イナイレ



試合の熱も落ち着いて、各々が疲れからか食事と風呂をすませれば部屋に自主的に戻っていった。

今日ばかりは静かな円堂も部屋に向かっていったようで、俺もシャワーを借りに訪れてた道也の部屋を出る。

自室に向かうために二階にたどり着いたところで目があった。

「、」

『お、ナイスタイミング』

ちょうど俺の部屋をノックしようとしていたらしく扉の目の前にいた不動に笑う。

不動は手をおろしてじっと俺を見ていて、眠そうにも疲れてるようにも見えないけれどどことなく普段と違う様子に首を傾げた。

『今日話すのやめとくか?』

「…今日話す」

『そうか』

本人がそう言うのなら俺が否定する理由はみつからない。

さてと周りを見た。

『俺の部屋かお前の部屋か外ならどこがいい?』

「なんだよそのチョイス…俺の部屋は無し」

『じゃー俺の部屋も無し。あんま出歩くと道也にバレたらうるせーから、屋根上かグラウンドあたり?』

「屋根上ってなんだよ…」

『屋根上は屋根の上だろ?』

「はぁ…?」

ぱちくりと目を瞬く不動に首を傾げて。まぁいっかと不動の手を取った。

「え、」

『グラウンドにしよう』

「は、なん、」

『あんま騒ぐなよ。見つかったら怒られんだろォ?』

「、」

歩き出せば不動はおとなしくついてきて、二人で寮を抜け出す。日中は賑やかなグラウンドは静まり返っていて、辺りを確認して、芝生にたどり着いたところで引っ張っていた手を離して腰を落ち着けた。

眉根を寄せたままの不動は立ったままで、見上げる。

『座んねぇの?』

「………ちっ」

叩いた隣ではなく、背中を合わせるように座った不動は立てた膝を抱えていて、足を伸ばして座った俺とは正反対だ。

『んで?俺に言いたいこととか聞きたいことはァ?』

「……………」

みんなと遊びに行ったとき、不動の物言いたげな目線は確実に俺宛だった。別にと濁した割に強すぎる視線はあの後も変わらなくて、ぼーっと空を見上げて入れば雲が流れていく。

「……お前さ、」

『んー?』

「…………お前、人からの好意を警戒しないよな」

『あー?そう見えるかァ?』

「ああ」

『ふぅん?』

不動が誰から向けられた俺への好意のことを言ってるのかはわからないけど、少し考えて、やっぱりわからなくて首を傾げる。

『どれのことか見当つかねぇけど、俺が受け取ってる好意は、俺に害意がないものってわかってるから警戒してねぇんだと思う』

「どうやって害意がないって判断してんだ」

『んー、それはなんとなく…?』

「はぁ。またそれか」

『流石にこればっかしはわかんねぇ。あー、でも、相手は見てるのかも?』

「へー」

ぽんぽんと交わす言葉に不動はもう一度息を吐いて、膝を抱えてて少し前かがみ気味だった背筋が伸びた。 

「好意を受け取って、それが重くなって嫌になることはねーのかよ」

『今んとこはない。まぁ重すぎて周り巻き込まれんのはめんどくせぇなって思うことはあるけど』

「綱波か」

『そうそう。条助とかきょうじとかあいなとか。俺だけにならいいんだけどな』

「、恭司さんもか?そんな気しなかったけどな…」

『だいぶ落ち着いたから。最初の頃はゆきやとだいきに牽制しまくってまじやばかった』

「節操ねぇお前のせいだろ」

『否定はしねぇ』

笑えば大きくため息をつかれる。膝を抱えるために結んでた手が解かれた。

「そのせいで宇都宮もおかしいだろ」

『虎のあれは近所の兄弟分が取られた気がして悔しいってやつだろォ?たぶんそのうち落ち着く』

「はっ、どーだか」

『あー?マジだからなァ?虎は口開くと遊んでと楽しいしか言わねぇよ』

「はいはい。そういうことにしといてやんよ」

なんでか流すように相槌を打たれて、解けてた右の手のひらが芝生についてた俺の左手に重なる。

「…害意が感じられない好意を警戒しないとして、拒絶はしねぇのか?」

『んー。あんまりしねぇなァ』

「それはなんでだ?」

『あー、うーん…。………』

改めて聞かれると、答えを出すのは難しい。

少し考えて、不動ならきっとわかってくれるだろうととりあえず言葉を出すために口を開いた。

『たぶん、父さんと母さんが最初』

「?」

『父さんは人を見るのがじょうずで、母さんは人が嫌いって言ってた』

「え…?」

『でも母さんは人の怖さも大切さも知ってるから、人の気持ちを無碍にするのはよくないって』

「…………」

『父さんには大切にしたいって思った人にはくれたものと同じものを返すんだよって教えられたし、母さんにも自分が大事にしたい人はなにがあっても目をそらしちゃだめって言われた』

膝の上に乗せられてゆっくりと話す二人は、その言葉の意味を俺達がわかると信じて疑ってなくて、事実、俺達はすべてを理解しきれていなくてもその言葉を覚えて実践しようとしてた。

『その後あの人が、人との縁は大切にするようにって言ってて』

「あの人…?」

『縁は一度結ばれるとなかなか解けないから、嫌なのを無理に結ぶ必要はないけど、大切な縁はたとえ一度離れたように見えてもずっと繋がってるからって。だから俺も彼奴も一緒に居なくてもいつも一緒だし、また会える』

「……お前、俺に理解できるように話してるか?」

『うん。不動なら俺の言葉わかるだろ?』

「…………はぁ。本当に3歳児…」

呆れたように息を吐いて、ため息ばかりの不動は重ねてた手に力を入れて俺と手を繋ぐ。

「じゃあ俺がお前から離れてもまた会うって訳か」

『そう』

「へぇ」

『人は、一度与えた好意も与えられた好意も忘れられないってよく言ってた』

「両親が?」

『んや、彼奴が』

「はぁ…?」

不思議そうに語尾の上がった声に思わず笑って、体の力を抜いて背中を後ろに預ければささえられた。

『俺は俺を大切にしてくれる人が好きだ。俺を好きな人が俺も好き』

「…そりゃあ自分を嫌う奴を好きにはならねぇだろ」

不動はそこで一度言葉を切って、視線を落として迷わせると繋いでる右手に力を入れた。

「自分を好きな人間なら、誰でもいいのか?」

『んや?誰でもじゃない』

一瞬強張った表情に首を傾げる。

『好意を向けられて受け入れるのと、それを受け取り続けるのは別の話だろ?俺は俺の好きな人としかいたくねぇ』

「、」

『今ここにいんのも、俺がここにいたいって思うからだ。そうじゃなきゃ俺の時間を使うことはねぇ』

「そう…か」

『俺は俺の時間が有限なのを知ってる。だからこそ自分の時間を大切にしてくれる人のために時間は使う。お前もそうだろ?』

「…そう、だな」

少しだけ赤くなってる目元をぐっとつむって、かわりに口元を緩めた不動の表情に俺も口角を上げる。

繋いでる手も預けてる背中も暖かくて心地よい。

ふわりと抜けていく風は少し潮の香りがして、目を瞑った。



×



同じ日付に別の場所で試合がないようにと調整されているのは様々な方面の配慮だろう。

昨日は俺達日本とアメリカだったから、今日はイタリアとアルゼンチンだった。

「耀太も青色のユニフォームなんだな!諧音と一緒!」

「かっこいいでしょー!」

「うん!耀太くんの金髪とすっごく似合ってるね!!」

「こうして見ると耀太くんもサッカー選手なんだなぁって思うね」

「ええ??!俺っちは根っからのサッカー少年だよ!???」

「俺達の中で耀太くんはゲームのイメージ強いんだよね」

「ふふ。あいなの中ではひっつき泣き虫のイメージかしらぁ?」

「それは特定条件下だけだもん!」

ぷんぷんと声に出しているようたにみきがふわりと笑う。

「わ、私、耀太くんのサッカー見るの楽しみだったの」

「えー!嬉しい!素直な声援が一番心躍るー!ちょー頑張るんるん!」

見せていた不機嫌な顔の仮面を投げ捨てたようたは跳ねて回って、えらく上機嫌なままぶつかるように飛びついてきたから抱える。

「かいとん!応援して!」

『ああ、いってらっしゃい。楽しんでこいよ、ようた』

「うん!!」

額に口付ければようたはいつも通りの笑顔で、伸びてきた手がようた背を叩く。

「いってこい、耀太」

「はーい!せいたん!いってきまーす!」

ぴょんと跳ねて離れたようたが大きく手を振って走り出す。それぞれがいってらっしゃいと手を振り返して、さてとせいが俺を見つめた。

「観客席へ移動しよう」

『そうだなァ』

近くで俺達をうかがってたきょうじの頭をなでて歩き出す。ふふっと笑ったゆきやがみんなを集めて続くからせいの用意してくれていたテーブルにかけた。

「ねぇねぇ、ずっと思ってたんだけど…これは誠さんパワー?」

「ふふ。そうねぇ。あいなと恭司はこれに関してはノータッチよ。ね?」

「うん。誠さんのほうが早かったからね」

「なるほど…おかげさまでこんなにいいところで快適に見れると…」

「他の人がいないから気楽に見れるし、お話できて安心だね」

「う、うん。人がいっぱいいると緊張しちゃう、もんね…」

ひそひそと話すみんなにせいは気にしてないのかフィールドを眺めてる。

俺達がいるのは通常のスタンド席ではなくて、個室で、ハーフラインの真上に位置してフィールドを見下ろせるそこは実況席と同じく特等席だ。

『お父さんに無理言ってねぇ?』

「父はサッカーに関しては触れてこない。故に俺様の独断だ」

『あんま独裁強いて反感買うなよ?』

「その辺はうまくやるさ」

足を組んで悠々と座ってるせいに息を吐きながら用意されていた炭酸を飲みこむ。

八人自由に動き回っても狭さを感じない個室は空調も効いていて、この国特有の暑さは感じない。

快適な部屋の中にゆきやとだいきはガイドを開いてフィールドと見比べていて、隣のゆあときょうじが適宜補足を入れ、みきとあいながゆったりと会話しながら始まった試合を眺めてる。

ようたは珍しくスタメンらしい。試合開始に伴い、相手選手と握手を交わして、自分の立ち位置につくとじっとフィールドを眺めて、それからこちらを見上げる。

手を振ってやれば大きく飛び跳ねて手を振りかえしはじめて、近くにいるフィディオに怒られてた。

『彼奴、なにやってんだァ…?』

「天使の応援に気が昂ぶっているんじゃないか?」

目尻を落としたせいの声はどことなく楽しそうで、大きく響いたホイッスルにボールが動き出す。

アルゼンチンの強みは強固なディフェンスで、キャプテンが中心に行うディフェンスは予選中敵チームの得点を許さなかったらしい。

フィディオがボールを受け取って走り出す。上から見ていればわかりやすく真ん中へと誘導されて、シュートタイミングではキーパーの真正面に立っていて、フィディオのシュートが止められた。

「か、諧音くん」

『んー?』

「えっと、あれ、…その、どうしたらシュートできる、かな?」

『あー、人によってやり方はちげぇけど…』

ようたはフィールドの動きを眺めていたかと思うとすっと目を細める。

『まぁ、ようたならゴリ押しだろうな』

「ゴリ押し…?」

『ああ。たとえ誘導されてキーパーの正面からシュート撃たせられたとしても、シュートのが強けりゃ問題ない。バレーでもブロックがいたってそれ以上に強い力でボール押し込んで弾けばこっちの勝ちだろ?』

「あ、うん、たしかに…」

『こういうときの彼奴はパワープレイかますから、ようた見ててみろ』

「え…うん?」

ぱちぱちとまばたきをしたみきが下を見る。

ちょうどボールを受け取ったようたはあっさりと敵陣地に侵入して、最初から真正面を突っ切って行く。あまりの正面突破に敵も味方も面食らって目を見開いていて、ようたは楽しそうにさっさとキーパーの目の前に立つとシュートを放った。

えらく回転をかけた特殊なシュートは、キーパーが抑えようとしてた手を弾いてゴールネットを揺らす。

「……え、本当に入っちゃった…?」

「うおおお!耀太すげぇ!!!」

「耀太くんかっこいいね…!」

「すごいすごーい!!耀太くんすごい!!」

みきの驚いた顔。だいきが歓声を上げて、ゆきやも目を輝かせる。ゆあがぴょんぴょんと跳ねて、持ってたタオルを広げて振り、きょうじとあいなが笑った。

「耀太くん、あんなゴリ押しプレイするんだね」

「ふふ。あの泣き虫くんってこんな力強いプレイするのね。意外だわぁ?」

シュートを決めたようたは、自陣に帰るために小走りでフィールドを進む。その道中でチームメイトから声をかけられても軽く手を振るだけで特に会話を交わしてる様子はなく、ポジションにつくとまた顔を上げて俺と目を合わせてすぐに元に戻した。



×



アルゼンチンも一点返したものの、その後もゴリ押しを続けるようたがもうニ点決めたことで試合は終了する。

きちんと仕事したようたはしっかりとヒーローインタビューまでさせられてる。その間に帰り支度を整えて、終わった頃を見計らって出入り口に向かえばぱっと金糸が揺れた。

「かいと〜ん!!!!」

飛び込んできたようたを抱きとめようもして、勢いの強さに後ろに転びそうになったのをせいがそっと支えた。

「ねぇねぇかいとん!俺っちの活躍!ちゃぁんとみててくれた??」

『ああ。かっこよかったなァ、ようた。お疲れ様』

「ふふ!うん!」

ぎゅっと一度強く抱きつくと離れる。俺の後ろで待っていたせいに頭を撫でられて口元を緩めた後に、更に後ろのみんなに顔を覗かせた。

「応援ありがとねん!楽しめた??」

「うん!すっごく楽しかった!耀太のボールすっげー早くてやばかった!」

「うんうん!もっと褒めて!」

「シュートもいっぱい決めてて、とってもかっこよかったよ」

「敵が来ても全然捕まえられなかったし!耀太くん早くてすごかった!」

「早くて、強くて、すごかった、です…!!」

「たはーっ!いやぁ!これは俺っちのファンが増えちゃったかぁ!人気すぎて困っちゃうんだぜ〜!」

鼻歌交じりに頬を赤らめて笑うようたに、きょうじとあいながにこにこと笑う。

「とてもいい試合を見せてもらったね、 哀奈」

「ええ。ほんとうに良い試合だったわねぇ、恭司」

全員無理なく楽しめたようで、ゆあとだいきが持ってたタオルにサインを書いてもらってきょうじとあいなに見せに行く。

ゆきやとみきはおっとりとしつつもようたに試合の感想を伝えていて、ようたも楽しそうに頷いてる光景はとても穏やかで、顔を上げればせいと目があった。

「この後は予定通りでいいか?」

『ん。約束通り』

「そうか。…耀太」

「はぁーい!」

せいの声に反応して顔を上げたようた はスキップするように近づいてきて目の前で止まる。こてりと首を傾げる姿にせいは頭を撫でると顔を上げた。

「会場を出るぞ」

「「「はーい!」」」

大きく手を上げて返事をするのは元気なようたとゆあ、だいきで、残りは微笑んで頷く。

右腕を取るようにひっついてきたようたに視線を向ける。

「かいとーん」

『なんだァ?』

「今日お泊りしていい?」

『道也がいいって言ったら』

「えー?それダメ寄りなやつじゃん」

『お前もフィディオに許可もらえたらいいぞ』

「絶対ダメって言われる〜!」

ぐぅと頬を膨らませて唸るようたに笑いながら全員で車に乗り込む。

向かうは日本エリアに取っているホテルの一つで、これから食事会の後に遊ぶ予定だ。

「おなかぺこぺこー!」

「耀太くんたくさん走ってたもんね」

「うん!運動するとお腹すくー!」

「たくさん食べて大きくなるのよぉ?」

「いっぱい食べるよー!」

試合に勝ち、機嫌が良いらしいようたとみんなのやりとりにほっとしながら目を瞑る。

道也とフィディオから外泊の許可が降りるとは思えないから、明日は朝から午後の練習が始まるまではようたといようかなと隣の金糸をなでた。



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