ハイキュー



『――はぁ…』

「なにその艶っぽいため息」

憂いて息を吐けば隣の席の高身長男子は気に止めて、頬杖で支えてる頭をこちらに向けた。

『とびとびぃー…』

「またそいつのこと?」

『勿論!とびとび第一だからね!』

話してる相手は蛍くんで、あの鴉羽色は見当たらない。

僕は一年四組に配属され、わかりきってたことだけど一組のとびとびとは綺麗に離れてしまった。

『授業中のとびとびの写真撮りたいなぁー』

カメラを机の下でもてあそぶ。

今日からとびとびは朝練前の自主的秘密朝練を開始したから、授業中は多分寝てるんだろうけど寝顔ゲットしたい。

背を伸ばすために牛乳を毎日一生懸命飲んでるとびとびは睡眠もたっぷりとるんだよ!

『可愛いよね!』

「知らないよ」

冷たく切り捨てた蛍くんはデコピンをお見舞いしてきて愉しそうに笑った。

「クラスが違う奴より僕の写真撮ればいいのに」

蛍くんはとびとびを撮りたいけど撮れないと言ってる時にいつもこういう。

変わってるよね

『蛍くん写真撮られるの好きだっけ?』

「そんな訳ないでしょ。毎回撮影料撮るって言ってるよ」

「そこっ!授業中に喋らない!」

『「すんませーん」』




「またツッキーとナッチ怒られてたね!」

「山口うるさい」

数学は習熟度別にわけてる少人数制で、しかもそこから三人のグループになってお互いに教えあって勉強してる。

同じ班の山口くんはさっき授業中のことを笑ってた。

『毎時間一回は怒られるよね!』

「目指せ皆勤賞!」

「そんな不名誉すぎる称号いらないんだけど」

「またお前らか!煩いぞ!」




と、いうことでお昼休みの時間ダヨ☆

授業風景描写が少ない?

とびとびがいないから仕方ないよ!

『えへへ、五時間ぶりのとびとびだー』

教室から出て一階、中庭もどきの近くにある自販機に200mlのパック牛乳を買いに行く。

そんなとびとびの後ろにつきながらカメラを構えて歩いてた。

「ストーカーしてねぇで隣歩けや!」

『えー』

「こ・い!」

襟が掴まれてちょいと苦しかった。

引き摺られるみたいに隣に立つ。

『とびとび隣から写真撮らせてくれないじゃーん』

「後ろからでも撮らせねぇけど」

構えようとしたカメラが取り上げられとびとびの手中におさめられてしまった。

文句を言うより早くとびとびは自販機にお金を入れてる。

『とびとびのケチぃー!』

「うっせ!縮め!」

『ふぎゃっ』

後ろからブーイングするとチョップが頭に降り落とされた。

滅茶苦茶痛いー!

「くそっ」

ふんと鼻から息を吐いたとびとびは出てきた牛乳にストローを刺してる。

眉間の皺やばいよー

「なんでお前のが身長高けーんだ。腹立つな」

『5cmしか変わらないじゃんよー』

「十分違うだろ、四捨五入したら190と180じゃ!」

えー、よくわかんないやー

とりあえず立ってるとなんかとびとびが怒るのはわかったからしゃがんで見上げる。

下から見るとびとびは新鮮だよね!

『あ、とびとびぃー』

「なんだよ」

カメラを返してくれてるとびとびを見上げながらあっちと指を指す。

先には日向くんと菅原さんがいた。

「彼奴らこんなとこでまで練習してんのかよ」

『熱心だね!』

日向くんがレシーブし損ねてボールを落とした。

まだまだ上達への道のりは遠そうだ。

『とびとびも混ざりたいの?』

「全く。全然そんなことない」

否定系の言い回し出来たんだとびとび!知らなかったよ!“全く~ない”ってつかえたんだね!

「………ほら、いくぞ」

『ふぁーい』

とびとびが日向くんたちを見てる間にカメラを弄ってたらまた取り上げられた。

『いーもん!携帯あるから!』

「叩き割るぞ」






午後の授業が終わって放課後!部活の時間!

午後の授業風景?

とびとびがいないんだからあるわけがないよ!

『とびとびの自主練風景~♪』

「どこ行くの」

『部活中のとびとび撮りに行くんだよ!』

世界史の教科書を机に入れてた蛍くんがヘッドホンを装備してカメラに手を伸ばした。

『あ…あー!』

またカメラ取られた!

今日何回目!?

「どうせそいつもバレー部なんでしょ?なら一緒にいけばいいじゃない」

『とびとびはバレー部だけど違うの!』

「あれ?ナッチもバレー部じゃないの?」

『ん?部活入ってないよ!』

強いて言うならとびとび愛好会(加入者一名)かな!

「はぁ?なんで」

『とびとびを愛でるため!ってことでばいばい!』

呆けた蛍くんからカメラを取って教室を出ていった。



「ぷっ…ツッキー残念!」

「……―山口うるさい」




『とびとびー!』

「遅いぞ!」

「あー!」

体育館に行けば入り口にとびとびと日向くんが待ってた。

「練習場所見っけてきてくれたのお前なの!?」

『うん!そうだよ!』

準備体操万全な日向くんは目をきらきらさせてうっしゃーと叫ぶ。

「何してたんだ?」

『話してたら遅れちゃったー!ごめんみ!』

「はぁ?誰と」

『急いで急いで!練習場所こっちだよー!』

練習したくてうずうずしてる日向くんと、時間が減って苛立ってるとびとびの写真を一枚撮ってから先頭を歩き出す。

とびとびの鉄拳は愛ゆえだろうけど喰らったら痛いから回避したいし!

「練習っ!練習!」

『日向くん嬉しそうだね!』

「馬鹿だからな」

むっとしたままのとびとびはバレーボールをもてあそんでて一枚写真を撮った。

「なぁなあ!名前なんていうの?」

『ふっふーん!3対3に勝てたら教えたげるよ!日向翔陽くん!』

「ずるっ!なんで俺の名前は知ってんの!?」

『ふっふっふ。何故でしょー!』

茶化して誤魔化して、目的地の空き地もどきについた。

「よーし!練習するぞー!」

「広いし…まぁ、練習出来ないことはないな」

とびとびからもオッケーをもらいとても嬉しいです!

準備体操するとびとびの写真を撮る。

その間に日向くんは上着を脱いで半袖Tシャツになった。

え、ちょっとまって寒そう!

「まずはお前がレシーブぐらいとれないと話になんねぇ」

今日の練習はレシーブだってー

とびとびがかっるーくサーブをして、日向くんがレシーブする。

「あ」

『はいっとっとっと』

飛んできたボールを受け止めてとびとびに返した。

「へたくそ」

「うっせ!もう一本!」

「当たり前だ」

こうして容赦のないサーブと頼りないレシーブの応酬が続いた。

「手だけ動かすな!足も動かせ!」

「わ、わーてるよ!」

二人が練習の熱中してる間に近くの木に登ってとびとびの全体を写真に撮る。

やっぱふかんとあおりがいいよね!

「撮んなっていってんだろ!」

「あ」

『あーあ』

苛ついたとびとびが渾身のサーブを日向くんに打ち込み、ボールは勢いを殺しきれず飛んで後ろにあった木に引っ掛かった。

「外でやるときは手加減しろっていってんだろ!」

唇を尖らせた日向くんは木の凹凸に手を伸ばし幹に足をかける。

『とびとびどーんまい!』

「殴られたくなきゃ今すぐ降りてこい」

口の端をひくつかせたとびとびにしょうがないって木から飛び降りた。

『日向くん頑張って!』

「お、よ、ふっ、届かないいいっ。」

一生懸命手を伸ばしたり枝を揺らそうとしたりする日向くんと落ちてた長めの木を拾ってジャンプしたりしてつつくとびとびを後ろから眺める。

「影山が手加減しねーから…」

「お前がちゃんと取ればいい話だろ」

「この王様が」

日向くんがとびとびのことを王様って言ってとびとびの機嫌が更に悪くなった。

「おい」

飛び火は嫌だから日向くんとは反対側から木によじ登ってボールを取りとびとびに渡す。

『練習がんばとびとび!』

「うっせ」

舌打ちしながら木の棒を投げ捨て定位置に戻っていく。

「なんだよ王様って言われるたびに怒りやがって…カッコイーじゃん王様…」

木から降りた日向くんは不服そうに唇を尖らせぼそぼそと言ってた。

心の声駄々漏れだよ!

「俺にも…なんかかっこいいのつかないかな…!」

とびとびを忘れて一人考え出す。

だから心の声ー!

「疾風の…――…風!」

それどっちも風だよ!
意味かぶりだよ!

「おい、早くやるぞ!」

いい加減待っていたとびとびが声を大きくした。

カメラを構えて怒ってる顔も撮る。

「そ、そいや相手の一年てどんなやつなんだろうな?」

「どんなやつだろうと関係ねーよ、勝つ以外選択肢はない」

「俺も今そう言おうとしてたんだ!」

変なところで二人とも張り合うよね

もう一回シャッターを切った。

「けど、情報収集は必要だな…七雄」

『とびとび対戦相手知りたいの?』

「違うわ!」

ちょっとからかっただけなのにとびとびってば怒りんぼさんだなー

「よし!こい!」

仕切り直しと言わんばかりに手を叩いてボールを呼んだ日向くんをとびとびは一瞥して、ちっちゃく息を吐いてからボールを上げた。

日向くんが正面から捉えようとしたボールは顔面に当たって跳ね返る。

痛そ

太陽が沈んで、空が紺色になってた。

バレーに夢中なとびとびと日向くん、それを撮ってるのに夢中になってたから時間に気づかなかった。

「っ」

低い場所に落ちたボールを拾うのに滑り込んでる日向くんの肘とかには赤い擦り傷が沢山ある。

「も、もーいっかい!」

でも弱音一つ吐かないでホールを見つめる日向くんは本当にバレーが好きなんだって改めて思った。

一枚、汗を拭ってる日向くんの姿を写真に収める。

カメラ映り中々いいね!

「いくぞ」

「おう!」

大分疲れてるとびとびも汗を拭って、ボールを上げた。

「後ろだ!」

追いかける日向くんにとびとびが場所を教えて、しっかりとボールの下にはいれた。

オーバーをしようとした日向くんの後ろに人が立つ。

「よっしゃ――…っ」

日向くんが取ろうとした、絶対に取れたボールは後ろ、ちょっと上に伸びてきた手が取ってしまった。

「へー、ほんとに外でやってる。君らが初日から問題起こしたっていう一年?」

「Tシャツぅ?寒っ」

うん、寒そう!

おんなじ気持ちだったんだね!

感動してる間に日向くんは蛍くんに小学生扱いされちゃってて、とびとびが蛍くんを観察してた。

「お前、身長は」

「ツッキーは188cmあるんだぜ!もうすぐ190だ!」

「なんでお前が自慢すんの」

すっかりお決まりな二人のやり取りをとびとびはお気に召さなかったみたいでむぅーってしてた。

「あんたは北川第一の影山だろ?なんで烏野にいんのさ」

なんとなーく予想はしてたけど、とびとびと蛍くんはやっぱり仲良くなれなそうだね!

「ぬぉぉい!土曜日はぜってー負けないからな!」

自分を置いてきぼりで話すとびとび達が気に入らなかったのか日向くんがでっかい声をだした。

「あっそう」

気が抜ける感じの返事に日向くんは目を丸くして、ボールをもてあそんで喋る蛍くんにとびとびも難しい顔をする。

「手、抜いてあげようか」

きました蛍くんすまぁいる!

「てめぇが全力だそうが手抜こうが…俺が勝つのに変わりねーんだよ」

すごいすごい!あそこだけ温度高そう!

目の錯覚か後ろに赤い炎が見えてるとびとびの写真を撮る。

かっこいーなー!

「あはは!すんごい自信。さすがはおーさま」

「っ、おい」

「ほんとだ、コート上の王様って呼ばれるとキレる噂。
いーじゃん王様、かっこいーじゃん王様」

蛍くんってこんなに意地悪だったっけと思いつつ、激おこなとびとびがかっこかわいくて連写なうです。

県大会の話をされてとびとびは蛍くんの胸ぐらを掴んだ。

えへへ、かっこい!

「切り上げるぞ」

「あれー?帰っちゃうの?」

むっとしてるとびとびの横顔を撮ってると蛍くんが持ってたボールを日向くんがジャンプして奪い取って噛みついてた。

蛍くんってとびとびだけじゃなくて日向くんとも相性悪そう

「一年四組月島蛍」

「俺は山口忠」

笑顔だけど苛立ってる蛍くんは山口くんを連れて帰っちゃった。

木から降りて練習を再開しようとしてるとびとびの隣に立つ。

「七雄、彼奴ら同じクラスか」

『うん。そーだよ!あ、でも勿論とびとびが一番だから安心してね!!』

むっとしたままのとびとびの顔を至近距離から撮影すればとびとびはおっきく息をはいてカメラを取り上げた。




(撮るなっていってんだろ)

(そいや、なんでカメラ?)

(なんででしょー)



(王様、影山飛雄…まさかね)

(ツッキー?)



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