あんスタ(過去編)


【紅紫入学前・冬】


“紅紫はくあ”というのはあの“スーパーアイドル佐賀美陣”や芸能界禁句の“明星”と同じ土俵に立つスターだ。

顔立ちは整ってるとはいえ万人受けするようなものではないけど、歌唱力、ダンスセンスはほころび一つなくすでに完成されているし、表現力に至っては指先の一つでさえ自分の見せ方を熟知していて、そこに圧倒的カリスマ性まで兼ね備えてるんだからなるべくしてなった著名人なのだろう。

故にこの紅紫はくあがいた“ホワイトバランス”は一世を風靡したし、“ホワイトバランス”は今もなお語り継がれファンがいるアイドルグループだ。

そんな経歴を持つ彼がこの学園にいることに対し違和感を覚えないのはただの周りを見てない馬鹿か、そこまで考えの至れない阿呆かのどちらかだ。

「紅紫、はくあ」

文字を指先でなぞって声に出す。その言葉にむず痒さを覚えて、もう一度口に出せば聞こえていたのか近くを通り過ぎた生徒がいつもどおり怪しいものを見るような目を向けて足早に過ぎていった。

見下ろした新入生徒の名簿。いくつか有名な名前と名字が一緒であったり、それなりに芸能界で聞いたことのある名前もいたけれど、それさえも霞ませ輝いているのはやはりこの名前で、何度も擦るからインクが掠れてしまってる。

「………欲しい」

紅紫はくあを手に入れたのならば、あれは僕の飾りとしてなんの見劣りもしない。

あまりにも粗末なものを横に置いたって僕が霞むし品性が疑われてしまう。そもそも僕を飾り立てることのできる一級品なんてこの世界に数えるほどもない。だからこそ、あれがほしい。

一度は諦めたものが手に届くところに降りてきた。堰き止めていた、押し込んでいた欲が溢れだす。

「欲しいなぁ」

「――――…!」

向こうから聞こえてきた声に仕方無しに顔を上げればどこか見覚えのあるようなないような金髪が手を振って僕の名前を大きな声で呼んでいて、仕方無しに腰を上げる。

今度こそ、必ず僕のものに


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