ハイキュー



お気に入りの歌をくちづさみながら扉をくぐり階段を上った。

柵から身を乗り出して、見下ろせば烏のように黒濡れたつややかな髪を靡かせた男の子がバレーボールをついてる。

うんうん。イケメン

『えへへ、とびとびかっこいー』

構えたカメラを覗いてピントを絞りシャッターを切る。カシャカシャとたぶん五枚切ったところでレンズの向こう側の表情が歪んだ。

「あーっ!気持ちわりぃんだよ!」

顔の横を飛んできたボールが壁にあたって下に返っていく。ボールを見送ってから笑った。

『あらー、ばれてた?』

「ばれてねぇとおもったか!?」

怒ってもう一回ボールを投げてきたとびとびにシャッターを切りつつ、たまにボールを下に返す。

『疲れたから下いくね〜』

「15秒以内にな!!」

返事をしてからとびとびが視線をコートに戻したのを確認して、その場に座り込んだ。

とびとびはスパイクの練習をするのか、ボールを床に強く打ち付けて…――

「ああーっっ!!!」

キーンと声変わり前の男子が叫んで間違えてシャッターを切り、とびとびはスパイクしそこねたボールを頭にぶつけた。

間違えて撮っちゃった写真を消すよりも早く、オレンジ頭くんがとびとびと話し始める。

おお!!これは!!しゃったーちゃぁーんす!!!

嫌そうなとびとびの顔とか自信満々なとびとびの顔とか、ご馳走さまです

万華鏡みたいに変わっていくとびとびの表情を一つだって逃さないよう、惜しまずにシャッターを切り続ける。

ぎゃんぎゃんと騒ぐ二人。

不意に耳が音を拾う。

「いやー、まさか北川第一のセッターがウチにねぇー!」

「でもぜってーナマイキっすよそいつ!」

「またお前…誰彼構わず威嚇すんのやめろよ?」

たぶん、烏野高校バレー部の先輩達が入ってきた。

「影山だな?」

「オス」

わぁ!きりってしたとびとびもかっこいー!

返事をしたとびとびに先輩達はオレンジ頭くん眼中なく喋ってた。

「結構おっきーね……去年より育ってる…」

菅原孝支さんは目をぱちくりとさせて、隣から田中龍之介さんがしゃきっと!がっと!と言ってた。

「ち、ちっす、ち…ちっす!!」

無視されてたオレンジ頭くんが大きな声で挨拶をする。

漸く認識されたオレンジ頭くん―日向翔陽くんを先輩達は思い出したように目を開いて、田中さんが叫んだ。

「それにしてもあんま育ってねぇな!」

「…確かにあんまり変わってませんけどっ、でも!小さくても俺は跳べます!烏野のエースになってみせます!」

「オーイ、入って早々エース宣言か!いい度胸だなぁぁ!」

虚勢…啖呵を切った日向くんに田中さんは笑い菅原さんがまぁまぁと笑む。

とびとびが滅茶苦茶むっとした。

「お前“エースになる”なんていうからにはちゃんと上手くなってんだろうな?」

きゃー!ムードブレイカーとびとびー!

日向くんに言葉をぶつけるとびとびを捉えてシャッターを切る。

勝負するんだって

「なんの勝負だ」

「バレーの!」

「1対1でどうやって勝負するんだ」

「パスとか!」

「パスに勝ち負けとあんのか」

頑張る日向くんはなんだかチワワっぽい。

とびとびはチワ、日向くんを睨み付けてた。

日向くんが思い付いたのか口を開く。

「サーブ!打てよ。全部とってやる!」

サーブ、レシーブ対決になったみたいだ。

ボールを拾って、とびとびが薄ら笑いコートに向かう。

わぁ!ちょうかっこいい!

写真!写真!

重く鋭いジャンプサーブをとびとびが打って、それをしっかり写真に収める。

今日もとびとびかっこいー

「それのどこが去年と違うんだ」

「…もう一本!」

とびとびがまた重いサーブを打った。

えへへ、今日はコレクションがまた増えた。

写真を撮ってたら気づけば座ってたはずなのに寝転がって写真を撮ってて、あ、とびとびが驚いてる。

「あれ…ヅラだったのか!」

教頭がヅラって知らなかったんだね!






とびとびが追い出されちゃった。

日向くんと共に体育館外にいるとびとびの様子を撮るために階段を降りて扉に手をかけ外に出る。



「あれ?」

「どうした?」

「今外に出てったの新一年だべ?」

「…新一年?んや、今日はあの二人以外こないはずだが?」

「入部希望だったとかですかね?」

「見学してたなら悪いことしちまったかな…」





きょとん顔とびっくりした顔げっとととーっ!

とびとびかわいいなぁ

シャッターを切りながら日向くんにおばかな持論を語るとびとびは、だから第一志望に学力で落とされちゃうんだと思う。

フレーム越しに目があった。

七雄ななお!!いつまで撮ってんだ!」

『とびとびのカメラ目線げとー』

シャッターを切ると同時に思いっきり頭に拳骨が落とされた。

『っぅー』

「あほ!」

頭上から罵倒されるけど今はカメラ死守で忙しいです

「だ、大丈夫?!」

日向くんがあわあわとしながら駆け寄ってきた。

「影山お前いきなり何してんだよ!酷いな!」

『全くだよ!酷いなー!』

衝撃でずれた眼鏡をかけ直して顔を上げる。

「あれ、?」

『ん?』

ずいっと顔を近づけてきた日向くん。

ちょいと距離が近いかな

「どっかで…あったことある?」

『んー、』

「なかったような~…」

『あったかなー?』

『「うーん」』

二人で悩む。

日向くんは本当に悩んでるんだろうけどこっちは全く悩んでない。悩む真似。

『で?とびとびと日向くんはこれからどうするの?』

少し離れたもののまだやはり近い日向くんの頬をつついた。

お、滅茶苦茶やわらけぇ!

「どうひゅるもなひもバへーしたひ!」

『ちょ!凄くねとびとび!
滅茶苦茶伸びるぅー!!』

「七雄」

がっとチョップが頭に入って日向くんの手を離した。

痛いし、まじ痛いし

「さっき言ってた通り、勝負を挑む」






「「キャプテン!勝負させてください!」」

とびとびは先輩たちの予想通りに勝負を挑み田中さんは爆笑してた。

菅原さんは二人のせーのっていう声に呆れを混ぜてる。

「負けたら?」

「どんなペナルティでも受けます!」

と、いうわけで今度の土曜日に一年生同士の3対3の試合が開催されることになった。

「お前らのチームには田中」

「うぇっ!?関わるのはめんどくさいっす!」

そこは口車に乗せられた田中さんでした。

負けたらとびとびはセッター出来ないんだとか大変。

シャッターを切ろうとした瞬間にとびとびの手がレンズを覆った。

「てめぇ…楽しんでんな…」

『あっは♪とびとびも日向くんも応援してる!』

笑ってから壊されそうなカメラを抜き取った。

「ん、」

「お?」

「誰だ?」

眼鏡を直してシャッターを顔の前に置いた。

『通りすがりのストーカーですっ☆てへぺろっ☆』

「「は?」」

目を見張った三人の先輩と首を傾げた日向くんに笑って、5歩遠退く。

『今日の晩御飯はシーフードカレーだよ!』

「俺の分は――」

『二倍盛りね!』

ばいばーいと大きく手を振って宵闇に紛れるよう走り出した。



(な、なにあいつ…)

(あ、さっきの一年生)

(シーフードカレー…?)

(ななっ、あいつ結局名前何て言うの)

(……ただのストーカー兼カメラマン)





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