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僕の学園遊戯
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切られた髪はやっぱり短かったようで、惜しげもなく晒されてしまってる肌をなでてく風のせいで思わず目をつむり震えた。
一ヶ月ぶりに目の前にする立派な門の前にはカメラを持った人集。
いまだ報道熱は冷めてないようだ。
いや、きっとあと一年は冷めるのを許されない。
少し笑って用意してきておいた藍色のものを被り髪を整えて一歩踏み出す。
ボタンの止めてない真っ白のブレザーの裾が風に煽られて舞い、僕に気づいた記者たちが首を傾げた。
他校のやつが来たら、そんな反応取るのも仕方ないことかもね
金持ちならではの立派な門の出入り口につけられてる電子キーロックに番号を打ち込めばエラーすることなくカチッと音がして扉が開いた。
呆気にとられてる記者たちが我に返って僕を捕まえる前に門をくぐった。
学校中に漂う、負の感情。
ああ、なんていい感じに淀んでるんだろう
堂々と歩いて行くも、僕が毎日通ってた頃に聞いてた運動部の掛け声も、特に響く高いテニスボールを打つ音もしないでここまで静かな学校は初めてきたと思った。
本当にみんな、何もやれないようにされたのか
それはさぞいい感じ僕への侮蔑だとか恨みだとか熟成してるんだろうね
下駄箱についていつもの癖で伸ばしてた自分のだった靴箱になにも入ってないのを見て手を戻す。
消えないよう掘られていたり、スプレーだったりで書き連ねられてた僕への侮辱の言葉はそのままで本当に消えなかったみたいだ。
文字を指先でなぞってから靴で校舎に入った。
廊下を歩いて階段を二つ分登り、また廊下を歩いて行く。
あと少しで半年目に入ろうとしてた三年になってからの僕の教室まであと少し。
一歩一歩足を踏み出していくたびに学校での短いあの一ヶ月間を思い出す。
教室に入った途端に殴られたことも、蹴っ飛ばされたこともある。
扉に手をかけた瞬間に電流が流れたのは今となっちゃ今後二度と味わえないだろう
教室入っても黒板に貼り付けられて物を投げつけられたり、窓から落とされそうになったこともあったか
そういえばいつだかにブレザーが目の前で燃やされた時は次の日ちゃんと新しいブレザーが僕のクローゼットに掛けられてたけどあれはセイくんの仕業かな
ゆっくり進めてた足を止めて目の前の扉を見つめる。
今は授業中のはずだけど、一体何人の子が普通に戻れてるんだろう
躊躇うことなく扉に手を伸ばして横にスライドさせた。
『無断欠席してすみません、あと遅れてすみません。……今日は僕の席、ありますか?』
クラスを見渡しながらにぃっと笑えば教室の中の空気が凍る。
「っ…ぁ…あ…」
かたかたと震え始めた教師の持ってチョークが転がり、床に落ちて砕け散った。
「ひぃっ」
「ご、ごめ、ごめんなさ、」
机に座って下を向いてたクラスメイトが椅子から転げ落ちたりしながら僕を見て悲鳴を上げる。
『あれ、今日は幽霊ごっこの日じゃないんだ?』
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
『え?何謝ってるの?』
泣いて謝り倒すやつに悲鳴を上げて立たない足腰で教室を逃げ出すやつ。
隣の教室の扉が開いた気がした。
『みんなそんなにびくびくしてどうしたの?僕学校に来ただけなのに』
がらっと真後ろの扉が開いてゆっくり振り向けば、開けた張本人の隣クラスの担任が悲鳴を上げて尻もちついてから逃げ出した。
『さて、次の時間は…あ、体育だ。ふふ、久々に運動するから体鈍ってないといいけど…今日は巻き寿司ごっこする?それとも的あてする?』
笑って振り返ったのにまた悲鳴を上げられて、なんだつまんないなとまっすぐ進んでいく。
途中すれ違ったクラスメイトたちは憎悪どころか恐怖しか浮かばない目で見られて避けられ、いつだかみたいに足を蹴られたり引っ掛けられたりすることなく一番後ろのロッカーについた。
下駄箱と同じように汚れぼこぼこなロッカーの表をなぞって扉を開ければ中にはゴミとかなんかの死骸とかが入ってるだけでやっぱり僕のものはない。
臭いにうげっとなってから扉を占めて、誰かの泣き謝る声を背中に受けながら教室を出て行った。
僕が学校に来たことがそんなに嬉しかったのか、数少ない普通に戻ろうとしていた人たちは泣き謝り声を上げた。
体育館も、特別室もそんなで。
どこにも僕の会っときたい人はいなくて、最後にたぶん僕がこの学校で一番過ごすことの多かった場所にきた。
すべてが始まったこの場所は良くも悪くもいろんな思い出が詰まってるわけで、いつだかにボロボロになってたベンチやロッカーは新品になってて表面に触れることはしないで部屋の中央に立ってぼーっとする。
征は、全部終わらせてこいって言ったわけで。
お迎えがくるのかはわからないけど時間を確認するためにこの部屋にある時計を見るよりも早く、外から近づいてきてた大人数の足音と破裂したような扉の音が遮った。
「明石!」
一番に飛び込んで僕を目に映したのは部長だ。
『…あ、おはようございます。えーと…休んでてすみません』
へらっと笑って見せれば跡部はぐっと歯を噛みしめて、後ろの松葉杖ついてる人とか、腕つってる人とかが顔を歪めた。
『んー…そんな身体じゃもう僕を殴れないですね』
「っ、あ、明石その!」
『あーぁ、これじゃあやっぱセイくんたちと一緒に行ったほうがいいかな。これ、退部届です。三年間お世話になりました。』
ぺこりと頭を下げてから紙を差し出す。
目の前にいたみんなの顔が引きつってて知り合ったなんか面白い。
『勧告受けてから踏ん切りつくまで一ヶ月間も居座ってすみませんでした。』
「あか…っ!」
『どうか皆様お元気で「明石!」
なんだろう。
まだ僕になにか言い切ってないのかな
顔を上げて僕の言葉を遮った張本人たちを眺めると少したじろいだ。
「っ、明石、ほんまにすまんかった」
ばっと一番に頭を下げたのは以外にも忍足で物珍しい物を見てしまったと目を瞬く。
『え?なんで謝ってるの?僕、別に忍足になにもされてないじゃん?』
「そないなことあらへん。ずっと見とったんやから同罪―…」
『なにが同罪なの?』
「虐めてたこと―…」
『え?僕虐められてないけど』
「は?」
『え?』
下げてた頭を上げた忍足と目が合う。
目が合うっていっても右目眼帯つけてたから忍足の左目とだけど。
『あれ?僕言わなかったっけ?みんなの悪意ご馳走様ですって』
理解できないみたいな顔されても困るんだけどなと思いながらとりあえずはいと退部届を突きつける。
「っ、なん、」
『ここにいたニ年間は悪くなかったけど、セイくんたちむっちゃ怒ってるし、もう用ないから』
僕を傷めつけてくれないなら、君たちは用済みなんだよね
『あ、そうそう。ねぇ、芥川くんと樺地くんと滝くん知らない?』
「え、」
『ちゃんと終わらせておかないと征が怒るから、全員に明石として最後の挨拶しとかないとと思ってるんだ』
あ、でも征の本気で怒ったのまた見たいから挨拶しないのも一つかもしれないや
『で、知らない?』
そういえば、あの元凶のどきゅーんちゃんもいない。
セイくんたちは何も教えてくれないからどうなったのか知らないけど、やっぱりセイくんたちが片づけちゃったのかな
目の前の彼らもボロ雑巾みたいになってるし
「…見てない」
『そうなんだ。じゃあしょうがない』
宍戸の言葉に一つ頷いてから、後ろにあった椅子の上に靴を脱がずに立つ。
みんなよりも高くなった背に高揚しながら見下ろせば、みんなの視線は独り占めで、憎悪も侮蔑も混ざってないことに内心しょんぼりしながら声を上げることにした。
『えーと、若干名足りないけど、改めまして、テニス部の皆さん二年とちょっとお世話になりました!本当は三年間いるつもりだったんだけど諸事情ってやつですね』
被ってた藍色を外してボールを回すみたいに指先にひっかけてくるくるすれば皆の目が見開かれる。
『今ここで明石藤は死にました!ここにいるのは明石藤じゃなくて、僕です。なのでもう君たちと僕は他人!ってことでおつかれっした!』
回してたかつらを持ち直しぺこりとお辞儀して顔を上げると反応は様々で、けれど一様に顔色は悪かった。
「そ、そんな、明石さん!」
『やだなー、僕は赤司だぞっ!』
笑ってみせたのに皆はぐしゃりと顔をしかめて今にも泣きそうな顔をした。
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