籠球男子による排球への影響
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入浴はみんなとズレてだった。
まぁそれは夕飯の片付けをしてたから仕方のないことで、普段からあまり長湯しない俺はいつものように20分足らずで風呂を出た。
髪は乾かすと長くなるからタオルで拭いてまとめる。
スリッパを履いてるからペトペト、じゃない、ペタペタ音がして、進行方向に誰かいるのが見えた。
「ひぇ!」
小さな肩を大きく揺らして飛び跳ねる。オレンジ色のそれは見覚えしかなかったから口を開いた。
『………ひなーた、く…ん?』
「もももももい?!!」
俺の名前に、そんなにもはないけどと思いつつ頷く。妙に怯えてる様子に首を傾げればその横にいた坊主頭も顔を上げて俺を確認して、ほっとしたように大きく息を吐いた。
「ああああの、あのさ、桃井、ここに、さっき小さい子が」
泣きそうな顔の日向くんと真顔の田中さん。異様な二人の様子に足音が聞こえて、二人が大きく叫んだ。
「「出たぁああ!!!!!」」
『???』
「何騒いでんだ?大地さんに怒られるぞ?」
飛び上がった二人は現れたのが西谷さんなことに気づいて息を吐いて、それなら田中さんが日向くんの頭を叩く。
「ただのノヤじゃねぇか!」
「で、でも!ノヤっさんの身長が縮んだぁ!!!??」
「だははは!!たしかにお前は髪のぶんまで身長だぜ!」
「てめぇ!!?笑ってんじゃねぇ!!!」
賑やかな三人にそっと近づいた、今度は大きな影はぽんっと西谷さんの肩に手をおいた。
「あんまり騒ぐな。大地に怒られるぞ」
「「「うあああああ!?!!!」」」
「あ、え??」
「お前らうるさーい!!」
『????』
叫んだ三人に、戸惑っている東峰さん。それから聞こえた怒号に賑やかな合宿場だなと息を吐いて廊下を歩き出す。
割り当てられている部屋に入れば中にいた二人が顔を上げて目を細めた。
「随分と騒がしかったけど、何かあったわけ?」
『……う、ん…?…たぶん…??』
「あれ?ツバッキーは巻き込まれてないの?」
『………ーいた、けど……気づいたら、終わって、た…?』
歩いて割り振られてる布団に座る。髪を緩くまとめて帽子を被って、そうすれば近くにいた菅原さんが目を瞬いた。
「桃井、すごい髪ケアしてるんだね」
『………姉、の…影響で…』
「ああ、噂のお姉さん…!」
「そういえば桃井のお姉さんていくつなの?」
『…おないーどし、で、す…』
「え?もしかして双子?」
会話に入ってきた縁下さんに答えて、木内さんに頷く。そうすれば山口くんがわぁ!と声を上げた。
「ツバッキーってお姉さんと似てるの??」
『…ーうん』
「写真ないの?!」
『え…っと………』
成田さんを含め、そわそわしてる周りにまぁいいかと携帯を取り出して触る。つい最近、“桐皇学園”に入学した二人と一緒に撮ったそれを呼び出して画面を向ければ、全員が顔を近づけて目を見開いた。
「うわ!美少女!!」
「美人が二人いる!!」
「え、真ん中の人両手に花じゃん」
「ねーねー、この人は?」
『…おさ、な、じみ…』
「へぇ。桃井だけ学校違うんだ?」
『……うん』
きらきらして楽しそうなみんなに、月島くんだけ訝しげで、たしかにと菅原さんも心配そうに俺を見つめる。
山口くんと木内さん、縁下さん、成田さんもハッとしたように顔色を窺うから首を横に振った。
『………ー父、の、仕事で…俺だけ、こっちに来てー…別に、喧嘩とか…じゃない、です』
「あー!よかった!!」
「そうだったんだね…!」
あからさまに安心したと息を吐くみんなに心配性だなと携帯をしまって、それから溢れたあくびに菅原さんが手を叩いた。
「はいはい。それじゃあまぁ数人足りないけど、そろそろ消灯時間だし明日もある。眠たくないやつもいるだろうけど、寝る人もいるだろうから、あんまり騒がないように」
「「「「はい!」」」」
部長さんはまだみんなを叱ってるんだろう。戻ってくる気配のないそれにさっさと布団に入って、携帯を触る。
みんなにいつもどおりおやすみと連絡を入れて、それから目を閉じる。
少しひと気のある室内は騒がしいはずなのに落ち着いて、すっと意識は溶けた。
携帯の揺れる気配に目を開く。
手の中のそれを確認すればアラームとしてセットしてる携帯が音を出さずに揺れていて、止めてから起き上がる。
周りにはそれぞれ布団に入っているみんながいて、各々のびのびと好きに眠ってるらしい。
個性豊かな寝相に体を一度伸ばして、かぶってた帽子を外して立ち上がり布団から抜け出した。
最低限の身支度を整えて、それでも有り余っている時間に迷わず外に出る。
靴紐を確認してから大きく息を吐いて、吸って、まだ日が昇りかけでどことなく冷たい、新鮮な空気を循環させてから地面を蹴る。
簡単に息が上がる程度の速度を保って走る。体を温めるように市街地を進んでいき、タイマーが作動したから折り返して今度は宿舎に向かう。
次はなにをしようかなと思ったところで、あ!!と声が聞こえて視線をやった。
「桃井!おはよ!!!」
『……おはーよ』
「おはよう。はえーな、お前」
『…………目が、覚めちゃ…て…ー二人、は、朝練…?』
「おう!これから走り行ってくるとこ!」
「桃井はもう終わりか?」
『………はし、るのは…』
「そっかー!じゃあ明日からは一緒に走ろうな!」
『……じか、ん…が、あったら…?』
これから走りに行く二人を見送って後者に入る。
まだ起きている人間はまばらなのか、静けさの残ってる敷地内に、息を大きく吐いて体育館に足を進めて、聞こえてきてる音に顔をのぞかせれば中にいた二人はぱっと顔を上げた。
「お!桃井!」
「桃井ー!おはよう!」
『……おは、よ、ございます…』
「あれ?汗かいてるけどもしかしてジョギング行ってたの?」
『…ーは、い』
「だから桃井いなかったのか!起きたらいないからびっくりしたべ!」
『………すみ、ません…?』
「あ、別に怒ってないよ!」
菅原さんと東峰先輩はボールを使って練習してたらしい。
転がってるボールを拾い上げて、そちらを見れば東峰先輩がにこやかに笑った。
「桃井、その、よかったら一緒に朝練しないか?」
『……ーはい。ぜ、ひ…』
「ありがとう!」
嬉しそうな東峰先輩に菅原さんも目を輝かせて、二人の表情に口元を緩めてから持ってたボールを渡す。
菅原さんが上げて、東峰先輩が打つ。それならと打たれたボールを拾って返したり、もしくは打ち込むのが俺の仕事で、ただひたすら黙々とボールを向こうのコートに送る。
何十回と繰り返したそれに入り口から音がして、目線を向けるよりも早く、あー!!?と大きな声が聞こえた。
「桃井がバレーしてる!!」
揺れたオレンジ色は見たばかりの色で、その隣で目をかっ開いてる黒色も見覚えがある。
二人は駆け寄るようにこちらに近づいてきてそわそわと先輩を見た。
「「おはようございます!!」」
「おう!おはよー!」
「ああ、おはよう」
朝から和やかな二人に二人は勢いを隠しきれてなくて、菅原さんと東峰先輩は顔を見合わせると苦笑いをこぼしてから、よし!と頷いた。
「じゃあみんなで練習すんべ!」
「やったー!」
「うっす!」
ぴょんぴょんと体いっぱい使って嬉しさを表現する日向くんと、右手で拳を作って喜ぶ影山くんに、それなら2対2でやるのかなとコートを出ようとすれば服がつままれた。
「どこ行くんだ?桃井」
『…?』
「その、まだ朝練付き合って欲しいんだけど…駄目かな?」
東峰先輩の静かなお願いに首を横に振る。まだ朝の準備までは時間があるし、どうせここで抜けたところで部屋に戻ってぼーっとする以外にやることもない。
引かれるままに菅原さんと東峰先輩のチームに入って、いつの間にか向かいには田中さんが増えてたから3人ずつにするために呼ばれたんだろう。
この様子なら他の人たちもそのうちくるだろうし、その人たちが来たら人数合わせの俺はお役ごめんになるはずだからそれまでは楽しむことにした。
白と緑と赤の色を混ぜたボールを拾って打ち込んで、三十分もすれば賑やかに乱入してきた西谷さんを筆頭に他のみんなも集まってきたからそっとコートを出た。
汗を拭って、食堂に向かえば顔を上げるのは癖のある短めの黒髪と後ろにひとまとめにしてある金髪で、目が合う前に頭を下げる。
『…おは、よ…ございま、す』
「はい。おはようございます」
「おはよう。はえーなぁ」
『……………めが…さめて、しまーて…』
「はーん?あんま無理はすんじゃねぇぞ」
心配するような言葉に頷いて隣に立つ。朝ごはんの支度をしてくれていたらしい二人に、言葉をこぼすより早く、ほとんど終わっててと説明されてた。
「さすがに朝から無理はさせられませんから。朝食はある簡単なものを用意させていただきました」
「後はあいつらが揃ったら飲み物分けるくらいだ。もう数分で来るだろうしゆっくりしとけ」
先生もコーチもたしかになにか作業している様子はない。
しかたなく勧められた椅子に腰掛けて、持っていた携帯を開けば数人から朝の挨拶が飛んできてたから返事をしていく。
インターハイに向けて着々と準備を勧めているらしく、朝練やら合宿やらと個人として、学校として、励んでいるらしい。
久々にみんなと遊びたいなと思ったところで喧騒が近づいてきて、ばたばたと駆け込んできた足音は大きく音を立てた扉を開けた。
「おなかすいたー!!」
「はらへった!!」
「ふふ。皆さん元気ですね。おはようございます」
「おはようございます!」
朝練を終えてみんなで来たのか、揃っている顔ぶれに先生たちが腰を上げるから俺も手伝うためについていく。
最初言われたとおり飲み物を出すくらいしかやることがないものの、なにもしないよりはマシのはずだ。
「ツバッキーおはよう!」
「おはよう」
朝はまだ眠ってたし、俺が抜ける頃にはまだ来ていなかった山口くんと月島くんとも挨拶を交わして、食事が全員に行き届いたところで部長さんに号令がかけられ朝食がスタートする。
相変わらずよく食べる日向くんと影山くんに、月島くんが見てるだけで胸焼けしてきたと零して、山口くんが俺を見る。
「ツバッキーもツッキーと同じ感じ?」
『…おれ、は…そーでも、…?』
「君、僕より食べないのによく見てて気持ち悪くならないね?」
『…………俺、の…周り、…ーよく食べる奴ー多い、から…』
「ああ、昨日の幼馴染?」
『…うん』
「たしかに体格良かったし、この間のは紫原も大きくてよく食べそうだったもんね」
『……うん。みんな、いっぱ、いーたべ、る…』
ふーんと返す月島くんに頷いて、今の今まで勢い良く食べすすめてたはずの向かいが固まってる気配に目を向ける。
「あれ?二人ともどうしたの??」
山口くんも違和感を覚えたのか二人を見据えてて、二人はばんっと机に手をおいて身を乗り出した。
「わ!」
「桃井!幼馴染ってなに?!」
「なんでこいつが知ってんだ?!」
『?』
「……。ああ、そういうね」
びっくりした顔の山口くんに、二人の勢いに目を瞬く俺。一人納得したような月島くん。二人の言動に鋭い視線を向けてくるのは部長さんで、喧嘩じゃないだろうな?とコーチも眉根を寄せる。
「ねぇちょっと、君たち落ち着きなよ」
「月島なんで知ってんの?!会ったことあんの??」
「あるわけないでしょ?桃井に話聞いて写真見せてもらっただけ」
「え!なにそれ!俺も見たい!!」
「…いつ見たんだよ」
「昨日だよ。…まぁ、君たちは夜に騒いで叱られてたから居なかったけどね」
「あー!あのときか!!」
「ちっ」
悔しそうな日向くんと影山くんに更に首を傾げる。山口くんは苦笑いで、そっと隣のテーブルを見れば東峰先輩がなんの話??と首を傾げていて、菅原さんが得意げに昨日の夜のことを語ってる。
朝からどんなテンションなんだろうかと一瞬聞くか悩んで、聞いてもたぶん理解はできないだろうなと諦めてまだ半分残ってるスープに口をつけた。
朝から妙に元気なみんなは食事を終えればちょっと休憩してすぐに練習が始まる。
合流した清水さんと雑務を熟しながら過ごして、体育館でボールを打ち込んでいたみんなは数時間後には外にいた。
「桃井、そっちお願い」
『………、はい』
作り終わったドリンクの入ったかごを持ち上げる。相変わらずずっしりとした重みに息を詰めながら移動して、所定位置に用意する。
これは走って帰ってきたみんなの水分で、後からついてきた清水さんはふわふわのタオルを持ってた。
「清水ー!桃井ー!わりぃんだけど買い出し頼む!」
「はい」
思ったよりも少なくて足りなくなってしまったという備品たちは名前の横に必要数がまとめられてて、メモと経費を受け取った清水さんが目を合わせるから頷いて、必要なものだけを持って外に出る。
五月頭、本格的な夏はこれからとはいえ、日中は陽に照らされると暑い。
さっきまで荷物を運んだりとあちこち動いていたし、体温が上がっている俺に、隣の清水さんは半袖で、俺もジャージの上は脱いでくればよかったとぼんやり思いながら目的地にたどり着いた。
「えっと…」
カゴは先にとって持つ。そうすれば清水さんは礼を零してからメモと売り場案内を見比べて、必要なものを拾い上げていく。
テープ、冷却材、消毒液。基本的には衣料品が多いそれにほとんどが同じコーナーで集めることができて、かごの重量が気になった頃にはメモの物がほとんど揃った。
「会計してくるね」
邪魔にならないようカゴだけ台に置いて、一度離れて会計後の台の横で待つ。
経費精算の際に確認が取れるようにきちんとレシートを受け取った清水さんがサッカー台にかごを置いた。
『………二つ、分けま…す?』
「そうだね。このあともう少し買うから、その分だけ空けるようにして入れようか」
残りは帰り道のスーパーで買うと言ってたし、メモを見た感じ軽めの物が多そうで、それならと今回買った物はほとんど取っていく。
目を瞬いた清水さんが俺を見上げるから首を横に振る。
『…………先輩ーに…重い物、は…持たせ、られません…』
「重量違いすぎるよ」
『…ー荷物、持つ…の慣れて、ーので。任せて、ください』
「………ありがとう」
『い、え…』
先輩な上に女性の清水さんと、身長も筋力もある後輩の俺なら俺が重たい物を持つのは当然だろう。
しっかりと右手に荷物を持って、清水さんも同じように袋を持つとメモを再確認して歩き出した。
行きと同じように寄り道はせずまっすぐと次の目的地に向かって、入る直前にポケットの中で揺れた携帯に思わず足を止める。
「桃井?」
『…………』
携帯を確認すれば珍しく着信していて、更に相手は珍しい“幼馴染”だった。
『……あの、』
「急ぎかもしれないし出て平気だよ。私買ってくるね」
『…おわ、ったら、いきます』
「うん」
さらっと離れていく清水さんにすぐボタンを押して耳に当てる。
「お、やっと出たか。つばき」
『ぅん。…大ちゃん?ど、したの…?』
「あー…、お前夏はこっち帰ってくんの?」
『…あんま、考え…てなかーた』
「ふーん」
『ーーなんで、?』
「あー、……」
微妙な間。言い淀んでるその時間に息を吐いて、笑う。
『さみ、し?』
「、寂しくねぇよ!」
『ふふ』
「笑うな!だから寂しくねぇ!!」
『そ…か。ざん、ねん。俺は、さみし…よ?』
「、」
『みんな、と、話、たい、顔見たい……いっぱい、バスケ、したい』
「……………」
『だから、えっと…こっち、が落ちつ、いたら…一旦、帰ろ、かな?』
「…………はぁ〜。行き来も楽じゃねぇだろうし、おっちゃんが大変だろ。無理すんな」
『…ん…?』
「赤司がなんとかすんから待ってろ」
『………え?』
「あー、…まぁこの話はいい。つーか病み上がりだろ?今何してんだ?」
大ちゃんの無理やり逸らされた会話に、あとで何をやらかす気なのか聞いておかないといけない。
ーくんはなんでもスケールがデカイから、放っておくととんでもないことをしでかす。
「外か?」
『…部活、の合宿』
「はぁ??おまっ!」
一際大きな声。それからあぶねっと聞こえた声にまた笑い声をこぼして、向こうが耳に当て直した頃合いに口を開く。
『平気…?』
「俺は何もねぇよ!つか!お前病み上がりだろ?!」
『だぃ、じょうぶ…。みんな、やさしい…』
思わず笑えば向こうで深いため息が響いて、もう一回笑ってから耳を傾ける。
『ねぇ、さん…は、元気?』
「おー、さつきはいつも通りだ」
『大ちゃんも?』
「あー…俺もいつも通り」
『そっ…か』
ゆるい返事に口元が緩んで、大ちゃんも姉さんも元気ならなによりと頷いた。
大ちゃんは、あーと言葉を漏らして、気まずそうに頭を掻く間を置いて、息をこぼした。
「まぁいいや…。そっちのインターハイも頑張れよ」
『ん。ありがと…。大ちゃん…も、たのーし、でね…』
「…ああ」
あまり気乗りのしなそうな返事を最後に、通話が切れる。
俺を気にしてくれる幼馴染のやさしさに笑みがこぼれて、携帯をしまい、スーパーに戻る。
ささっも回って、それから見えた黒髪に近づけばさっと顔が上がった。
「桃井」
『……すみーません…、おま、たせ…しま、した』
「うんん。全然待ってないから平気だよ」
隣に並んでカゴを受け取って、残りの必要なものをまとめていく。また会計を済ませて、それから袋を持った。
二人で並んで来た道を戻って、歩いていけば清水さんがそっと顔を上げる。
『ーーーーー…』
「桃井、いいことあった?」
『…?』
「電話のあとから楽しそう」
『……ーおさな、じみと、話して』
「幼馴染?…あ、もしかしてスガたちが言ってた人?」
『た、ぶん…』
「休みの日も連絡とり合うなんて、本当に仲いいんだね」
『…ーはい。とても。』
頷いて、そうすれば清水さんは目を丸くして、また微笑む。
ゆったりと学校に戻ったところで体育館はやはり大きな声が聞こえて、ボールの跳ねると音とスニーカーの滑る音が届いた。
食事を用意して帰る清水さんと挨拶をして、見送ったところでついてるままの体育館の光に消し忘れかなと足を進める。
慣れ親しんだ体育館は今は音はしなくて、やっぱり消し忘れだろうかと近づいて、足を止めた。
「菅原か、影山か」
聞こえたそれに目を逸らして、そっと離れる。
途中にある自販機で飲み物を一つ買って、ベンチに腰掛けて、空を見上げる。
きらきらしてるお星様に目を細めて、つむった。
俺のいた場所では、存在しなかった問題。
人数はあぶれるほど、腐るほどにいたけれど、帝光は実力主義。何年生であろうと戦力になり、勝ちに繋がるのであれば誰でも使われる。
だからこそ俺もあの子もあいつらも、みんなは一軍に、レギュラーに、そして、スタメンで、いつの間にか、それは当たり前になって、それで、
「桃井くん?」
聞こえた声にぱちりと目を開ける。
立っていたのは黒髪と、金髪。
体育館のほうから歩いてきたのであろうその姿に、一度会釈して、そうすればあわあわと武田先生が近づいてきた。
「ここここんなところでどうしたんですか?もしかして具合が良くないのでは!!」
『_い、え。そう、いうこ、ことじゃ…』
「つってもこんなところでぼーっとしてんとこっちも心配になんだよ」
『………す_み、ません…』
「あ、いや、怒ってるわけじゃなくてな…?」
『……………』
何を言っても誤解を招く気がして、持ったままのボトルを転がして、息を吐く。
「ええと、それならこんなに寒いところでなにを…」
『…すこ…し、かんが、えごと…です』
「考え事…ですか?」
『…………』
「あー…まぁわけぇうちはいろいろ気になることもあるだろうし、悩むのもわかんけどよ。体調治りたてであんま夜風浴びんのはよくねぇぞ」
『………そ…です、ね』
頷いて、立ち上がる。
俺は別に悩んでるわけでも困ってるわけでもない。
それならまた体調を崩す可能性のある無駄なことをするよりも、さっさと寝てぐにゃぐにゃは忘れてしまったほうがいい。
また会釈して、歩き出す。
「あ、あの!」
『?』
後ろからかけられた声に振り返る。
慌ててるのは二人ともで、ええとと言葉を混ぜると、その!と大きな声を響かせた。
「僕達に何かできることがあれば、 いつでも相談してくださいね!」
「お前は悩んでるのか困ってるのか全然わからねぇ!!ちっとは日向とか影山みたいに大きな声で話せ!!」
『……………』
なんでか二人に言葉を説かれて、武田先生が一歩前に踏み出して、目の前に立った。
「僕達は、バレー部のコーチで顧問ですが、先生です。生徒の言葉を聞くために存在してます…!だからこそ、なんでも、どんなことでも、話してほしい…と思いま………なんかすみません!!!」
「あ、おい!今いい感じの言葉だったのになんでそうなんだよ!」
「いや、もう、こんな偉そうなこと言っていいのかと思ってしまって!」
目を泳がせる武田先生に鵜飼さんが頭を押さえてしまう。二人の賑やかさに目を瞬く。盛り上がってる二人は俺の言動を注視していないから、さっきよりもしっかりと頭を下げて、歩き出す。
ポケットから携帯を出して、ひとつ、メッセージを入れて、そうすればすぐに携帯が揺れた。
着信中のそれに、迷わず画面に触れて、耳に当てる。
『な、ぁに?』
「…別に。暇だったからかけた」
『、そっか_』
「…………あー…。今、何してんの?」
『_…、寝よ、か_な、って』
「…さっきのあれは?」
『__…わかん、ない』
「……ふぅーん」
『なん、か、__なんだ…ろ_ね?』
息を吐いた音が向こうからして、鼻を鳴らす。
「まぁお前には関係ねぇ話だったし、今更だろ」
『………_そ、だね』
「そもそも百戦百勝、絶対王者の帝光でスタメン争いなんてそうそうありえねぇ。圧倒的実力で全員黙らせてもぎ取ってくもんだ」
『__うん』
「スタメンに悩まれるような実力しかねぇなら、それはそいつが弱い」
『__…そう、かもね』
俺も、この子も、あいつらも、帝光で育ってきた人間はそう考えるし、そう育てられる。
今まで、それが変とは思わなかったし、おかしいなんて思ったことは今でも、ないけど、
『…_菅原さんは…、影山くんは、弱い_のかな?』
息を吐いて、そうすれば舌打ちが零された。
「あ?そんな奴らのことなんて知らねぇよ」
『……………』
「…ちっ」
また舌打ちが響いて、ため息が吐かれた。
「俺はバスケしか知らねぇ。バレーのことはなんもわかんねぇ。そいつらのことなんてもっとわからねぇ。…だから、さっきの話だって、帝光のバスケの話だ」
決まりが悪そうに舌打ちがもう一回響いて、きっと向こうで顔を顰めてるんだろうなとぼんやりと思う。
「実力がある奴がレギュラーでスタメンで、正義。それは、帝光のバスケの話だ」
『、』
「バスケとバレーは競技が違う。それでルールも違うんなら、基準だって正義だって違う。それはわかってんだろ?」
『…うん』
「ならあの問いかけは俺にすんな。俺には答えが出せねぇし、それから、お前がお前の中だけで答えを出すのも無理だ」
突きつけられた事実に、また下を見て、地面を見据える。
『…_じゃあ…ど、したら_いい、かな』
「…、ちっ!!!」
耳をつんざくレベルで大きな舌打ちが響く。ここまで不機嫌なのは珍しいなと驚きで固まってしまって、あ゛〜…!っと不服そうな、低い声。それからもう一回、大きな舌打ち。息が吸われた。
「てめぇの悩みはバレーのことだろ!今周りにいるバレーの奴らに聞け!」
『、』
「バスケとか私生活ならなんでもいいけど!バレーのことは俺には何もできねぇ!つか俺は隣に居ねぇんだから勝手に落ち込むな!!」
『…ぁ_う、ん』
「いつまでもうじうじしてんなよ!明日も変な連絡してしきたら許さねぇ!寝不足でこれ以上変なこと考える前にさっさと寝ろ!ばーか!!!!」
ぶつりと切られた通話。なんの音もしなくなった向こう側に、耳から携帯を外して、口角を上げる。
『_ははっ、ほんと、_ちゃん、らし、なぁ』
こぼれた笑いに、体の中にあったむかむかはどこかへ飛んでいって、きっとさっきの叱責にすべて追い出されたんだろう。
空を見上げ直せばまた星は光ってて、深呼吸を一度して、歩き出す。
『_おやすみ、“祥ちゃん”』
愛おしい名前を口に出せば、さらに心は軽くなって、まっすぐと宿舎に入った。
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