ヒロアカ 第二部


泥花市編の後に追加予定だったお話。
そのうち順番変更します。

ちょっと未来時間軸の過去編。


弔メイン







他人はひどく、つめたい。

ヒーローにすべてを押し付けて、だれも俺を助けてくれない。

いつからここにいるのか、もうなにもわからない。このまま死ぬのかなって、目の前が霞み始めたところで前に小さな影が立った。

『大丈夫?』

それはとても心配そうに、それでいて迷いなく俺に触れた。

『血…あれ?怪我ない…?』

ポケットから取り出したのは使い捨てのウェットティッシュらしい。封を開けて丁寧に頬のすすを拭われて、緑色の綺麗な目が俺を見つめた。

『どっから来たの?迷子?』

「……………」

『しゃべれる?名前は?』

困ったように眉尻を下げる子供の手は俺よりも小さいのに暖かくて、頬の次は髪が撫でられる。その後に俺の手を取ろうとしたから咄嗟に両手を後ろに隠した。

『あ、ごめん、急に触ったらやだよな』

「、ちがう」

『?』

「………俺、個性が、…手…触んな」

『………………』

ぱちぱちと目を瞬いた目の前の子供に視線を落とす。きっと、また、こいつもヒーローが助けてくれると俺をおいていくんだ。

視線を落とそうとしたところで両肩に重みと温みがかかって顔を上げるとにぱっと笑った。

『心配してくれてありがと!』

「、」

『んと、そーしたらあっちの公園行こ?』

立てる?と首を傾げられて、小さく頷く。

差し出された手は、もし崩してしまったらだめだ。だから大きめのパーカーの袖を掴んで、一緒に歩き出す。俺を置いてかないようにかゆっくり進む小さな背にちまちまと歩いて、公園にたどり着いた。

水場に向かってそこで持っていたハンドタオルを濡らしたと思うとベンチに向かって、座らされた俺は顔や手足を拭かれる。煤やらなんやらが消えていって、代わりに綺麗なタオルはみるみる汚れていった。

『怪我はなさそーだね』

安心したみたいに笑う子供に唇を結んで、口を開けようとして、閉じる。

『よかった』

俺の様子を確認し終えたところで隣に座った子供は首を傾げた。

『ぼろぼろだけどどーしたの?』

「…………」

『てか名前とお家は?』

「………………」

『んん、』

うーんと困った顔の子供。俺よりも小さいのに随分としっかりしたその子供を眺めていればあ、となにかひらめいたように手を叩いて持っていた鞄を探る。

『俺いーもん持ってんの!』

じゃんっと出されたのは小さな包み紙。

『甘いの好き?お腹すいてる?』

こてりと首を傾げるから頷く。ぱぁっと顔色を明るくして嬉しそうなその子供は包みを解いて、つまみ上げたそれを俺の口の前に差し出した。

『はい!』

「……ん」

少し開けた口にチョコが放り込まれた。口を閉じてころころと舌の上で転がす。体温で溶けていくチョコは何日ぶりかの食べ物で、甘みに力が抜けて、目の奥が熱くなって目の前が霞んだ。

「っ、ふっ」

向かい側で子供が大きく肩をゆらして左右を見る。ぼろぼろとこぼれ始めた涙に鼻をすすって、そうすればふわりと肩に温みがかかって頭に何かが乗せられた。

そのままぎゅっと、抱えられた。

『大丈夫、大丈夫。にーちゃんがいるよ。こわくないからね』

「ひっ、うっ、あーー!!」

自分から出てるとは思えないくらい大きな声が出た。泣きわめく俺が手を伸ばして服を掴んでもその子は逃げない。

俺をあやすようにぎゅーっと抱きしめてくれる腕は細いし、布越しに頭を撫でる手は小さい。

それでもお母さんのように優しくてあったかいから泣いて、叫んで、思いっきり咽て、どれくらい泣いてたのかもう水が出なくなった頃には声も出なくなってた。

「っ、んっ、ひっく」

『大丈夫、大丈夫』

ずっと俺をあやすようにかけられてた声は変わらず優しい。鼻を啜って顔を上げれば被せられたフードの隙間から変わらない緑色が俺を見つめた。

『俺がいるから、もう平気だよ』

「…ん」

きっとこいつは俺がなんで泣いてるかも知らない。それでも俺のほしい言葉をくれて、ずっと寒かった心の中がぽかぽかとしてた。

さっき濡らしてたのとは別のハンカチを取り出すと俺の目元を押さえて、ふわりと笑う。

『やっととまった。よかった、目ぇ溶けちゃうかと思ったよ』

「………お前、変って言われんだろ」

『え?言われないよ?』

「…じゃあお前の周りは変なやつばっかなんだな」

『んん??』

俺の様子を見て本当に助けてくれた人間はいなかった。誰もがヒーローが来るからなんてにごして逃げて、見て見ぬふり。自分のことしか考えてない。

それがこんな小さな子どもが俺を救ってくれるなんて思わなかった。

「………お前がヒーローならいいのに」

『ん?俺はヒーローになんねーよ?』

「、なんで?」

『うーん。俺はお兄ちゃんだから』

「………お兄ちゃんはヒーローになれないのか?」

『ん。だってお兄ちゃんは大切な弟を守るんだもん。ヒーローになって他の人なんか助けてる間になにかあったら困るでしょ?だからヒーローはやだ』

「……………そういう考えもあるのか」

目を瞬いた俺に目の前の言葉はふふんと胸を張って、それからあ、と音を洩らして立てた人差し指を口の前に置いた。

『…今の、秘密にして』

「なんで?」

『その…、そういうのは正しくないから…』

「正しい…?」

『…みんなを助ける正義のヒーローじゃないといけないって…先生も言ってたし…』

視線を揺らす子供は困ってるらしい。俺とは違うけど、こいつも周りに押し付けられた言葉に心が潰されそうになっていて、その苦しさは少し、俺もわかる。

「………―じゃあ、俺が壊すよ」

『壊す?』

「俺を助けてくれたお礼に、お前が正しいって言われる場所に俺が連れてく」

『………ほんと?』

ぱぁっと目が輝いて、驚いてて、それでいて嬉しそうに綻ぶ。

『あんねあんね、そしたら俺、いっぱいやりことあんの!』

「なにすんだ?」

『えっとね、出久と勝己といっぱいいろんなとこで遊ぶ!』

「今は遊べないのか?」

『幼稚園はね、勝己のこと怖がったり出久のこと笑ったりする奴いっぱいいるからきらい』

ぷすりと頬をふくらませるその子供に目を丸くする。

「……苦労してんだな、お前」

『んーん。俺はしてない。大丈夫って、悲しいのに笑ってる勝己と出久のが大変そう。俺はそれがやだ』

「……………なら、お前と一緒にその二人も連れてってやるよ」

『ほんと?!じゃあ四人で遊ぼ!』

嬉しそうな子供に目を丸くする。

「、俺もいいのか?」

『え?だめなの??』

「だめっていうか…」

俺と同じように目を丸くした子供に視線を落とす。両手のひらを見て、そっと顔を上げた。

「俺、こわいだろ?」

『?』

こてりと、また首を傾げた。

『こわくないよ?』

「、だって、俺の個性、なんでも壊しちゃうんだ。触ったら、全部…もんちゃんもはなちゃんも、母さんも…っ、みんな、壊れちゃう」

『………』

ぱちぱち、目をまたいて、ふわりと笑う。手が伸びて来て俺の手の甲から掬うみたいに両手を取って包まれた。

『俺が手ぇ触ろうとしたとき、避けてくれたじゃん?』

「、」

『君は知らない人に優しくできるいい人だもん。だから君のことはぜんぜん怖くないよ。俺、君のことが好き』

ゆるい笑顔にさっきとまったばかりの涙がこぼれそうになって、俺も笑った。

「俺も、お前のこと好きだぞ」

『ん!うれしい!』

んへへと笑みを零す子供はほっぺたが赤い。今なら痒くないし、平気かなと掬われてる手を伸ばして、両手で子供の頭をなでた。

「お前、名前は?」

『いずる!みどりやいずるだよ!』

「いずる…ん。覚えとく」

『うん!忘れないでね!』

嬉しそうな子供に目を細める。

どこからか目の前の子供の名前を呼びまわる声が聞こえ始める。気づけば辺りは陽が傾いていて、オレンジ色に染まり始めてた。

声は外かららしい。髪から手を離してあっちと指をさした。

「なぁ、お前捜されてるんじゃないか」

『あ!そういえばみんながいない!』

「さっさといってやれ」

『んー』

迷うような仕草。それから俺の服をつかむ。

『一緒に行こ?』

「………んーん。俺はいい」

『でももう外暗くなるし…』

「お母さんが心配するぞ」

『俺は君が心配だもん…。あのね、母さんも出久も勝己も、いいって言ってくれるから、だから、』

「…平気。俺の迎えももう来る」

『……ほんとに?』

「ん」

頷く。それでもいずるは心配そうにしてて、でも聞こえてくる泣くように名前を呼ぶ声に向こう側を気にしてる。

だから笑った。

「平気だ。また会おう、いずる」

『ぜったい、だかんね?』

「ああ」

眉尻を下げた出留に頷く。立ち上がったいずるにそうだったとパーカーを返そうとすれば首を横に振って、鞄から出したものをいっぱい俺の膝の上に乗せた。

『今それしかいないけど、よかったらお迎えくるまで食べてね。あとそのかっこ寒そうだし服は次会うときに返してくれればいーよ!』

「………ん。ありがと」

『うんん!じゃあまたね!』

「またな」

あまりに響いてる泣き声が心配らしく俺に笑いかけてすぐ走り出したいずるは公園の出口のところで一旦振り返って俺に大きく手を振る。俺も振り返せば嬉しそうに笑ったあとに外に出ていった。

「にぃちゃあああああああ」

「いずっ!いたっ!ばかぁああああ!!」

少ししてから泣き声の原因らしいそれに会えたのか、より一層喧しくなったから思わず笑った。

高い声二つにまざるのは女の人の泣き声でたぶんお母さんだろう。どれぐらい探し回られてたのかはわからないけど、よっぽど心配してたのか声がかすれてて、泣き声は少しずつ離れてく。

完璧に聞こえなくなったところで膝の上のお菓子たちから一つだけ別にして、他のお菓子は誰にも取られないようにポケットに詰め込んだ。

詰めないで残しておいたそれの包みをはがして、口に入れる。丸い飴玉に膝を抱えて目を閉じる。

「いずる…」

俺を包むようにかけられてるパーカは暖かくて、口の中は甘い。

外に出て初めてもらった優しさにそのまま意識はあっさりと落ちて、そのまま眠ってしまった。



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