イナイレ
試合の翌日は全休で、翌日は午前休。その翌日は午後休。
決勝に向けて気合いが入るのはもちろんではあるけれど、試合終わりは気分が高揚していていつもよりも軸がブレやすいからと定められている休日。
自主練は重すぎるものでなければ自由に行っていいと許可は出ていて、大抵各々が好きな相手を誘ったり個人で練習する中で、今回はどうしたものかなと隣を見る。
最近は朝練だけでなく、日中の練習も真面目に参加している来栖は、日本から呼び寄せた友人やイタリアの栄垣、顔なじみであろう誠といった面々とまとまった時間があると会うために外に出かけてることが多い。
昨日の午前休は栄垣がやってきてしばらく遊んでいて、練習時間になると栄垣は迎えに来た友人に連れられて帰っていった。
今日もこの後は午後休だしまた出かけるのだろうかと、昼食を終えて部屋に一度向かう気なのか階段を登る来栖を見上げる。
「来栖さーん!」
聞こえた声に来栖は目を向けて、下から呼びかけているのは音無だった。
「お写真のことで相談があるんですけど!」
『あー…、今行くわァ』
なにか心当たりがあったのか、仕方なさそうに息を吐いた来栖は上がってきた階段を降り始めて、
「はい!ありがとうございま…っ!?」
「っ、来栖!」
視界から消えた来栖に悲鳴じみ声を上げてしまったが、来栖は咄嗟に手すりに捕まることで難を逃れてた。
驚きのあまり腰が抜けたのかしゃがみこんでしまった音無に、来栖は気づいてないのか無視してるのかは定かじゃないけど左目を手で覆って眉間に皺を寄せてる。
すぐに階段を駆け上がって屈んだままの来栖の肩に触れた。
「大丈夫か」
『…ああ』
手をおろした来栖は眉根を寄せたままで、最近も、こんな姿を見た気がするなと俺も眉根を寄せて、首を横に振った来栖は手すりに捕まりながら立ち上がると感覚を気にするように一度その場で足踏みして、階段を降り始める。
『驚かせて悪いな』
「っ、ほ、ほんとうですよ!!お怪我はありませんか?!」
『ねーよ。ちょっと踏み外しただけだ。気にすんな』
目を逸らした来栖はあからさまに何かを隠してて、流すように音無に話しかけて歩いていく。
問題なく歩行する姿に余計顔に力が入って目元が痛くなってきたところで、目的の人物を探すために足を進めた。
目的の人物は食堂にいなくて、それならと以前にも一度だけ叩いたことのある扉の前で立ち止まり、扉を叩く。
二回叩いた扉に、少し待てば扉が開いて、中から現れたのは食堂にいなかった紫色で、その奥にはなにかの資料を抱えている監督がいた。
「不動くん?」
「珍しいな、不動。なにかあったか」
二人揃っているのならちょうどいい。周りに視線がないことを確認して口を開く。
「ついさっき、来栖が階段から落ちかけた」
「え、」
「なに…?」
目を丸くした久遠と、訝しげに表情を固くした監督に息を吐く。
「近くで見てたわけじゃねぇから理由はわからねぇけど、たぶん膝が抜けたっぽい。手すりがあったから落ちはしなかったけど、その後片目押さえてて、足の感覚確かめてたから、またおかしいんじゃねぇの」
「………そうか」
ぐっと眉根を寄せた監督は、純粋に心配している様子の久遠とは違う感情を抱えてるらしい。
「諧音くんは今どこに?」
「音無に呼ばれてどっか行った」
「春奈さん…。お父さん、私諧音くんのところに行ってくるね」
「…ああ、頼んだぞ」
「うん」
頷いた久遠は俺の横を抜けて、それから一度振り返る。
「不動くん、教えてくれてありがとう」
「…別に、お前のためじゃない。選手の不調は監督に伝えとかねぇと支障出ると思っただけだ」
「ふふ。そっか」
久遠はそれ以上は何も言わず、走りはしていないけれど普段よりも幾分早足で廊下を進んでいく。姿が見えなくなったところで額を押さえている監督を見据えた。
「あれは普通の不調じゃねぇって前言ってたよな」
「………そうだな」
「つまり監督は不調の原因を知ってることになる」
「…ああ」
「あれは医者じゃ治せねぇっつってたけど、誰かに治せるものなのか」
「………わからない」
額から目元に手の置き場を変えて、深くため息をつく。それからふらふらと椅子に座って、足に肘を立てるようにつくと、頭を抱えた。
「あれは諧音特有のものだ。以前も言ったように改善されるものじゃない」
「……原因は精神か?」
「…それが、近いのかもな」
イタリアの面々に混じって影山と対抗するための試合に参加した際、帰り際に異様な様子を見せた来栖に、あの場にいた一人を除いて全員が動揺していた。
ただ一人、冷静に動いていたのは栄垣で、栄垣が落ち着かせるように唱えていた言葉とその後、来栖へ診療を勧めた二人に監督が返した言葉を思いだす。
「……彼奴、前に目か足でも壊してんのか?」
「………いいや、大きな怪我は一度も」
「壊しかけたことも?」
「……ないな」
「ならなんで…」
「……………」
一度傷めたことや壊したことがある箇所に対して、再発を恐れて過度に行動を制限したり、庇ったせいで他に負担がかかってそちらが不調を起こすなんていうのはスポーツ界ではよくある話で、上げた可能性をすべて否定した監督は静かに深く呼吸を続ける。
言葉を選んでいるのか、言葉がまとまらないのか。妙な静けさの後に、ようやく監督は顔を上げないまま空気を吸った。
「すまない、不動。原因は特定できないんだ」
「はぁ?それじゃあ彼奴はいつ壊れるかもわかんねぇ状態でサッカーしてんのかよ」
「……本当に、諧音の身体にはなんの問題もない。いたって、健康なんだ」
「………?」
ようやく顔を上げた監督は息を吐く。
「俺も彼奴の不調が現れてから身体検査をさせたが、全身漏れ無く健康で、目も足も、問題はなかった」
「……でも実害が出てんだろ」
「試合中や私生活でも、少しずつ…諧音いわくだんだん頻度は上がってきているらしい」
「、なら余計あぶねぇだろ」
「ああ…だが、原因が諧音じゃないのであれば、できることは感覚を麻痺させる薬の投与か、現状維持かのどちらかしかない」
「感覚を麻痺…?」
「ああ」
ふーっと長く息を吐いた監督は視線を落としたままで、少し口ごもっていたと思うとゆっくり動かす。
「諧音の感覚は、諧音だけのものじゃない」
「、は?」
「………すまない。なんでもない」
首を横に振った監督は改めて顔を上げると、いつも通りの何を考えてるのかわからない表情に戻ってた。
「報告に来てくれて助かった。こちらでも改めて本人に伝えておくし、俺達も注視しよう」
口を結ってしまった監督にこれ以上の会話は諦めて扉を閉める。
何一つ、理解できないし、解決はできない。
「ふざけんなよ」
さっきの音無の言葉に場所を推測して、オーディオルームに移動する。普段は試合を見たり作戦会議だと円堂たちが借りているそこに向かえばやっぱり仲には音無と来栖、久遠。それから居合わせたのか風丸と飛鷹がいて、二人は顔を上げると俺に気づいて目を瞬く。
「不動?どうしたんだ怖い顔して」
「腹立つことでもあったのか?」
「…まぁそんなもんだ」
眉根が寄ってる自覚はある。二人は目を合わせて不思議そうにした後に、聞こえた声に反応して視線を逸らした。
「このお写真とか!」
「お、いいんじゃないか?」
「よく撮れてるな」
『被写体の表情もいいし、いいんじゃねぇのォ?』
パソコンに表示されてるのは緑色の芝生が敷き詰められたフィールドで、中心には指示を出しているのか口を開きどこかを指している土方が映ってる。
「試合の写真か?」
「ああ。日本代表の活動報告に使う写真の選別をしてるところだ」
「へー…」
その面子がなぜこの面子なのかは謎なものの、音無が賛同を得た写真をクリックしてマークをつけると次の写真を表示させる。
「相手選手が映ってしまってるので…うーん、こっちはちょっとブレてますね…」
「あ、これは綱波と壁山の目がかっこいい。ありじゃないか」
「来栖、いけそうか?」
『はいはい』
風丸に問いかけられた来栖は手元のパソコンに触れる。音無も同時に触って該当の写真を選ぶと、その写真が来栖の画面にも映って、来栖は右手のマウスを動かしはじめた。
「…………」
画面を見つめていれば、端に映っていたベージュのユニフォームが消えて、背景と見比べて不自然にならないよう色が足される。それから背景の観客席もぼかしがはいって人が特定できない程度になったところで来栖が手を止める。
『確認』
「わー!すごいです!本当にお上手ですね!!」
歓声を上げる音無は嬉しそうで、来栖も息を吐く。目を瞬いてる俺に気づいた久遠が穏やかな笑い声を転がした。
「春奈さんの写真選別と編集をお手伝いしてるの」
「……器用だな」
「ふふ。気になったから練習してみたんだって」
「へー…」
黙々と指示された通りに作業をしてる来栖の手元に興味が湧いて近づく。次々と変わる画面。パソコン上でいろんな機能を使い分けているらしく、いまいち良くわからないなと見つめて、動いていたカーソルが止まる。
次の写真に移るのかと思えばそこから何も表示されない画面に不思議に思って顔を上げれば来栖と目があった。
『やってみんか?』
「、いや、いい」
「結構熱心に見てたもんな?」
「興味あるのか?」
風丸と飛鷹の声に、いつの間にか随分と来栖に近寄っていたことに気づく。パソコンを覗くためにとはいえ来栖の座る椅子の横に屈んで目線を合わせていたようで、咳払いして立ち上がれば視線で追われた。
「不動さんも一緒にお写真見ませんか!」
「は、?なんで俺が…」
「こんなにお写真あるんですよ!?私達だけじゃ日が暮れちゃいます!!」
「そうだな。不動、よかったら手伝ってくれ」
「…………少しだからな」
「ありがとうございます!」
ぱっと笑った音無に久遠がよかったねと微笑んで、風丸と飛鷹も満足そうに頷く。
改めて確認する画面にはどこから撮られたものなのか様々なアングルの写真が並んでいて、飛鷹が写真を送りながら補足をしていく。
「日本代表がメインで映ってるもんでいいなってやつはこっちに。多少の映り込みくらいなら来栖さんと音無が編集してくれるからここから共有をかけてくれ」
「………」
「今まで選んだやつはこんな感じだな」
風丸に見せられた写真は青色のユニフォームを着たときだけでなく、ジャージや私服のものも多少混ざっているようで、試合中以外にも練習風景も入ってるらしい。
中心にいることの多い円堂や、その横にいる鬼道、豪炎寺、吹雪、風丸は髪色も目立つから目が止まりやすい。それからその辺りとも近い佐久間、綱波、虎丸、基山、立向居。単品は少ないもののにこやかに映ってるのは小暮や土方で、いつの間に撮られたのか俺や飛鷹も映ってた。
しばらく眺めて、隣を見る。
「お前の写真なくね?」
『あ?ああ、俺は入れなくていい』
「は?」
当たり前のように言われて、問いただそうとして久遠が苦笑いをしてるのに気づく。
「広報用のお写真だから、諧音くんが映ってるのは抜いておいてあげて?」
「はぁ…?」
「不動、聞くだけ無駄だ。こいつ、学校の行事写真も映らないくらいだ」
「写真嫌いかよ」
「まぁ嫌いなことを無理にする必要もないだろ」
飛鷹がそう流して、パソコンを写真の選択画面に戻す。
「選別作業と楽しいぞ。気に入った写真は好きにもらっていいし」
「…好きに?」
「ああ。俺もよくもらってる」
『個人利用する分には好きにしていいらしいぞ』
作業を続けてる来栖の言葉に欲しい写真なんて無さそうなものだけどと仕方なくパソコンに視線を戻す。
同じように作業してる風丸や飛鷹も画面を眺めては時折気に入ったものを携帯に移してるようで、本当に自由にしてるらしい。
俺もカチカチとマウスを動かし始める。カメラマンは音無なのか、目線は多少低く、被写体が自然な表情で映ってるものが多い。
写真映えするのは朗らかな笑顔を浮かべる面々で、その辺を選びながら、ふと、写真が少し前のものなのに気づく。
撮影日は日本を離れて少しした頃、イギリスと対戦する前くらいで、スクロールして少し進める。
予想通り、見つけた写真をさっさと携帯に転送して、更に表示を最新順に切り替える。こっちもしっかりと狙った画像が表示されたから自分に転送をかけて、元の表示順に戻して作業を再開した。
こつこつと作業を続けていればノックが聞こえて顔を上げる。
「みんなお疲れ様」
入ってきたのは木野で、持ってきたトレイをテーブルに置いた。
「画面ばかり見てると疲れちゃうでしょ?一旦休憩しよ?」
並んでるのはアイスらしい。形状も味もバラバラなそれに音無が目を輝かせた。
「おいしそうです!いいんですか?!」
「もちろん!監督がみんなありがとうって言ってたから好きなの選んでね!」
「太っ腹だな、監督」
「細かい作業だったし息抜きにちょうどいいな」
飛鷹と風丸も手を止めて、久遠が隣を突く。
「諧音くん」
『んー、もーちょい』
「アイス溶けちゃうよ?」
『冬花が食っていいぞ』
「二つも食べたらご飯食べれなくなっちゃうよ」
くすくすと笑った久遠に風丸が大きく息を吐いて、並んでるアイスの個数を確認した。
「とりあえず好きなの選んでくれ」
「いいんですか!私チョコレートがいいです!」
「ふふ。お言葉に甘えて…いただきます」
「じゃあ俺はこれで」
「ほら、不動も」
「……いただきます」
残ったのはバニラ味のカップアイスと同じく白色をした切り離して食べれるタイプのアイスで、白色の切り離す方を拾い上げると残ったカップアイスを木野に寄せた。
「え、いいのに」
「いいんだ。来栖に一つまるまる食べさせたらご飯どころじゃなくなる」
『ちゃんと食える』
「はいはい。最近は割と食べれるようになったけどここで気を緩めたらまた自堕落になるから我慢しような」
『お前マジ俺のなんなんだよ』
「監視役」
ビリっと袋を開けて、更にプラスチックのつながりを裂く。軽く手のひらで硬さを確認しながら歩きだして、キャップ部分を離して開けたと思うと来栖の口元に差し出した。
「ほら」
『ん』
おとなしく口を開いて、アイスを咥えた来栖に風丸も同じアイスを開けて食べる。
それぞれ選んだアイスを食し始めていて、俺も溶けたらもったいないかと封を切った。
カップタイプを食すのは音無と木野で、飛鷹と俺は棒タイプ。久遠は小さめの球体が複数個入っているものを選んでいて、会話をしながら少しずつ食べすすめてた。
いつの間にか作業を中断してマウスのかわりにアイスを持ってる来栖は静かで、時折飛鷹や久遠に話しかけられて頷いたりしてる。
普段も騒ぐ方ではないけど、食事中はより一段と静かになる来栖に、本当にチグハグなやつだなともくもくと食べすすめて、一つ分を半分にして食べてる来栖と風丸は誰よりも早く食べ終わって手を空にする。
「来栖」
『ごちそうさま』
「はい、よくできました」
空の容器を受け取った風丸に、来栖は空になった手のひらを眺めて、アイスの冷たさにか少しだけ赤くなってる手のひらを眺めて指を二回曲げた後、すっと立ち上がる。
不可解な行動を眺めていれば来栖は静かに片付けをしてる風丸の背後に立って、首筋に手のひらを当てた。
「うわぁっ!??」
『お、あったかい』
「く、来栖?!お前何やってるんだ!?」
『手が冷たい』
「だからって人の頸動脈狙うなよ!?」
『早くあったかくしたかった』
「お前本当にそういうところだぞ!!」
目を釣り上げる風丸に来栖はどこ吹く風で、手を当てたまま暖を取っている。久遠と木野は微笑み、飛鷹と音無も一瞬驚いたように目を丸くしたあとに笑った。
「諧音くん、いたずらもそこそこにね?」
「風丸くんが風邪ひいちゃうよ」
『あー、それもそうか』
「そんな簡単に風邪はひかないけど、でもやめろ!」
『じゃあ問題ないな』
「お前人の話聞いてるのか?!」
「本当にお二人とも仲良しさんですね!」
「伊達に相棒してませんね?」
「相棒とか不名誉すぎるからやめてくれ!!」
風丸の断末魔に来栖は手のひらが温まったのかようやく手を離して、開け閉めを二回繰り返して頷く。
『感覚戻った。ありがとな、風丸』
「ありがとうじゃない!人の首で暖取るな!!」
『次は声かけてからする』
「声かけてきたって絶対に了承しないからな!」
『じゃあやっぱ勝手にやるしかねぇな』
「お前はすぐそうやって!!」
『休憩したし作業戻るわァ』
「っっ!!」
自由に好きなことを言って椅子に戻りパソコンに向き合った来栖に風丸は言葉を飲み込んで、二回その場で足を鳴らしたあとに息を吐いた。
「久遠!?こいつ本当にどうなってるんだ!!?」
「ふふ。諧音くんといると退屈しないでしょう?」
「退屈どころかこっちが振り回されてばかりだ!!!」
風丸に久遠は笑うだけで、風丸は深々とため息をつくと片付けを再開する。全員分の食べ終わった容器をまとめるとトレーを持ち上げた
「木野、片付けは変わるな」
「ありがとう。来栖くん見ておくね」
「頼んだ」
短く言葉を交わして部屋を出ていった風丸に、残った木野は代わりにパソコンを眺め始めて、ぱちぱちとまばたきをした音無が首を傾げた。
「今のは一体…?」
「うん?どうしたの?春奈ちゃん」
「あ、えっと、今のお二人のやりとりが少し不思議で…」
「………ああ、風丸くんとの…?」
「あ、はい、そうです」
「ふふ。あれは学校の癖みたいな感じ」
「学校の…ですか?」
こてりと更に首を傾げる音無に、木野は目を細めて、パソコンの画面に集中してる来栖を一度見据えた。
「一年の頃に私と風丸くんと来栖くんって同じクラスで席も近かったから、結構班行動とか同じになることが多くて。来栖くん放っておくと集中しがちでどっかいっちゃったりするから私と風丸くんが声を掛ける係だったの」
「ええ…!?来栖さんって結構問題児なんですね!」
「ふふ、うん。来栖くんは日本の学校に合ってないところがあるかもね?」
「私!日本に帰ったらお世話係手伝います!」
「頼もしいな。お願いしちゃおうかなぁ?」
「はい!おまかせください!」
「心強いね?」
『下級生に面倒見られるとか不名誉すぎんだろ』
「満更でもないでしょう?」
『……ちっ』
返す言葉がなかったのか、小さな舌打ちの後に画面に視線を戻して会話をやめた来栖に久遠と飛鷹が笑う。
「私も同じ学校に行けばよかったかな?」
「雷門中は楽しそうですね」
「話題には事足りないかもね」
笑顔の三人に来栖は無言のまま作業を進めていて会話に混ざる気はないらしい。
ぼーっと話を聞いていればポケットの中身が揺れた気配がして、携帯を取り出す。
俺にわざわざ連絡を入れてくるような人間に心当たりはなくて、迷惑メールの類かと画面を見れば画像ファイルを受信しようとしてるらしい。
さっき写真を受信したときに設定を変え忘れてたらしいそれに、不思議に思いながら画像を受信して、開く。
ぱっと画面いっぱいに映ったのは笑みをうかべてる俺で、目を見開いていて思わず犯人を見れば、画像の中の俺と同じくらい楽しそうに笑ってる。
「、っ、?!!」
「不動?」
近くの飛鷹の声に咄嗟に俯く。じわじわと熱くなる顔にしばらく動けそうになくて、くつくつと笑う声だけが聞こえてる。
静かに呼吸を繰り返して、顔を上げるのと同時に扉が開いた。
「そろそろ写真編集はおしまいにしよう」
ゴミをかたしてきたらしい風丸の後ろからひょこりと顔を覗かせたバンダナと白髪にこのあとの流れを察して、予想がついたらしい来栖も息を吐く。
「夕食までサッカーしようぜ!」
「みんなで少し体を動かさないか?」
拒否権のなさそうなそれに飛鷹と来栖が立ち上がって、音無がすっと横に立って腕を取った。
『は?』
「グラウンドまでお供しますね!」
『なんでそんなぴったりくっついてんだよ』
「だって心配なんです!!」
「諧音くんが階段から落ちそうになったのがよっぽどこわかったみたいだね?」
『なんで冬花まで知ってんだァ…?』
「諧音くんのことならお見通しだよ」
左腕を取り手をつなぐ久遠に更に来栖は眉根を寄せる。右腕を音無に組まれ、左手を久遠に繋がれた来栖はどことなく居心地が悪そうで、口を開こうもしたところでガシャンとひどい音が響く。
「来栖…貴様っ!!!!!」
殺意の篭った声。落ちたのは鬼道が持っていたボトルらしく佐久間がそれを拾うか鬼道を抑えるか悩んで視線を迷わせてる。
このあと更に響き渡るであろう声に鼓膜がやられないよう先に耳を塞いだ。
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