DC 原作沿い



少しずつ、少しずつ、あの子は元気を増していく。それは空元気のようにも見えるし、本当のようにも見えて、パリくんの不安定な姿を気にしているのは私と志保くらいのようで、大くんはあまりそうは感じないらしい。

「俺はあまりパリジャンとは接点がないからな。そこまで違いがわからない」

久しぶりのデートで相談するとそう言われてしまって肩を落とす。

あまりそういうお仕事の話を聞くのはよくないけど、大くんはまだパリくんとのお仕事は一度もなく、更には直近でいなくなってしまった同期の人の分のお仕事も請け負っている関係で大くん自体もかなり忙しいらしい。

志保のあげた栄養剤を補充しにパリくんはちゃんと現れるけど、その度に志保は渋い顔をしていて、パリくんはにこにこと笑ってる。

どうにかしたいけど、組織の仕事にも研究にも関われない私ができることなんて何もない。

『お出かけしてくるー!』

パリくんへの不安は他にも伝わっているのか、アイくんに誘われた!とパリくんは一緒に海外へと向かうらしい。唐突すぎるそれにしばらくの間は帰ってこれないと思う!と志保から多めに薬をもらい旅立った。

物理的に距離が開いたことで気軽に会うこともできなくなって、歯がゆいそれに息を吐いて、今日も仕事を続けて、志保と会って、生活して、それから、

足場が、崩れたような感覚。

「うそ、でしょ…?」

告げられた言葉に目の前が暗くなる。怖い顔をしているのは志保で、志保は私をかばうように間に立つ。

「お姉ちゃんは知らない。関係ないわ」

『…本当に?』

「ええ。絶対に、本当よ」

譲らない志保にパリくんはじっと私を見つめたままで、志保の両手は力が入ってふるえてる。

私は何も言えなくて、口を開けて、閉じて、言葉が吐き出せない様子にパリくんは目を細めて、一歩引いて背をむける。

『んー。じゃあ今はそういうことにしておくね〜』

私のことを信じてる様子もなく、そして、志保の言葉も信じてなさそうな軽い素振りでそう零して部屋を出ていく。

いつもならばぎりぎりまで手を振って笑顔で挨拶を告げるのに、今日は振り向かれもせずにぱたんと扉が閉じて、その音と同時に足から力が抜けてその場に座り込んでしまった。

「お姉ちゃん!」

「っ、ぅ」

志保の悲鳴にも似た叫び声。私の名前を必死に呼んで肩を支えてくれるけど、顔を上げることもできず、ようやく涙が溢れ出した。

漏れそうになってしまう嗚咽を押さえ込むために口元に手をおいて、無理やりせき止める。

急に私の家が引き払われて、移動させられたときに、変だなとは思っていた。仕事も休むように告げられて、一週間。誰とも連絡がとれずに、なにをしてしまったのだろうかと不安で仕方なくて、ようやく会えた志保との再会の喜びを分かち合う時間もないうちに、チャイムは鳴った。

大くんは、NOCだった。

海外にいるはずのパリくんが緊急招集されたのは大くんの居場所を突き止めるように命令されたからで、仕事だからと私のもとに現れたパリくんは普段はない眼鏡をかけてにこにことしてた。

真意の読めない、琥珀色の瞳は昏く光っていて、あまりの不穏な表情に足がすくんでしまった。

「っ、志保…」

「お姉ちゃん」

心配そうに歪んでる志保の顔に目を合わせて、頬に触れて、項垂れる。

「ごめんなさい」

「っ、悪いのはお姉ちゃんじゃないわ!」

大くんとの出会い、それから今に至るまで。志保は本当に怪しい人間じゃないのかと心配してくれていた。それを何度も私は大丈夫と頷いて首を横に振って、そうして今は志保が震えるほど緊張して怖がっていたのに守られて、私はどこまでも姉として情けない。

「ごめんね、志保」

「大丈夫、大丈夫よ。お姉ちゃん。泣かないで」

心が引き裂かれたような感覚。愛していた恋人は偽物で、妹には守られて、そして、初めて、あの子が怖いと、そう思ってしまった。

「私のせいで、志保が、」

「お姉ちゃん…?」

「パリくんとも、もう会えないかもしれない」

「、彼奴はそのうちまたへらへらして勝手に来るから、お姉ちゃんが気に病む必要なんてないわよ」

ぎゅっと眉根を寄せた志保の瞳は揺れてる。

「彼奴が優秀なのなんて今更じゃない。あの裏切り者とお姉ちゃんが関係ないことくらいすぐに証明してくれるし、そうすればまたお茶でもしようって甘いもの持って現れるでしょ」  

「志保…」

「そうしたら私達はまた彼奴の仕方ない話を聞いて、温かい紅茶とおいしいお菓子で時間を過ごせばいいの。日常はすぐにでも帰ってくるわ」

「、」

祈るように、願いを口にする志保の姿に奥歯を噛み締めて、頷く。

優しすぎる志保に、本当に私はなにもできないと目をつむった。


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