ヒロアカ 第二部
学校に帰り特別措置でテストを受けさせてもらって、寮に帰る頃には自主練を終えたところの人使と合流ができた。
顔を合わせなり、ほっとしたように表情が緩められる。
「昨日から居ないから心配した」
『ごめんごめん』
「怪我は?」
『なーんも。どこにもないよ』
「そうか…。本当に良かった」
相変わらず心配性な人使に会話をしながら食堂に向かって、会話をしながら食事をし、入浴も済ませて部屋に戻る。
必要なことを終えて、眠るためにベッドに入り込み携帯を触っていろんなところに連絡を入れる。
眠るのが早い出久に、勝己。それから近頃連絡の途絶えがちな弔。体調を確認するためにマグネと圧紘。ヒミコちゃんと仁にも今日の様子を伺って、それからお礼をオーバーホールさんに、レスポンスの早い黒霧さんとスピナーも連絡をすればばらばらに返事が来る。
出久は変わらず、インターンでトラブルがあったそうで学校待機。A組でインターンをしている切島くんと麗日さん、蛙吹さんも同じ状況らしい。
勝己は轟くんとの補講をオールマイトが引率で、会場では轟さんまで鉢合わせてとても気まずかったとため息が返ってきた。
圧紘からは義手がようやく動かせるようになってきて、マグネは義足が引っかかり盛大に転んで顔をぶつけたと聞かされた。
ヒミコちゃんと仁は相変わらずの軟禁生活は退屈だけれど、プールといっしょに温泉はどうかと遊びが追加されていて、ちょうどよく、ぽんと返事が一つ増えたから思わず起き上がる。
すぐにこちらも返事を入れればぶわりと室内に黒色が広がって、携帯だけ持って飛び込んだ。
『弔!』
「、そんな慌ててどうしたんだよ」
『そりゃあやっと連絡ついたんだからそうなるでしょ』
「は〜。出留は甘えん坊で仕方ねーな」
やれやれとわざとらしく首を左右に振った弔に眉尻を上げれば、弔が笑った。
「元気だったか」
『まぁまぁ。弔は?』
「ぼちぼち」
『そっか』
見覚えがあるような、ないような。随分と以前に足を運んだバーのような造りの室内に置いてあるソファーに座る弔の横に腰を下ろす。
久々にあった弔は何一つ変わらない様子で、手袋をつけてる手が伸びてきて俺の頭の上に乗せられた。
「退屈してたか?」
『むっちゃ』
「じゃあまた遊び行こう」
『この間のサンドイッチとケーキの埋め合わせも出来てないからね』
「そうだった、フラペチーノ」
思い出したようにこぼす弔は、また甘いのを飲むんだと口角を上げて、手を下ろした。
「やることがいっぱいあるよな、出留」
『そーだよ。まだまだ弔としてない遊びがたくさんあるからね。ピクニックもプールも行かないとだもん』
「ああ、トガとトゥワイスから聞いた。水着も買いにいくぞ」
『りょーかい』
「それからピクニックでバーベキューするし、あと花火みたい」
『花火気に入ってんね?じゃあみんなで花火大会でも見に行く?』
「あるのか?」
『うん。調べてみたら今月も来月の十月も、場所問わなければおっきめなのあったよ』
「見に行く!黒霧フル活用であいつらも連れてくぞ!」
『ん。日付と場所送っておくから、ちょうどよさげなタイミングのやつに行こうか』
目を輝かせる弔に思わず笑って、上機嫌な弔は目元をこすると体を倒す。
腿の上に乗せられた頭に視線を落として、見据えた先の弔の赤色の目が俺を見つめてた。
「みんなで遊ぶためには、さっさとイベントクリアしないとだよな」
『そうだね。ヒミコちゃんとトゥワイスもストレス溜まってるし、マグネとコンプレスも怒ってるでしょ』
「ああ。俺も、俺の大事なもんを壊されたのはやっぱり赦せなかった」
『うん』
「スピナーと荼毘の準備が終わるし、もうすぐ黒霧も一区切りつくって言ってた。だから、出留」
いつの間にか伸ばされていた左手が俺の目元を撫でて、弔は微笑む。
「片付くまで、危ないからもう少し待っててくれ」
『…ーまだかかるの?』
「ああ。大切な出留を巻き込みたくない」
『………しょうがないから、あとちょっとだけなら待っててあげるよ』
「ん、ありがと」
優しくお願いされたら頷くしかない。
俺はヒーローでも敵でもなくて、弔は敵で、俺と弔は友達だけど大切なものが違う。
最初に俺が引いた一線を、弔が最大限守ろうとしてくれているのなら、俺ができることは頷くことだけだ。
少しだけ寂しいなと目を瞑れば、わかっているかのように頬が撫でられた。
疲れが溜まったいていたのか、あのまま眠ってしまったらしく目が覚めたら自室のベッドの上だった。
弔によって黒霧さんと運ばれたのであろうそれに、あまり話せなかったなと息を吐いて、携帯を見れば弔からおやすみの挨拶とこまめに返事すると短くメッセージが届いていた。
その前にはスピナーから、もう少しで落ち着くだろうから改めて連絡を入れると来ていて、弔と会っている間に届いたであろうそれに、早く片付いてほしいと願う。
俺が学校や仕事に明け暮れている間、弔も待っているときはこんな気持ちだったのだろうかと寝返りを打って、全く来ない眠気に諦めて体を起こした。
時間はいつも起きる時間よりも一時間ほど早いけど、じっとしていられなくて、靴を履いて窓から飛び出す。
暇なら暇なりにとまだ日が昇りきらず、暗い敷地内を目的もなく歩いて呼吸を繰り返す。
遠くからは鳥の鳴き声が聞こえてきていて、なんとなく木々の生い茂るほうへ進んで、背の高い木に囲まれた空間で足を止めた。
ゆっくりと息を吐いて、吸って。
明け方とはいえ夏が終わりなのか、少しだけ冷たい空気で肺を満たしていれば、妙に上手な口笛が近づいてきて振り返った。
「あ、れ?!みみみみ緑谷さん!!?」
『おはよう、上鳴くん』
「、おはようございます!!」
ぱぁっと表情を明るくして、それから弾むように元気な挨拶で駆け寄ってきてくれる。
「朝から会えるなんて珍しいですね!」
人懐っこい大型犬のようなそれに思わず笑って、首を傾げた。
『そうだね。上鳴くんは朝練かな?』
「はい!」
辺りはほどよく開けていて、ところどころに障害物代わりになりそうな大きめの岩や木が茂ってる。ここは上鳴くんのお気に入りの自主練スポットなのかもしれない。
『ふふ。そっか、邪魔しちゃってごめんね』
「全然!学校の敷地なんすから邪魔もなにもないっすよ!」
『ありがとう』
「緑谷さんも朝練ですか!」
『うーん。今日は朝の散歩かな』
「なるほど!朝って空気澄んでてきれいですし気分転換とかにもちょうどいいですよね!」
『うん。そうなんだよね。ちょっとすっきりしたよ』
「そうっすか!」
にこにことしてる上鳴くんは同い年のはずなのにどこか幼く見える。
明るいからなのか、元気だからなのかはわからないけど、不思議な感覚に上鳴くんと目を合わせ直す。
『上鳴くん、朝練始めるんだよね?』
「はい!あ、でもここ使うなら別んとこ行きます!」
『うんん。もう散歩はいいかなって』
「そうなんですか?」
『うん。上鳴くんと話してたら元気もらえたからね』
「、」
『だから、もしよければ朝練をしてるところを見学させてもらえないかな?』
「うぇ?!お、俺のですか?!」
『うん。どんな朝練してるのか気になるなって。もちろん邪魔になるのは申し訳無いから無理、』
「無理じゃないっす!!」
勢いの良すぎる返事といっしょに前のめりになった上鳴くんを支えて、近くなった顔に笑う。
『ありがとう。お邪魔させてもらいます』
「っはい!」
跳ねるような足取りで少し距離を取る上鳴くんに、俺も距離を開けて、大きめの岩の上に腰掛ける。
「緑谷さん!俺の個性知ってますっけ!」
『ええと、電気系の個性だったよね?』
「はい!帯電って言って、貯めておいた電気を放出できる個性で!ただ放つ方向とかは自由に決めらんないんす!」
『なるほど。それでそのサポートアイテムを使うの?』
「さすが緑谷さん!そのとおり!こっちがポインターになってて、出力先の固定!んで、そのポインターがどこにあるのか調べられるのがこっちのグラスです!」
『へぇ…!目の保護用なのかと思ってた!』
「ポインターが一個だけなら直線上に進むだけなんですけど、二個、三個ってあるとそっちに引っ張られて曲がったりとか、あとはどこ行ったか確認できるようになってて!たまにわけわかんなくなるときあります!」
『なるほど。計算するの楽しそうだね』
「んーっ!緑谷さん並みの演算処理機能ついた脳みそがないと楽しめないです!」
試しにか、腕を伸ばしてポインターを発射し、木に固定した上鳴くんが電気を放った。引き寄せられるようにまっすぐ進んだ電気に、また別の木へポインターをくっつけて、同じように電気を放ったはずなのに湾曲した電流に上鳴くんがこんな感じ!と振り返った。
「どうすっか!」
『元々強い個性だなぁって思ってたけど、こうやって自在に方向まで操れると幅が広がっていろんなことできそうだね』
「そうなんです!これなら誰かと一緒に戦ってても迷惑かけないで済むんです!」
『頼もしいね』
「でもこのポインターの計算がうまく行かなくて…!」
三つ、四つとポインターを飛ばして、電気を流す。スイッチでポインターの権限を操れるんですけど、それとは別に湾曲させたいとき困る!とはしゃぐ上鳴くんに、立ち上がって手元を見せてもらう。
『このポインター、権限の出力を変えたりはできるの?』
「出力っすか?」
『うん。引っ張る力も変えられたら操りやすいかなって。その分また計算も増えちゃうけど便利になるんじゃないかな』
「んぐぐっ」
『ふふ。唸らない、唸らない。上鳴くんは計算得意だから、慣れちゃえば更に強力になるでしょ?』
「ええ…俺にそんな高度なことできますかね…?」
『うん。上鳴くんならできるよ』
「…、…………」
目を丸くした上鳴くんは固まっていて、不思議な表情に首を傾げた。
『上鳴くん?』
「…………、は!」
スイッチが入ったようにまばたきをして視線を泳がせたと思うと一度俯いて、そのまま膝を折りしゃがみこんで頭を抱えた。
『え、』
「うわ〜!なにこれもー!俺ちょろすぎん?!!」
『か、上鳴くん?』
「んんんっ!」
『どうしたの…?』
「………………」
大きな声で少し言葉をこぼして、静かになる。
あまりに不安定な様子に不安を覚えて手を伸ばそうとしたところで勢い良く上鳴くんが立ち上がって、ばちりと視線があった。
「緑谷さん!」
『は、はい』
ばっと右手がまっすぐ差し出されて、腰を折り上半身を90度倒す。
「俺と友達になってください!!!」
『……………、ぇ?』
考えが追いつかず音をこぼす。傍目から見たら相当間の抜けた表情をしているだろう俺に、きっと上鳴くんは気づいてない。
緊張でかかすかにふるえてる右手に少し戸惑ってしまって、唇を噛み締めてから、手を伸ばした。
そっと触れた右手を掴んでみれば低い姿勢のまま顔が上がって、揺れる視線と目があった。
『俺の方こそ、友達になってくれると嬉しいな』
「っ〜!!」
がくりと膝の力が抜けたらしい上鳴くんが崩れ落ちて、手を握ったまま俺も屈む。
『だ、大丈夫??』
「…っはい!大丈夫です!うれしすぎてちょっと現実感がないっていうか心が追いついてないっていうか!」
『あはは!なにそれ。そんなに喜ばれちゃうとこっちが恐縮しちゃうよ』
「緑谷さんと友達になるのが俺の第一目標だったです!!」
『ええ…?目標なんて大げさじゃない?俺だよ…?』
「まったく大げさじゃないって!緑谷さんだからなりたかったの!」
もう!っと怒る様子は少し不思議だけど、悪い気はしない。
わかりやすくぷりぷりと怒ったあとに、あーほんとすごく緊張した!と震えて、一緒に立ち上がった。
「これからよろしくお願いします!」
『うん。よろしくね、上鳴くん』
「はい!」
元気いっぱいに頷かれればこちらも明るい気持ちになる。
朝から宛もなくふらついて始めた散歩ではあったけれど、こんなふうに晴れやかな気持ちになれるのなら、早起きも悪くないなと思ってしまう。
「緑谷さん!これから俺ともいろんなことして学校生活楽しみましょうね!」
『ふふ。うん、楽しみにしてる』
よくわからないけどやる気満々な上鳴くんの様子に頷いて、とりあえずはと朝練を再開した。
ギリギリの時間まで朝練して、元気な上鳴くんと別れ、寮に戻る。ちょうどよく合った人使は顔を合わせるなり目を瞬いた。
「出留、なにかいいことあったのか?」
『え、なんで?』
「ふわふわしてる」
『ふわふわ…?』
あからさまに浮ついていたつもりはなかったけど、そんなに顔に出てたのかと心配になって顔を触るけどいまいちわからなくて、すぐに諦めて手をおろした。
『今日ちょっと朝の散歩してたんだけどさ』
「うん」
『途中で上鳴くんに会って、朝練のお邪魔させてもらってたんだよ』
「へー。上鳴と…」
『そのときに上鳴くんといろいろ話して元気もらったりしたから、浮かれてるのかも』
「上鳴、コミュニケーション能力高くて出留と相性良さそうだしな」
『そう?』
「ああ」
なにかに納得したように頷いた人使の真意はいまいち掴めない。
出久や勝己に聞いたらわかるだろうかと意識を飛ばそうとしたところで、朝飯食べいこうと声がかかって、少し先にいる人使に追いつくため歩き出す。
横に並んで、いつものペースで進んでいけば人使が口元を緩めた。
「出留に仲がいいやつが増えて嬉しい」
『えっと…。人使のそれはいったい、何目線なの…??』
「怖がりな相方を見守る相棒目線」
『俺、別にそんな怖がりじゃないからね…?』
補足も虚しく、はいはいと流された会話に、人使に俺の姿はどんなふうに見えてるんだと不思議に思いつつ、たどり着いてしまった食堂に朝食を選んで席につく。
人使はさっきの話の続きをする気は無いようで、俺がいない間にあったクラス内での出来事や授業のことを話題に出しつつ食事を終えた。
「じゃ、またあとで」
『あ、うん』
ひらひらと手を振り、隣の部屋に入った人使を見送る。俺も自室に戻って、ベッドに倒れ込んだ。
支度をしないといけないのはわかっているけど、この数日間、たくさんの人に触れて関係を結んだことが思ったより疲れが出ているらしい。
近くのクッションに手を伸ばして、抱えながら大きく呼吸をする。
こんなとき、今までならば勝己は甘やかしてくれるし、出久は心ゆくまで甘やかさせてくれる。弔とは楽しいことをその時の気分でして、気持ちを落ち着かせていたけど、みんなが忙しい中服を引くのは心苦しい。
話を聞いてくれる兄も、姉も、ヒミコちゃんとスピナーも連絡は取れない。
俺って知り合いが少ないんだなぁと目を閉じて、奥歯を噛みしめようとして、携帯の揺れた音に目を開く。
仕方なく手を伸ばした先の携帯の画面には、つい先程連絡先を交換したばかりの相手の名前が表示されていて、学校いきましょ!の文字に少し考えて、いいよと返事をする。
すぐについた既読に飛び跳ねまわる黄色のネズミのスタンプが返ってきたから思わず笑い声をこぼして、起き上がった。
人使を待たせる訳にもいかないし、上鳴くんとも待ち合わせるのならばきちんと準備をしないといけない。
気持ちを切り替えて制服に手を伸ばした。
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