葉が返ってきた。
『………はぁ』
携帯を閉まって、ふと向こうを見れば清水さんが大きめの段ボールを抱えて歩いてた。
もう一度携帯に触れてから足を前に出す。
『…し…みず、さん…それ、俺が持ち…ます』
ひょいと横から手を伸ばして段ボールを取り上げた。
それは女性にとっては軽くない重さで、清水さんよく運んできたと思う。
「あ、」
びっくりして目を丸くした清水さん。
『こ、れ…なに、入って…るん…ですか?』
「え?それ?えっと、ユニフォーム」
布も何枚もあれば重くなるか
とはいっても俺にとっては楽な重量だ。
「ありがとう」
『………い、え…マネ―ジャ、なんで…俺、も』
職務怠慢いくない
まぁ、体育館はもう目の前なんだけどね
清水さんがどこから運んできていたというのは聞く気はないけど、指先が白んで筋肉が張ってたから結構な時間持ってたんだろう
がんばりものだな
女マネは姉も含めがんばり屋が多くて困る。
今日は一年生の実力試験。影山くんと日向くんの入部資格の有無をかけた練習試合のよう。
携帯をいじりながら登校してれば後ろから走っていく日向くんと影山くんに抜かされた。
まぁ、気にしないから追っかけるなんてことはしないで下を向いて再びLINE。
偶然か必然か、別々の学校に進んだ数人いる友達のうち、二人が通う学校同士が練習試合をするらしいそれは日曜日で、学校はないが…ここは宮城だ。行きたいけど、ここから東京はちょいと遠い。
「おはよう」
『…………』
「あの」
『………おはよ、う…ございます』
「うん、おはよう」
携帯をポケットにしまい頷くと清水さんがさらりと黒い髪を風に靡かせながら笑う。
なんだろう、楽しかったのか?
「今日の試合、どうなるのかしらね」
『……わからな、い…です。けど、』
中途半端に突然切った言葉に清水さんは首を傾げて、俺は心の中だけで続けた。
……面白く、は…なりそう
まだ最中ではあるけど、今までの結果から言うと、孤高の王様は爛漫で無鉄砲な平民に魅せられ堕ちて、一緒に昇華した。
え?それじゃ気体じゃないか?
気にしないでくれ。ただの比喩だから
ともかく、なんともいえない友情に似た絆の姿を、俺は無言で見てた。
「桃井、」
『………』
「ねぇ、桃井」
『…………』
「ちょっと、」
『…月島く、ん…なに…?』
途中から本気になって熱くなってた月島くんは汗を拭いながら話しかけてきてた。
気づかなかった。
「別になにか用があったわけじゃないんだけど、」
『…………』
「ツッキーは桃井が見てたのか気になるんだってさ!」
……山口くんって将来通訳士とかになりたいのかな
「うるさい、山口」
図星だったのか月島くんは眉間に皺を寄せてる。
何を見てるのかってなんか変な質問を投げかけられた。
実際、何を見ていたわけでもないし
何も答えず月島くんを見る。
「てか、桃井はどうして選手にならないわけ?」
ふいっと顔を逸らしてた月島くんはまだ本調子じゃなさそうで眉をひそめてる。
些細なことで表情を崩すなんてポーカーフェイスの達人には程遠いよ?
『…………なん、ていうか…ルール知らないし…やった、のもあれ一回きり、だから、やろ…うにも』
「なんだ、なら桃井バレーが嫌いな訳じゃないんだな」
ぬっと現れた部長さんに月島くんはうわぁと声を漏らしかけてた。
「じゃあ桃井、」
にこにこ笑った部長さんは俺の経験上きっと、ほぼ100%の確率でこう言う
「アップして入ろうか」
ちょっと背筋が冷えた。
どうしてこうなる、おこだぞ。
マネージャー業のためにジャージを着てきていたから服がないという逃げはできなくて、最近体を動かしてないから丁度いいかと思ったのもあり
『………』
軽く走って柔軟して、汗なんてかけなかったけどどうせ大して動きはしない、普段の基礎練の四分の一にもみたない程度の運動をして体育館に戻った。
「じゃ、桃井は俺の代わりにこっち入ってね」
『……、はい…』
さて、参ったぞ
コートに足を踏み入れれば今までとは違う広さのコートに戸惑った。
とても狭い
「桃井」
『…、なに…?』
ぽんと肩を叩いてきたのは少しだけ下にいる月島くんで、比較的高い背の人が隣にいるのは久し振りな気がした。
「桃井はレシーバーやってね」
#レシーバー とは
つい癖で、頭の中で勝手に検索をかけようとしてた。
『部長、さんと…同じことすれ、ば……いい、んだよね』
「大体はそうだけど…まさかポジション、ホントに知らないの」
問われたけど答えす、大分長く伸びた“お揃いの色”をした髪を纏める。
中学時代のときみたいにしっかり後ろの高い位置で纏めれば“姉”とお揃いだけど、それは試合のときだけだから今日は下のほうで束ねた。
『ちょっ…と、最初の二球…だけ、準備させて……』
さっきの部長さんの動きを思い返し分析。そして目を開け前を見た。
「うぉー!桃井!負けねーぞ!」
ぴょんぴょんと跳ねてるようにしか見えない日向くんは“今は見る必要はない”。見るべきはレシーブの比較的うまい二人。幸いなことにこちらからのサーブ。月島くんが後ろからボールを打ち向こうのコートへ
田中さんが正面に入り手首と肘の間の場所でボールをとらえ上げた。
影山くんには返ってない。ボールの角度が緩く大まかに見て67°だったのにあてかたが鈍角だった。真上に近い感じで上がったボールを影山くんが上げる。
オーバーハンドパス?というやつか
『…………』
日向くんは二回でこちらに戻ってきたボールにちぇっと残念そうにした。
戻ってきたボールは俺の近くで、月島くんと山口くんは動いてないから取れってことみたいだ
見よう見まねで手のひらを組んで肘を伸ばし、ボールを腕に当てた。
『…………』
左腕に寄りあたったボールは真っ直ぐ上がらずに左側へ飛び、コート外へ出ていった。
「………」
「…………」
「うぇぇ!?ちょ、桃井ぃぃっ?!」
先輩たちの無言、一年生たちの目、日向くんの叫び声。ボールの当たった腕を見つめてからもう一度頭のなかを整理する。実験はする前の考察、したあとの結果、それらを比べ出てきた誤差。
関係、導き出された定理、そこから考えられる進化
俺と姉の作り出した方程式。
方程式のそれを姉は“女の勘”と纏め名付けてる。俺は方程式って呼んでるけど。
「ちょ、ちょ、」
『………』
日向くんは騒がしい
ちらりと目だけ見てから考え事を始める。
大丈夫、あとは方程式にあてはめるだけ
「さ、サーブ打つぞ?」
サーブ権が向こうに移り変わり、田中さんが確認をとってくる。
月島くんがこちらを見てからどうぞと頷いた。
あと一つ、それで情報は足りる。
田中さんが打ち込んできたボールは試合中に見た影山くんのジャンプサーブ?よりは劣るが威力はあった。
もう一度腕をボールにあてる。
先程よりも腕を高く地面に平行気味にしてあてればボールはあがったが後ろに飛びコート外へ。
「………………」
到頭言葉を失う日向くん。
丁度いい、静かになって
これで情報は十分だから
もう料理できる
まさか嘘だろと流石に目を疑った。
これが田中と月島の言ってたスーパーエースの桃井?
どう考えても、誰が見ても、日向よりも下手。
いや、素人。
初めてボールを触ったかのような動きだった。
これは悪いことをしたかもしれない。
経験者たちの中へ未経験者を混ぜていきなり試合させるなんて流石に無理だ。
棒立ちをしてる桃井の背中にに一度視線を惑わしてから近づき声をかける。
「桃井、悪いけど―…」
『田中さんは打点1m65cm。ボール傾斜角度37、速さは95km。腕の角度51°で戻した場合、汳球は―……右49°、高さ1m82cm』
ぶつぶつと早口で呟く桃井は正直、不気味だった。
『レシーブ角度は―…』
俺がいることに気づいてもないのか未だになにか言ってる。
『――――…、ん…、大丈夫…か』
顔を上げた桃井はうっすらと笑んでいた。
「も、桃井?」
『…ん…はい、なん…でしょうか』
「あ、いや…続けて平気か?」
止めるつもりがこっちが窺うことになった。
『………あ、すみ…ません、お願いしま…す』
桃井は一瞬首をかしげ不思議そうにしたが察したのか頷く。
その拍子に長い桃色の髪が靡き、桃色の瞳を縁取る同じく長い桃色の睫毛が震えた。桃井が男で俺よりも背が高いにも関わらず、思わず見惚れた。もし、これで桃井が女だったら、絶世の美女以外に形容できない。
「―ん、あ、おお、じゃあ、頑張ってくれな」
まくし立てコートから足早に出ていった。
「もういい?」
『……う、ん。大丈…夫。』
月島の問いに頷いた桃井を見て、田中はいくぞと声を出す。
田中は今さっき打ったものよりも少し強いサーブを打った。
「あ」
「え」
「おお?!」
早く飛んできたボールの前に素早く入った桃井はボールをセッター役の月島へと綺麗に上げてみせた。
上がってきた当人の月島は目を丸くし驚きながらボールをスパイカーの山口にへとトスを上げる。山口はボールを日向たちのコートへと叩き込んだ。
「……う、うぉぉぉ!?」
「桃井すっご!」
「なんか…ぇ…」
あんな綺麗に返るレシーブ、うちでは西谷くらいしかできない
『……しっぱい…あと3cm左、だった―や…』
溢した言葉は“失敗”。
確かに少しだけ右寄りだったがそんなの誤差の範囲だったろ
「桃井すごっ!」
「やっぱできるんじゃん。流石だね」
山口と月島が笑う。
田中と日向は目を輝かせ、影山は警戒の色を露にした。
「ツバッキー!」
「なんか被るんだけどそれ」
『……な、…に?』
山口くんからはツバッキーという愛称をつけられた。
しかしながら月島くんはあまりお気には召していない様子。
「ツバッキーちょーかっこよかった!さっすが帝光のスーパーエース!今日も勝っちゃったし!」
エクスクラメーション多めに山口くんが喋り、いい加減スーパーエースじゃないと否定するのも疲れてきた。
首を横にも縦にも振らず前を見る。
「月島!山口!桃井!」
なんてことだ、山口くんと同じくらい騒がしい子が来た。
白目になるなんてことはないけど、文字で著すならそんな感じ。
もう放っておいてくれ。ほんと。
たしかに中学時代なついた相手にはぶんぶん尻尾を振る馬鹿愛らしい黄色いわんこがいたけど、それとこれは違う
正直この手の子とは関わりがないし扱いに困るんだよな。
「握手!」
ちょっと呆けてる間に和解したのかなんなのか、月島くんと山口くんに握手を求める日向くん。
「桃井」
『………な…に?』
一人輪から外れた影山くんはきっつく鋭く俺を見てる。
ほんと、目付き悪い
「お前なんでこんなとこいんだ?」
質問の意味がわからないです。
口には出さずに答え影山くんを見下ろす。
たしか影山くんは語学力と語彙力が乏しい
なるほど、だからか
自己完結してふらりと踵を返した。
「おい!」
後ろで影山くんが声を上げた。
束ねてた髪からゴムを外して、いつものように扉の前に座り込もうとして、がらりと音を立てて扉が開いた。
低身長短髪黒髪童顔眼鏡。
外見を纏めたらまるで漢文みたいになってしまった。
「あ、ごめんね…おっきぃ!?」
ぶつかりそうになったその人は謝ってから俺を見上げ、そしてさらに見上げた。
どこか聞き覚えのある声が鼓膜を揺らし、反射的に名前を呼ぶ。
『……、――くん?』
「え?」
呆けたその人にああ、しまったと首を横に振った。
『………な…んでもな、いです』
すみませんと小さく頭を下げてから隣にいた部長さんに断りを入れて体育館を出る。
とてとて…あ、違うや、てけてけ…やしやし?歩き大きな木の下に立った。
忍ばせておいた携帯を取り出していつも使ってる黄緑色のアプリケーションを開く。
一言発せば既読がつくのと同時に言葉が返ってきた。
『………はぁ』
携帯を閉まって、ふと向こうを見れば清水さんが大きめの段ボールを抱えて歩いてた。
もう一度携帯に触れてから足を前に出す。
『…し…みず、さん…それ、俺が持ち…ます』
ひょいと横から手を伸ばして段ボールを取り上げた。
それは女性にとっては軽くない重さで、清水さんよく運んできたと思う。
「あ、」
びっくりして目を丸くした清水さん。
『こ、れ…なに、入って…るん…ですか?』
「え?それ?えっと、ユニフォーム」
布も何枚もあれば重くなるか
とはいっても俺にとっては楽な重量だ。
「ありがとう」
『………い、え…マネ―ジャ、なんで…俺、も』
職務怠慢いくない
まぁ、体育館はもう目の前なんだけどね
清水さんがどこから運んできていたというのは聞く気はないけど、指先が白んで筋肉が張ってたから結構な時間持ってたんだろう
がんばりものだな
女マネは姉も含めがんばり屋が多くて困る。