ヒロアカ 第二部



椅子とテーブル。それからやっぱり揃ってる人々。隣を見上げた。

『………………二回目でも、慣れません』

「わかる!俺も慣れない!」

普通に酔うし気持ち悪いよね!と口元を緩めるその人にそこにいた人たちは半分ほどが呆れ顔で、昨日と同様に気の強そうな女子のふたり組が強い視線を向ける。

「つーか、それで?」

「結局根暗どうすんの??」

「あ!こら!根暗なんて呼ばない!」

「「根暗じゃん」」

「こらこら、あんまり騒いでるとそこの子が話せないよ」

「少し静かにしろ。おい、もやし」

『あ、はい』

「俺は時間のムダが嫌いだ。今すぐ入るか入らねぇのか答えろ」

人のことをもやしというけれど、たぶんこの場にいる誰よりも筋力はあると思う。

やっぱりゆるいシルエットの服がいけないのかなと思いつつ、大きく深呼吸をして目を合わせた。

『すみません、まだ、決まってないです』

「優柔不断くそもやしかよ」

『す、すみません』

「それならどうしてここ来たの?」

「ひやかしなら帰ってよね」

「アタシらも暇じゃないしー」

戸惑うフリをして周りを確認する。昨日いたあれは居ないようで、それならと口を開く。

『そ、その、皆さんは、どうしてここにいるのか、気になってしまって』

ぐっと眉間に皺を寄せたり、視線を落としたり。あからさまに動揺するのは今までよく喋っていた女子たちで庇うように柔和に微笑んでたはずの茶髪が眉根を寄せたまま前に出て口を開いた、

「それを聞いて、どうするの…?」

『…その、これからここでお世話になるにあたって、皆さんのこと、もっと知りたいと思って…』

揺らいだ視線と表情の意味を見極めて、それからわざと視線を泳がし、落とす。

『ぼ、僕は…今まで、ちゃんと人と仲良くできたことがなくて…。だから、僕なんかがここにいてもいいのか…、迷惑にならないか、怖くて………』

「「……ばっかじゃないの」」

一番に帰ってきたのは女子高生。二人は互いに手を繋いだままじっと俺を見る。

「ここはアタシらを迎えてくれた優しいところ」

「モヤシでも迎えてくれる優しい場所なの」

「…どいつもこいつも好きなことして過ごしてんだけだ」

「迷惑だなんてとんでもないよ。だから心配しないで」

淡い声色。柔らかいそれにやっぱりと感じたところで隣を見る。ずっと不安そうな顔をしてたその人を見据えた。

『あの、学校とかあるので、あまり、来れないかもしれないですけど、…それでも、みなさん仲良くしてくれますか…?』

「もちろんだよ!」

勢い良く頷いたその人は笑顔で、お友達だ!!とはしゃぐ。茶髪もようやく表情を落ち着かせて、女子高生がふーんっと口元を緩める。

「まぁたまに来たときはもやしの話聞いてあげてもいいよ」

「もやし高校生?アタシたちと同じくらい?」

好奇心旺盛な表情と質問。俺をここにつれてきたその人も知りたい!とはしゃぎだして、ずっと険しい顔のその人が椅子を差し出す。

「座れ」

『あ、ありがとうございます!』

「うんうん!仲良しでいいね!じゃあ早速自己紹介タイムしよう!」

楽しげなその人たちに、これは長くなりそうだと頷いた。




お互いに一通り会話をして、改めて施設内を案内してもらって、見かけた影に案内してくれていたその人たちに先に戻ってもらってお手洗いにと離れる。

この場所は祈祷していたあたりの裏側かと建物の配置を考えつつ、こそこそと動くそれを確認する。

見えた歪んだ表情と笑み。さっきまでいた人たちの言葉を合わせて、息を吐いた。

『はぁ、やっぱり』

「、貴様、」

弾かれたように顔を上げて向けられようとしたその銃口に、手を伸ばして思い切り掴んで、腕ごとひねりあげる。

「いっ!!」

『悪いのはお前だけでここに人は悪くなさそうなんだよなぁ』

「ヒーローが!!なんで!いつ気づいた!!」

『え?アンタに目星つけてたのは最初からだけど?』

「は、?」

『んー、どうしたもんかなぁ…』

頭を掻きながら銃口に鉄の成分を詰めて穴を埋めて、それから手足を拘束して上に腰を下ろして息を吐く。

『うーん、本部…先生に…いやぁ、でもなぁ…』

もとよりここは、実在する人間を普通に尊敬しつつ、コミュニティからあぶれてしまった人間の憩いの場だった。

それがいつからか教祖として存在していた人間が体調を崩し、それと同時に補佐としていたというこれが取り仕切るようになり、この組織の在り方が少しずつ変わるようになってしまい、彼らはそれに不安を覚えつつもこの場所を壊すことが怖くて動けなかったらしい。

わかりやすい武器の所持も個性の不正利用も、更には個性を使った献金と余罪は有り余るはずで、下で喚いてるそれに意識を戻す。

「貴様、何が目的だ!!」

『別に、なんも』

「、は?」

『なんもないよ。俺は仕事してるだけ』

こいつは存在してると悪いことしかしない。だから捕らえないといけない。でも、ここを潰したいわけじゃない。

『うーん』

悩んで、悩んで、そういえばと携帯を取り出して、昨日もかけたばかりの番号を呼び出す。

「なんだ。仕事が終わったか」

『あ、すみません。まだです』

「…なら何故かけてきた?」

『お聞きしたいことがありまして』

「………なんだ?」

『教祖になるためには何がいると思いますか?』

「「、は?」」

耳元と下から同じ音がする。喧しい椅子は無視して言葉を並べる。

『悩みを聞いて正しく求めてる言葉を返す。それだけである程度は行けると思うんですけど、そもそも教祖ってずっと側にいて信頼感と安心感を覚えてもらわないといけないわけだから、その場にいることが前提なのに俺は学生だからむずかしいじゃないですか?』

「、待て、話が読めない」

『あ、勢い良く話してすみません。どこから話せばいいですか??』

悪い癖が出たなと目を瞬けばため息が響いて、向こうから聞こえてきた言葉に簡単に返事をいくつかして通話を終わらせる。

その間に賑やかすぎる椅子を気絶させて、それから一度転移し、外で待つ。

現れたその人は大きなマスクではなくシンプルな黒マスクをつけていて、境内へと続く階段を登りきったオーバーホールさんは相対するなり足元に転がるそれを視認して眉根を寄せた。

「それで?ここが新興宗教のねぐらでそのトップに成り代わってた奴がそれだとして、何故教祖になる話が出た?」

『ここをまとめる人が必要でしょう?』

「ほう。お前はここを潰す気がないと」

『ええ。別にここ自体は悪くありませんから。ただこれだけは存在がいただけないので回収しておこうと』

「そうか」

『ただここの人たちは頭がいないと壊れてしまいそうなので、ちゃんとした補佐兼任の教祖を置いておきたいんですけど適任者がいないなと』

「………それを何故俺に聞いてきた?」

『オーバーホールさんの顔しか浮かばなかったので?』

「……………、………お前の求める教祖はなんでもいいのか?」

『過度に金を集めようとしたりしない割と普通の人なら?』

「過度でなければ構わないと?」

『え?そりゃあ施設が運営するには資金が必要でしょう?』

「………面白い」

目を細めたオーバーホールさんは少し待てと自身の携帯を操作する。連絡を取り終えたらしいオーバーホールさんは息を吐いて、しばらく静かに待っていれば足音が近づいてきた。

見覚えのない。柔らかな空気のその人はオーバーホールさんに近寄り頭を下げた後、俺を見た。

「こいつを貸してやる」

「はじめまして」

『はじめまして』

会釈を交わして、オーバーホールさんはつらつらと言葉を続ける。

「個性はカウンセリング。本人に力も野望もないからお前の求める教祖には丁度いいだろう」

ぱちりと瞬きをして、それからその人に視線を移した。

『とても素敵な個性ですね!』

「あ、ありがとうございます…!」

『お手数をおかけしてしまいますが、ここをどうかよろしくお願いします』

「はい!がんばります!どうかこれからよろしくお願いします!」

『こちらこそ、よろしくお願いします』

縛り上げてるそれをオーバーホールさんがさっさと車に詰め込んで、かわりにお借りした新たな教祖補佐役のその人と監禁されていた元教祖を解放する。

段取りをしっかりと決めて、それからオーバーホールさんと神社を離れた。

乗せられた車が進む道は見覚えがなくて、おそらくまた、死穢八斎會の拠点のうちの一つに向かっているんだろう。

運転をするのは今度は体格の良い男性で、金髪でも、白髪でもない。また新しい登場人物だなぁとぼーっと外を眺めているうちに車は住宅地へと入り込み、車庫で停止した。

見知らぬスーツをまとった構成員に扉を開けてもらい外に出る。太陽が頂点に来てるらしく強い日差しに照らされて、一瞬目を瞑ってから、先を歩き始めてたオーバーホールさんについていく。

屋敷と呼ぶのが正しそうなくらいに広い家に入り、廊下を進む。時折構成員であろう人が頭を下げていくのをオーバーホールさんは気に止めている様子はなく、扉の一つを開けると階段を降りた。

四方白色のタイルに囲まれた通路に出て、斜め前を見る。

『本当にどこからでも繋がってるんですね?』

「出入り口だけで50ヶ所以上ある」

『覚えるの大変そうですね』

「その程度も覚えられないような人間は近くに置かない」

『そういうもんなんですか?教えたりとかは?』

「一度は伝えるが俺は教師じゃないんだ。手取り足取り教えてやる義理はないだろ」

『それもそうですね?』

テストの正答と違って、迷路の答えは中々覚えづらそうに思えるけどとは口に出さずついて歩く。

淀み無く進むオーバーホールさんは扉の一つで足を止めて、戸を開いた。

ふわりと届いた柔らかな草の香りにいつぞやかにもお邪魔した茶室なことに気づいて思わず目を瞠る。

『ここにも繋がってるんですね…!』

居住まいを整えているオーバーホールさんに倣い、正座をして。いつの間にか手袋を外していたオーバーホールさんは丁寧に手を拭いながら俺を見る。

「お前があいつらと会う部屋もここから近いが、このあと会っていくか?」

『あー…、今日は遠慮しておきます』

「ほう?それは何故だ?」

『今日は仕事が終わったらオーバーホールさんとお話する約束でそのためにお時間をいただいてるんですから、俺が終わりの時間を決めるのは失礼じゃないですか』

「…義理堅い奴だな」

唇を結んだオーバーホールさんが用意したお茶碗にお湯を注いで点て始めた。

シャッシャッと微かに独特の音の響き始めた室内にオーバーホールさんの手元を眺める。

白い肌に切りそろえられた丸い爪。汚れ一つない指先は性格が現れていて、動きが落ち着いたところで茶筅が置かれた。

渡されない茶碗にじっとしていればオーバーホールさんは伏せていた視線を上げて、じっと俺を見つめると口を開く。

ゆっくりと動き出した口元に目を瞬いて、それから首を傾げた。






「緑谷!」

『あ、せんせーお疲れ様でーす』

「後遺症は」

『なんもないでーす』

待ち合わせ場所に向かえば顔を勢い良く上げた先生が駆け寄ってくる。見目は普段と同じ黒色で、その横に見覚えのない真面目そうな人たちがいて、私服でもわかる堅めの空気に警察官かなと持ってたものを差し出す。

『とりあえず、これが回収したやつです』

「そうか」

『個性は読心。発動条件は目を合わせることだと思われます』

「………どうやってそこまで…」

『なんとなくですかね??』

「はぁ…それで?」

『大体は報告していたとおり。あの施設自体は問題なしでした。外部との連絡禁止のような規則もなかったですし、献金を強要する様子もありません』

「ほう」

『土壌がよすぎて変なのが混ざってたので、それだけ回収してきました』

「そうか…」

頭が痛そうな先生に首を傾げて、さっきもそうだったなと思いながら元に戻す。

大人は悩みごとが多そうだと先生を眺めつつ口を開いた。

『再試験って今日受けられますか?』

「はぁー…」

『先生??』

「今日の夜か明日の朝が選べるが…」

『それなら今日で』

「そういうと思った」

頭を抱えてしまった先生に、大人は大変だなとさっきも抱いた感情が浮かぶ。

『お疲れ様です?』

「ああ…ありがとう…」

ため息をもう一度吐いた先生が顔を上げて、後ろにいた警官に説明と引き渡しを始める。

慣れた様子のそれに俺の仕事は終わりかなと持っていた業務用の携帯を取り出した。

先生が振り返るから差し出す。

「必要な情報はないのか?」

『はい』

「そうか」

携帯を受け取った先生は妙な表情をうかべてる。不思議なそれに目を瞬けば先生の手が伸びてきて、頭を一度撫でると離れた。

「引き継ぎがいくつかある。帰るぞ」

『はーい』

先導するように歩く先生の後ろをついていく。

ポケットの中で揺れた携帯に、これから楽しくなりそうだなと口元を緩めた。

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